『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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96話目

 

 ドアを開けた先に立っていたのは、有村さんと姫崎さんだった。

 

「どうぞ、こちらにおかけください」

 

 私は立ち上がって、彼女たちの座る席の椅子を引いて彼女たちを誘導する。

 堂々と案内された通りに座る有村さんと、申し訳なさそうに座る姫崎さんの対比が見ていて微笑ましい。

 

「今お茶を淹れるので、少々お待ちを」

 

「そんな、悪いですよ!」

 

「お呼び出ししたのは私ですので、お気になさらないでください。

 客人ならば、もてなしたい。

 喜んでもらえたなら…素敵だ…」

 

 普段お茶を淹れてくれる姫崎さんは思わず立ち上がろうとする。

 だが、今日の彼女は客人だ。

 

 なので言いながら、彼女に座ってもらいつつ、秦谷さんに教わった通りにお茶を淹れる。

 本当なら、秦谷さんか賀陽さんあたりに彼女たちを呼びに行ってもらい、レッスンに参加してもらうようにするつもりだった。

 

 だが、拭いきれない致命的な不安があったことと、珍しく秦谷さんがやる気を出してレッスンに臨んでいることから、予定を変更したのだ。

 秦谷さんがこれほどまでにやる気を出しているのは、天変地異にも等しいぐらい珍しいことで、他の面々も理由はわかっているとはいえ、少し様子がおかしいぐらいには違和感があるらしい。

 

 ウッキウキなのは、月村さんぐらいだ。

 

 …ペースを無理に上げている彼女より、普段通りの彼女の方が良いと思う。

 基礎体力は大事なので、今日明日ぐらいは様子を見てもいいが、続くようなら考え物だ。

 プロデューサーとしては喜ぶべきなのだが、今の彼女は彼女らしくない…と言ったら怒られてしまうか?

 

 先生方やトレーナーからは、歓喜の連絡も来ているぐらいだしな。

 

 何故、いきなり彼女たちを呼んだのかは…正直、衝動的な面が大きい。

 本当は白草さんが来ているので、もうちょっと様子を見てから行動に移そうと思ったのだが……意図しないうちに、私にも火が点いてしまったようだ。

 朝の彼女たちの熱気や、昨日の件にあてられたと言ってもいいだろう。

 昨日の話し合いも経て、次の段階にいってもいいと判断した結果である。

 

 タイミングがとてもよかったということもあるが、可能な限りプランを先回しにしようとしている。

 

 現状、『加速』させることができるのは、この2人だ。

 初星学園に、まだ入学していない者たちは、いったん考えから外しておく。

 雨夜副会長と十王会長もいるが、彼女たちは今でも十分に成長していっている。

 彼女たちからお願いされれば別だが、そうでない限り自己研鑽の機会を奪う必要もないだろう。

 

 だが、目の前の2人はそうではない。

 

 目の前の2人にお茶を出しながら、その顔を覗くと、不安の色が見え隠れしている。

 有村さんはうまく隠しているつもりだろうが、一瞬、目が合った時に視線を逸らしたのを見逃さなかった。

 

 彼女たちにお茶を淹れ終えて、私も席に座った。

 

「さて、では早速始める……前に、先に伝えておくことがあります」

 

「?

 何ですか?」

 

「ここでの会話は録音させていただきたいのです」

 

 私の言葉に、二人とも不思議そうな顔をした。

 

「録音…ですか?」

 

「はい。

 担当アイドルではないあなた方と、私が事務所で話すということに、邪推する者がいてもおかしくありません。

 それに、私があなた方を傷つけてしまうような発言をしてしまわないとも限りません。

 ですので、お互いの安全のために、録音を回させてほしいと思います」

 

 主に私の身の安全のために。

 

 …実は、担当アイドルたちに言わないまま、彼女たちに声をかけて今の場を設けている。

 やる気十分な彼女たちのモチベーションを下げたくなかったから…余計なことを言うのを躊躇ってしまった。

 

 後で弁明するにしても、会話の内容を分かるように録音を回すのは最低限必要だろう。

 

 幸いなことに、そんな私の邪な考えに彼女たちは気づくことはなかったようだ。

 

「そういうことでしたら、ボクは構いません。

 莉波は?」

 

「私も大丈夫です。

 その録音は、後でもらえるっていうこといいんですか?」

 

「はい。

 データをコピーして、チャットアプリで送らせていただければと思います。

 チャットの交換が嫌であれば、USBに入れてお渡ししましょう」

 

「そ、そこまでしてもらわなくても…」

 

 そう言い始めた姫崎さんに、録音のスイッチを入れながら説明する。

 

「できることはしておいた方が良いでしょう。

 お互いに、ほとんど初対面と言ってもいいほど、話した機会も少ないですから。

 信頼関係の構築は重要でしょう」

 

「え?

 莉波は生徒会の活動があったから、『H.G.F』の時に話しているんじゃないんですか?」

 

「『H.G.F』は、星南会長と燕ちゃんが主だってやっててね。

 私たちは、ほとんど実行委員長…プロデューサーさんとは話さなかったんだ。

 会長が、危ない人だって言ってたし…………あ」

 

 なるほど、やはり十王会長がいらぬことを吹き込んでいたか。

 口を滑らせた姫崎さんは、慌てて私に頭を下げる。

 

 そんなことしなくていいのに。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「いえ、お気になさらず。

 先も言いましたが、私の悪評は私がよく知っていますので。

 あのポンコツ会長に言われるのは癪ですが」

 

「ぽ、ポンコツ会長?」

 

 有村さんは聞き返すが、姫崎さんは目を逸らした。

 学内では極力取り繕っているのだろうが、生徒会内ではボロを出していることもあるだろう。

 

「スイッチのオンとオフが激しすぎるんですよ、あの人。

 知ってますか?

 最近、中等部のアイドルに首ったけで、飛びつくように抱き着こうとしては逃げられてるんですよ?」

 

 バイト先凸や、教室凸はまだしていないようだが、藤田さんを肉食獣が獲物を狙う目で見ているのは、私の担当アイドルの間ではすでに常識となりつつあった。

 時折、花岡さんが、不憫な目で見るほどだ。

 

 そんな彼女の痴態を初めて聞いた二人は、驚愕を隠せない。

 

「…知らなかった」

 

「…もしかして、最近燕ちゃんが疲れてたのって、そのことなんですか?」

 

「ないとは言い切れませんね。

 私からすれば、不審者と保護者です。

 不審者が現れたら、保護者を呼び出すようにしていますから」

 

 憧れのアイドルでもある、十王会長のイメージが崩れたのか、二人とも少しショックを受けている。

 

「ふ、不審者…」

 

「ほ、保護者って燕が?」

 

「まだ話が通じますからね、雨夜副会長。

 っと、話が逸れてしまいました。

 そろそろ本題に移ってもよろしいでしょうか?」

 

 長々と脇道にそれてしまったが、彼女たちを呼んだのは雑談に興じるためではない。

 彼女たちもそれを思い出したのか、はっとして頷いた。

 

「では早速…私はあなた方と担当契約を結びたいわけではありません。

 残念ながら、既に担当アイドルを5人受け持っておりますので、これ以上受け持つのは私の能力的に難しいものがあります」

 

「そ、そうですよね。

 私なんかじゃ…」

 

 私の言葉を聞いて、自らを卑下する姫崎さんだが、次の言葉で目を丸くすることになる。

 

「私の目的は、来年の『H.I.F』に向けて、あなた方に強力な『(ライバル)』になってもらうことです。

 『一番星(プリマステラ)』を奪いかねないほどの」

 

「え?」

「…自分の担当アイドルの(ライバル)を作る!?

 ほ、本気で言ってるんですか!?」

 

 姫崎さんは私を茫然と見ており、有村さんは正気か?と言わんばかりに声を上げた。

 

「もちろん、担当アイドル(初星学園)のためを思ってのことです。

 『H.I.F』は盛況であれば盛況であるほど、初星学園全体のイメージが向上します。

 そうすれば、そこで活躍する私の担当アイドル、ひいてはあなた方も知名度が向上し、『H.I.F』はアイドルを更に輝くための土台になることでしょう」

 

「…キミが『黒幕(フィクサー)』と呼ばれている理由がよくわかりました。

 噂は本当だったんだ…」

 

 どんな噂か聞きたいが、今は置いておこう。

 姫崎さんは、おずおずと口を開いた。

 

「そ、その…私たちの、何を見てそう思ったんでしょうか?

 麻央はともかく、私は…アイドルとして、結果を出せていません」

 

「それを言うなら、ボクだってアイドルの仕事は、今はあまりないよ。

 他のプロデューサーからの勧誘も断ってしまったしね」

 

「え?

 そうだったの?」

 

 プロデューサー科でも、その噂は耳にしたことがある。

 特に、私が…目をつけている生徒の話をした後に、彼女のスカウトをした者がいたらしい。

 

 話によると、姫崎さんと花岡さん以外…十王会長、雨夜副会長、有村さんはスカウトがあったようだ。

 姫崎さんは特に芽を出さないままユニットが解散してしまったから、花岡さんは私の近くにいたからだと思う。

 しかし…。

 

「方向性が合わなくてね」

 

 残念なことに、誰もお眼鏡に叶わなかった。

 入念に下調べをしても、彼女たちの想いまでは汲み取れなかったのだ。

 

 ある意味…これも『収束』した結果なのだろうか?

 

 そんなことを考えているうちに、有村さんが再度私を見据えた。

 

「それで、なぜボクたちなんですか?

 気持ちは嬉しいですが、他にも優秀な方は、いっぱいいると思います」

 

「理由はいくつかありますが…一番大事なものを言いましょう。

 あなた方は、自分が気付いていないだけで素晴らしい才能を秘めています。

 それこそ、『一番星(プリマステラ)』になれるほどの」

 

 有村さんは一瞬驚いて、聞き返す。

 

「!

 …本当ですか?」

 

「少なくとも、私はそう思っています。

 ただ、それに気づくのは、一人では困難かもしれません。

 ですので、私はそのきっかけを作りたいのです」

 

「きっかけ…ですか?」

 

 姫崎さんの問いに、私は彼女たちの問題点を挙げた。

 

「ええ、あなた方が燻ぶっている理由は、自分の魅力を理解しきっていないからです。

 時に、姫崎さん、ご自身の魅力は何だと思いますか?」

 

「え、ええ!?

 わ、私の魅力……」

 

 そう言って考え込みながら、うんうん唸っている姫崎さん。

 しばらくそのまま考えてもらっていたが、見かねた有村さんが助け船を出した。

 

「莉波は、優しくて、周りをよく見ているところ…とかかな?

 クラスでもよく気を利かせてくれてるだろう?」

 

「そ、そう…なのかな…?」

 

「それに、アイドルとして結果を出していないって言ってるけど、自主レッスンを毎日頑張っているじゃないか。

 努力し続けることも、大切なことだと、ボクは思うよ」

 

「それは麻央もでしょ?

 自主練、頑張っているの、私も見ているんだからね?」

 

「フフ、莉波には適わないね」

 

 言いながら二人は笑い合った。

 最初にこの部屋に入ってきたときとは違って、砕けたいい雰囲気だ。

 

 だが、一つ言わせてほしい。

 

「いちゃいちゃはその辺にしてください」

 

「い、いちゃいちゃ!?」

「そそそ、そういうわけじゃないです!」

 

 二人とも慌てふためいている姿が可愛らしい。

 

 お茶を一口飲む。

 苦いはずなのに、どことなく甘い気がした。

 

「姫崎さんの魅力は、内面的なものも大いにあるでしょう。

 クラスメイトの有村さんがそこまで言うのですから、よくわかりました」

 

「あ…あう…///」

 

 顔が真っ赤に紅潮した姫崎さんは、とても可愛らしい。

 有村さんも同じように顔が真っ赤だ。

 

 …さて、本題に入ろう。

 

「では、次に外面的なものを挙げていきましょう。

 姫崎さんは大人びた風貌をしていて、女性の中では身長が高い方かと思います。

 十王会長や雨夜副会長ほどではありませんが」

 

「そ、そう…ですね」

 

 …少々無遠慮だったか。

 彼女は…妹売りしていた、『Love☆しすたぁず』というユニットを、身長が高いからという理由でユニットから外されたと思っている。

 あれはあれでかわいかったが、大和朝廷とかライブごとに髪型を変えたりとか、どう考えても迷走していたとしか思えないが…。

 

 私の言葉に、姫崎さんは辛うじてそう返事をした。

 有村さんも少し不快そうな顔をしている。

 

「僭越ながら、姫崎さんの以前所属していたユニットも調べさせてもらいました。

 そこでは妹キャラを押し出していたようですが…私は、姫崎さんの魅力はそこではないと思っています」

 

「ええっと…つまり…?」

 

 混乱している姫崎さんに、私はもっと砕いて説明することにした。

 

「『かわいい』と一口に言っても、色々な種類があると思います。

 デコレーションされているお菓子を見ての『かわいい』。

 おめかしをしている女の子を見ての『かわいい』。

 歌っているアイドルを見ての『かわいい』。

 哀れな人を横から見ての『かわいい』。

 小さい動物を見ての『かわいい』」

 

 言いながら姫崎さんの目を見る。

 彼女も、私が言いたいことを少しずつ理解してきたようだ。

 

「アイドルが目指す、『かわいい』の形は千差万別です。

 『かっこいい』を目指す人もいるでしょう。

 私の担当アイドルだと、藤田さんは『かわいい』。

 花岡さんは『かっこいい』に振り切ってます」

 

 ちょうど、目の前の2人も()()かわいいとかっこいいで分かれていると言ってもいいだろう。

 姫崎さんに再度視線を向けて、彼女に一番伝えたいことを言葉にした。

 

「姫崎さんに必要なことは、自分にあった魅力を見つけることです。

 自分の本当にしたいこと……アイドルを目指した理由や、想い。

 『それ』を今一度思いだしてみてください」

 

「アイドルを目指した理由…」

 

 彼女がアイドルを目指した理由は…覚えている。

 覚えているが、私は彼女の『弟』ではない。

 

『あなたに必要なものは、お姉ちゃん力です。

 みんなのお姉ちゃんになりましょう』

 と、言葉にするのは簡単だ。

 有村さんも、莉波はそっちの方が似合っているよと言うかもしれない。

 

 だが、それをわかっていたとしても…いや、わかっているからこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 誰よりも私自身が。

 あれは、彼女と『彼』の思い出があったからこその話で、赤の他人がズケズケと入り込んでいいわけがない。

 

 私ごときのうすっぺらい軽薄な言葉で、神聖なる彼女と『彼』の砦に踏み込んではいけない。

 

 これは重要なことだ。

 …来るべき時のために、下地を作るのが私ができる精いっぱい。

 彼女が真に輝くためには、本物の『弟』が必要だろう。

 

 『彼』が存在しない可能性もあったが、姫崎さんがここにいることが、それを否定してくれている。

 何せ、彼女が憧れたアイドル像…歌のお姉さんのようなアイドルは、『彼』が抱かせたものと言ってもいい。

 幼いころの『彼』との思い出が、彼女にあるからここにいる…はずだ。

 

 正直、『姫崎莉波の親愛度コミュ』以外で、彼女がどのように成長しているのか…あまりわからない。

 というのも、思いだそうとするたびに『存在そのものが矛盾しているッ!(年下のお姉さん)』の印象がはみ出して(邪魔をして)くる。

 『姫崎莉波』にとって印象深い話は、やはり『親愛度コミュ』が際立っているためか、その印象をぬぐい切れないのだ。

 

 だが、彼女は『プロデューサー』がいない状況でも、『ライブツアーイベント』で先導したり、『有村麻央の親愛度コミュ』では『N.I.A』に参加して実力者である『白草四音』に挑んでもいた。

 つまり、自力で方向性をある程度見つけ、それ相応の実力をつけていた。

 

 だから…『弟』ではなくても、彼女の成長の一端を補助することはできるはずだ。

 そのために…

 

「私に『それ』はわかりませんが…アイドルは、自分の一番良いところを見てもらう仕事です。

 自分に自信がないと、一番良いところはお見せできないでしょう。

 ですので…姫崎さんに必要なことは、自分に自信を持つことだと思います」

 

「…わかりました。

 少し…考えてみようと思います」

 

「ええ、もし、行き詰って相談したいことがあれば、事務所にいらしてください。

 急ぎの要件がなければ、すぐに対応させてもらいます」

 

「…どうして、そこまでしてくれるんですか?」

 

「先も言った通りですよ。

 あなた方には、十分な才能がある。

 それが埋もれたままなのが…もったいないんですよ」

 

 これは本心だ。

 彼女たちの輝きを、世界が知らないまま埋もれているのがもったいない。

 藤田さんの担当を受け持った時も同じような気持ちだった。

 

 あの時は…そこまで余裕もなかったから、見て見ぬふりをしていた。

 だが、今ならようやく手を伸ばせそうなんだ。

 

 彼女たちの輝きに、火を灯すための手を。

 

 彼女の納得したような、訝しげな視線を感じつつも、次の標的に私は視線を向けたのだった。

 




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とても励みになりますので、今後ともお暇なときにお付き合いいただければと思います。
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