『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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98話目

 

 顔が怖い4人を見て、来たのは間違いだったかもしれないとばかりに狼狽える二人を後ろに、私は前に出た。

 

「お疲れ様です、みなさん」

 

「お疲れ様です…じゃないですよ!

 聞いてた話と違うんですけど!?」

 

 月村さんが詰め寄ってきているが、それも無理はない。

 

「色々あって先に声をかけてしまいました。

 悪かったとは思ってます」

 

「まぁ…それで、私たちとの約束を破ったと」

 

 月村さんの隣に秦谷さんが並び立つ。

 彼女の目からは、まだハイライトが残っているが、言葉を間違えたら消えてしまいそうな儚さがあった。

 

「前に話した話はあくまで予定ですよ。

 逆に聞きますが…あなた方が高等部に行って、上手いこと交渉をして有村さんたちを連れてこれましたか?」

 

「それは……」

 

 秦谷さんも自分の評判を理解はしているのだろう。

 言葉に詰まった彼女にも、上手い交渉をするビジョンは中々浮かばなかったようだ。

 

「だとしても、先に断りを入れるべきです。

 事後承諾は褒められたことじゃないです」

 

「ごもっともです」

 

 花岡さんの言葉は間違ってないので、そこは素直に謝罪する。

 だが…あまりこういった話を本人たちの前でするべきではないだろう。

 

「ですが、折角来ていただいた先輩方に失礼ですよ。

 有村さん、姫崎さん、ご挨拶をお願いしてもよろしいですか?」

 

 私は彼女たちに挨拶を促すが、場の空気の悪さを察して姫崎さんは及び腰になっていた。

 

「あ、あの…ご迷惑だったら…」

 

「あ、いえ、そういうことじゃないんです~!

 プロデューサーが、いつも突然なんでびっくりしただけなんです~!

 ごめんなさい!」

 

 藤田さんがひょっこり出てきて、明るく言ってくれたので、なんとか気を持ち直してくれたようだ。

 有村さんが、姫崎さんをかばうように前に出て口を開く。

 

「じゃあ、ボクからさせてもらうよ。

 ボクは初星学園高等部、アイドル科2年1組の有村麻央。

 よろしく」

 

「私は、麻央と同じクラスの姫崎莉波です。

 生徒会の書記もしているから、星南会長からみんなのこと、少しだけ聞いてます。

 よろしくね」

 

 二人の自己紹介を聞いて、4人の後ろにいた賀陽さんがいつの間にか彼女たちの前に立っていた。

 私の担当アイドルを代表してだろう。

 

「よろしく、高等部の先輩方。

 私たちの自己紹介は必要かしら?」

 

「大丈夫だよ、キミたちの活躍は…『H.G.F』で見たからね」

 

「そう、ならいいわ。

 ただ一つだけ、言っておくけど…私たちは、本気でレッスンをしているの。

 『夢』のために、私たち自身のために、そして何より…ファンのためにね」

 

 賀陽さんは彼女たちを視線で射抜く。

 彼女に睨みつけられた二人は、思わず身をすくめた。

 

 …高等部の先輩、それもほとんど初対面の相手にここまで威圧的な態度をとる賀陽さんは珍しいな。

 前情報が悪かったり、第一印象が悪ければ別だが………私のせいか?

 

 そう思っていたが、次の彼女の言葉でそれとはまた違うのだろうと理解した。

 

「だから…生半可な覚悟なら、私たちの足を引っ張らないうちに帰りなさい」

 

 その言葉に、その場にいた全員の間に緊張が走る。

 まさか、高等部の先輩に言うとは思わなかったと、思わず目を見開いた。

 

 彼女の言っていることも間違いではない。

 私が言っているから多少は許容しているとしても、やる気がないならそれ以前の問題だ。

 邪魔になるなら帰れというのは、本当にそのままの意味だろう。

 

 だが…彼女たちも、それで帰るならここに来ていない。

 

「…私は、本気でアイドルになりたいから、ここに来ました!

 もしかしたら…足を引っ張っちゃうかもしれない…でも、全力で頑張ります!

 だから、一緒にレッスンをさせてください!」

 

「ボクも…会長と燕にいつまでも負けたままじゃいられないからね。

 もう、後悔をしたくないから…だから、お願いします!」

 

 そう言って二人とも頭を下げた。

 その姿勢は、年下に教えを乞うことを受け入れ、それでも自分の目的のために…アイドルになるために、誠心誠意を尽くしたものだ。

 

 そして、賀陽さんに対して、それは最適解だ。

 後輩に頭を下げてもアイドルになりたいと言った、彼女たちの気持ちを無下にするようなことはしない。

 

 その姿を見て、賀陽さんはため息を一つ吐いた。

 

「はぁ…わかったわ。

 そこまで言うなら好きにしなさい。

 とりあえず、今日は()()のダンスのトレースからよ。

 今、ちょうどアップが終わったところだけど、準備はいいかしら?」

 

「「はい!」」

 

「そ、なら続きを始めるわ。

 ほら、そこ、呆けてないで準備をしなさい」

 

 賀陽さんが振り返った先には、目を輝かせた月村さんをはじめとした面々だった。

 

「燐羽…!」

 

「ああ、もう、そんな目で見ないで続きよ、続き!」

 

 高等部の先輩相手にも一歩も引かない賀陽さんに、目を輝かせている月村さんの視線から逃げるように、レッスンを再開させた。

 

 それまで沈黙を保っていた白草さんも、目を輝かせている。

 彼女の琴線に触れたのは、賀陽さんの姿勢か、有村さんと姫崎さんの覚悟を見てか…あるいは両方か。

 

 おかげで、前に見た時よりも激しいレッスンになっている気がするが…まあ、いいでしょう。

 

 彼女たちのレッスンを見ながら、私は持ってきていたノートパソコンを広げつつ、椅子に腰を掛けて彼女たちのレッスンを見守ることにした。

 

 

 …よかった、彼女たちのファーストコンタクトが上手くいって。

 

 正直なことを言うと…有村さん、姫崎さんと私の担当アイドルたちの相性があまり良くないと思っている。

 と言うのも、私の担当アイドルは言動が『悪性』よりだ。

 悪役(ヒール)が似合うと言ってもいいかもしれない。

 

 藤田さんはキラキラした天性のアイドルだが、口の悪さはそれなりだし、彼女たちに口喧嘩で負けない程度には言い合える。

 花岡さんは悪役令嬢の見本みたいな言動をしていたし、『SyngUp!』に関しては説明不要だろう。

 

 逆に姫崎さんと有村さんはどうか。

 『善性』の塊と言ってもいいだろう。

 他者のサポートに喜びを見出し、他者を助けることを良しとしている。

 自分が割を食ってでも、他の人を助けようとするのは、そう簡単なことではない。

 

 少なくとも私は無理だ。

 私の知り合い、担当アイドルや有望なアイドル、ファンの皆様ならまだしも、他人のために尽くせなんて言われてやる気になれるわけがない。

 …こんな考えが根本にあるから、『黒幕(フィクサー)』とか言われるのだろうか。

 

 それはさておき、彼女たちの性質の違いからぶつかることは多いのではないかと思っていた。

 

 あくまでファーストコンタクトがよかっただけで、今後はまだわからない。

 秦谷さんのサボりは、私たちはもう受け入れているが有村さんにとっては好ましいものではないだろう。

 月村さんの言動も、生徒会役員である姫崎さんの目に余るものかもしれない。

 

 だが、そういった衝突も、あっていいだろう。

 

 むしろ、そういう衝突があった方が、人間的な成長に繋がる。

 『SyngUp!』を解散させない方向性で進めることを決めた段階で…彼女たちには、『解散』するという強大なイベントを踏まない形になっている。

 学マスのストーリーではなかった、『H.J.I.F』、『H.G.F』で経験を積ませてはいるものの、彼女たちに与えた影響は『解散』の方が大きいと思う。

 

 じゃあ、『解散』した方がよかったのか、というと、私はそうは思わない。

 

 あれで苦しんだ、月村さん、秦谷さん、賀陽さんの心境は察してあまりあるものがあるし、誹謗中傷は中等部の生徒が負っていいものではないと思っている。

 良い悪いの話ではなく…勝手だが、そうなってほしくないと願ったから、私は今ここにいる。

 だが、前にも言った通り彼女たちの人生経験において、重要なものになったことも事実だ。

 

 それこそ、私が『夢』で見た時に、自分の方向性に迷いそうになってしまう程度には。

 

 その重要な経験を抜けた穴を埋める方法を、いくつか考えた結果の一つが…今、彼女たちとレッスンをしている先輩たちだ。

 定期的に新しい風を入れることと、自分にはない違った輝きを見て、それの取り入れられるところを取り入れてより成長してほしい。

 

 

 彼女たちに視線を向けると、花岡さんが早速有村さんと話しながらダンスをしている。

 有村さんが、かっこいい路線のアイドルであることは、彼女の風貌を見ればわかるので、花岡さんも自分の糧にするべく聞いている。

 

 そして、有村さんは花岡さんのダンス技術の高さに驚いている。

 藤田さんに対抗するべく練り上げられたそれは、彼女が尊敬するに値した高等部の先輩方の指導もあって、非常に高いレベルで仕上がっている。

 

 それこそ、高等部のダンストレーナーからも話題に挙げられるほどに。

 

 有村さんの王子様のような印象だと、流れるように踊るほうが似合うと思うので、彼女のポップな感じとはまた違うが参考になるものはあるだろう。

 同じ白草さんのダンスをトレースしているのに、個性が出ているのが面白い。

 

 姫崎さんは、藤田さんと秦谷さんの一緒だ。

 彼女は少しついていくのが大変そうだが、それでもこれまで一人でもレッスンを繰り返していたからか、彼女たちのペースに食らいつきながら頑張っている。

 

 その中でも、秦谷さんは彼女に無理をさせないようにガイドして、藤田さんも彼女の隣で合わせるように踊っている。

 今は余裕がない彼女だが、このレッスンに無理なくついてこれるようになれば、最低限の実力はついてくるだろう。

 

 後は、彼女たちとの関わりを通して、自らの魅力を理解してほしい。

 世界一可愛い彼女と一緒に居れば、自分の可愛いの方向性も気づいてくる…はずだ。

 

 

 

 

 

 

「今日はここまで。

 続きは明日だ」

 

「「「「「「「ありがとうございました」!」」」」」」

 

「ありがとうございました、白草さん」

 

「構わん。

 私にとっても、いいレッスンになっている。

 明日は放課後だけ来るから、そのつもりでいろ」

 

「承知いたしました。

 それでは、校門まで送らせてもらいます」

 

「不要だ。

 貴様はやるべきことをしろ」

 

「…ありがとうございます」

 

 私が頭を下げてお礼を言うと、彼女は片手をあげてそのままレッスン室から出て行った。

 白草さんが出て行ったあと、改めて彼女たちに視線を向ける。

 

 月村さんはだいぶグロッキーだ。

 いつも通り全身全霊を尽くした結果だろう。

 

 秦谷さんはまだ余裕がありそうだが、それなりに疲弊しているようだ。

 タオルで汗を拭いて、スポドリを口に含んでゆっくり飲んでいる。

 

 賀陽さんは余裕があるように見せているだけで、月村さんにだいぶ近い状態だ。

 しっかり虚勢は張れているが、足が少し震えている。

 あともう少し続けていたら、限界が来ていただろう。

 

 藤田さんは疲れているものの、倒れこむほどではなかった。

 無意識にペース配分ができていると言っていいだろう。

 バイトの日数を減らし始めているとはいえ、なんだかんだバイトと放課後レッスンと朝の走り込みを両立し始めているので、やはり一番やばいのは藤田さんなような気がする。

 

 花岡さんは……虫の息だ。

 月村さんよりもひどい。

 何せ、ダンスレッスンの合間合間に、白草さんに正面切って勝負を吹っかけていた。

 一度も勝つことはなかったが、白草さんがだんだんペースを上げていったということは、そこまでしてもいいと思ったから。

 

 つまり…今日のわずかな時間でも、成長し続けているということだ。

 勝つために、自らの全てを捧げ続るとも言うべきその姿は、他の人も若干引き気味だ。

 その対価として、挨拶をした後に崩れ落ちて突っ伏したまま動けなくなっているが。

 

 秦谷さんが、月村さんの世話を焼いていたが、花岡さんの様子を見て彼女の方に移っていった。

 辛うじてスポドリを飲むことはできているので、もうしばらくすれば復活するだろう。

 

 そして…有村さんと姫崎さんは床にへたり込んでいた。

 後輩がいるからか、床に寝っ転がっていないだけ有村さんはまだ頑張っているのかもしれない。

 花岡さんと違って、へたり込んではいるものの虫の息とまではいかないのは、高等部で鍛えられているからだろうか。

 

「はぁ…はぁ……い、いつも、こんなにハードなレッスンをしているんですか?」

 

「白草さんがいるので、いつもよりも輪にかけてハードだとは思います。

 ただ、皆さんレッスン狂いなところがあるので、これ以上の時もありますよ」

 

 息を切らしながらの姫崎さんの問いかけに、私は素直に答える。

 

「こ、これ以上…?」

 

「賀陽さんもまだ自分の足で立ててますし、月村さんも指一本動かないほどではありません。

 藤田さんと秦谷さんは、あと1時間ぐらい続けても大丈夫そうですね。

 花岡さんははしゃぎすぎです」

 

「…わかってます。

 今日も…勝てなかった…!」

 

 床にへたり込んだまま、拳をレッスン室の床に叩きつけながら憤る。

 拳が痛むからやめてください、とは言わなかった。

 

「流石に昨日の今日で勝てるなら、トップアイドルに限りなく近いという評価は受けないでしょう。

 無理に急がなくても、とは言いません。

 あなたは、その闘志を持ち続けて…燃え上がらせながら、突き進んでください」

 

「当然です。

 わたし(ミヤビ)は誰にも負けません!

 あの澄ました顔を歪ませてやります!」

 

 …まあ、いいでしょう。

 

「…動機はともあれ、彼女のやる気は凄いでしょう?」

 

「…ああ、ボクもレッスンに手を抜いたことはないつもりだけど、ミヤビほど全力で挑戦してきたか、と聞かれると、そうじゃなかったかもしれない」

 

 有村さんはそう言って首を振るが、ちょっと待ってほしい。

 

「ここまで毎回していたら、体がもちませんよ。

 これは私が彼女たちにも言っていることですが、人にはそれぞれのペースがあるので、無理に合わせる必要はありません」

 

 有村さんに言いながら、流し目で秦谷さんの方を見る。

 

「それに、高等部で鍛えられているとはいえ、彼女たちのレッスンは高等部の生徒のレッスンと比較しても、相当ハードなものだと思います。

 最後までついてこれたのは、間違いなく、あなた方が日頃からの努力をおろそかにしなかった結果です」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「ですので、私の担当アイドルたちのレッスンに今後も参加してくれると嬉しく思います。

 私の担当アイドルたちも、普段のレッスンを繰り返すより、違った視点の意見もあった方がより良いレッスンになりますから」

 

 私の言葉で、彼女たちは顔を見合わせて頷いた。

 

「そういうことなら」

「是非お願いします!」

 

「では、明日は朝の4時に校門前に集合してください。

 朝の走り込みから始めますので」

 

「「……え?」」

 

 私がそう言うと、彼女たちは呆気にとられた顔で私を見ている。

 藤田さんと花岡さんが、わかる、とばかりに頷いていた。

 

 月村さんと賀陽さんは、当たり前でしょと言わんばかりに彼女たちを見ているが、朝の4時に他の生徒たちが走り込みをしていないのは知っているので、どう見ても彼女たちが少数派だ。

 秦谷さんは少し考えこんでいたが、私と目を合わせるとにっこり微笑んだ。

 

 

 次の日の明朝、へとへとになりながら走る有村さんと姫崎さん。

 いつも通り花岡さんは賀陽さんに勝負を吹っかけて、月村さんと藤田さんは有村さんたちと集団で走っている。

 

 秦谷さんは朝食の呼びかけに来るまで来なかった。

 




秦谷 美鈴
プロデューサーと他の担当アイドル(お友達)の好みを把握しており、夕食はそれぞれの好みのものを作るようにしている。
基本は毎週下のようなスケジュールになっているが、打ち上げなどで外食をする場合は変更がある。

月・水 まりちゃん
火   プロデューサー
木   花岡さん
金   ことねさん
土   わたし
日   りんちゃん

なお、気分によってまりちゃんの日が増える。
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