『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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99話目

 

 有村さんたちを加えてレッスンをするようになってから、3日目。

 今日は白草さんが、初星学園に来る最終日。

 明日にはニューヨークへ飛び立つ彼女が、その直前まで時間を割いてくれている。

 

 だからか、今日のレッスン室には十王会長と雨夜副会長も集っている。

 有村さんと姫崎さんも来ているので、今日は大所帯だ。

 有村さんたちとはクラスが一緒だからか、いたことに疑問を抱いていなかったので、話を通していたのだろう。

 

 何故か十王会長と雨夜副会長が悔しそうな顔をしていたのは、なぜだろうか?

 

 それはさておき、今日のレッスンは…実戦形式だ。

 白草さんと、各々が1曲ずつ()りあう。

 先に挑む側から披露し、その後に白草さんが迎え撃つ形になる。

 他の全員が観客だ。

 後で見返せるように、正面にカメラも置いている。

 

 順番は希望制で、一度挑戦しても希望者がいなければ連続で挑戦してもいい。

 白草さんは相手の番だけの休憩になるので…白草さんが弱音を吐くまでエンドレスで続行だ。

 リミットはレッスン室の使用時間がくるまでか、白草さんの体力が尽きるまでか、白草さんを相手にとれるほどの体力を全員がなくしたときだ。

 

 そして勝敗は…いつも通り、()()()()()()()()()()()()

 

 なので、全力でぶつかっていってほしい。

 有村さんと姫崎さんにとっては、未だ荷が重いかもしれない。

 だが、彼女たちも()()()()()()()()()だ。

 ユニットだったり、子役の時の劇団の一員だったりと、今とは異なる状況ではあるが、まるっきり経験がないわけではない。

 

 特に、冬の『H.I.F』に挑むのであれば、これぐらいの挑戦は必要だ。

 それを分かっているからか…今の順番は、有村さんの『初』だ。

 

「一つの夢を叶えたい思いは」

 

「「「「「「「「叶えられる」」」」」」」」

 

 有村さんの歌に、みんなで合の手を入れる。

 有村さんは3番目の挑戦者だ。

 

 最初は十王会長、次に雨夜副会長と挑んでいる。

 ウォーミングアップを終えて、最初の希望者を募ったところ、全員一斉に挙手をしたため、先輩方を先にした形だ。

 全員、少しの躊躇いもなかったのは嬉しい誤算だった。

 

 十王会長は『Choo Choo Choo』、雨夜副会長は『Campus mode!』だった。

 二人とも素晴らしい出来だったが、勝ったかどうかで言うと難しい。

 私だけではなく、本人たちも同じように思っているようで、すぐに再挑戦の意志を見せていた。

 

 驚くべきことは、白草さんが()()()()()()()ことだろう。

 

 特に、『Choo Choo Choo』は夏の『H.I.F』で初披露だった上に、まだ音源も一般公開されていない。

 なのに、彼女のクオリティは十王会長に遜色ないどころか、彼女のそれとはまた違った良さを出していた。

 この分だと、私の担当アイドルたちの曲も、同じようにできるのだろう。

 

 …なるほど、彼女が与えてやると言っていた『試練』はこのことか。

 

 今までも中々ハードなレッスンを繰り返してきたが、ここで本格的に格付けをするつもりだ。

 賀陽さんが過去にやってきたことと、近いことを私の担当アイドルたちも食らうだろう。

 彼女たちなら大丈夫だと思うが…。

 

 

 

 

 放課後にレッスンを開始して、かなりの時間が経った。

 レッスン室内は…死屍累々だ。

 

 月村さんは指一本動かせないようだ。

 床に突っ伏したまま動かない。

 声をかけると、呻き声をあげているので仰向けにさせて、少しスポドリを飲ませた。

 

 賀陽さんも月村さん同様に朽ち果てている。

 最初の方はまだまだ余裕があった彼女だが、徐々にリタイアした者が出始めると、率先して挑んでいく彼女と花岡さんの挑戦ペースが上がっていき、そのまま完全に力尽きる前に止めた。

 まだできると言いたげだったが、これ以上は彼女の限界値を超えかねなかった。

 現に、足を止めた彼女は崩れ落ちて、休んでいる。

 

 秦谷さんも、珍しく他の人にお世話を焼く余裕がない程度に疲弊している。

 自分でペースを調整してはいたものの、一回一回を全力で挑んでいたのは私にもわかった。

 座ったまま動けなくなっている彼女は、体を休めながら…その瞳の奥には隠し切れない感情を浮かべている。

 

 他の面々も同じように疲弊していた。

 藤田さんも、十王会長たち、有村さんたちもこれ以上は無理だと判断し、クールダウンに努めている。

 そんな中で、未だに彼女に挑んでいるのは、もう一人しかいない。

 

「くくっ…まさか、最後まで残ったのが、貴様とはな」

 

 白草さんは嬉しそうに、好戦的な笑みを浮かべている。

 そこで辛うじて立っている彼女は、白草さんがやっている間も呼吸を整え切れていない。

 だが、彼女はその程度で止まらなかった。

 

「はぁー…はぁー…もう一本、お願いします!」

 

「いいだろう。

 だが…ハンドラー」

 

 言いながら白草さんは私に視線を送る。

 それで私は彼女の言いたいことを理解した。

 

 花岡さんの顔を見る。

 ……これなら、あと1回ならいいか。

 

「これで最後です。

 ()()()()、それ以上は許可できません」

 

「上等です!」

 

「…最後、か。

 いいだろう。

 引導を渡してやる」

 

 そうして、最後の勝負が始まった。

 彼女が好きな楽曲の一つ、『冠菊』は夏の夜をイメージするかのような、カッコよさが特徴で彼女によく合っている。

 花岡さんは、どこにそこまでの体力があるのかと思うほどに、最後の一回はこれまでのどのライブよりも輝いていた。

 力尽きる一歩手前のはずなのに。彼女の動きから目が離せない。

 

 それは、私以外の彼女たちも同じように思ったのか、誰も彼女から目を離せなかった。

 …勝負している白草さんも、思わず目を見開いている。

 十王会長も、驚愕の表情を浮かべていたのは…恐らく、彼女の『目』があったからだろう。

 

 彼女は歌い切り、最後のポーズを決めた。

 思わず拍手をすると、他の全員も同じように拍手をした。

 花岡さんは、ゆっくりとこちらに向かい、崩れ落ちるように座り込んだ。

 

 そんな彼女に、秦谷さんがタオルとスポドリを用意して渡す。

 全ての力を使い果たした彼女は、もらったそれを力なく受け取った。

 

 そして…白草さんの『冠菊』が始まった。

 花岡さんのそれを見て、熱を受け取ったのか、さらに精細さを高めた素晴らしいものだった。

 …花岡さんには悪いが、まだ白草さんの方が上だと、思わせれられるほどに。

 

 それは、花岡さんも実感したのか、悔しそうに睨みつけるだけだった。

 

 

 最後の曲を終え、白草さんがゆっくりと息を吐く。

 流石の彼女も、体力の限界は近かったのかもしれない。

 

「これで、今日のレッスンは終わりだ。

 雛鳥たちと…猟犬たち、中々楽しめたぞ。

 それと、十王星南」

 

「何かしら?」

 

「貴様も早く()()()にこい。

 先で待っている」

 

「…ええ、待ってなさい!

 すぐに追いついて、追い抜くわ!」

 

「ああ、楽しみにしてる」

 

 二人とも楽しそうに笑っている。

 最初の印象はあまり良くなかったかもしれないが、白草さんがアイドルに対して誠実に向き合っていることは、この短い期間で理解したのだろう。

 似たような能力を持っている二人は、それなりに打ち解ける程度にはなっていた。

 

 そして、白草さんは全員の顔を見た。

 

「貴様らは、まだまだ足りない部分もあるが、この一週間は悪くなかった。

 毎日、ここに来ることが楽しみになっていたぐらいにな。

 特に…花岡ミヤビ」

 

「は、はい!」

 

 座り込んていた彼女は、呼ばれて勢い良く返事をして立ち上がった。

 

「貴様は、ハンドラーの担当アイドル、5人の中で一番才能がない。

 他の4人を含めてもだ」

 

「!」

 

 なんで最後にそんなことを…?

 私が疑問を抱きながら白草さんを見ると、視界に少し目を見開いた花岡さんの姿と、彼女を心配する他の担当アイドルたちの姿が見えた。

 

 そして、フッと笑った白草さんは、口角を上げたまま続けた。

 

「だが、()()()()()()()()()

 その常に全力の姿勢が、私に本気で教えさせようという気にさせる。

 限界を振り絞ってでも、勝利に向かって進み続けるその姿勢が良い。

 ここまで負かせてきても、立ち上がって向かってきて、連日勝負を挑んでくる者はいなかった」

 

 そう言って、花岡さんにさらに好戦的な笑みを向ける。

 

「才能がない、と言ったが…それだけでアイドルの全てが決まるわけではない。

 最後の勝負も…体力を使い果たしていたはずなのに、一番私の心を震わせた。

 誇れ、貴様は…私のアイドルの才能を測るこの目を不安にさせた、初めてのアイドルだ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 …よかった。

 彼女の頑張りは、私もよく知っている。

 担当アイドルにすると決める前から、一人で本当にできることを全力で取り組んでいた。

 その彼女の努力は決して無駄ではなかったのだ。

 

 お礼を言って頭を下げた彼女は、頭を上げるとその顔には白草さんのように口角を上げていた。

 

「でも…才能のあるなしは、わたし(ミヤビ)には関係ありません」

 

「ほう?」

 

「才能があろうがなかろうが…()()()()()

 才能がない、なんてこと、勝ってから考えますわ。

 勝者には口答えできないでしょう?」

 

「…く、くく」

 

「勝って、勝ち誇って、才能があっても、勝ったのはわたし(ミヤビ)ですと言い捨てて差し上げます。

 次に会う時までに、首を洗って待ってなさい!」

 

「ああ、本当に楽しみだ。

 やはり…アイドルは良い。

 あっちに行く前に、寄り道をして正解だった」

 

 …予想外なことは往々にして起こる。

 花岡さんが白草さんに気に入られるとは…正直思わなかった。

 相性もそうだし、彼女がここに来た主な理由は最初は藤田さんだったはずだ。

 実際、藤田さんには手厚く教えられることを教えていたし、他の人よりも厚遇していたように見える。

 

 十王会長と白草さんに挟まれていた時の藤田さんは、げっそりしていたが。

 

 花岡さんが気に入られたのは、彼女の努力が、才能を凌駕しつつあるからかもしれない。

 そして、これで最後になるので、私は彼女に向き合った。

 

「白草さん、ありがとうございました。

 最初はどうなることかとも思いましたが、おかげで充実したレッスンになりました。

 これで…来年、あなたにも届くでしょう」

 

「くくっ、楽しみにしている。

 では、これで失礼しよう。

 楽しかったぞ」

 

 そう言って退出しようとする彼女に、レッスン室のアイドルたち全員が声を合わせた。

 

「「「「「「「「「ありがとうございました」!」」」」」」」」

 

 白草さんはフッとほほ笑むと、レッスン室を後にする。

 私は、彼女を送ってきますとだけ言って、彼女の後を追うことにした。

 他にもついてきたそうな顔をしていたが、もうしばらくクールダウンしてくださいと言って押しとどめる。

 あまり余裕がなさそうなので、それを振り切ってくる人はいなかった。

 

「白草さん」

 

「ハンドラーか。

 猟犬たちの面倒はいいのか?」

 

「最後ぐらい見送らせてください。

 この1週間、私はあなたに感謝してもしきれませんから」

 

「…まあいい」

 

 彼女としばらく歩く。

 流石の白草さんも、彼女たちとの連続の勝負で、だいぶ限界が来ているようだ。

 足取りが普段よりも不安定で、歩く速度もゆっくりだ。

 

 そうして歩いているうちに、ふと彼女から声をかけられた。

 

「ハンドラー」

 

「なんでしょう?」

 

「一つ、聞いておけ」

 

 …頼み事か?

 白草さんが?

 

「ええ、なんでしょう?」

 

「私には愚妹がいる。

 把握しているだろ?」

 

 …なるほど、そういうことか。

 

「妹さんがいることは調べてはいます。

 『白草四音』さん。

 来年、極月学園に入学する予定で、私の担当アイドルたちと同い年。

 既に961プロダクション系列の芸能事務所に所属していて、頭角を現し始めていると」

 

「随分と高い評価だな。

 四音はアイドルとしては三流が良いところだ。

 才能を棒に振るのが上手いだけで、私の幻影を追いかけ続けている。

 碌にファンを見もしないでな」

 

 酷い言われようだ…。

 だが、それは彼女の責任と言うのは少し酷だろう。

 

「そういう環境だったのでは?

 身近に優秀な人がいると、残された方は荒むものですよ」

 

「仮にそうだとしても、アイドルであるならば許さん。

 アイドルである以上、見るべきはファンだ」

 

「…そうですね、それは否定しません」

 

「だろう?

 …私は明日、ニューヨークに発つ。

 無理に、とは言わん。

 ただ、私に愚妹がいる、ということを覚えておけ」

 

 …なんて、この人は不器用なんだろう。

 いや…私の周りには、そんな人ばかりか。

 

「素直じゃありませんね。

 正直に、妹さんへ気持ちを伝えればいいと思いますよ?

 背を追いかける、ということは、少なからず意識しているということですから」

 

「一度そう思ったこともあったが、避けられている」

 

「さいですか…」

 

 …彼女の家庭環境は、『雨夜燕の親愛度コミュ』で少し()()ような気がする。

 お世辞にも、白草四音の家庭環境は良くない。

 金銭的なものではなく、精神的な負荷の面で、だ。

 

 両親は優秀な姉ばかりを見て、自身もアイドルになって優秀さを見せれば、誰かが見てくれると期待してアイドルになったが…いつまでも姉の影が追ってくる。

 

 そして、今わかったことだが、質の悪いことに(月花)(四音)を気にかけていると。

 そうして目をかけられることで、更に(四音)の劣等感が煽られるか、(月花)の言葉回しが悪くて(四音)を傷つけると。

 

 なるほど、拗れるわけだ。

 

 そうしているうちに、校門前に到着した。

 既に彼女のお迎えのリムジンが待機していた。

 

「わかりました。

 あなたに妹さんがいることを、私は覚えておきましょう。

 必要であれば、支援もしましょう」

 

「ああ、ではな、ハンドラー。

 貴様たちとの時間、悪くはなかったぞ」

 

「ええ、また会いましょう。

 加速した先の世界で、あなたを超える、初星学園のアイドルたちが待ってますよ」

 

「くくっ…!

 次会う時を楽しみにしている」

 

 彼女は最後まで嬉しそうだった。

 嬉しそうな笑みを浮かべて、車に乗って去っていった。

 リムジンが見えなくなるまで、私は頭を下げて彼女に感謝の気持ちを示しながら見送った。

 

 さて、私の担当アイドルたちはおかげで、また成長できた。

 新しくレッスンに参加している、有村さんと姫崎さんも、少しずつ力をつけている。

 十王会長と雨夜副会長も同様だ。

 

 だが、流石に濃い日々の連続だった。

 私自身、疲労が溜まっている自覚はあるし、彼女たちも相当溜まっているだろう。

 『H.G.F』が終わってから、ほとんどそのまま白草さんとのレッスン漬けだったからな。

 

 これからのプランの修正を考えながら、私はレッスン室に戻った。

 




藤田 ことね

休みの日は実家に帰って、プロデューサーや友達の話を家族にしている。
お姉ちゃんが最近楽しそうで、妹たちは喜んでいる。
なお、妹たちが以前家に来た男の人がプロデューサーだと気づくのは、もう少し先の話。
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