『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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注意:今回の話は、オリキャラしか出てきません。
   また、次期系列が4月中旬頃になることを留意していただけると幸いです。


幕間 音楽家との出会い

 

 初星学園から紹介された音楽プロダクション。

 158(十五夜)プロ。

 その中でも、取り扱いに難儀しそうな人物を紹介された私は、その人物の父親……158プロの社長と会うことになり、放課後の時間を使って出向いていた。

 

 それなりに広い屋敷。

 立派な門に備え付けられているインターフォンを押すと、メイドさんが出てくるほどの裕福な家庭。

 一体、この屋敷の維持にどれだけの費用が投じられているかは考えるのも億劫になるほどだ。

 

 ………この何とも言えないイラつきは何に発散させればいいのだろうか。

 

 そう思いついて、すぐに頭を少しだけ傾け、余計な思考を霧散させる。

 これから会う人は『SyngUp!(私の担当アイドル)』の曲を作ってくれるかもしれない人物だ。

 

 表情を作れ。

 感情を作れ。

 礼儀を作れ。

 態度を作れ。

 内面を作れ。

 

 でなければ、『プロデューサー』には成りえない。

 担当アイドルの人生を左右するかもしれない立場になった以上、半端なことは許されない。

 ただの他人であれば、そんな奴の人生はどうなろうと知ったことではないが、私の日常に彩りを与えてくれた彼女たちの人生を、悪い方向に進めることは許容できない。

 

 メイドさんに案内され、私は158プロの社長。

 五十嵐裕也さんの待つ広間に案内された。

 アニメでしか見たことないような、会食するようなテーブルの奥に座っている壮年の男性が、五十嵐裕也さんだろう。

 案内され、座る前に一礼して自己紹介を行うことにした。

 

「本日は貴重なお時間をいただきまして、誠にありがとうございます。

 先日お電話させていただきました、初星学園、プロデューサー科1年の篠崎士野と申します」

 

「ようこそ、篠崎君。

 すでに知っていると思うが、私は158プロダクションの社長。

 五十嵐裕也だ。

 そして、君が依頼を行っている五十嵐大和の父親でもある」

 

「存じております。

 先日は突然のお電話、大変申し訳ございませんでした」

 

「大和用の携帯が鳴ったのは、もう数年ぶりでね。

 最初は迷惑電話かと思ったが…まさか、プロデューサー科1年の新人が電話をかけてくるとは」

 

「教員の方に紹介をお願いしたところ、教えていただきました。

 それでは、早速本題に入らせていただきたいと思うのですが…」

 

 私がそう言うと、彼はゆっくりと頷いた。

 

「電話で伝えたとおりだ。

 ()()()()()()()()()

 今まで、何人も彼を立ち直らせようとして、碌に会話もできずに帰っていった。

 君のように、会ったこともない他人に心を開いて話し合うことなど不可能だ。

 …私も、もう何年もまともに会話をした覚えがない」

 

 …『五十嵐 大和』、25歳。

 幼少期より類まれなる音楽の才能に満ち溢れ、父親からまで嫉妬されるほどの才能を持った彼は、周囲との協調が上手くいかず、小学校から不登校になってしまった。

 友達はこれまでできたことがなく、幼少期に買ってもらったぬいぐるみが好きで、部屋中ぬいぐるみだらけになっているそうだ。

 

 そして、この綺麗で壮大な牢獄の中で、もう15年近く外に出るどころか、使用人以外とほとんど口を交わしていない…と。

 

 …ああ、本当にムカつくな。

 一番の理解者でなければいけないのは、あなただろう?

 

 それが諦めてしまっていることが、ムカついて仕方ない。

 

 …私には誰もいなかったのに、手を差し伸べる側の人間が諦めるなよ。

 割り切って考えるつもりだったのに、頭の中でそう考えてしまったのがよくなかったのだろう。

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 このまま一生引き籠らせるつもりですか?」

 

 思わず隠し切れなくって、言ってからしまったと思った。

 だが、吐いた言葉を飲み干すことはできない。

 

 それまでの落ち着いた表情から一転して、怒髪天を突くような怒りの表情を浮かべて、彼は立ち上がった。

 

「…お前に何がわかる!

 私が大和に抱いた気持ちを!

 私が大和の惨状に気づいた時の嘆きを!

 私が大和に何もしてやれないことを知った無力さを!

 会ったこともない他人風情が、知ったような口をきくんじゃあない!」

 

 言い切った彼は肩で息をしている。

 

 …私の言ったことは、気安く言っていいことではなかった。

 それを反省すると同時に、その言葉を受け止めつつも、それでも私の考えは欠片も変わらない。

 暫くして、落ち着いたところを見計らって、私は口を開いた。

 

()()

 会ったこともない人のことなんて、何もわからないでしょう。

 だから、人は理解し合おうとするのです。

 今、私が彼にしようとしているように」

 

 私は一歩も引かない姿勢で彼の瞳を覗く。

 そこには、怒りもあるが、期待と諦観の色もあったように見えた。

 

 落ち着きを取り戻した彼は、椅子に座りなおした。

 

「取り乱して悪かったね。

 君は…なぜ君は、そこまで大和に執着するのだね?

 別に、他の人でも構わないだろう」

 

「なぜ…なぜ、と言われると少し困りますが…」

 

 別に他の人を紹介してくれる、というならそれでもいいのだろう。

 むしろ、こんな案件は放置して他の時間に割いた方が良い。

 

 だが…それは、私の中に後味の悪いものを残すことになる。

 

 知らなければよかったのに、知ってしまったら、もう放置はできない。

 私が彼女たちに救われたように、人に救いはあるべきだ。

 特に、それが何も知らない『子供』なら猶更。

 

 でなければ、あまりにも惨いではないか。

 

 だから私は信じるのだ。

 

「人の出会いとは、『引力』のようなものだと思いませんか?

 私は、私に紹介された大和さんと、私の間に『引力』があるから、この場に来ることができたのだと思います。

 ただの一般生徒が、音楽プロダクションの社長と謁見する機会が叶うなんて、そうそうあることではありません。

 ロマンティックに言うなら、『運命』と言ってもいいでしょう。

 私は、その『運命』を信じたい」

 

「……『運命』、か」

 

「絶対に状況を改善させる、なんて無責任なことは言いません。

 むしろ、話を聞いてくれるだけでも御の字でしょう。

 それでも…私のことを、少しでも信頼していただけるのであれば、彼に会わせてください」

 

 そう言って、椅子から立ち上がって最敬礼の姿勢を取る。

 そのまま暫く沈黙が場を満たし…それは彼の声で破られた。

 

「いいだろう。

 ただし…場合によっては、生きて出られるとは思うな」

 

「仰せのままに。

 こちら遺書になりますので、万が一のことがあれば、これをプロデューサー科の生徒に渡してください」

 

 そう言って、私はノータイムでカバンから机の上に遺書を置いた。

 

 最悪を想定して持ってきておいてよかった。

 私の望みが尽きてしまっても、これを読んだ者が私に続いてくれれば、まだ何とかなるはずだ。

 

 私がいなくても、他人がこれを見ただけである程度の方向性を作れるぐらいには、この『遺書(プロデュース計画書)』は練ってある。

 これがあれば、解散騒ぎにはさせなくて済む…はずだ。

 

 そんな私の覚悟は、彼の一言で無に帰した。 

 

「…冗談だ、それは処分したまえ」

 

「御意に」

 

 言って、目の前で遺書を破り捨てる。

 床に散らばらないように、机の上で破った上でカバンに流し込んだ。

 家に帰ったら廃棄しよう。

 私の家と、事務所の鍵をかけた引き出しの中に同じものがある。

 

 なのだが、目の前で呆気なく破り捨てたそれを見て、目の前の彼は茫然としていた。

 

「?

 いかがなさいましたか?」

 

「…いや、その即断に驚いただけだよ」

 

「同じものを他の場所に用意しております。

 人生、何が起きるかわかりません。

 不慮の事故にあった時のことを考えて、常に備えております」

 

 にっこり微笑んでそう言うと、目の前の彼は黙り込んでしまった。

 ドン引きしているようにも見える。

 

 …何故だ?

 プロデューサーである以上、これぐらいの備えはして然るべきものだろう?

 

「その備えを別の方向にした方がよいのではないか?」

 

「もちろん、日頃からある程度の対策はしていますが、交通事故などの不慮の事故は回避しようがありませんから」

 

「…そうか」

 

 何とも言えない顔をしながら、彼は少し迷ったように考え込んだ。

 そして、彼は何かを呟くと席から立ち上がった。

 

「では、早速だが案内しよう。

 私は部屋の入口までになるが…入り口には使用人を控えさせておく。

 何かあれば、すぐに突入することを忘れるな」

 

「承知いたしました。

 誠心誠意、微力を尽くさせていただきます」

 

「よろしい。

 ついてきたまえ」

 

 立ち上がった彼に連れられて…この屋敷の奥、そこにあった扉から、地下につながる道を歩く。

 扉は途中でいくつかあり、お手洗いやお風呂場も地下内に用意しているようだ。

 

 私の後ろには、従者となるメイドが一人。

 恐らく、彼…大和さんの専属なのだろう。

 慣れた手つきで、後ろ手に途中の扉を閉めながら歩く姿は、常日頃からの所作が垣間見えていた。

 

 そして、ついた先の扉。

 その中からは、分厚い扉なのに隙間から音楽が漏れ聞こえている。

 防音対策はしているのだろうが、それでも漏れてくるので道中に扉が複数あったのだろう。

 

「…大和はここにいる。

 後は好きにするといい。

 帰るときは彼女に一言伝えたまえ。

 案内するように伝えてある」

 

「わかりました。

 …ありがとうございます」

 

 私が彼にお礼を言うと、彼は来た道を戻るように歩き始め、少し止まって…その壮大な威厳とは見合わないほど、か細い声で呟いた。

 

「……息子を頼む」

 

「お任せください」

 

 彼を見送り、私は扉に手をかける。

 そして…開ける直前、それまで静寂を保っていたメイドさんが、祈るように口を開いた。

 

「篠崎様、差し出がましいとは承知しているのですが…坊ちゃまをよろしくお願いいたします」

 

「承知いたしました。

 微力…いえ、全力を尽くさせてもらいます」

 

 …どこかで信頼を勝ち取ったのか。

 いや、それだけ彼が愛されている証拠だろう。

 私は彼らの期待に応えるべく、そして、私のために、覚悟を決めて扉を開けた。

 

 

 中にいたのは…小奇麗に身だしなみは最低限整えられているものの、髪はぼさぼさで、不摂生の証明と言わんばかりに肌が真っ白な少年…いや、青年が、一心不乱にピアノを弾いている。

 周囲にはぬいぐるみが多数鎮座しており、その一つ一つが着飾られて愛情をたっぷり注がれていることが想像に容易い。

 そして、ピアノをはじめとした大量の楽器、それを響かせるためのスピーカー。

 スピーカーの近くには、パソコンもあり、恐らく外界につながる唯一の手段だろう。

 ぬいぐるみを見なければ、音楽室と見間違ってもおかしくないのだが、部屋の一か所に鎮座しているベッドが違和感を助長させていた。

 

 彼は私に気づくこともなく、狂ったようにピアノを弾き続けた。

 頭を激しく振りながら、目に見えないほどの動きで指先を動かし続ける。

 流れるように激しいメロディは、どこかで聞いたことのあるような気もするが、私の知らない曲だった。

 

「大和さん」

 

 声をかけるが、彼のピアノにかき消されて声が彼に届くことはなかった。

 

大和さん!

 

 再び声を大にするが、彼に届くことはない。

 どれだけ声を大きくしても、彼に届くことはないだろうと思わせた。

 

 …このクソガキ、自分の世界に入り込んだら出てこないタイプか?

 気持ちよく曲を弾いている中で邪魔をされるとムカつくのは否定しないが、最低限の社会性があれば一度止めるだろう。

 

 こういうのが一番面倒なんだ。

 

 自分の殻に閉じこもってしまった彼には、そうなるに足る理由があるのは理解しよう。

 哀れだと同情もしよう、可哀想だと慰めもしよう。

 

 だが…それでは困る。

 彼は偶々お金持ちの家に生まれたから、これだけの自由を謳歌できるのであって、普通の家庭ならこんな好き放題はできない。

 稼ぐだけの力があるのに、万が一158プロダクションが破綻したら、生活保護にでもなるしかなくなってしまう。

 

 それに…託された想いもある。

 彼にとって、それが良いことかはわからない。

 どの口が、と怒りの気持ちもあるだろう。

 

 でも…必要なんだ。

 さあ、『夢』を終わらせよう。

 

 彼の興味を惹く方法は考えていた。

 いろいろなことを考えたが、恐らくこれが一番手っ取り早いだろう。

 

 彼の興味は…『音楽』しかない。

 

 で、あるなら…()()()()()()()()()()()()は、彼にとっての興味の対象になりうる。

 私は、彼のピアノが荒れ狂う中、瞳を閉じて頭の中でイントロを流し始める。

 ピアノの音が聞こえなくなるぐらい、集中力を高め、私は彼にぶつけるための歌を紡ぎ始めた。

 

『あのね。』

 

 私はピアノの音が気にしなくなるぐらい、ピアノの音に負けないように全力で歌った。

 自分自身、歌が上手ではない。

 特に、女性の声をその音域で歌うのは得意ではない。

 

 だから、全力で歌った。

 

 思い出すのは、全力で歌う彼女。

 私の大好きな、大好きだった『月村手毬』をイメージし続ける。

 魂を震わせられるように、彼の心を動かすために。

 

 凍り付いた彼の心を溶かすには、月の優しい光がちょうどいいだろう。

 

 私は彼に気を回すこともしないで歌い続けた。

 場も、状況も、相手も、考えないでする全力の歌唱。

 拙いながらも、少しでも彼女を思いながら歌った。

 

 そして歌い終わると、いつの間にかピアノの音色も止まっていた。

 ピアノの方を見ると、驚いたような顔をした彼…目を合わせると、伸びきった髪の隙間から見える整った顔立ちの瞳が私を…興味と怯えの色で見ている。

 線が細く、髪も長いく、肌が真っ白なので、先に言われていなければ女性と言われても納得できそうな彼は、私から視線を逸らしてピアノを弾いた。

 

 …そのメロディに聞き覚えがあるのは、この世界では私だけのはずだ。

 

 思わず目を見開くが、すぐに再び歌を紡ぎ始める。

 彼の父親から聞いた、『天才』という触れ込みは間違いではないようだ。

 嘘だろう?と思いながら、私は歌いながら彼に視線を送る。

 彼はこちらを一瞥したが、すぐに目を逸らした。

 

 …アカペラの歌を1回聞いただけで、しかも自分は別の曲を弾きながらだぞ?

 それで、この世に存在しない曲をもう弾けるのか…?

 素晴らしい才能だ。

 

 ピアノだけとはいえ、それに乗りながら歌うのはアカペラで歌う時よりも安心感がある。

 記憶の中のメロディとほとんど変わらず、ピアノを弾き続ける彼の手腕に舌を巻きながら、私は歌った。

 先程のように全力を込めながらも、先ほどのように覚悟を決めての歌ではない。

 

 歌に乗ってくれたということは、私に興味を示してくれたということだ。

 

 そうして歌い終わり、ピアノの演奏も終わったころ、彼は……怯えながら私を見ている。

 最初は目もくれなかった彼が、私の方を見ているだけマシになったと思おう。

 彼は震える唇を少し開いた。

 

「だ…誰…?」

 

「私は「いや、誰でもいい! 出て行って!」

 

 最初は怯えていた彼だったが、半狂乱になって叫び始めた。

 

「僕は誰にも会いたくないのに!

 なんでまた人が来てるの!?」

 

「私はあなたに曲を作ってほしいのです」

 

「だから嫌だって「先ほどピアノで弾いてくれた曲、あれを形にしてほしいんです」…」

 

 彼の言葉に被せると、彼は黙り込んだ。

 先程の曲…『Luna say maybe』は心に響いてくれただろうか。

 

 いや、響いただろう。

 私の自慢のアイドルの曲だ。

 心に響かないはずがない。

 

 だから、先ほどまでの取り乱しようが嘘のように、私の方を見ている。

 目を合わせられないのは仕方ないだろう。

 

「私は、先ほどのように様々な曲を知っています。

 先の曲は、未だこの世に存在しない曲です」

 

「…知ってる。

 日本の曲だけで200万ぐらい、聞いてきたけど、今の曲はどの曲でもなかったから」

 

 ………イカれてるのか?

 

 200万曲を聞いて、すべて覚えている……?

 

 化け物かよ。

 

 だが、それならそれで()()()()()

 

「私は諸事情で、この世に存在しない曲を知っています。

 ただ、それを形にできるほどの音楽技術がない。

 なので、あなたに形にしてもらいたい」

 

「…無理だよ。

 僕にそんなことできない。

 だって…僕は、もう()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう言って、彼は俯いた。

 …曲を作れなくなった?

 

「昔は…息をしているだけで、音楽が生まれた。

 手を動かしても、足を動かしても、口を開いても音楽が生まれて、どんな曲でも作れるような気がした。

 でも……ここに来たってことは、あの人から聞いたんでしょ?」

 

「ええ、あなたのお父様にある程度は」

 

「僕は…小学校に行かなくなって、ここで音楽を楽しむようになった。

 音楽を聴いて、弾いてみて、聴いて、叩いてみて、聴いて…誰か会いに来たような気もするけど、興味がなくて無視してた」

 

 …本当に…彼は愛されているのだろう。

 仮に、一度その愛を手放されたとしても、心の底からは愛されているんだな。

 それに、全盛期の彼がどれだけやばいのか改めてよくわかるな。

 彼の父親が言い淀むわけだ。

 

 そして、俯いたまま彼はか細く呟いた。

 

「そうして、音楽に溺れているうちに…()()()()()()()()()()()()()()()んだ」

 

「…なるほど」

 

 そういうことか。

 自分の殻に閉じこもって音楽をひたすら聴いているうちに、自分がわからなくなってしまったと。

 

「…僕は、もう音楽の天才でも何でもない。

 だから、君の期待には応えられない」

 

 そうして顔を上げた彼の瞳には、もう全てを諦めた諦観。

 そして、自分が何もできない絶望が垣間見える。

 …彼も根っこは優しい人間なのかもな。

 

 …それに。

 

「そんなこと、どうでもいいですよ」

 

 彼の覚悟を踏みにじるように、私は敢えてそう言った。

 案の定、彼は驚いたように声を上げる。

 

「ど、どうでもいい!?」

 

「ええ、どうでもいいです。

 あなたが自分を天才じゃないと言っても、私はあなたを天才だと確信しています。

 先程のアカペラの歌だけで、即興でピアノを弾けるのは才能です」

 

「で…でも、僕はもう自分の曲は作れないし」

 

「別に構いませんよ。

 私があなたに期待しているのは…私の覚えている曲を再現させること、それ以外は気が向いた時に、作れるようになったら聞かせてください」

 

 そう言って私は彼に近づいた。

 一瞬ビクッとしてが、彼は私から逃げなかった。

 …彼も、本心は変わりたいのだろう。

 

 それを感じ取った私は、彼の肩に手を回し、顔を近づけた。

 

「曲の中身を覚えているけど、曲を作れない私。

 曲を作れるけど、中身が作れないあなた。

 私たち二人が手を組めば無敵だ。

 そう思わないかい?」

 

 彼の耳元でそう囁いた。

 そう、人間なのだから、お互いに足りない部分を補い合えばいい。

 私と彼なら、それができるだろう。

 

 彼は少し震えて…私の手を掴んだ。

 

「…あ、あの…名前!

 あなたの名前を…聞かせて……!」

 

 ああ、そういえば、さっき断られてしまったから教えられなかったな。

 

「私の名前は、『篠崎 士野』。

 ()()()()()うと覚えてください。

 ただ死ぬだけで、許される人生ではありません」

 

「篠崎…士野…」

 

 そうして、私は彼と『心友』になった。

 その日は彼の部屋に泊まり、私は喉が枯れるまで彼と歌い、演奏した。

 ストレス発散にはちょうどよかったし、実務的にも大変有意義だった。

 

 …問題は、思いの他気に入られすぎて、帰り際に袖を掴まれて涙の別れを演じる羽目になったこと。

 学校でも5分おきに電話をしてくる上に、出たら出たで『特に用事はないんだけど、暇だったから』と言う我儘っぷりだ。

 

 私が問題児(『SyngUp!』)の他に、25歳児(クソガキ)の教育に頭を悩ませたのは、言うまでもないことだった。

 




初投稿から1年が経ちましたので、投稿させていただきました。

飽き性な私が1年も執筆を続けられたのは、学マスと当小説を読んでいただいている皆様のおかげです。
改めて皆様に感謝を述べさせてもらいます。
本当にありがとうございます。

一年前の今日、この日、この時。
謎の焦燥感に駆られて、碌に書き溜めもしないで勢いだけで投稿した時のあの気持ちを、未だに忘れていません。
色々考えているものを出すのに、1年かかったりしてますが、今後もマイペースに進んでまいりますので、お付き合いください。

また、少しモチベーションが落ちつつあるので、卑しいですが高評価コメント、お気に入り登録をください。

改めて、今後ともよろしくお願いします。
土日も通常営業予定なので、そちらもよろしくお願いします。
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