『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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101話目

 

 『STEP3』は『紫雲清夏』から始まった。

 そして、順当に実装されていたのだろう。

 私は、ほとんどが実装される前に『こっち』に来たので、どのような順番で実装されたのか、いつ実装されたのかとかは全く分からない。

 

 だが………『秦谷美鈴』の『STEP3』の実装がまだなのはわかっていた。

 ここ最近も、『十王星南』『花海咲季』『花海佑芽』のそれを『夢』で見た。

 あと残っているのは『秦谷美鈴』と『雨夜燕』。

 『雨夜燕』は、私がこちらに来る前は『プレイアブル』ではなかったので、少し枠が違うかもしれない。

 

 そういう意味で見ると、『秦谷美鈴』は最後の順番だったのかもしれない。

 のんびり歩む彼女らしく、のんびり実装されたのだろう。

 

 ………だが、『S()T()E()P()4()』。

 それに『秦谷美鈴』が一番乗りだったのか……?

 

 もしかしたら、『N.I.A』の時のように同時に実装だったのかもしれない。

 そう考えると…徒歩で勝ちますね、と言っていた彼女が、『STEP3』で最後尾だった彼女が、『STEP4』で追いついたのかもしれないな。

 

 

 …目が覚めた私は、膝枕をしていた秦谷さんと目を合わせ、思わず視線を逸らした。

 秦谷さんは、不思議そうな表情をしつつも、私に語り掛ける。

 

「おはようございます。

 プロデューサー。

 よく眠れましたか?」

 

「おはようございます。

 秦谷さん。

 ……どれぐらい、経ちましたか?」

 

「1時間ほどですね」

 

 ……『夢』だからか、時間の感覚がおかしいな。

 体感、3時間ぐらいは『ストーリー』と楽曲を見せられた気がしたが……。

 

 いや、今それはいい。

 

「寝心地は最高だったのですが、謝らなければいけないことがあります」

 

「?

 なんでしょう?」

 

「………『夢』の中で、私は浮気をしてしまいました」

 

 私のそれだけの言葉で、全てを察した彼女は、膝上の私の顔を両手で挟んだ。

 

「まあ? まあ? まあ?」

 

 呟きながら、私の顔を固定したまま顔を近づけて無理やり目を合わせられる。

 眠る前の可愛い顔とは一変して、その表情には影が落ちて、とても怖い。

 同じものをさっき見たような気がするのは、気のせいじゃないな。

 

「一応聞きますが、誰に、ですか?」

 

「……『夢』の中の、『秦谷美鈴』に、です。

 彼女とあなたが違うことはわかっているのに……!」

 

 言いながら、私は歯を食いしばる。

 『STEP3』だけでも、とても良かった。

 彼女の楽曲、『VEIL』は私の心を蝕み、支配し、奪い取って染め上げた。

 それだけでも、浮気に等しいのに…。

 

 『STEP4』でのライブ。

 『一番星(プリマステラ)』を獲った時の、『秦谷美鈴』の表情。

 屋上での語らいは、秦谷さんに惚れ切っていた私の心を揺さぶった。

 

 私が担当している秦谷さんとは違うとわかっていたのに、彼女の表情を見て、『秦谷美鈴』にまた惚れてしまったのだ。

 

 私の表情を見て、ただならぬことを感じた秦谷さんは、私を起こした。

 私も椅子に座りなおし、彼女と正面から向き合う形だ。

 

「…何があったのか、お聞きしても?」

 

「ええ…『秦谷美鈴』の『夢』を見たのです。

 『月村手毬』同様に、夏の『H.I.F』で敗退した『秦谷美鈴』は、冬の『H.I.F』に向けて特訓を重ねてました。

 そのために、…元『SyngUp!』のメンバーである、『賀陽燐羽』『月村手毬』との合同レッスンをしていました」

 

 元『SyngUp!』のくだりで、彼女は眉を顰めた。

 私も、そうさせないようにするつもりで動いているし、させるつもりは毛頭ないが言葉にすると、少し心苦しいものはある。

 

「『秦谷美鈴』は彼女のプロデューサーに『一番星(プリマステラ)』を捧げる約束をしていました。

 その約束を、夏の『H.I.F』で果たせなかった。

 …もし、秦谷さんが同じようになった時、どのような心境になると思いますか?」

 

「………恐らく、焦ってしまうと思います。

 わたしに期待している、あなたの期待を裏切ってしまうことは……もう、ごめんです」

 

 秦谷さんは苦々しい顔をしている。

 それだけ鮮明にイメージしてくれたのだろう。

 

 …もしかしたら、『H.J.I.F』で月村さんに負けた時のことを思い出したのかもしれない。

 期待を裏切られたとは思ってないが、彼女がそう思っているのなら否定するのは違うだろう。

 

「『秦谷美鈴』もそうでした。

 焦った彼女は『月村手毬』と『賀陽燐羽』を連れ出し、彼女たちに合わせたペースで、自分のなりたいアイドル像を忘れてしまうほど、レッスンをしていたのです」

 

「……それは、この前のわたしのようにですか?」

 

 彼女が言うこの前、とは朝練に出た日のことだろう。

 

 あの時、目を合わせた彼女はそれを察してくれたから、次の日の朝練には顔を出さなかった。

 本来なら、プロデューサーの立場としては怒らなくてはいけないのかもしれない。

 実際、基礎能力はこの1週間で着実に伸びてきている。

 

 だが、秦谷さんの理想の姿は、月村さんたちのように全力で挑みかかる姿ではないだろう。

 のんびり、徒歩で、一番高いところであくびをする。

 

 それでこそ、秦谷さんだ。

 

「ええ、そうです。

 白草さんが来てくれたとはいえ、秦谷さんらしくはなかったですから」

 

「まあ、まるでわたしが、素行不良の問題児かのよう」

 

「実際その通りでしょう?」

 

「まあ」

 

「まあ、ではありません。

 そんなあなたが大好きではありますが、トレーナー方には毎度毎度、お説教されています」

 

「まあ、浮気の釈明中に、浮気の自白をするなんて…」

 

「諦めてください。

 秦谷さんが秦谷さんらしく過ごすことが、私にとって一番大切なことですが、トレーナーの仕事を考えれば私がお説教を受けるのは当然のことです。

 それが嫌であれば、諦めてレッスンに参加してください」

 

「まあ」

 

「まあ、ではありません」

 

 にこにこしている彼女は、考えを改める気はないがトレーナーとあまり話すなと、目で訴えてきている。

 無茶を言わないでほしいと思いながら、私は咳ばらいを一つして本題に戻すことにした。

 

「『秦谷美鈴』はそれに気づき、プロデューサーの力もあって自分自身を見つめなおしました。

 そうして…新曲をものにして、()()()()()()で『H.I.F』で敗退したことを侮っている方々を見返すライブをしていました」

 

 一息ついて、白状する。

 

「その新曲が凄まじかったのです。

 …大和に必ず再現してもらいます。

 衣装も用意を進めます。

 何時歌ってもらうかはわかりませんが」

 

「お早めにお願いします。

 …彼女に奪われたあなたを、取り戻さなければいけないので」

 

「かしこまりました。

 早急に手配します」

 

 明日は『VEIL』を再現させるための作業だけで終わりそうだ。

 …正直、今すぐにでも抜け出したいぐらいに心は逸っている。

 

 だが、私はまだ彼女に言わなければならないことがある。

 彼女も、疑問はまだあるようで、私に告げた。

 

「……それだけですか?

 わたしのあなたが、それだけで心を奪われるとは思いません」

 

「……その続きもあったのです。

 冬の『H.I.F』で…『一番星(プリマステラ)』になった、『秦谷美鈴』」

 

「!」

 

 思わず秦谷さんも息を呑んだ。

 彼女にとっても、『一番星(プリマステラ)』は特別な称号だ。

 それを『夢』の中の自分が手にした、というのは彼女にとっても驚くべくことだったのだろう。

 

「夏の『H.I.F』で『一番星(プリマステラ)』になった『十王星南』によって、冬の『H.I.F』はよりハイレベルなものになりました。

 それこそ、私が言っているように、『一番星(プリマステラ)』がトップアイドルの称号になるほどのものに」

 

 そして…

 

「その時の…彼女の表情に、ライブに、想いに、心を揺さぶられてしまったのです。

 ()()()()()()()()()()()()

 

 私が悔いるように、懺悔するように白状した。

 彼女に怒られてしまうのではないか…と思って彼女の顔色を窺っていたのだが、

 

「………わ、私の秦谷さん!?」

 

 秦谷さんは真面目な表情から一転、顔を赤くして叫んだ。

 

 …何か間違えたことを言っただろうか?

 私の(担当アイドルの)秦谷さんと、『夢』の『秦谷美鈴』を分けた……いや、言葉を間違えてるな。

 

 でも、秦谷さんも『わたしのあなた』と言って、私に勘違いさせて来るんだから、これぐらいいいだろう。

 たまには同じ思いを味わってほしい。

 

「秦谷さんも、わたしのあなたと言うので、同じではないですか?」

 

「……意味が違うと思います」

 

「そうですか?

 まあ、似たようなものでしょう」

 

 秦谷さんは恨めしそうな目で私を見ているが、私は敢えて見ないようにした。

 

「とにかく、そういうことで…『秦谷美鈴』に、心を染め上げられてしまいそうになりました。

 いえ、実際、目を覚まして秦谷さんを見るまで、染め上げられてしまったのだと思います。

 だから…思わず目を逸らしてしまいました」

 

 そう言って目を瞑る。

 『STEP4』の秦谷さん…『敗退コミュ』の方も、非常に心が揺さぶられた。

 だが…彼女は、『秦谷美鈴』は、『今の』私の担当アイドルではない。

 

 それでも、大好きだった『秦谷美鈴』の『STEP3』『STEP4』は、『月村手毬』の『STEP3』同様に私の心をかき乱していた。

 

 だから…今一度、気持ちを新たにしないといけない。

 

「秦谷さん」

 

「はい」

 

 私の言葉に応えてくれた彼女に、私は傍から見れば無理難題を…だが、私は彼女たちならできると確信していることを、改めて言葉にした。

 

「あなたには…『彼女』を超えてもらいます。

 冬の『H.I.F』で『一番星(プリマステラ)』になった彼女よりも、高く立つために…()()『H.I.F』で、あなた方には頂点に立ってもらいます。

 安直かもしれませんが、夏の『H.I.F』で彼女たちが獲れなかった『一番星(プリマステラ)』を獲れば、彼女を上回ったと言っても過言ではないでしょう」

 

「お任せください。

 …あなたは、わたしたちのものです。

 例え、『わたし』だとしても、これだけは譲れません」

 

 秦谷さんはその瞳に、強い覚悟を宿して私の言葉に頷いた。

 …何も躊躇わないで、私の言葉を信じてくれる彼女に、すこし心にこみ上げてくるものがある。

 

「これからも、ハードな日常になりそうです。

 覚悟は良いですか?」

 

「ええ、あなたと、わたしたちなら、どこまでも」

 

 …ああ、やはり、私の担当アイドルはあなたたちだ。

 私に付きあってくれて、一緒に、みんなで歩んでいく、あなたたちこそが、私の担当アイドル。

 目の前にいる彼女こそが、その一人。

 

 ()S()y()n()g()U()p()!()()()()()()()()()()()()だ。

 

「……もう大丈夫です。

 今の私の目には、あなたしか映っていません」

 

「………ふふ、それでは、また膝枕をして差し上げます。

 折角の膝枕の余韻を、無粋な方に邪魔されてしまったようですので」

 

 秦谷さんは膝をぽんぽんと叩きながら、再び私を誘導する。

 だが、私は首を横に振った。

 

「順番、と言ったでしょう?

 今度は秦谷さんが眠ってください。

 昨日の疲れが残っている秦谷さんにも、休んでもらいたいのです」

 

「…仕方ありません」

 

 私が膝をぽんぽんと叩くと、秦谷さんは私がしていたように椅子を並び替えて、私の膝に頭を預けた。

 

「寝苦しくありませんか?

 やっておいてあれなんですけど、男の膝枕なんて寝づらいでしょう?」

 

「いえ、いえ。

 これは…とても、良いものです」

 

 お世辞だろうと思っていたが、秦谷さんの表情を見ると、本当に幸せそうな表情をしているので嘘ではないと思いたい。

 可愛いその顔を見ていると、秦谷さんは私の手を掴んで自分の頭に持ってきた。

 

「撫でていいんですか?」

 

「……みなまで言わせないでください」

 

 耳を赤くしている彼女の、髪をゆっくり撫でる。

 サラサラの髪の触感が、私の手を伝わる。

 

「秦谷さん」

 

「……どうなさいましたか?」

 

「秦谷さんは、このまま撫でられたままでも眠れますか?

 最近はそうでもありませんが、前は起こしたらすぐに起きたので、寝つきが浅いのかと思いまして」

 

 そう言って思い出すのは、秦谷さんを最初に屋上に探しに行ったあの日だ。

 起きるまで待っていようと思っていた彼女は、あまり時間を置かずして目を覚ましていた。

 それ以降も、事務所や私の目の届くところで寝るなら寝てほしいと伝えた後も、起こしたときに早めに目を覚ましていたのだ。

 

 『H.J.I.F』を終えたあたりぐらいからだろうか。

 秦谷さんを起こしても、中々起きなくなったのは。

 

 なので、環境に慣れると熟睡できるタイプなのかもしれないと思ったのと、こうして慣れない環境だと寝苦しいのではないかと思ってのことだった。

 

 秦谷さんは、目を合わせないように顔を横に向けて、大きくない声で答えてくれた。

 

「前は…一応、警戒していたんです。

 プロデューサーと言えど、男の人で、信用していると言っても、信頼を築き上げている最中。

 プロデューサーに言われてから、学内でも事務所以外の場所でお昼寝するときは、気を付けるようにしています」

 

 …そういうことか。

 熟睡する様子を無防備に見せてくれていたのは、彼女なりの私への信頼の証だったのだ。

 思わず頬が緩んでしまいそうになる。

 

 秦谷さんは、体の向きを変えて、私と目を合わせた。

 

「ですので…今は問題なく、熟睡できます。

 信頼できるあなたが、一番近くで守ってくれるのでしょう?」

 

 言いながら、私に向かって手を伸ばす。

 その手を、私は努めて優しく包み込んだ。

 

 …本当に、この人は…人の気も知らないで…。

 なら、私もそれに倣うとしよう。

 

「仰せのままに。

 それでは、ゆっくりお休みください、お姫様。

 あなたの私が、お傍に付かせていただきます」

 

「まあ、ふふ。

 お願いしますね、わたしのあなた」

 

 そう言って、秦谷さんは再び顔を私のおなかに埋めるように体の向きを動かして、私から目線を合わせないようにしている。

 

 だが、その途中で顔が真っ赤だったのは私も見ているし、横向きになっても耳が赤いのは隠せていない。

 私も自分の顔に血が集まっているのが、自分でもわかる。

 

 慣れないことをするものではないな。

 かっこつけるのは嫌いではないが、こういう恥ずかしいのは知らない。

 

 右手で頭を撫で続けながら、左手で自分の顔の熱を冷ますために顔を扇ぐ。

 

 そんなことをしても、私の顔に集まった熱は、中々下がってくれなかった。




プロデューサー VS 秦谷美鈴
本日の勝敗 引き分け

最初はプロデューサーが優勢だったものの、お互いに羞恥心を与えあったため、引き分け。
この後、何回か交代で膝枕をしあった。

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