『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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10話目

 彼女の胸の内を聴き、伝えたいことをまとめた私は口を開いた。

 

「いくつか言いたいことがあります」

 

「…何かしら?」

 

 私の言葉を待っていたのか、彼女は続きを促す。

 少し顔をあげた彼女の目の光は薄く、絶望感に呑みこまれてしまっているようにも見えた。

 

「まず、引退するといっても、本当に引退する時は私に一言言ってください。

 できるなら、2日前には」

 

 私の言葉は意外だったようで、彼女は口を開いたまま少し固まった。

 しかし、それも一瞬のことで、すぐに平静を取り繕う。

 

「…意外ね、てっきり泣いて縋り付いて止めると思ったのだけれど」

 

「率直に言いますが、やる気がない人がアイドルをやることは失礼という点は、私も同意です」

 

 私はキッパリと断言する。

 

「言い方をあえて悪くしますが、アイドルは自分の『一番良い』時間を使ってまで、『人に夢を魅せる』仕事です。

 周囲に与える影響力は、言うまでもなく計り知れない。

 多くの人の人生を左右させてしまう立場と言っても、過言ではありません。

 当然自分自身の人生も、大きく左右します。

 やる気がない人が惰性でやって、自分や他人の人生を振り回すのは褒められたことではないですし、誰のためにもならない」

 

「…そう、よね」

 

 彼女は、自分でも言っていたから分かっていたはずのことだが、私の言葉でショックを受けているように見えた。

 自分で理解しているつもりでも、他の人から指摘されると精神的ダメージは大きいものだ。

 

 これは本心だ。

 惰性で続けて良いものになるのは、よっぽど幸運か、才能があるか、環境に恵まれているか。

 これらが重なって初めて、可能性があるといった程度だろう。

 ましてや、人の人生を軽率に弄んでしまうアイドルに、そんな気持ちで打ち込んでほしくない。

 それで、自分の人生を棒に振ってしまうなんてしてほしくないからだ。

 

 でも、それはあくまで『前提だ』。

 アイドルをやる気が出ない、レッスンに身が入らない、本気で歌うことが怖い。

 

 ()()()()()()()

 それは前提であって、私が彼女を、『SyngUp!』を諦める理由にはならない。

 

 先の会話で、私の中で彼女になってほしい『賀陽燐羽』のアイドル像が決まったのだ。

 それは、私が昨日、ライブ映像を見てからずっと思っていたことだった。

 たった一つの、シンプルな想い。

 

 

「ですので、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「…は?」

 

「私に言わせればですが、そもそも前提が誤っています。

 あなたが憧れを追い越すのではなく、()()()()()()()()()んです」

 

「…何よ、それ」

 

 声を震わせながらも、言っていることを理解してしまったのか、私の目を見て離さない。

 中等部の少女に求めるのは酷なことだろう。

 だが、既に彼女にはその才能が、素質が、十分にある。

 

 何せ、『秦谷美鈴』でさえ、高等部の自分が中等部の『賀陽燐羽』に勝てるかはわからないと言っていたぐらいだ。

 そんな彼女の、本気の歌を、ライブを観たい。

 それだけで、彼女は、誰よりも輝くことができ(太陽になっ)て、誰もを輝かせることが(月も風も照らすことが)できるはずだから。

 

「憧れたアイドルを追い越してしまうことが怖い…なら、()()()()()()()()()()()ような、誰もが憧れてしまうような、そんなアイドルになってください。

 今の…いや、『本気の』賀陽さんなら、そう難しいことではないでしょう」

 

「…それができたら苦労はしないわ。

 第一、もう本気を出せるかどうかすらわからないのよ」

 

 少し間を置いて落ち着いたのか、声の震えはなくなっていた。

 

「そうですか?

 既に、あなたに憧れているアイドルが身近にいるのに?」

 

「…もしかして、手毬のこと言ってるの?」

 

 心当たりはすぐに思いついたようで、私に問いかける。

 『夢』の件もあったが、先ほどのレッスン風景を見れば、誰もが同じことを思っただろう。

 私は頷いた。

 

「そうです。

 既に、あなたは彼女にとっての『太陽』になっているんです。

 それを、他の人にもしていくだけでいい」

 

「はあ…簡単に言わないでくれる?

 手毬は単純だし…一緒にユニットを組んでいるのよ。

 他の子とは積み重ねた時間が違うでしょ」

 

 確かに、誰もが月村さんのように賀陽さんに憧れを持つことは難しいだろう。

 中等部初年度の、掏れていない賀陽さんから歌を教わってきた月村さんと、掏れてない賀陽さんを知らない人からすれば、別人と思われてもおかしくない。

 

 だが、掏れてしまった賀陽さんでも、月村さんは賀陽さんを憧れていた。

 賀陽さんの今のファンだって、中等部の1年から追っていた人よりも、2年になって知名度が上がってから追っている人の方が多いだろう。

 つまり、今の賀陽さんにも人を惹きつける魅力は十分あるのだ。

 

 本人がそれを少ししか理解していないだけで、今の彼女にだって十分すぎるほどの魅力がある。

 それを完璧に理解してもらうための布石は既に打っている。

 

「賀陽さん、あなたは今日から1か月、月村さんに歌を教えることにしましたね。

 その中で、あなたが彼女からどう思われているかを今一度理解してください。

 そして、できる限りでいいので、レッスンに全力で取り組んで、()()()()()を取り戻してください」

 

「……」

 

 思案している彼女に、さらに畳みかける。

 

「…私も、あなた方に惚れ込んだ一人です。

 あなた方の歌は、人の心を動かすのに十分すぎる魅力があります。

 月村さんや秦谷さんの歌も素晴らしいですが、賀陽さんの歌も今のままでも素晴らしいです。

 ですが…私は…全身全霊の、あなたのペースの、あなたの本気が見たい」

 

 思い出すのは、私がこの世界で最初に見たテレビの映像。

 私は、あのライブを見て彼女に、賀陽さんに本気で歌ってほしいと思った。

 テレビの中にいた、目の前の彼女と、他のメンバーは確かに私の心を動かして、焼き尽くした。

 

 それこそ、私が社会人生活で失っていた(もの)、私自身に火を灯してもらったのだ。

 ならば、今度は私が彼女の燃え残った全てに火を点けなければならない。

 

「もし…それでも引退したくなったら、私に話してください。

 その時は、盛大なお別れライブを用意しますよ。

 アイドルをやめたくなくなるような」

 

「…本気で言っているのね」

 

 私の言葉を本気の言葉だと受け止めてくれたようだが、彼女は呆れてしまったように見えた。

 だが、私にはこれぐらいしかできない。

 

「本気ですよ。

 そうじゃなければ、『SyngUp!(あなた達)』のプロデューサーは務まらないでしょう?」

 

「…そう…ふふふ…」

 

 何が琴線に触れたのかはわからないが、失望して呆れていたわけではなかったようだ。

 先程までの俯いた様子はもうなかった。

 さっきまでの道に迷った子供のような、行くべき道を探しているような、そんな危うい雰囲気はもうなく、アイドル『賀陽燐羽』に戻っていた。

 

「お気に召しましたか?」

 

「ええ、今のところは70点ぐらいはつけてあげる」

 

「手厳しいですね」

 

「まだ会ってから二日も経ってないんだから、こんなもんでしょ」

 

 彼女は悪戯気な笑みを浮かべながら、私に宣言した。

 

「いいわ、あなたの口車に()()()()()()()()

 私が中等部を卒業するまでに、アイドルをやめる気がなくなったら、あなたに『一番星(プリマステラ)』の称号を捧げてあげるわ」

 

「それは光栄です」

 

「ただし、私が引退したくなった時は、全力で手伝ってもらうわよ」

 

 …取りあえずの憂いの一部は、多少良い方向に進められたのだろうか。

 そう思い内心胸をなでおろしている私を見透かしていたのか、最後にきちんと締めてきた。

 だが、そうなってしまったら仕方ないだろう。

 その時は、()()()()()()()()だ。

 

「わかりました。

 その時は、()()()()を賭けてでも、協力させてもらいます」

 

「そう。

 話は終わり、精々頑張りなさい」

 

 私の了承を得られたことで満足したのか、彼女は立ちあがる。

 …すでに時刻は19時を過ぎており、中等部の生徒が一人で帰るには危ない時間になってしまっていた。

 

「…待ってください。

 もう日も落ちてますし、寮まで送ります」

 

 そう言いながら書いていた書類をしまい、荷物をまとめる。

 と言っても、書類をファイルにしまいなおして筆記用具と鞄にしまうだけだ。

 

「いいのかしら?

 それ、早く書かないといけないんじゃないの?」

 

「担当アイドルをこんな時間に一人で帰らせてたら、プロデューサー失格でしょう。

 書類でしたら、家で書くこともできます。

 それに…賀陽さんを一人にするのは少し怖いですし」

 

 そう言いながら、事務所の戸締りをする。

 賀陽さんも、私の隣で戸締りするのを待ってくれていた。

 

「手毬と一緒にしないでくれる?」

 

 明らかに不機嫌そうな顔になった賀陽さんは、ドスの利いた声でそう言った。

 が、先の話を聞いていた身としては、正直そこまで怖くなかった。

 鍵がきちんとかかったことを確認し、中等部の寮に向かって歩き出す。

 場所は事前に調べていたので、迷うことはないはずだ。

 

 なお、事務所の鍵は、プロデューサーが保管していいことになっている。

 当然、予備キーは学園が持っているが、基本的にはそこの担当プロデューサーが管理することになるため、鍵をなくしてしまった際の責任は重大だ。

 

 中等部の寮に向かって、不機嫌になっている彼女の隣を歩きながら、会話を続ける。

 

「さっき話していたことが確かなら根は一緒だと思いますよ?

 その話し方も、『キャラ作り』ですよね?」

 

「…何のこと?」

 

「さっき、最初は『姉』って言ってましたけど、途中から『お姉ちゃん』って言ってましたよ。

 そっちが『素』なんですよね」

 

 そう言うと、彼女は失敗したと言わんばかりに顔を歪めて頭を抱えていた。

 

「別に無理に『キャラ作り』しなくても、素のままで十分魅力的だと思いますよ」

 

「…うるさいわね。

 あなたにそんなこと言われる筋合いないわ」

 

「ブランディングに関わるので、関係ないわけではないです。

 …ですが、口を出しすぎましたね。

 『キャラ作り』に関しては賀陽さんがやりたいようにやってください。

 自分の気持ちを曲げてまで、『キャラ』を変える必要はありません」

 

「…ふん」

 

 少し抜けてしまっているあたり、大人びていてもやはりまだ中等部の生徒なんだなと思ってしまう。いや、もしかしたら月村さんは賀陽さんの、こういうところも受け継いでしまっているのかもしれない。

 そんなことを考えながら彼女を見ていると、いきなりこちらを睨みつけてきた。

 

「…あと、この話、他の人に話したら殺すから」

 

「言いませんよ。

 その代わりに、あと一つだけ聞きたいことがあるのですが」

 

 今日だけでかなり話したつもりでいたが、まだ聞きたいことがあったことを思い出した。

 

「はぁ…本当に最後よ」

 

「『SyngUp!』のプロデューサーになる件を了承してくれたのは、()()()()()()()()()()()()ですか?」

 

 私の質問に、思わず彼女の足が止まる。

 私もそれに合わせて、足を止めて彼女の方を見た。

 

「…そこもお見通しなのね」

 

「予想はしてましたが、確証を持ったのは今日、賀陽さんが来たからです。

 私のことを信用できるか、月村さんと秦谷さんのお二人を、()S()y()n()g()U()p()!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そんなところではないですか?」

 

 再び歩き始めた彼女は、諦めたように頷く。

 

「正解よ。

 私についてきたあの二人を、あの危なっかしい二人をそのままにしておくのは不安になるじゃない?

 手毬もだけど…美鈴も一人じゃ危なっかしくて見てられないのよ。

 でも、適当な奴に面倒を見てもらうわけにもいかないわ。

 あなたが昨日のレッスンの見学段階で、根性ない奴だったらクビを撥ねていたし、さっきの話も、明らかに誤魔化して煙に巻いたり、逃げても同じね」

 

 思わず自分の発言を省みる。

 地雷を踏みぬいているような気がして、恐る恐る聞くことにした。

 

「…似たようなことをしていたと思いますが」

 

「あなた、隠し事はしているみたいだけど、『嘘』はついていないんでしょう?

 …言いたくないことの1つや2つあるのは『今は』見逃してあげるわ」

 

 それと、と言いながら、彼女は顔を背けた。

 

「…全力で向き合おうとしてくれているのは伝わったわ。

 だから、今回だけは許してあげる。

 さっきも言ったけど、全部を打ち明けたくなったら、聞いてあげるわ」

 

 顔を背けながらそう言う彼女の顔は見えない。

 日が落ちてしまっていなければ、若しくは顔を背けていなければ、少しは表情を読み取れたのかもしれない、しかし、生憎と夜の帳がそれを許してくれなかった。

 

「…私からも最後に言っておくことがあったわ」

 

 顔を背けていた彼女が、思い出したかのようにこちらを見る。

 

「なんでしょうか?」

 

「さっき話した、私が姉とした約束の話。

 あの二人には1つ目の約束のことしか言ってないから、2つ目の方は言わないで」

 

 それを聞いて、確かに他の二人は賀陽さんが夢を叶えたと言っていたことを思い出した。

 だが、夢は1つは叶ったが、約束(もう一つ)は完遂されなかった。

 恐らくこれが…彼女が約束を必ず守る理由で、『花海咲季』にドハマりした理由にも繋がるのだろう。

 

「…わかりました。

 理由を聞いても?」

 

「それぐらい察しなさい。

 私の口から言わせないで」

 

 おおよその理由は想像つくが、今度こそ顔を合わせてくれなくなった彼女の耳が赤く染まっているのは、4月の夜風が冷たいからだけではないだろう。

 

 

 そこから、中等部の寮に着くまでは無言だった。

 少しして彼女もこちらを一目見てきたが、それに対して何を求めていたのかが私にはわからなかった。

 

 寮に着くと、奥から走ってくる生徒が見える。

 

「はあ…門限、過ぎちゃってるから寮長に説明しておいて

 私は部屋に帰るわ」

 

 そう言いながら、彼女は部屋に戻っていった。

 奥から走ってきた生徒(恐らく寮長なのだろう)と、一言二言交わして部屋に戻っていく彼女を呆気にとられながら見送っていた。

 

 えっ、と言いながら残された私は、中等部の生徒をあまり遅くまで連れ出さないで下さいと、賀陽さんの分も寮長の生徒からお説教を受けることになった。

 

学マスのストーリーはどの程度進めていますか

  • アプリをそもそも入れていない
  • どのキャラも親愛度10未満
  • 特定のキャラのみ親愛度10まで
  • 特定のキャラのみ親愛度20まで
  • 全キャラ親愛度20まで
  • 特定のキャラのみ親愛度27まで
  • 解放可能なキャラ全て親愛度MAX
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