『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される 作:プロデューサー科のもの
授業を受けながら、私は改めて情報を整理していた。
プロデュースプラン『メイド・イン・ヘブン』。
『ストーリー』の主要人物の情報収集は、
『花海姉妹』の2人は、愛知のアスリート家系で、彼の父親が良くも悪くも有名人。
尚且つ、彼女たち自身も中学校のスポーツ界で頭角を現していることもあり、同じ学年の姉妹ということもあって、調べるのに苦労はしなかった。
次に、『篠澤 広』。
彼女は、秋田の出身で飛び級で大学に行ったこともあって、調べたらその筋では有名な人物だった。
大学を卒業しても、彼女が研究職になることを彼女の周囲の人物たちは疑わないだろう。
『倉本 千奈』は、倉本グループの御令嬢ということもあり、十王家とも仲が良い。
彼女がいることはわかっているが、詳細な情報までは調べなかった。
下手に調べると、彼女を護るものたちから逆に調べられて、目を付けられる可能性があるからだ。
だが、一つ言えることは、彼女が『H.I.F』に来ていたということだ。
『紫雲 清夏』は、北海道でバレエをしていた経歴があった。
有望株だったこともあり、古い彼女の情報に関しては調べることはそう、難しいことではなかった。
スウェーデンに留学した記録の後…恐らく、怪我をして以降、表舞台から彼女の足取りは途絶えている。
…一番足取りを掴めなかったのは、『葛城 リーリヤ』だ。
スウェーデンの一般家庭育ち。
『紫雲清夏』がホームステイ…でいいのか?
していた家庭だったことぐらいだ。
いくら名前を知っていても、私の足でスウェーデンに行って調査するのは、相当無理があった。
唯一、彼女の足取りを掴むきっかけになったのは……夏の『H.I.F』。
『紫雲清夏』と一緒に観客にいることを、
後は、実際にいることが分かったので、色々言えない方法を使って情報収集したぐらいだ。
それなりにお金がかかったのは確かだ。
ライブの収益や、イベントでの収益の幾らかをもらっているが、あまり散財できない程度には資金も減ってきている。
『前』は休業するまでお金を貯め続けたこともあり、こっちに来た頃にはそれなりの金額が口座にあった。
しかし、ライブの準備、イベントの準備、アイドル活動には何かとお金がかかる。
大和本人には伝えてないが、158プロダクションにも大和の仕事への依頼料の支払いで、かなりのお金を使っている。
金策も含め、プロデュースに必要なものの確保はプロデューサーである私の仕事だ。
『H.J.I.F』も控えているので、収益を確保する手も用意しておこう。
彼女たちは、『ストーリー』通りなら問題なく、初星学園に入学するだろう。
幾つかの懸念はあるが…『引力』があるのだとすれば、問題はないはずだ。
何せ、彼女たちにも『STEP4』があるのだとすれば、彼女たちは全員『
後の最後のピース。
それは…私から働きかけるのではなく、自発的に来てほしいと願っている。
彼女たちに必要なものは、私から働きかけるのではなく、自らの手で選んでほしい。
後、何か抜け落ちているものはないかと思案していた。
『H.G.F』の時のように張り詰めているわけではないが、不安要素は可能な限り払い落としておきたい。
神経質になる程ではないにせよ、定期的にこれの振り返りは必要だろう。
そんなことを考えているうちに、授業が終わり……根緒先生が教室を出て行って後だった。
教室のドアが勢いよく開け放たれた。
「頼もう!」
「ちょ、ちょっと燕!
待ちなさい!」
そこにいたのは、雨夜副会長と彼女を止めようとする十王会長の2人。
思わず、教室にいた全員の動きが止まる。
そんな中、恐らく私だけは、ようやく来たかと安堵していた。
プランの最後のピースである二人。
既に実力は十分あるが、『加速』させるためには、彼女たちにもっともっと成長してもらわないといけない。
二人は、白草さんが来てから私の担当アイドルのレッスンと合同でレッスンをしたこともある。
白草さんがニューヨークへ旅立直前の最後のレッスン。
私の担当アイドルたち、姫崎さんと有村さんと、ともに彼女に挑んだ。
その時に彼女たちも感じただろう。
このままでは、
ツカツカと歩み寄る雨夜副会長は、周囲のプロデューサー科の生徒の視線をものともせず、私の席まで歩いてきた。
十王会長は、彼女を止めようとしながらも、見向きもしないで止まらない彼女におろおろしている。
「雨夜さん、急にプロデューサー科にまで来られて、いかがなさいましたか?」
「私は貴様のように腹芸が得意ではない。
故に、率直に言おう。
少しの間でいい、私たちのレッスンを見てほしい」
「つ、燕!?」
彼女はそう言って頭を下げた。
周囲にいる人は、全員息を呑んで彼女を見ている。
十王会長は何も聞かされないまま連れてこられたのか、驚きの表情を隠せていない。
かくいう私も、ここまでストレートに言われるとは思わなかったが…。
「少しの間、というのは具体的に?」
「『H.I.F』の間までだ。
後、数ヶ月もしないうちに、冬の『H.I.F』の
今度こそ、私は星南に負けるわけにはいかんのだ」
「なのに、十王会長も一緒に、なんですね」
「弱い星南に勝っても、嬉しくないからな」
彼女の瞳からにじみ出る想いが、わざわざプロデューサー科の教室まで足を運ばせたのだろう。
…ダメだ。
悟られてはいけない。
ことは上手く進んでいるが、それを察知されてはいけないのだ。
私は、思い通りに事が進みそうなときめきを精一杯隠しながら、見せつけるかのように少しため息をついた。
「ふぅ…そう言って私を頼ってくれたことは嬉しいですが、既に高等部の生徒…有村さんと姫崎さんにもアドバイスをしている身です。
『H.I.F』は彼女たちにとっても、重要な意味を持つもの。
それは、この学園に通う、アイドル科の生徒であれば全員同じでしょう」
「ああ、私たちはそれを掴みとるために、日々レッスンに励んでいる。
初星学園の頂点を掴みとるためにな」
「その上、あなた方は2年生。
私の担当アイドルたちが、来年『
「あれは簡単にやれるものじゃない。
貴様らにはまだ早い」
挑発的に返す彼女に、十王会長は顔色を悪くして、雨夜副会長の腕を引いている。
他のクラスメイトも…裕以外は、同じように引き気味だ。
そんな中、私だけは歓喜に打ち震えてた。
私は内心の笑いをこらえきれずに、誤魔化すために両手でやれやれとポーズをとる。
「オイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイ
その頂点を掴みとるための手伝いを、来年、私の担当アイドルの前に立ちふさがる、あなたたちにやれってことですかッ!?
既に賀陽さんが、来年『
「ただ少し口を出してくれるだけでいい。
実際に、アドバイスを受け入れるかは私が決める」
焚きつけるように煽る私に、努めて冷静に返す彼女。
『白草月花』が『雨夜燕』を気に入ったのもよくわかる。
本当に、彼女はアイドルとしても素晴らしいし、人間として気持ちいい。
「ナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナア
口を出すだけでいいって言ったって、私はもう5人も担当アイドルがいて、その他2名にもアドバイスをしているような状態なんだぜ?
そんな状態で、わざわざ敵…しかも、一番の『強敵』にわざわざ時間を割いてアドバイスをしろって?」
言いながら、彼女と目線を交える。
彼女は何かを察したように、口角を上げた。
裕以外の、他の全員はおろおろしたままだ。
私は勢いを止めないで、そのままボルテージを上げて、まくしたてる。
「しかも!
風間先輩たちのように、プロデューサー科の先輩たちにも喧嘩を売るような行為だ!
毎日プロデュース業、アイドル業に精を出している、彼らの日々のご苦労は想像できない!」
実際そうだろう。
特に、高等部の3年生は風間先輩も言った通り、最後の『H.I.F』になる。
そのための努力は、私の想像もつかないだろう。
彼女もそれを分かっている。
わかっているが、それでも彼女は止まらなかった。
「『
誰にもくれてやるつもりはない」
「だから気に入った」
良い啖呵だ。
流石は、
私と雨夜さんはニヤリと笑い、そのまま満足げに頷いた。
「良し、貴様ならそう言うと思っていた。
放課後、貴様の事務所に顔を出す。
予定を開けておけ」
「
では、また放課後」
そして、彼女は教室から出て行った。
「え…ええ………?
い、今の、何があったの……?」
取り残された彼女の言葉が、その場にいた大半の人の心中を物語った。
そのまま、置いてかれてしまった彼女はハッとした後、一礼して彼女の後を追いかけた。
そんな中、裕だけは何かを言いたそうな顔をしている。
それに気づいたので、私は彼に声をかけた。
「どうかした?
裕?」
「お前、さっき風間先輩になんて言ってた?」
さっき言ったこと……ああ。
「ああ、私の担当アイドルが『H.I.F』に参加しないとは言ったよ。
彼女たちは担当アイドルじゃないだろう?」
「いや……ええ……?」
嘘はついてない。
仮に、私が少しアドバイスをしても、しなくても、彼女たちは『H.I.F』に参加して十分な成果を上げるだろう。
「それに、多分風間先輩もこうなることは読まれてるよ。
帰る前に、わざわざああ言って念押ししたっていうことは、そういうこと」
「……マジかよ」
戦々恐々としている裕。
よく見ると、クラスメイト達も私たちの会話に聞き耳を立てている。
「何せ、私のプロデュースプランには強力なアイドルは必要不可欠。
その中でも現『
「……なるほどな。
士野が黒幕黒幕言われているのも、よくわかるわ」
「褒めるなよ、顔が赤くなる」
「褒めてない」
もう、私は
自分の所業を振り返れば、むしろ当然なのだろう。
そのまま、私は逃げるように教室を出て、自分の事務所に戻った。
放課後、担当アイドルたちをレッスンに送り出した後、私は事務所で仕事をしてから向かうことを伝えた。
秦谷さんにはジト目で見られていたので、恐らくバレていそうな気がする。
ちなみに、今日は有村さんと姫崎さんも、レッスンに参加する日だ。
ちょうどいい機会なので、十王さんと雨夜さんにもそのまま合流してもらおう。
事務所で仕事を進め、営業のスケジュールを確認する。
中等部の生徒だけで、営業に行かせるのは危ないので、プロデューサーである私も同伴する形だ。
なので、スケジュールの調整は必須になる。
それに、冬の『H.I.F』の時期が近いように、『H.J.I.F』の時期も近い。
中等部の3学期は忙しいだろうから、高等部までに営業に行けるとしたら、今ぐらいの時期しかないだろう。
そんな風にスケジュールを調整していると、事務所の扉がノックされた。
「失礼する」
「失礼します」
入ってきたのは、予定していた通り雨夜さんと十王さんだ。
「ようこそおいでくださいました、お二人とも。
それでは、早速始めましょうか」
そうして、私は彼女たちと打ち合わせをした。
これからの『H.I.F』までのレッスンの流れ、私の担当アイドルたちとの合同レッスン。
朝の4時からの走り込みも、可能な限り参加すると言っているが、生徒会活動やアイドル活動もあるので無理はしないでほしいと伝えた。
そして…彼女たちに、『H.I.F』用の切り札を託し、彼女たちがトップアイドルになるための布石を打った。
『ストーリー』では『十王星南』だけだったが、上手くいけば雨夜さんも、その領域に足を踏み入れることができるだろう。
何せ、彼女たちはあの白草さんが認めたほどのアイドルなのだから。
そして、彼女たちをレッスン室に連れて行き、彼女たちを紹介した。
有村さんと姫崎さんは、驚きながらも色々話を聞いていたからか、そこまでの反応ではなかった。
そして、いつも通り私は担当アイドルたちから、また詰められるのだった。
月村 手毬
最近、時々するお泊り会が楽しみになっている。
休養日前日に、夕食を食べてそのままみんなで、わいわいしながら眠る。
起きたらライブの鑑賞会をしたり、勉強をしたり。
ベッドを美鈴が占領するので、眠たくなったら一緒にお昼寝もする。
プロデューサーも一緒に居ればいいのに、と思っている。