『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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106話目

 

 時は流れて(時は加速する)

 

 冬の『H.I.F』、『H.J.I.F』の選抜試験(セレクション)が始まった。

 有村さん、姫崎さん、十王さん、雨夜さんはそれぞれソロ部門で『H.I.F』の選抜試験(セレクション)に挑んでいる。

 とりあえず、1回目の選抜試験(セレクション)は全員超えており、姫崎さんは前回1回目の選抜試験(セレクション)で落ちてしまったため、とても喜んでいた。

 

 『H.J.I.F』では、『SyngUp!』はユニット部門、藤田さんと花岡さんはソロ部門に参加している。

 当然かもしれないが、全員1回目の選抜試験(セレクション)は難なく突破した。

 全員、『初』を筆頭とした初星学園の曲のみで、各々のソロ曲はまだ温存している。

 『H.I.F』と『H.J.I.F』の選抜試験(セレクション)は週をずらして行われるため、暫く忙しい日々になる。

 

 だが、イベントを主催する側だったことを考えれば、精神的にはまだマシな方だ。

 余計な心配がない以上、後は彼女たちの全身全霊を引き出すだけだ。

 そのための仕掛けは上々だが、どこまで使う…いや、使()()()()は彼女たちの頑張り次第。

 

 今日の予定は……()()()()()()()()()()()

 

 何のことかはいくつか想像はつく。

 つくが、私の担当アイドルたちのことを思い返すと、アイドルが全員掌で思った通りに動くのであれば、こんな苦労はしていない。

 なので、彼女の相談事を聞いてから詳しいことを考えようと決めて、他の仕事をしている。

 

 事務所の扉がノックされたので、返事をすると予定していた通りの時刻に彼女は現れた。

 

「失礼するわ、先輩」

「ようこそ十王さん、おかけになってください」

 

 彼女は私の向かいに座るが、その表情はどこか不服そうで…不安の色を隠しているのも見え隠れしている。

 口を尖らせた彼女は、不満げに口を開いた。

 

「…星南でいいって言ってるのに、相変わらずつれないわね」

「女性を名前で呼ぶのはどうしても抵抗があるのと、下手なことを邪推されたくないからです。

 紛らわしいのも事実なのですが……先に、十王さんをそう呼ぶと、他の担当アイドルたちに心臓を抉り取られるかもしれません」

「誰とは言わないけど、実際にしそうな子がいるのは否定しないわ…。

 ことねでさえ、あなたの話になると時々目が怖いもの」

 

 そう言って遠くを見つめる十王さんは哀愁が漂っている。

 

「ああ……良くも悪くも影響し合っているんですよね。

 秦谷さんが、タイムセールに行かなければいけないので、プロデューサーも付いてきてくださいと言った時は、少し驚きました」

「タイムセール?

 …そういえば、ことねはあまり裕福な家庭じゃないって言ってたわね。

 美鈴はそうじゃなかったはずだけど…」

「仲良くしているうちに、そうなっていったみたいです。

 藤田さん的には、何時も作ってもらって申し訳ないからたまに手伝っているみたいですし、それも相まって意外と二人は仲が良いんですよ」

「それは…少し羨ましいわね」

 

 彼女はそう言っているが、どう見ても少しではない。

 歯ぎしりをしそうなほど、悔しそうな表情をしている。

 

「十王さんもスキンシップを控えるようにしたら、もっと仲良くなれると思うのですが…」

「控えているわよ!」

「あれで?」

 

 彼女はそう叫ぶが、私の中に浮かんだ言葉はすぐに口に出てしまった。

 

 出待ちすることこそないが、十王さんと藤田さんが出会った時の十王さんの反応は、大体ルパンダイブをしかねない勢いで、彼女に飛びついている。

 その途中で、藤田さんが逃げるか、雨夜さんに叩き落されるかのどちらかだ。

 

 その様子をよく覚えていたからの言葉だったが、彼女は心外だとばかりに声を荒げた。

 

「もうこれ以上ないぐらいに抑えているわ!

 バイト先に行こうとした時も、教室に行こうとした時も、燕と先輩に止められて我慢しているのよ…!

 少し会った時ぐらい、抱きしめさせてくれてもいいと思わない?」

 

 なるほど、彼女からすればあれでも抑えていたのか。

 だが、このままでは仲良くなることは難しい……なら。

 

「ですが、考えてみてください。

 十王さんにも憧れのアイドルが一人や二人はいるでしょう?」

「ええ、もちろんいるわ!

 私が小さい頃憧れたアイドルから、今も追いかけているあの765プロの方々たちも」

「その方々が、『星南ちゃんかわいー! ぎゅー!』って抱きしめてきたらどうします?」

「お、恐れ多いわ!

 気持ちは嬉しいけど……あ」

 

 ようやく彼女も理解したようだ。

 

「気づきましたか?

 藤田さんも同じ気持ちです。

 十王さんのことは大好きだと自称していますし、実際に『SyngUp!』は全員被害にあっているぐらいです」

「先輩…!

 そうよね!」

「なので、少しずつ距離を詰めていきましょう。

 まずは、日本語の勉強からです」

「…先輩?

 私は『一番星(プリマステラ)』…いえ、高等部の生徒よ。

 日本語の勉強なんて今更必要あるかしら?」

「そう思うのであれば、言葉が足りてないと自覚してください。

 そんなんだから、黙っていれば『一番星(プリマステラ)』なのに、口を開いたら残念ポンコツ会長とか言われるんですよ」

「聞いていないのだけど!?」

 

 当然本人に言うわけないからな。

 まあ、たまには意趣返ししてもいいか。

 

「賀陽さんと月村さん、後は花岡さんも言ってましたよ」

「あ、あの子たち~~~~~~~~!」

 

 …藤田さんも、黙っていたらカッコいいんだよナーって言ってたのは秘密にしておこう。

 白目を剥いて気絶するかもしれない。

 

「はあ…先輩、ことねとどうしたら仲良くなれるのかしら?

 その、一人だと、先走ってしまうのは認めるわ。

 私のものになりなさい、って言った時も、すごい勢いで逃げられてしまったもの」

「モノ扱いはしたくありませんが、藤田さんは私の担当アイドルです。

 譲るつもりはありません」

「う、裏切者!」

「こちらのセリフです」

 

 なんてことしてるんだこの人。

 人が見てないところで、人の担当アイドルを奪い取ろうとしないでほしい。

 

「まあ、手っ取り早くは私か、花岡さんと雨夜さんを一緒に置いて話すことですね。

 藤田さんも他に人がいるときは、逃げ出すことは少ないですし、私かあの二人なら十分フォローできるでしょう。

 …藤田さんも、十王さんのことが大好きですから、本当は仲良くしたいと思っていると思います。

 予定を合わせられるなら、都合を「空けるわ! どんな予定があっても、絶対に予定を空けるから、急いで用意しなさい!」…わかりました」

 

 食い気味で言われてしまっては仕方ない。

 実際、下手に悶々とされるよりはマシだ。

 

「では、手早く明日の放課後に再度こちらに来てください。

 藤田さんにも、事前に話をつけておきます」

「…先に聞いたら、来ないのではないかしら?」

「騙して呼びつけた方が逃げますよ。

 誠意をもって伝える方が良い結果につながると思います」

 

 特に藤田さんには。

 彼女は人の悪意に敏感だ。

 空気を読めるから、今でもクラス内、寮内で仲のいい友達が多い立ち回りをできている。

 だから、下手に騙そうとするのは悪手だろう。

 

 だが、そこまで把握できてない彼女は、『一番星(プリマステラ)』らしからぬしおらしさで、ぽそっと呟いた。

 

「…ダメだったら?」

「骨は拾います」

「ダメじゃない!」

「そうならないように頑張ってください。

 子供じゃないんですから、おんぶにだっこで面倒を見るつもりはありません」

「………わかったわ」

 

 渋々と言った形で了承した彼女の顔には、失敗したら承知しないと私に目で訴えてきている。

 それをあえて無視して、私は本題を切り出した。

 

「さて、それで今日はどんな相談事を?

 藤田さんの話でしたら、今ので解決させたと思いますが…」

「違うわ。

 私の相談事は…()()()()()()()()()、『小さな野望』の件よ」

 

 …やはりその件か。

 私が彼女と雨夜さんに託した『切り札』とは、彼女たちのソロ曲だ。

 

 『小さな野望』『理論武装して』

 

 個別にそれぞれ呼び出して、彼女たちにこの楽曲を託した。

 彼女たちにとって、重要な意味を持つこの曲。

 彼女たちの成長速度を加味して、既にレベルとしては十分だろうと思って託したが…『小さな野望』は特にメッセージ性が強い。

 

 アイドルを諦めようとした彼女にとっては、特にだ。

 

「お気に召しませんでしたか?」

「それはないわ。

 とても気に入っている…けれど、聴きたいこともあるの」

「お聞きしましょう」

()()()は何?」

「十王さんがトップアイドルになるときに歌ってほしいと思った曲…だそうです」

「だそうです?」

「私の曲の作り方にもよるもので…いえ、言い訳はよしましょう。

 ()()()()()()()()()

 この曲に込められた想いは、夢を諦めた少女が、夢を再び取り戻すための歌。

 トップアイドルの輝きに焼かれ、諦めたあなたが再起し、その座を奪い取るに相応しいと思いませんか?」

 

 絶対に私の担当アイドルには言えないが、『あっち』で初めて『小さな野望』を聞いた時、背筋に走ったあの感覚は忘れられない。

 あの曲を、あなたが歌うからいいんじゃないか。

 

「…そう。

 『H.G.F』では、ああ言ってしまったけれど、今でも思っているわ。

 私の能力値(ステータス)では、トップアイドルの方々には届かない。

 この曲を歌っても、それに変わりはないと思うわ」

「だからどうしました?

 才能がない、能力値(ステータス)が低い、潜在能力(ポテンシャル)がない。

 それが?」

 

 それで諦めるのであれば、アイドルではない。

 

「勝算なんてないわ」

「知らないですよそんなこと。

 勝算がある勝負しかしないのであれば、とんだ腰抜け『一番星(プリマステラ)』ですね」

 

 それで挑まないのであれば、『一番星(プリマステラ)』に相応しくない。

 

「失望させてしまうかもしれないわ」

「勝手に失望していればいい。

 『一番星(プリマステラ)』は一番早く、高く輝くから『一番星』なんですよ。

 失望させてしまった人以上に、希望を振りまいてください」

 

 それで折れてしまっては、トップアイドルには成りえない。

 

「負けたらきっと立ち直れないわ」

「負けた時のことなんて考えたくありませんが…仮に負けてしまったとしても、私たちが立ち直らせます。

 あなたの周りも、折れたままでいさせるほど、優しい人ばかりじゃないですよ」

 

 それで立てなくなったら、人々(ファン)憧れ(アイドル)にはなれない。

 

「……本気、なのね」

 

 私の想いを伝えるために、私は彼女から視線を一切外さなかった。

 だからか、私の想いは彼女に届いてくれたようだ。

 

「私は『アイドル』にだけは、誠実にありたい。

 『プロデューサー』として、私自身が強く思っています。

 仮に勝率がどれだけ低く、天文学的だとしても、それを掴みとって見せてください。

 『私の理想(アイドル)』なら」

 

 私の言葉を受け止めた彼女は、懺悔するように吐き出した。

 

「……先輩。

 私、高等部を卒業したらプロデューサーになるつもりだったの」

「なるほど。

 で?」

 

 彼女のそれは、一世一代の告白に近かったのだろう。

 しかし、私の返答があまりにも素っ気なかったので、彼女は再び叫ぶように驚きの声を上げた。

 

「で?って、私、誰にも言ってなかった秘密を告白したつもりなのだけど!?」

「そう不思議に思うことでもないでしょう?

 トップアイドルに打ちのめされて、自分では勝てないと思ったから憧れのまま消えるために、プロデューサーに転向する。

 そういう筋書きだったのでは?」

「……そこまで当てられると怖いのだけど」

 

 最も、私も『ストーリー』がなければ気づかなかっただろう。

 …もう、この際話してしまおう。

 

「ああ、言ってなかったですね。

 私、『未来』が見えるんですよ。

 信じるかどうかはお任せしますが」

「信じるわ」

 

 今度は私が驚かされた。

 即答した彼女の瞳が、あまりにも澄んでいたからだ。

 そこには、私に向ける疑いが欠片もない。

 

「即答、ですか。

 理由をお聞きしても?」

「あなたがさっき言ったのよ?

 アイドルにだけは誠実にありたいって、そんなあなたが意味もなく嘘をつくとは思えないわ」

「これは一本取られました。

 …それに、この話をしたのは担当アイドル以外には初めてです」

 

 他の人にこの話をするつもりはなかった。

 信頼関係を築けなければ、頭のおかしい人だと思われて当然の内容だからだ。

 

 なのに、彼女は疑いもしないて嬉しそうに微笑んでいる。

 

「ふふ、それは光栄ね。

 それに、それなら納得できることがいくつもあるもの」

「例えば?」

「さっきの、だそうですって言葉。

 あなたが持ってきたはずの『小さな野望』は、あなたじゃない人が作ったということでしょう?」

「流石にわかりますか」

「わかるわよ。

 …この曲は『未来の十王星南』の曲なのね」

「ええ。

 厳密には少し異なるかもしれませんが、その理解で問題ないでしょう。

 ですので、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 時期を考えればまだ早いかもしれませんが、既に下地は十分できているはずです」

 

 無理難題だろうか。

 いや、私はそうは思わない。

 何せ、彼女の瞳には、入ってきたときの迷いの目はもうなかったのだから。

 

「任せなさい!

 ()()()()()()()()()()

 初星学園の『一番星(プリマステラ)』にして、トップアイドルに挑む者!

 私の夢も!

 あなたの希望も叶えてあげるわ!」

「期待しています。

 そんなあなたに追いつこうと、他のアイドルたちも切磋琢磨する。

 それでこそ、『初星学園』全体のレベルも向上するでしょう」

「そうね。

 後輩たちもクラスメイトも頑張っているのだもの、私が負けていられないわ」

 

 拳を握り締めて気合を入れた彼女を見て、私の望みは叶えられそうだと漠然と感じた。

 

「では、『H.I.F』を期待させてもらいましょう。

 有村さん、姫崎さん、雨夜さんにも期待していますので、十王さんも頑張ってください。

 あなたが再び『一番星(プリマステラ)』になった時は、『初星学園』の頂点にふさわしい舞台も用意します」

「…それって」

「まだ秘密です。

 準備していることが無駄にならないように、今は目の前の『H.I.F』に全力を注いでください」

「わかったわ。

 …ふふ、先輩はすごいわね。

 こうも的確にアイドルの悩みを解決してくれるなんて、参考になるわ」

「参考にはしないでください。

 私は、プロデューサーである『十王星南』にも興味はありますが、まだまだアイドルの『十王星南』も見ていたいので」

 

 プロデューサーになっても、彼女の熱量と才能を見抜く目があれば恐らく大成するだろう。

 でも、私は『アイドルの十王星南』が好きだ。

 私だけではなく、藤田さんたちもそうだろう。

 

 どうしても、プロデューサーをしたいというのであれば、アイドルをやりながら並行してやってもらうことも辞さない。

 

 そんなことを考えていると、ピシっと固まっていた彼女が、頬を赤らめてか細く呟いた。

 

「………あなたのそういうところ、嫌いよ」

「私は皆さんのことが大好きですけどね。

 さて、予定が終わったのならレッスン室に行きましょうか。

 今日も、月村さんが張り切っていましたから」

 

 さらに顔を赤くした彼女は、誤魔化すように咳ばらいをした。

 

「コホンッ、そうしましょう!

 一度生徒会室に行ってから向かうから、先に行っててくれるかしら?」

「わかりました。

 それでは、また」

「ええ、また」

 

 ツカツカと去っていった彼女の後姿は様になっていたが、耳が赤くなっていたのは気のせいではないだろう。

 ……余計なことを口走ったような気がするが、時の歩みは平等で戻ることはない。

 

 まあ、過ぎたことはいいよ。

 

 どっちにしろ、全力でやってくれないとあの()()()()を超えるのは難しい。

 私のプランのために仕方ないんだ。

 

 そんな言い訳は、当然私の担当アイドルたちには届かず、私は地獄を見る羽目になった。




十王星南

プロデューサーに転身する時期を早めようかと迷っていた矢先、『黒幕(フィクサー)』に出会ってしまった。
中等部の方で何かと話題になっていたが、『H.I.F』があった上に『一番星(プリマステラ)』になったばかりだったため、事情の把握をできていない状態での邂逅。

その出会いは、彼女の人生においての劇薬だった。

圧倒的な実力を発揮している『後輩(中等部の生徒)』。
その活躍ぶり(ライブ)を見て、自分との才能の差に打ちひしがれて、心が折れそうになった時に立ち直らせてくれたのも『後輩(中等部の生徒)』だった。
少し考え、それが彼女たちの『プロデューサー(黒幕)』によるものだったと気づき、『プロデューサー科』の魔境具合に戦慄する。
トップアイドルに勝つことを決意し、そのためには『プロデューサー』の力が必要であることを感じ、燕に相談したら、ああなった(103話目参照)

『ストーリー』との違いを挙げるとするならば…『プロデューサー』という存在を、早くに目の当たりにしたところ。
その影響がどうなるのかは、まだ誰もわからない。
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