『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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110話目

 

 『H.J.I.F』の本戦はソロ部門の準決勝から始まった。

 夏と同じく始まった其れだったが、開幕の火蓋を切ったのは前回と異なっている。

 前回は、賀陽さんがトップバッターだったが今回はユニットで出場しているので当然と言えば当然だ。

 

 だが、前回と同じように開幕の狼煙を上げるには十分な盛り上がりを見せてくれたのは、花岡さんだった。

 彼女が今回披露した彼女の初めてのソロ曲は、いくつかあった選択肢の中で()()()()()()()()()

 

 『ワールズエンド・ダンスホール』

 

 ボーカロイド曲なのだが、『あっち』でも多くの人が歌っていた大人気曲。

 不穏な歌詞とは裏腹に明るい曲調で、彼女の得意なダンスを映えさせる演出ができる。

 幾つかあった候補の中で、私が自分で決めきれなくて彼女に聞いてもらった中から選んだのがこれだった。

 

 …この歌詞にはいくつかの解釈があるが、その中でも私が一番印象に残っているのは『生者と死者の交錯』だ。

 詳しくは説明しないが、ざっくり言うと『死者』が『生者』に自殺を教唆するが、『生者』は前を向いて生きていく…だったはず。

 繰り返しの毎日に飽き飽きしても、『死者』の誘惑に負けずに我を通して生きていくことを決めた『生者』。

 

 ずっと上に『SyngUp!』がいても、腐らずに自らを貫き通して鍛錬を続けてきた彼女には相応しいかもしれない。

 その我を貫き通して、輝いていけるかどうかは今日の結果でわかるだろう。

 

 …なんて皮肉だろうか。

 『もう終わっていた私(死人にも等しい者)』が、『花岡さん(生者)』に送る曲になるとは、当初は思いもしなかった。

 嬉しい気持ちもあるが、少し複雑な気分になったのは言うまでもない。

 

 激しい部分と流れるようなダンスを要り交ぜつつ、元がボカロということもあって口も回さなくてはいけない難易度が非常に高い曲だったが、彼女はこれを習得した。

 動きの緩急をつける彼女のダンスは、師匠である雨夜さんによってさらに。

 歌は『SyngUp!』のメンバーからも教わって、激しく踊りながらも歌えるように。

 

 その集大成が、トップバッターとしていきなり打ち出されたのだ。

 

 観客の度肝を抜くにはちょうどよかった。

 中等部の生徒がここまでできるのか、と。

 客席にいる十王社長や黒井理事長も思っていることだろう。

 

 近くで一緒に見ていた姫崎さんと有村さん、十王さんも驚愕の表情を浮かべている。

 雨夜さんに関しては、目頭が熱くなっていたようだが、すぐに目を見開いてその眼に弟子である彼女の成長を焼き付けていた。

 準備に余裕ができていたので、隣にいた『SyngUp!』の面々は、これぐらいできて当然と、それでこそライバルだと言わんばかりに頷いている。

 

 準決勝の相手がかわいそうになるぐらいには、彼女のライブは仕上がっていた。

 それから、他の本戦出場者である2名のライブが行われ、藤田さんの出番になる。

 

 会場は未だに花岡さんのライブで盛り上がった熱気が抜けていない。

 私の担当アイドルほどではないとはいえ、魔境とかしつつある中等部で上位に入ってきたアイドルたちのライブだ。

 完全に会場を掌握しきれてはいないが、それでも花岡さんのライブの熱を奪いかねないぐらいには仕上がっている。

 

 そんな中、全てを吹き飛ばす黄色い爆発が会場を塗りつぶした。

 

 藤田さんの出番になり、披露した曲は『Yellow Big Bang!』。

 『H.J.I.F』に向けて、新曲を用意したいという相談を受けた結果だ。

 藤田さんらしい、観客と一体になって楽しめる曲。

 

 一番星(プリマステラ)が見惚れた、黄色い超新星が、この大きな舞台で爆発した。

 

 元気よく跳ね回りながら、コーレスを求める彼女に対して会場が一体となってレスポンスを送る。

 初披露だというのに、開幕からトップギアで会場を染め上げる藤田さん。

 心の底から楽しそうな彼女を見て、観客のみなさんも楽しそうな表情を浮かべている。

 

 だが、十王さんが一際大きなレスを返すものだから、周りからの視線が痛い。

 

 藤田さんの番になった瞬間に、制服の上着を翻したかと思ったら、一瞬でフル装備を装着して鉢巻を巻き始めたのは流石だと言わざるを得ないが、恥ずかしいのでやめてほしい。

 賀陽さんと秦谷さんが、月村さんを連れて既に距離を取っている。

 同じグループだと思われないようにするためだろう。おいていかないでほしい。

 

 あ、雨夜さんに頭をしばかれた。

 姫崎さんの顔に影が落ちて、ペンライトを持った有村さんが怯えているのも見える。

 

 後で説教コースだろう。

 

 一瞬助けを求める視線を送っていたが、同情の余地がないので視線を逸らす。

 この前よくも見捨ててくれたな、地獄には一人で行ってくれ。

 

 そんな騒ぎがあったが、この分なら決勝は花岡さんと藤田さんになるだろう。

 ペンライトを振ってライブを楽しみながら、そう確信した。

 

 

 

 続いてユニット部門に移ったが、申し訳ないことを言うと『SyngUp!』の独壇場だった。

 実力差がはっきりしてしまっており、ソロ部門と違って実力が拮抗している相手がいない。

 無理もない、彼女たちはそれぞれソロ部門に出場しても、準決勝に残れるような実力者だ。

 何なら、今の『H.I.F』に出場しても本戦に残ってくれるだろう。

 

 それが、徒党を組んで襲ってくる。

 しかも、ソロでも強いのにユニットになると弱点らしい弱点が完全に消え、それぞれの個性を出しながら奏でられるハーモニーは、連続行動防御無効極大威力全体攻撃(タメなしクールなし射程距離爆増重ショ)を常に受け続けるような理不尽さがあった。

 

 十王さん、雨夜さん、有村さん、姫崎さん。

 合流してきた、花岡さんと藤田さんも全員が息を呑むほどのライブ。

 

 高等部から解禁されるはずの『Campus mode!!』は、高等部の生徒が見ても文句が出ないほどの完成度。

 それに『SyngUp!』らしさが出ていて、月村さんを主軸に賀陽さんと秦谷さんがフォローを入れながら自分らしさも出している。

 

 文句なしの100点満点を挙げていいだろう。

 

 ……そうなるように準備をしてきたとはいえ、実際に起こると少し困るな。

 優勝の経験を積んでもらうという意味では必要なプロセスだったが、対抗馬にできそうな相手を用意できなかった私の落ち度でもある。

 とはいっても、例年と比較するとそこまで見劣りしない程度には、他のユニットのレベルも仕上がっている。

 むしろ、『SyngUp!』がいるのにユニット部門に出場して本戦まで残っただけ、中等部の中でも上澄みなのだ。

 

 それを一方的に蹂躙している彼女たちがおかしいだけで。

 

 ユニットで勝ち切ってもらい、来年の『H.I.F』でも優勝できるイメージを作る。

 今回の『H.J.I.F』において、彼女たちの目標として考えていたレベルに十分達していることを感じ取った。

 

 

 

 

 ユニット部門の本戦は『SyngUp!』が圧倒的だった。

 予想通り、ソロ部門の決勝は花岡さんと藤田さんのぶつかり合いだった。

 私から見ても、どっちが勝ったかは断言できないほどの激しい勝負。

 その結果を、誰もが待ち望んでいた。

 

 会場全体が心待ちにしている中、ステージの明かりが落ち、学園長のアナウンスが響き始める。

 学園長が『H.J.I.F』に参加したアイドルたちへの賛辞と、来客の皆様へのお礼の言葉を述べ、ソロ部門の3位発表がされた。

 

 登壇した生徒に惜しみない拍手が送られ、4位になった生徒と少し言葉を交わし…再び学園長の声が会場に響く。

 

『そして、本当に長らくお待たせした。

 -----優勝者の発表に移ろう!』

 

 ついにソロ部門の優勝者が発表されるのだ。

 

『スタイリッシュなダンスと、非常に難易度の高い歌唱を両立させ、会場を沸かせた花岡ミヤビ!

 もう一方は、元気いっぱいのダンスで会場全体を盛り上げ、観客の心を爆発させた、藤田ことね!』

 

 ……どっちが勝ってもおかしくない。

 本当に優劣をつけ難い勝負だった。

 お互いの意地と意地のぶつかり合い。

 準決勝の方が体力の余裕はあったはずなのに、決勝の方がダンスのキレがよかったのも、それが理由だろう。

 

『さて、それでは発表させてもらおう!

 Hatsuboshi Junior IDOL FESTIVAL !

 ソロ部門の優勝は--------------……………

 

 ドラムロールが流れ、モニターに『H.J.I.F』のロゴが表示される。

 その下で立っている二人の表情は…どちらも虚勢をいっぱい張り付けているのがわかる、作り笑顔だった。

 私たちも思わず、ごくりとつばを飲み込む。

 

 緊張感が最高潮に達した時、ついに決着の時が来た。

 

 

 

 花岡ミヤビ!!』

 

 

 

 ………それを最初に頭で理解したのはどっちだったのか。

 どっちも暫く固まったまま。

 少しして藤田さんが悔しそうに顔を伏せ、花岡さんの表情がどんどん笑顔になっていく。

 そのまま横を向いて煽ろうとしたのか藤田さんの方を見て、真剣な表情に戻した。

 

 恐らく…藤田さんは悔し涙を流しているのだろう。

 そして、勝って煽りたい気持ちがあった彼女は、その悔しさをよく理解しているから、()()やめることにしたのだろう。

 

 どっちが勝ってもおかしくない勝負を、花岡さんが制した理由があるとするなら、貪欲なまでの勝利への執念。

 誰よりも勝利を渇望し、誰よりも勝利を崇拝していた彼女の執念が、藤田さんの開花した才能をほんのわずかに上回った。

 

 私たちを含めた観客の全員が、会場から惜しみない拍手を送る。

 そんな中、今度こそ花岡さんは藤田さんに近づいていった。

 

わたし(ミヤビ)の勝ちです」

 

 マイクが拾い上げた改めての勝利宣言に、会場が少し騒然となるが藤田さんは目元を拭って顔を上げた。

 

「…うん、おめでとう、ミヤビ」

「これで、中間試験の雪辱は果たしました。

 名実ともに、わたし(ミヤビ)が中等部のソロアイドル頂点です!」

「って言っても、あたし一回負けてるじゃん。

 この前の定期試験の時」

「それもそうでした。

 ()()()()()()()()()()()()()

 次は追いかけてきなさい! 藤田ことね!

 まだまだ、こんなところで終わるわたし(ミヤビ)たちじゃないでしょう!?」

 

 発破をかける彼女の言葉で、ようやく藤田さんの表情が少し明るくなる。

 頭を振って、彼女はようやく自分がどこにいるかを思い出して、表情をにっこりと笑顔にした。

 

「…ほんっと、不器用なヤツ。

 はー、やめやめ。

 いつまでもめそめそしているなんて、ことねちゃんらしくないしー…次は絶対に負けないから」

「望むところです」

 

 そう言って、お互いに拳を突き出してグータッチする。

 会場から、一際大きい歓声が溢れた。

 

 歓声が鳴りやんだころ、花岡さんが観客に向かって一歩前に出てマイクを持った。

 

「ご来場の皆様、改めてごきげんよう。

 中等部3年1組の花岡ミヤビです」

 

 さっきまでの荒々しい口調とは打って変わって、猫かぶり100%の花岡さんだ。

 もう化けの皮はとっくに剥がれているのに、なぜ今更…?

 

「まずは、ここまで応援していただき誠にありがとうございます。

 わたし(ミヤビ)がここまで来ることができたのは、応援していただいたファンの皆様、トレーナー、先輩、クラスメイトをはじめとした、多くの皆様の協力があってのものです。

 改めてお礼申し上げます」

 

 そう言って、しっかり頭を下げる。

 さっきまでの藤田さんとの会話のギャップが凄く、拍手までに時間がかかったのも仕方ないだろう。

 

 …なるほど。

 勝者の責務を果たすつもりだ。

 こんなところまで、なんて彼女らしい。

 

 私の予想通り…頭を上げた花岡さんの表情は、さっきまでの猫かぶりの表情ではなく、彼女らしい獰猛さに溢れた挑戦的な表情だった。

 

「今日、今、この勝負に勝ったのはわたし(ミヤビ)です。

 中等部、No.1ソロアイドルの称号を手にしたわたし(ミヤビ)が、次に求めるものは…『一番星(プリマステラ)』」

 

 壇上の彼女の視線が私たち…正確には、私の近くにいる十王さんを射抜く。

 

「賀陽燐羽が宣言したように、わたし(ミヤビ)も宣言します。

 来年、『一番星(プリマステラ)』を獲りに行きます!

 あなた方に勝った勝者として、私が『一番星(プリマステラ)』になります!」

 

 それは彼女の、いや、初星学園のアイドル全員の目標であると同時に、勝者としての責任を果たしに行く宣言だった。

 

「ですので、これからも応援、よろしくお願いしますね?」

 

 最後に茶目っ気たっぷりにいたずらっぽい表情を浮かべてウインクを決めた。

 会場から爆発するような歓声と、黄色い悲鳴が木霊する。

 

 最後に、彼女は一礼すると自分の持ち場に下がる。

 そのまま、藤田さんと舞台袖に下がっていった。

 

 次に学園長から、ユニット部門の優勝者の発表に移る。

 私の予想通り、優勝したのは『SyngUp!』だった。

 呼ばれた彼女たちは、同じようにステージ上に上がった。

 

 賀陽さんがマイクを口に近づける。

 

「『SyngUp!』のリーダー、賀陽燐羽よ。

 みんなのおかげで優勝することができたわ。

 応援してくれてありがとう」

「「ありがとうございます」!」

 

 賀陽さんが頭を下げると同時に、二人も同じくお礼を言って軽く頭を下げる。

 会場から、万雷の拍手と喝采が彼女たちに送られた。

 

 彼女たちがマイクを持ったのを見て、会場が再び静けさを取り戻す。

 

「前の『H.G.F』の時も言ったけど、私…いえ、私たちは来年の『一番星(プリマステラ)』を獲りに行くわ。

 当然、冗談じゃなく本気よ」

「燐羽だけじゃなくて、私も、美鈴も…ううん、初星学園のアイドルなら、全員が『一番星(プリマステラ)』を目指しています」

「来年の『H.I.F』、楽しみにしていてくださいね」

 

 再び会場が歓声に包まれる。

 最後に彼女たちがもう一度、礼をすると会場から拍手が沸いた。

 

 その後の優勝ライブも、大いに盛り上がった。

 花岡さんは『ワールズエンド・ダンスホール』を、『SyngUp!』は『Campus mode!!』を。

 本戦でも披露していたのに、動きの精彩を欠いてないのは彼女たちの狂気的な鍛錬の証だろう。(1名を除く)

 優勝ライブも文句なしに終わり、冬の『H.J.I.F』が幕を下ろした。

 

 今回の『H.J.I.F』は概ね私の想定通り。

 藤田さんと花岡さんのどちらが勝つかは本当に読めなかったが、どっちかが優勝するという意味では想定通りだ。

 

 …()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 何かしらのトラブルや、まだ見ぬ強敵…は求めすぎか。

 学園のほとんどすべてのアイドルをマークしている以上、よっぽどのことが起きて覚醒でもしてくれない限りイレギュラーにならない。

 

 今までで一番落ち着いてみていられたが、却って落ち着かなかった。

 そんなことあるか?

 

 まあ、いい。

 中等部No.1ユニット、中等部No.1ソロアイドルの両方の称号を手に入れたのは事実。

 実績作りもできたし、後は『H.I.F』で彼女たちが頑張ってくれれば、大丈夫だろう。

 

 その後、私は担当それぞれと話す時間を作って、今日の反省と振り返りを行い、最後に全員事務所に集めて今後のことを話した。

 ライブ終わりではあるが、『H.I.F』も控えているので早めにしておきたかったのと…藤田さんと花岡さんが直接ぶつかり合ったのだ。

 みんながいると吐き出せないこともあるだろうと考慮してのことだった。

 

 漠然として不安はあるが、それを表に出さないようにしつつ、私は彼女たちを労った。




花岡 ミヤビ
個人の話し合いが終わり全員が事務所に集まった瞬間、藤田ことねにマウントを取って勝ち誇り、煽り散らかした。
だが、薄氷の上の勝利であることを誰よりも実感しているのも彼女である。
勝ち誇り、煽り散らかしたが、その眼の炎は勝ってなお、めらめらと燃え盛っていた。

藤田 ことね
負けて本気で悔しくなったことに気づき、次は絶対に負けないと決意を固める。
だんだんアイドルで稼げるようにもなってきたので、そろそろアルバイトを本格的に減らそうか考えている。
ミヤビのことは尊敬しているし、大切な仲間だと思っている。
だが、それとは別に煽り散らかしてきたことは、今度絶対にやり返すつもり。

篠崎 士野
何もかも予定通りにいったので、返って疑心暗鬼になっている。
冷静に考えて、高等部の生徒やトップアイドル手前のアイドルと一緒にレッスンしていたのに、他の中等部の生徒が勝ったら事件だという事実に気づいていない。

月村 手毬
(自分たちが)勝って当然だと思っている。

秦谷 美鈴
(自分たちが)優勝して当たり前だと思っている。

賀陽 燐羽
(自分たちが)そりゃあ勝つわよねと思っている。

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皆様の高評価、コメント、お気に入り登録、ありがとうございます。

いただければいただけるほど喜びますので、評価コメント、お気に入り登録をいただけると大変嬉しいです。

以前あとがきに記載しましたが、早く高等部に進学させたくなったので加速させています。
取りこぼしているエピソードは、どこかで書く予定ですので、ご了承ください。

美鈴ちゃんとまりちゃんの水着ガチャ実装ありがとうございます!
幸せってこういうことを言うんだなって
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