『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される 作:プロデューサー科のもの
冬の『H.I.F』当日。
ある程度の準備を終えて、担当アイドルと姫崎さん、有村さんとで雨夜さんと十王さんに激励して送り出した。
二人とも、今日に向けて仕上げてきたと自信をもっている。
私たちにできることは、その背中を押してあげることだけだった。
そして今、そのライブの全てが終わった。
本戦の決勝は、ソロ部門は十王さんと雨夜さんの決戦。
ユニット部門は風間先輩の『クーホリン』と、3年生のユニット。
ユニットの方は『クーホリン』で決まりだろう。
風間先輩が仕上げた彼女たちは、卒業後に100プロに入ると言っているだけある、と言ったところか。
いや、学年全体を巻き込んで合同レッスンするぐらいの熱量があった、彼女たちの意地の勝利だったのだろう。
ソロ部門も、決勝に雨夜さんと十王さんが勝ち進むまでの本戦も見どころが多かった。
『owl』さんも、『クーホリン』と仲の良い天城さんも、例年通りなら彼女たちが決勝に上がっていたと言っても、何もおかしくない。
だが、
『
後輩に敗北し、自らの築いた虚飾の城に座っていたことに気づいた
それぞれが掲げるのは、『
前回の優勝者と準優勝者が歌う歌ではないと思う者もいるだろう。
だが、彼女たちが歌に込める感情は私たちにも伝わってきた。
ファンの皆様にも伝わったからこそ、彼女たちが勝ち上がったのだ。
藤田さんと花岡さんが、全力で応援をしていたのも記憶に新しい。
『SyngUp!』の面々と、有村さん、姫崎さんも、他に負けないように全力で応援していた。
当然、私も彼女たちに勝ってもらいたいと願って応援した。
最後のぶつかり合いの時も、どっちにも勝ってほしいと本気で思っていた。
そして、『H.J.I.F』の時とは違い、先にユニット部門から優勝発表が行われた。
私の予想通り、ユニット部門の優勝は『クーホリン』だった。
可愛いとカッコいいの正反対の2人が、時に片方が片方に寄せて、時に全く別々の曲のように混ざらずに自分を貫く。
『SyngUp!』とはまた違った魅せ方で、会場全体を圧倒していた。
選曲も『ハッピーミルフィーユ』『冠菊』と、可愛いとカッコいいを出しやすい2曲。
彼女たちの魅せ方にもぴったりだった。
普段ぽわぽわしている古川さんの、カッコいいダンスと歌。
雨夜さんのように普段は生真面目でカッコいい星野さんの、可愛い振り付けと歌声。
…星野さんが可愛さ全開でハピミルを歌っても『うわ』って思わなかったのは、自分の魅せ方を分かっているからだな。
雨夜さんも、もっと経験を積めば同じなるかもしれない。
そんなギャップを出しつつも、自らの魅力を最大限発揮した彼女たちが、勝ちきったのは当然だったのだろう。
2連続ユニット部門優勝ということもあり、会場は大いに盛り上がった。
「ぐす…ぐす…聖菜、空、本当にありがとう…!
君たちのプロデューサーで、本当に良かった……!」
涙を流す彼に、私は無言でハンカチを渡した。
いつの間にか隣にいた風間先輩が涙を流しているのも当然だろう。
最後の『H.I.F』ともなれば、込み上げてくるものがあるはずだ。
私も、3年後同じような姿になっていることが容易に想像ついてしまったことと、何だかんだ一緒に食事に行く程度には仲良くなってしまったので、情が沸いてしまったのもある。
……………一体いつから、隣にいたんだこいつ。
え、もしかして本戦のライブの時から隣にいたのか?
いや、確かに周りの担当アイドルたちから、『クーホリン』カラーのペンライトを渡された時に違和感を感じていたが、両脇は秦谷さんたちが固めていたはず。
だが、その時には近くにいて、もしかしてもうペンライトを配ってたのか?
そして、今のみんなの気が緩んだ隙を見て、私の隣に忍び寄ってきたのではないか?
…こいつ、時代が違えば暗殺者とか、忍者として食っていけたんじゃないか?
まあ、いいでしょう。
周りが盛り上がっていることもあって、泣き止まなくても目立ってないのが救いだ。
私の周りにいるアイドルたちはドン引きしているが。
ステージ上で、『クーホリン』の2人が会場のみんなにお礼の言葉と、100プロに進むからこれからもよろしくといった挨拶をしている。
プロの世界に進むということは、これからさらに厳しい競争の中に飛び込むということ。
そのための実績として、『H.I.F』ユニット部門の優勝は十分なものだろう。
続いて、ソロ部門の発表に移った。
雨夜さんと十王さんの2人がステージに上がる。
学園長が彼女たちを讃え、遂に優勝者が発表される。
『Hatsuboshi IDOL FESTIVAL !
ソロ部門の優勝は--------------……………
会場全体に緊張が奔る。
私が思うに、彼女たちの間に明確な差はなかった。
どちらが勝つのか…モニターに会場の全員の視線がくぎ付けになる。
ドラムロールと共に、モニター上に『H.I.F』のロゴが表示される。
そして、遂に優勝者の名前がモニターで表示された。
十王星南!!』
………最後に輝いたのは、
『運命』が収束したと一蹴することはできる。
だが、今回の『H.I.F』の意味は、そんな軽々しいものではない。
お互いに、出せるだけの力を出せるようにしたうえでの、意地と意地のぶつかり合い。
本当にどっちが勝ってもおかしくない勝負だった。
ステージ上の十王さんが、雨夜さんに歩み寄る。
「私の勝ち…ね。
燕」
「ああ、貴様の勝ちだ…。
届かなかった、か」
雨夜さんは悔しそうな顔をしているが、それと同時に…。
「届かなかった。
なのに、何故か清々しい気持ちになっている」
「私もよ。
…本気の全力を出した燕には負けるかもしれない、って思ってた。
あなたの才能が本当に素晴らしいのは、私が一番よく知っているから」
勝った理由を本人が理解していないというのも、珍しいものではない。
アイドルは明確な判断基準がない勝負だ。
だが、対戦した彼女はそれを的確に理解していた。
「
後輩、先輩、プロデューサー、ライバル。
それらが、私と星南を成長させた。
月花にも礼を言わなければな」
「…そうね。
私も、まだ成長できたのね」
「当然だろう。
あの環境で成長できないなどと抜かすようなら、私が勝っていて当然だ」
…そう言ってくれるなら何よりだ。
プロデューサー科の生徒として、これ以上の誉め言葉はないだろう。
雨夜さんは彼女にステージにいる私たちの方を指した。
「ほら、勝者としての責務を果たしてこい。
…『
「任せなさい!
私を誰だと思ってるのかしら?」
ツカツカと、十王さんが前に出る。
そのまま、彼女の挨拶とお礼、『
そのまま、彼女がステージを去っても、会場の熱は冷めないままだった。
周囲がざわめき始め、誰が『
隣の風間先輩は勝利を確信したように、私に誇らしげに胸を張っている。
私は当然、十王さんがなると思っているが、それを全面的に出すようなことはしない。
あ、藤田さんと風間先輩が口論になってる。
何だかんだ、藤田さんも十王さんが大好きだし、こうなっても仕方ないか。
っと思っていたら、月村さんまで参加し始めた。
あまり大きくなる前に止めようとして……再び会場が暗くなり始める。
『
暫くして、学園長のアナウンスが流れ始めた。
『Hatsuboshi IDOL FESTIVAL—――初星学園一のアイドルを決める大祭も、いよいよ終幕の時間と相成った。
我々審査員、来場の方々。そして……世界中のアイドルファンを代表し、ここに告げる。
『
色鮮やかなスポットライトがステージを照らす。
モニターには、再び『H.I.F』のロゴが表示され、その名を掲げるのを待ちわびているようにも見えた。
『我が校が誇る冬の『
モニターに名前が表示されると同時に、私は内心でガッツポーズを決めた。
十王星南!!』
……よかった。
これで、今回の『H.I.F』の目的は完遂した。
長く苦しい戦いとまではいかなかったが、いくつものイレギュラー(主に隣にいる先輩のことだが)があったせいで、どうなるかわかったもんじゃなかった。
隣にいる風間先輩が悔しそうな顔をしているが、どこかすっきりした様な顔もしている。
「…
いや、聖菜と空が一番だったけどね!」
「負け惜しみは…と言いたいところですが、気持ちは痛いほどわかります。
担当アイドルが一番可愛いのは、プロデューサーなら当然です」
「だから、この借りはいつか返させてもらうよ。
具体的には、君たちがプロになった時にね」
「知ってますか?
貸しは多ければ多いほど良いんです。
相手を間接的に支配できますからね。
増えすぎると、後が大変ですよ?」
「言ってろ」
風間先輩と軽口を交わし合う。
…彼のプランディングを破壊してしまった形になるのに、ここまでフレンドリーにしてくれるのは素直に感謝するべきだ。
ムカつくから絶対に言葉にはしないが。
ステージ上に再び十王さんが現れたのを見て、私たちは口を噤んだ。
彼女は先ほどのようにステージを優雅に歩き、私たちを見据えるとマイクを握り締めた。
「改めて自己紹介するわ。
『
会場から歓声が上がる。
1年を通して『
ましてや、2年生でとなると本当にごく少数例だ。
その、新たな連覇した宣言は会場のボルテージを高めるのに十分だった。
「私がここに再び立つことができたのは、素晴らしい先輩方からの教え、頼もしくも手ごわいライバル、恐ろしくも可愛い後輩たち、プロデューサー、先生方、トレーナー、演出の方々や音響の方々。
そして、今ここに来ている皆様、ご視聴の皆様の多くの力があったからこそです。
改めて感謝の言葉を述べさせてください。
本当にありがとうございました」
黄色一色のペンライトが振られる中、彼女は頭を下げた。
拍手をもって迎えられる中、再び彼女が頭を上げる。
「そして、宣言します!
私はトップアイドルになります!
この称号を、『
マジか。
いや、そうしてほしいと願っていたし、確かにそう話したが、まさかこの大舞台で宣言するとは思わなかった。
遅いか早いかの違いではあるのは確かだが、それを言葉にすることの意味を、彼女が理解していないはずがない。
だが、彼女は止まらなかった。
「初星学園の生徒たち、私に続きなさい!
来年の『H.I.F』…私に勝てば、トップアイドルよ!」
そう言って、彼女は見間違いじゃなければ私に向かってウインクをした。
あなたの希望通りにしてあげたわ、と。
でも、簡単に勝てると思わないことね、と。
その眼が雄弁に語っている。
…本当に、彼女には頭が上がらないな。
これは、熱が冷めないうちにライブをセッティングする必要があるな。
会場の爆発するような歓声を受けながら、私は頭の中でスケジュールを無意識に組み立てていた。
『H.I.F』が完全に終わり、雨夜さんと十王さんとそれぞれ個別で話し合った後、全員で打ち上げに行った。
『H.J.I.F』の打ち上げも、『H.I.F』が控えていた手前できなかったので、合同でする形だ。
風間先輩たちと天城さんも含めて、総勢14人の大所帯だ。
最初は風間先輩たちを考慮していなかったが、昨日一緒にする話になったので、予約の人数変更を依頼していた。
勝っても負けても恨みっこなし、という話で。
打ち上げ自体は盛り上がった。
盛り上がりすぎて、お店に迷惑をかけてないかと心配になるぐらいには。
星野さんと雨夜さんと花岡さんが、似た者同士と師弟関係という繋がりで意気投合。
のんびりぐーたらしている古川さんを甘やかす姫崎さんと秦谷さん。
今日ぐらいは好きにさせてあげるかと思って、甘んじて撫でられている藤田さん。
撫でている側なのに頬が緩み切っている、『
たこ焼きを見つけて一つ食べてレビューする有村さんと、興味深そうに頷いて横から食べている月村さん。
おろおろしている天城さん、見かねて話しかけている賀陽さん。
私と風間先輩は、今度詳しく今日のことで話し合いをしようと約束し、お互いの担当アイドルたちがいかに素晴らしいかを語り合った。
途中で秦谷さんと賀陽さんに止められたが、私は止まらなかった。
だが、相手側が星野さんに頭を陥没するぐらいにぶん殴られ、気絶したので止めざるを得なかった。
…よかった、みんなが暴力系ヒロインじゃなくて。
いや、でもこいつ、こうでもしないと止まらないのは事実なんだよな。
それに、星野さんも殴った後に罪悪感を感じているようだし、別に好きでボコスカ殴ってるわけではない。
…本当にこいつ、100プロでやっていけるのか?
今回の件に関しては私も悪いので、今度謝ろう。
さて、これで後数ヶ月もしたら、私の担当アイドルたちは高等部に進学する。
それまでに準備しなければならないことも多々あるが、ここからが本番だ。
気合を入れて、今以上に頑張ろう。
風間 緋色
多分忍者の家系。
自分のプランディングを後輩のプランで潰されたとしても、欠片も悪意を持たない程度には善良な部類。
気持ち悪くなければ、文句はないのだが…。
是非もないね。
星野 聖菜
暴力系ヒロインのレッテルを貼られているが、普通に人を殴ることには抵抗がある。
ただ、こうしないと止まらないことを知っているのでやむを得ずにやっているのだ。
最近の悩みは、プロデューサーをぶん殴っている姿を後輩に見られて距離を取られてしまうこと。
古川 空
お菓子を食べてゴロゴロしていれば幸せなぐーたら娘。
だが、実は誰よりも闘争心が強く、せーなとユニットを組んでいるのも自分の持っていないアイドルとしての強さを持っていたから。
プロデューサーを利用して、ユニットを組ませるに至らせたぐらい計算高い。
『黒幕』とその担当アイドルである『SyngUp!』たちに思うところがないわけではないが、美鈴ちゃんに餌付けされて懐柔された。
天城 日和
なんかくーちゃんに流れで連行された、オロオロ系の人見知り少女。
だが、ライブでは一転してカッコいい曲をバチバチに決めるタイプ。
ONとOFFの差が一番激しく、ステージ上では相手を煽るようなことも平然と言える。
実は、既に100プロからの内定をもらっている。
得意な曲は『冠菊』
燐羽ちゃんが優しく声をかけてくれて、心の底から安堵している。
が、その後『SyngUp!』に取り囲まれ、特に
逃げた先で、莉波ちゃんに掴まって、くーちゃんと一緒に甘やかされた。