『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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11話目

 昨日は、酷い目に遭った。

 

 結局、賀陽さんが逃げたせいで説教を受けて家に着いた時に21時を回っていた。

 寄り道してから帰ったということもあるが、説教だけで1時間近く捕まるとは思わなかった。

 

 …まあいいでしょう。

 帰宅後に申請書を完成させ、今日の朝一で提出したので、とりあえず事務所が本格的に稼働できる前準備は完了した。

 申請しても、在庫の確認及び必要に応じて発注しなければならないとのことで、物があれば今日中に手配できるが、なければ1週間程度かかると言っていた。

 

 プロデューサー科の教室に入ると、相上が話しかけてくる。

 

「おはよう、篠崎。

 さっそくなんだが、中等部の生徒を、夜遅くまで連れまわしたって本当か?」

 

 さわやかな笑顔で挨拶をしてきた相上の眼は、欠片も笑っていなかった。

 よく見ると、周囲の目線も冷ややかなものになっている。

 まるで、昨日取り戻せたはずの信頼関係がなくなってしまったかのように。

 

 …頭痛がする…は、吐き気もだ…。*1

 

 『SyngUp!(問題児)』のプロデューサーになった以上は、こうなる危険があったのは確かだが、実際に直面すると頭痛が起こる。

 

 確かに、帰すのが遅れてしまったのは事実だが、まるで深夜まで連れまわしたような言い方は勘弁してほしい。

 というか、確実に尾ひれがついてそう伝わっているだろう。

 昨日私を置き去りにした、賀陽さんに恨み言を内心でぶつけながら、私は肥大化してしまっている噂話の弁明に必死になるのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

『SyngUp!のプロデューサーくん。職員室まで来てください』

 

 放課後、教室を出ようとしたところで校内放送で呼び出しがかかる。

 

「なんかやらかしたのか?」

 

 今朝の誤解は解いたはずだが、何故かやらかした前提で相上に聞かれた。

 

「やらかした心当たりがあるとすれば、昨日の件ぐらいですね…。

 あ、今朝備品の申請をしたので、それについてかもしれません」

 

「なるほどな…。

 一緒に行ってもいいか?

 俺も将来的に事務所を構えた時の、参考になると思うんだよな。

 荷物運びとかあったら手伝うからさ」

 

「そういうことでしたら、一緒に行きましょう」

 

「サンキュー」

 

 相上を伴って職員室に向かうと、そこにいたのは根緒先生だった、

 いくつかの書類を脇に抱えており、私たちの姿を見つけると手招きした。

 

「来ましたね、プロデューサーくん。お、そっちのプロデューサーくんはお友達ですか?」

 

「そうです。

 それで、根緒先生ご用件をお聞きしても?」

 

「君が今朝出した申請に関してのお話です。

 お友達がいても、話して大丈夫ですか?」

 

 一応プロデュースの話になるからの確認なのだろう。

 プロデューサーの中には自分のプロデュースを秘匿するものもいるという。

 競い合うのが常なアイドルにとって、プロデュース内容を聞かれるということは、好ましくないことは間違いない。

 

 だが、今回はそんな重要な話でもないから問題ないだろう。

 

「大丈夫です。

 相上は、自分の事務所を持った時の流れを見ておきたかったみたいなので、見学しにきただけです」

 

「おおー! 勉強熱心なのはいいことですよ!」

 

「ありがとうございます。あさり先生。

 きちんと見て学ばせてもらいます」

 

 そう言って相上は一礼した。

 教室内ではフレンドリーな彼も、目上の人相手では礼儀正しい様子が見れる。

 

「それではさっそく、今朝出してもらった申請書はこちらです」

 

 そう言って根緒先生は申請書を、私と相上に見せる。

 帰ってきた申請書は、申請した物品一覧の端に『在庫あり支給可』『在庫なし発注済』と赤文字でいずれかが書かれていた。

 

「見ての通り、却下される備品はなかったのですが、現在在庫がないため発注しているものがあります。

 鍵付きのキャビネット、冷蔵庫は1週間程度かかると思ってください。

 他のテレビとお茶出しのポッドなどは、用意してあるので持って行っていいですよ」

 

「迅速に対応していただきありがとうございます。

 発注中のものに関しては、届き次第連絡をいただけるという認識であってますか?」

 

「そうですね。

 毎回、校内放送というのも手間がかかるので、連絡先を交換しませんか?

 他のプロデューサーくんも、交換している生徒は多いですよ」

 

「そういうことなら、お願いします」

 

「え、篠崎連絡先交換してなかったのか?

 プロデューサー科の生徒、ほぼ全員交換してるぞ?」

 

「…ノーコメントです」

 

 そう言って連絡先を交換する。

 ついでに、相上とも連絡先を交換した。

 これで、プロデュースに行き詰まったら相談できる人を確保できた。

 

「はい、これで手続きは完了です。

 困ったことがあったらいつでも連絡してくださいね」

 

「ありがとうございました。根緒先生」

 

「あ、それと一つ、言い忘れていたことがありました」

 

「? なんでしょうか?」

 

「中等部の生徒を夜遅くまで連れまわすのはいけませんよ!

 賀陽さんから直接先生に、『許してあげてちょうだい』って言っていたので今回は見逃しますが、次はないと思ってくださいね!」

 

「…誤解です」

 

 

 Be CooL…Be CooL…!*2

 …私は…常に冷静(クール)だ…!

 

 

 ブチギレそうになるのを抑え、先生の誤解を解くために必死に弁明する羽目になった。

 先生の誤解を解く傍らで爆笑している相上に肘打ちを入れて悶絶させ、備品の設置のために連れまわした。

 

 

 …今度、放課後に話をするときは時間管理をきちんとすることを決意した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 備品を設置するために運びながら、手伝ってもらった相上に事務所となる教室の手続きの流れや、申請書類の控えを見せて説明した。

 そうしているうちに中等部の授業が終わり、レッスンが始まっている時間になっている。

 相上は、やりたいことがあると言って、説明をした後に帰っていったため、事務所で一人、パソコンと向き合っていた。

 

 チャットで連絡が来ていたが、今日は顔を出せそうにないのでその旨で連絡を送る。

 今日は急務でやることがあったためだ。

 

 具体的に言うと、月村さんの体力強化メニュー作りと、栄養バランスの調整についてだ。

 レッスンメニューは昨日のうちに調整したものを送ってはいるが、体力の付き方によって調整していく必要がある。

 それに、栄養バランスの管理は現状、秦谷さんがある程度しているはずだが、秦谷さんは月村さんを甘やかしてしまうため、とんかつや唐揚げなどのカロリー爆弾を大量摂取させかねない。

 

 月に数回程度、『チートデー』のようなものを作ってコントロールする方針で進めようと考えている。

 これは、『ストーリー』もそうだったというのもあるが、何よりも思春期の少女に好きなものを全て取り上げて完全栄養食ばっかり食べさせてしまうと、心の健康を壊しかねない。

 アスリート家系やままならない、おさんどんする方のお姉ちゃんは例外とする。

 

 三大栄養素などの基本的なことに関しては、授業を受けながら独学で調べていたが、やはり本格的に対応させるとなると、私が食事を用意するか、秦谷さんに決めたメニューで食事を用意してもらうかの二択になるだろう。

 秦谷さんと相談して決める必要があるし、その前にメニューをある程度絞らないといけない。

 

 そう考えた私は、チャットでレッスン終了後に秦谷さんに事務所に来てもらうように伝えた。

 だが、よく見ると今日の朝イチで送ったチャットの既読が2しかついていないことに気づく。

 今送ったチャットもすぐに既読が付いたが、帰ってきた内容は頭を抱えるものだった。

 

『今日、美鈴はレッスンに来てないわよ』

『授業終わったらどこかに行ったけど、プロデューサーのところじゃないんですか?』

 

 その文字を見て全てを察してしまった。

 

 思い返す。

 

「わかりました。

 のんびり、レッスンを()()()してお待ちしてますね」

 

 普通であれば、レッスンを()()お待ちしてますね。が正しいだろう。

 だが、レッスンを()()()してお待ちしてますね。となると話は別だ。

 

 他のアイドルなら気にならないような言葉だが、『レッスンをしたり(主にお昼寝をして)お待ちしてますね』が、秦谷さんにとっては正しい意訳だろう。

 

 …甘かった。全てにおいての見通しが。

 『SyngUp!』のプロデュースをすると決めた以上、覚悟していたことではあるが実際に出くわすと頭を抱える…。

 

 レッスンをサボっていること自体は、まあいいでしょう。*3

 問題がないわけではないが、無理やりやらせたところでモチベーションがなければ、ストレスが溜まるだけです。

 

 ユニットメンバーに行き先を伝えていないことも、まあいいでしょう。*4

 他の二人に正直に言った場合、面倒なことになると思ってのことでしょう。実際、月村さんは上手いこと勘違いしているようだ。

 

 プロデューサーである私の連絡を無視していることも、まあいいでしょう。*5

 まだ信頼関係を築く途中の段階であり、プロデューサーになって数日の私の連絡を無視するぐらいは、仕方ないことです。

 

 だが、よりによって…今か…。

 

 月村さんの食事を改善する上では、現在月村さんの食事を主に用意しているであろう、秦谷さんの意見を聞く必要がある。

 なのに、行方不明では話ができない。

 チャットの既読すらついていないということは、見るつもりがないのだろう。

 

 優先順位を考えた結果、チャットに文字を打ちながら、学園内を探すことにした。

 そのうち、どこかで会うことはできそうだが、先送りにしていいことなど何もない。

 本来であれば、メニューをいくつか絞ってから話をしたかったが、事情が変わってしまった。

 

 このまま今日中に話をできなければ、月村さんの食事改善計画がどんどん後ろ倒しになってしまう。

 秦谷さんのお世話したい欲求が上限突破して、月村さん∞甘やかしモードになったらまずい。

 その子供が好きなら、真っ茶色なお弁当箱を重箱で用意しそうな秦谷さんに先に話をつけるべく、心当たりがある場所を探しに事務所を出た。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 結論を言うと、思いのほか早く秦谷さんは見つかった。

 場所は、中等部の屋上のベンチだった。

 目を瞑ってすやすやと寝息を立てている少女は、それだけで絵になる美しさだった。

 

 …無理に起こして機嫌を損ねるよりは、自然に起きたタイミングで話をする方がいいだろう。

 今日中に話をしたくはあるが、見つけることができたので最低限の条件はクリアできた。

 メニュー作成は、事務所じゃないとできない仕事でもない。

 事務所を出る時は自然と戸締りをする形になるため、ノートパソコンも持ち出していた。

 

 ベンチの反対側に座り、スマホを取り出す。

 賀陽さんと月村さんに連絡をし、事務所を閉めていることを伝えた。

 次に、ノートパソコンを取り出し、月村さんの食事メニューを考える。

 

 今の時代は便利なもので、ある程度カロリー計算されたメニューは探せば掃いて捨てるほど出てくる。

 さらにちょっとスマホで検索すれば、詳しいレシピも出てくる。

 

 転移してから…というよりは、仕事が忙しくなってきてからほとんど自炊していなかったが、この機会に自炊生活に戻す必要があるかもしれない。

 栄養管理をアイドルにするのに、自分が自堕落な生活を送るわけにはいかないだろう。

 

 

「ん…」

 

 そうしてパソコンを叩いているうちに、隣で寝息を立てていた秦谷さんが目を覚ました。

 ふぁ…と欠伸をして、こちらを見るとにっこりとほほ笑んで、再度目を閉じる。

 

「秦谷さん、おはようございます」

 

「まぁ…もうひと眠りしようとしていたのに、酷いプロデューサーですね」

 

「いくつか聞きたいことがありますが、いいですか?

 月村さんのことです」

 

 目を閉じていた秦谷さんがゆっくりと目を開ける。

 

「…まりちゃんのことですか?

 …レッスンのことではなく?」

 

「自覚があったようで何よりです。

 ですが、言ってレッスンに出るようなら、元からサボりなんてしないでしょうし、今は置いておきます」

 

「そういうことでしたら…はい、お話ししましょう」

 

 眠たそうに眼をこすりながら、私の体を向ける秦谷さんだったが、月村さんの話となったとたんに目をぱっちりと開けている。

 

「まず、確認です。

 昨日賀陽さんからお聞きしたのですが、月村さんの食事は秦谷さんが作っているということで合っていますか?」

 

「はい。

 知っての通り、私がまりちゃんのご飯を作っていますよ」

 

「それはなぜか聞いてもいいですか?

 ここでは、食堂もあるので無理に作る必要もないでしょう」

 

「わたし、人のお世話をするのが好きなんです。

 まりちゃんは、わたしが作ったご飯をとても美味しそうに食べてくれるんですよ。

 その顔を見るのが、大好きなんです」

 

「なるほど…。

 もし、仮にの話ですが、私が月村さんに栄養管理を完璧にしたメニューを毎日用意すると言ったら、どうしますか?」

 

 私の言葉に、目の前の秦谷さんの眼からハイライトが消える。

 例え話ではあるが、やはり許されないことなのだろう。

 

「…そうですね…その時は、勝負をしましょう。

 どっちが、まりちゃんのご飯を作るのに相応しいか、りんちゃんも審査員に交えて。

 勝った方が、まりちゃんのご飯を作るんです」

 

「なるほど…よくわかりました…」

 

 一切目が笑っていないのに、表情がにこやかという、器用なことをやってのけながらハイライトの消えた光で私を見ている。

 予想通りではあるが、実際に話をすることが重要だと思ったうえでの行動だ。

 『秦谷美鈴』ではなく、目の前の秦谷さんを知るためには必要なフローになる。

 

「では、こういうのはどうでしょう。

 私がメニューとレシピを秦谷さんに教え、作ってもらい、月村さんに食べてもらう。

 その時に、食事風景を写真に撮って送ってもらう…というのは」

 

「…メニューにはどういうものを?」

 

「基本的な栄養バランスを重視しつつ、育ち盛りなあなた方にボリュームを落とすことないようなもので考えています。

 今考えているのは、こういう形ですね」

 

 そう言ってノートパソコンを広げ、メニュー一覧を見せる。

 エクセル擬きで作成したメニュー一覧には、栄養の概算された数値やカロリー、量などが記載されている。

 秦谷さんはメニューを見ながら、何やら考えている。

 

「…悪くはありませんが、まりちゃんの好物が少ないです。

 あと、まりちゃんは、にんじんとかのお野菜があまり好きではないので、工夫が必要になりますね」

 

「流石ですね秦谷さん。そういう意見が欲しかったんです。

 後は、作ってもらう秦谷さんの視点で、調理方法や材料の調達が難しい個所はありませんか?」

 

「そうですね…」

 

 その後、秦谷さんとしばらく食事についてやり取りをした。

 結論から言うと、秦谷さんが月村さんの料理をすることは継続だが、メニューは私が指定したものを作ってもらい、必要に応じて材料の用意も私がする形だ。

 秦谷さんの負担が大きくなってしまうが、当の本人は喜んでいるので止めようもない。

 

 元々、やりたいようにやってもらう方針ではあるので、問題ないだ

「それで、昨日はりんちゃんとどんなお話をされたんですか?」

 

 声に意識を向けたときには、目の前に秦谷さんの顔がドアップになっていた。

 さっきも見た表情で、にこやかではあるものの、目は欠片も笑っていなかった。

 

*1
ジョジョの奇妙な冒険3部のDIO様から

*2
冒険王ビィトのグリニデ閣下から

*3
AC6のスネイル閣下風

*4
AC6のスネイry

*5
スネry

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