『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される 作:プロデューサー科のもの
…月日が流れるのは早いものだ。
風間先輩もういない。
風間先輩はこなみじんになって死んだ・・・・・・・・わけではない。
別にそんな事件があったわけではなく、つい先日初星学園を卒業していった。
少しは悲しくもなるかと思ったが、普通に次の日に事務所に押し掛けてきた。
卒業式の感動を返してほしい。
大学の卒業式なんて、よっぽど仲のいい卒業生でもいなければいかないのに、わざわざ行ってやったんだぞ?
首席として答辞を読み上げていたのは流石と言わざるを得ないが、君もやるんだよ?と言われて頭を抱える羽目になったりもした。
いや、確かに客観的に分析をしたら、ここからよっぽどサボらない限りは確かに首席は固い。
学園の頂点を獲りに行くのだから、そうなる可能性が非常に高いのは事実だ。
まあ、いい。
所詮は些事……
それはさておき、ほとんど同じタイミングで、星野さん、古川さん、天城さんも卒業した。
高等部の卒業式とはいえ、お世話になった先輩方ということで私も担当アイドルと高等部のアイドルたちを引き連れて送り出した。
お互いに涙ながらに別れを惜しんでいたが、彼女たちは100プロ所属になるので、そう遠くない将来再び先輩になるだろう。
さて、今はここ数ヶ月の統括だ。
事務所のノートパソコンを開き、これからのスケジューリングのために状況整理を行う。
まず、十王さんのためにセッティングしたライブ。
十王社長にも一枚嚙んでもらい、初星学園にトップアイドルを呼び寄せ、彼女とぶつからせたライブ。
それに対して、大々的に勝利宣言をしたことで、彼女はトップアイドルの仲間入りを果たすことができた。
十王社長は、『トップアイドルには一握りも要らない、一人だけいればいい』と特別講師として講義に来ていた時に話していたが、自分の娘がそうなったこと自体は喜んでいた。
十王さんにそれを素直に伝えればいいのに。
私の担当アイドルたちも、そのライブを見て闘志を燃え上がらせた。
有村さんをはじめとした高等部のアイドルたちも同様だ。
雨夜さんなんて、ライブ後に花岡さんを引き連れてレッスンに明け暮れるぐらいだった。
次に、中等部最後の試験。
普通科目は含めず、アイドルコースのテストは…藤田さんが再び一位に返り咲いた。
『H.J.I.F』で花岡さんに負けたのがよっぽど悔しかったらしく、テスト直前2週間前からバイトを全て休んだぐらいだ。
勝った後、花岡さんを死ぬほど煽り散らかして、非常にすっきりした顔になっていたのは言うまでもない。
十王さんが思わず引く程度には煽り散らかして、この前和解したお父さんが見たら、私の教育責任を疑われかねない事態になった。
花岡さんのストレス値がかなり上がっていたが、自業自得なので諦めてほしい。
因みに、普通科目を含む総合順位1位は月村さんで、勉強にも手を抜かなかった花岡さんとの接戦だった。
月村さんからも煽られた花岡さんの血管が切れて、腹いせに私がシバかれたのは理不尽だったが。
先にも述べたが、藤田さんのお父さんとも和解することができた。
藤田さんと私………と、心配した私の担当アイドルたち全員で押しかける形になった。
事前に話を通していたが、改めてみると漁師だからか、どことなく藤田さんの面影がある幼げな顔なのに、少し無精ひげが伸びていて日頃の苦労がうかがえた。
まさかの大人数でお父さんはびっくりしていたが、心の内を吐き出しあうことができ、4月からは家に戻ることになった。
158プロの弁護士の方に藤田家の借金周りを見てもらい、過払い金で戻ってくる分の請求業務を依頼したので、借金の残高が大きく減ったことが大きい。
この分なら、最悪は藤田さんの稼ぎでも返済しきることができるだろう。
藤田さんのお父さんは無職のニートでもなんとかなる……が、流石にそういうわけにもいかないので、仕事を探すらしい。
私の我儘で家に戻ってもらうようなものなので、どうしても仕事が見つからなかったら、斡旋するので教えてほしいと伝えたが、そこまでしてもらうわけにはいかない、と断られてしまった。
まだ30半ばとはいえ、同職種でなければ転職は難しい場合も多い…いや、都心部なら選ばなければ雇用自体はあるか。
どうしようもないなら援助するつもりだが、本人が嫌がっているうちはやめよう。
これによって起こったことで一番わかりやすいのは、藤田さんの調子が目に見えてよくなったこと。
ほとんど毎週の土日に実家に帰るようになり、家族の時間を作っている。
たまに、私たちもお邪魔して、妹さんたちと遊んだりもしている。
一番上の妹さんと、連絡を取り合っていたことがバレて、全員から詰められるといった事件があったぐらいで、概ね平和に過ごせるいい時間だった。
それと、藤田さんの距離が今までも近かったのにさらに近くなった。
そのせいで秦谷さんの視線が厳しくなったと思いきや、秦谷さんも巻き込んで絡んでくるものだから逃げようがない。
人前ではやらない分別も付いてるのがさらに質が悪く、事務所内での私の担当アイドルたちの距離が、更に近くなっている。
まだ先生方に見つかってはないが、見つかったら指導されても文句は言えないだろう。
後は、そこまで大きく変わったことはない。
担当アイドルや、高等部のアイドルたちの個人ライブの算段をつけて、経験を積んでもらうついでに新曲をお披露目したりとか。
花岡さんとのお出かけで、彼女がソロ曲にあれを選んだ理由を聞いたり、
『H.I.F』までという話だったが、気づいたら十王さんと雨夜さんがずっとレッスンに参加していたり、事務所に来ていることに気づいたとか。
賀陽さんのお願いを聞いた時に、隠していることを言いなさいと言われたので、遺書の話をしたら全部処分しろと本気で怒られて泣かれてしまったこととか。
大和のところに、十王さんたちを連れて行ったら、当時見た姿と全然変わらない大和の姿に驚いていた十王さんと雨夜さんが、誰?の一言で轟沈し、当の本人は怯えて中々顔を出さなかったりとか。
学園長から固いからもっと柔らかくしろと言われたので、おじいちゃん呼びして茶目っ気を出したらお小遣いをもらってしまったりとか。
藤田さんと遊園地にお出かけして、彼女の家族に対する思いを聞いたり、妹との関係について再び問い詰められたりとか。
裕から、担当を持つことについての相談を受けて、プロデューサーとして風間先輩を交えて意見交換をしたりとか。
私の担当アイドルたちの担任の先生から、面談という名の愚痴と、これからも彼女たちをよろしくお願いします、と今後のことを託されたりとか。
『クーホリン』の初星学園卒業ライブを見に行ったら、風間先輩に見つかって一緒に行ったアイドル全員と私がフル装備で応援する羽目になったとか。
月村さんと秦谷さんと賀陽さんの3人でお仕事に連れて行ったら、ホテル側のミスで部屋が一つ足りなくなってカラオケで一人夜を明かそうとして、口論になったとか。
黒井理事長に話をつけて、白草四音さんに挨拶をしたついでに、黒井理事長と話してたら極月学園の皆様からヤバいものを見る目で見られたりとか。
十王さんがトップアイドルに喧嘩を売ったことで、ファンの方がSNSで炎上しかけて月村さんから仲間扱いされたりとか。
たまたま高等部の保健室へ立ち寄ったときに、出会ったアイドルと仲良くなったこととか。
姫崎さんに日頃のお礼として、みんなで回転寿司に連れて行ったら、目をキラキラさせて口をいっぱいにしてほおばっている彼女を見て、月村さんも同じようにいっぱい食べてて可愛かったこととか。
十王社長に呼び出されて、『H.I.F』のルール改正の考えを話し合ったり。最近の十王さんについて聞かれたりとか。
有村さんのために事前に申請して、調理室でたこ焼きパーティーをしたり、タコ焼き器でチーズウインナー焼きとかチョコ焼きとか作って、月村さんに崇められたりとか。
中等部のトレーナー陣と高等部のトレーナー陣の全員に包囲されて、延々と詰められた上に、秦谷さんに浮気と言われて追撃されたりとか。
雨夜さんに新しい衣装と称してスモックを着せてハッピーミルフィーユを歌ってもらおうとしたら、追いかけ回される羽目になったとか。
藤田さんたちに『ストーリー』の話をして、藤田さんが月村さんとユニットを組む未来もあったことを伝えると、絶対に無理って絶叫して月村さんがキレたりとか。
風間先輩が、卒業前に頻繁に事務所に来るようになって、折角だから星野さんたちのサインも書いてもらったりとか。
秦谷さんが星野さんたちのサインを見て、最近浮気が多いですね、今日は一日事務所から出しません、と言われて二日間軟禁されたりとか。
そんな、他愛もないことがあったぐらいだ。
最近は平和だな。
うん、濃い。
本当に、たった数ヶ月なのに濃い日常だ。
良いことだが、振り回される身としては少しきついものがある。
それと、っと考えていたら、事務所の扉がノックされた。
扉を開けた少女は、そのまま私の隣に流れるように座った。
「プロデューサー、今日もお仕事ですか?」
「ええ、秦谷さ「
私の返答に言葉を被せた彼女は、楽しそうに私を見つめている。
「…」
「美鈴、ですよ?」
「……
「はい、よくできました」
にっこりとほほ笑んでいる彼女は、そのまま私の頭を優しく撫でる。
その表情は実に満足気だが、当の私は不満そうな顔を隠せていないだろう。
…そう、担当アイドルたちを下の名前で呼ぶようになった。
『距離感の基本』が大事ではあったのだが、『引力』があるなら入学してくるであろう生徒の中に、『花海姉妹』がいる。
同じ学年の姉妹となると、苗字で呼ぶのは混乱を招きやすい。
そうなると、下の名前で呼ばざるを得なくなる可能性が高い。
だが、担当アイドルたちを下の名前で呼ばないのに、他のアイドルを名前で読んだらどうなるか。
次の朝刊に載るのは私になるかもしれない。
少なくともお仕置きされてしまうのは、火を見るよりも明らかだ。
それに、藤田さんの家に行ったときに呼びづらかったのも事実。
藤田姉と言った時の、藤田さんの何とも言えない微妙な表情の件もある。
できることなら、彼女たちのやる気をもっと引き出すために使いたかった気もするが、彼女たちのモチベーションが上がるなら安いものだ。
だから、これは仕方ないんだ。
決して、軟禁された時の釈放条件だったわけじゃない。
秦谷さんから始まったはずなのに担当アイドルたちが全員集まっても解放されなかったからとか、椅子に縛られてキーボードを叩いている私に素知らぬ顔をして膝の上に座ってきた藤田さんとか、トイレに行くのさえ入り口までついてきたとか、十王さんたちが事務所を開けた瞬間に逃げ出して助けを望めなかったからとか、秦谷さんが布団を全員分もってきて私を椅子に縛ったまま一夜を明かしたとか…
その圧力に屈したわけではない。
決して、そういうわけではないのだ。
因みに、警備員も初星学園には当然いるが、なぜか一度も見回りに来なかった。
担当と一夜を共に過ごした罪悪感も、縛り上げられたまま過ごしたのであればノーカンだろう。
事務所でのお泊りでテンションが上がっていたのは、月村さんぐらいだった。
雨夜さんたちはドン引きしていた。
私の不満そうな顔を見かねて、秦谷さんは撫でる手を止めた。
「……プロデューサーが本当に嫌であれば、戻してもいいですよ。
大変不服ですが」
「いえ、そういうわけではありません。
それほど、心を許していただいているという実感を得られるのは嬉しいものですから」
「では、なぜそんなに嫌がっているのですか?」
「邪推されると面倒だからです。
アイドルは人気商売ですし、下手な噂は障害になりかねません」
「……むぅ」
別に嫌ではない。
ただ、面倒ごとになると困るってだけで。
「秦谷さん?」
「ぷいっ」
「秦谷さん、そんなに拗ねても可愛いだけですよ」
「・・・・・・・・・ぷーん」
この怒り方も久しぶりだな。
このまま拗ねさせておいても可愛くていいのだが…恐らく彼女が拗ねた理由は…
「……美鈴さん」
「…はい、何ですか?」
「大好きですよ」
「……////////
も、もう!
そんなことで、誤魔化されませんよ!」
顔を真っ赤にさせた彼女は、私怒ってますとぷんすかしている。
私の担当アイドルが、こんなにも可愛くてつらい。
別に名前呼びするのが嫌なわけではないのだ。
面倒ごとがあるかもしれないことと、あとは単純に
「慣れるまで、また間違えてしまうと思います。
もう少しで1年経ちますから、中々抜けないんです」
既についた癖は、そう簡単に抜けないものだ。
今後も油断したら、同じようになるだろう。
しみじみと呟いた私に、彼女も同じように感慨深そうに言葉を零した。
「1年…もうそんなに経つのですね。
長いようで短い、あっという間の1年間でした」
「そうですか?
私にとってはとても濃い毎日で、とてもとても長い1年でした」
「まあ、それは悪い意味で、ですか?」
窺うように私の顔を覗き込んだ彼女に、私は首を振った。
「もちろん、良い意味で、です。
忙しくも、皆さんに振り回されたり、時に振り回したりもして、楽しい日々でした」
「まあ、まるで私たちが問題児のよう」
「実際問題児でしょう。
藤田さんと花岡さんが、『SyngUp!』に似てきてるから何とかしてくれと、担任の先生からも相談されましたよ」
「まあ」
「まあ、ではありません」
嬉しそうに微笑む彼女を見ながら、私は同じように微笑んだ。
そうして笑い合っているうちに、事務所のドアが勢いよく開いた。
「美鈴!
いつになったらレッスンに…って、プロデューサーもいたんですか」
「月村さん、そんなに急いでどうしました?」
「…つーん」
私の言葉で、月村さんも秦谷さんと同じような反応をした。
……やっぱり慣れないな。
「手毬さん」
「!
………えへへ、なんですか? プロデューサー?」
「後ろのみなさんが詰まってます」
「あっ」
月村さんが振り返ると、そこには不満そうな他の担当アイドルたちが事務所の入り口で、立ち止まった月村さんのせいで入れないままいた。
「手毬、早く中に入りなさいよ」
「あ、ごめん」
「はーい、プロデューサ~、愛しのことねちゃんですよ~♡」
「はあ…いつまでも来ないと思ったら、
「すみません…ミヤビさん、ことねさん、燐羽さん」
「!
…ふふ、悪くないですわね」
「うへへへへへ…プロデューサ~だ~いすきですよ♡」
「…まあ、いいわ。
ほら、美鈴もレッスン行くわよ」
心なしか少し顔が赤い賀陽さんに連れられて、私と秦谷さんは立ち上がって事務所の戸締りをした。
準備が整い、彼女たちの隣に並ぶ。
「ええ、りんちゃん、まりちゃん、
「…えへへ、美鈴ちゃんからそう呼ばれるの、やっぱり嬉しいナー。
仲間って感じがして」
「お二人は特別、ですよ。
わたしたちも付き合いが長くなりましたし、来月からは同じ部屋で生活することになりますから」
彼女たちの関係も、以前よりもさらに深くなっている。
秦谷さんが月村さんたち以外にも同じようなあだ名を、他の2人にもつけたり。
花岡さんが他の人を名前呼びするようになったり。
それに、高等部に進学するにあたって、担当アイドルたちの寮の部屋は相部屋にすることになった。
5人で生活するには少し狭いかもしれないが、今の段階でも寝るとき以外は秦谷さん、月村さんの部屋に入り浸っているらしいので、どうせなら一緒にした方がいいとのことで、満場一致だった。
誰よりも楽しみにしているのは…言うまでもない。
「ふふ、今から楽しみです」
「あたしも、今から楽しみ!」
「わ、私も!」
「……
「私はとっても不安よ」
楽しみにしている藤田さんと月村さんには悪いが、花岡さんと賀陽さんの不安は恐らく的中するだろう。
私も少なからずそうなるだろうとは思うが、頑張って乗り越えてほしい。
流石に、寮の中のことまでは手出しできないからな…。
寮長になった有村さんの胃を破壊しないことを祈ろう。
そのまま話してもよかったのだが、いい加減時間だ。
「さて、みなさん、そろそろ行きましょうか。
もうレッスンの時間なのでしょう?」
「そうでした!
ほら、会長たち待たせてるから、早くいこう!」
そして、私たちはレッスン室に向かって走り始めた。
高等部に進学するまでの、僅かな時間も研鑽を積み上げるために。
この大切なアイドルたちと共に、高等部でも覇道を創るのだ。
『ストーリー』が始まるが、『ストーリー』通りにはならない。
ここから始まるのは、『SyngUp!』と藤田さん、花岡さんのプロデューサーが足を引っ張って殺されないようにするための悪あがきだ。
この悪あがきに、私の全てを込める。
全てを担当アイドルに捧げるために。
篠崎 士野
一番まともなのは強いて言うなら自分だと思っているが、正気でアイドルをプロデュースできるとも思えないので、自分もおかしいと思ってはいる。
担当アイドルたちは全員、ベクトルが違ったヤバさがあると思っている。
月村 手毬
自分が一番まともだと思っている。
一番やばいのはプロデューサー。
次点で美鈴。
秦谷 美鈴
自分が一番まともだと思っている。
一番やばいのはプロデューサー。
次点でりんちゃん。
賀陽 燐羽
自分が一番まともだと思っている。
一番やばいのはプロデューサー。
次点で手毬。
藤田 ことね
自分が一番まともだと思っている。
一番やばいのはプロデューサー。
次点でミヤビ。
花岡 ミヤビ
自分が一番まともだと思っている。
一番やばいのはプロデューサー。
次点でことね。
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これにて、中等部編は終了ですが、後1話挟んでから高等部編になります。
書きたかった話をぱっと思いつく分だけ書いていたら、普通に30話近くかかることに気づきました。
冗談抜きで、冬の『H.I.F』『H.J.I.F』とかも、早回ししなかったら後1年は掛かっていたと思います。
概要だけ羅列しているので、そのうち幕間と称してお出ししようかとは思います。
他にもまだ出してない話(十王社長との初対面の時のこととか)があるのですが…どこかで出したいと思ってますが、どこまで行けるのか。
これからも頑張っていきます。
追伸:美鈴ちゃんのアチーブメント埋め完了しました! やったー!