『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される 作:プロデューサー科のもの
プロデューサー科の入学式。
それは、アイドル科の入学式よりも1日早く行われる日程になっている。
入学初日のアイドルのスカウトができるようにという配慮だろう。
プロデューサー科に入学する前から、アイドルとプロデュース契約を結ぶことが許可されたプロデューサーであれば、事前にスカウトするアイドルを調べていることも多い。
そのため、新入生をスカウトするのであれば、入学式に捕まえることも良しとするためだろう。
…では、なぜ私がプロデューサー科の入学式に参加しているのか。
本来、大学の入学式なんてものは、サークルの勧誘をしたい人ぐらいしか参加しないだろう。
実際、『私』もわざわざ大学の入学式になんて参加した覚えはない。
なのに、この私がアイドルのレッスンを見る時間を割いてまで、わざわざここに来ている理由。
それはたった一つの
『―――以上で、わしからの挨拶とさせていただこう。
諸君!
アイドルを輝かせるのは、おぬしたち次第じゃ!
心して臨むんじゃぞ!』
拍手とともに、学園長が壇上から降りる。
…そろそろか。
根緒先生のアナウンスが、会場内に流れ始めた。
『学園長、ありがとうございました。
続いて、生徒代表による歓迎の辞です。
「はい」
私は壇上に上がって入学してきた、彼ら彼女らの顔に満遍なく目を通す。
全員いい顔をしているが、私のことを知っている人も多いのか少しの動揺も見られた。
…そう、何をとち狂ったのか、4年生どころか3年生ですらない、2年生になったばかりの私が代表として挨拶をする羽目になったのだ。
自分の出番が終わった学園長のニヤケ顔が非常に鬱陶しい。
手伝いとして、会場の出入り口に立っている裕も似たような表情をしている。
まあ、いいでしょう。
学園長にしてやられたのは否定しないが、私にとっても彼ら彼女らを見たかったのは事実。
だが、何故私がここに立つことになったのか…。
話は、およそ2週間前に遡る。
根緒先生に呼び出された私は、毎度のことながら学園長室に呼ばれていた。
『H.I.F』が終わってから、月一で呼び出されているので、もう何とも思ってないが周りからは何と思われているのかは考えないようにしている。
ちょっと前に、軽々しく口を利いたせいで気軽に呼び出されるようになってしまった。
だが、こうして根緒先生経由で呼ばれるのは珍しい。
裕からの、今度は何をやらかしたという視線をスルーして、私は学園長室に向かった。
学園長室に着く途中も、またあいつかと言わんばかりに見られている。
もう慣れたものだ。
学園長室に着き、ノックをして中からの返事を確認してから中に入る。
「失礼します」
「よくきたのう、孫よ」
「やっほ、おじいちゃん」
「ほほう、ちこうよれちこうよれ」
「はあ、本当におじいちゃんは寂しがり屋だなぁ」
学園長は私の姿を認めると、皺皺の手で手招きする。
私はこの前のノリで、そのまま学園長の元に行こうとして…ハッとして立ち止まった。
「…じゃなかった。
コホン、私は孫ではありません。
本物のお孫さんに怒られますよ」
「なんじゃ、折角乗っておったのに」
十王さんが聞いたら白目を剥くような会話をしている。
この前遊びすぎたことを少し後悔していると同時に、間違っても他に言ってないよなと不安に襲われた。
釘を刺したはずだが、どこまで機能してるやら…。
「相変わらず固いやつじゃ。
前はあんなにふれんどりーにしていたのにのう」
「理想の孫をイメージして演じていましたが、お気に召したようで何よりです」
なお、理想の孫のイメージサンプルは特にないから完全に妄想だ。
十王さんのお兄ちゃん的なイメージで、学園長が求める気安さを全面的に押し出したようなイメージ。
適当なイメージだったが、学園長の何かにクリティカルヒットしたようで、危うく学園長室から逃げられなくなるところだった。
チョロすぎて、お願いしたことを大体聞いてもらえたのは正直ドン引きだったが。
まあ、それはいい。
「さて、本日はどのようなご用件で?
真面目な話じゃないなら帰りますよ」
彼は私の言葉に、本来の目的を思い出したようだ。
「そうじゃった。
初星学園の
お主に入学式での学生代表挨拶を命ずる!」
私はその言葉を飲み込むことができなかった。
「………は? え?
何故私に…?
仮に私が同学年の中の首席だとしても、まだ新4年生や新3年生の方々がいますよね?」
「ふむ、おぬしの言うことももっともじゃ。
じゃが、おぬしは大事なことを忘れておる」
大事なこと…?
「何のことでしょう?」
「お主がプロデューサー科の中で、一番知名度があることじゃ。
自らの行いを思い出すがよい」
「……『H.G.F』のことだと言うのであれば、今ここであなたを始末させてもらいますが」
私は言いながら拳を固める。
私の得意なことの一つは、暴力だ。
こっちでは使ったことがないが、老骨を折って殺処分するぐらいならできるだろう。
慌てて学園長は私を制止させようとする。
「物騒なことを言うでないわい!
目が笑っとらんぞ!?」
「本気ですから。
誰のせいで壇上に上がる羽目になったと?」
「出し抜かれたおぬしが悪いじゃろう?」
悪びれもなく学園長は言い放つ。
…クソが。
「はあ、それもそうですね。
出し抜かれたのは事実です。
そこは甘んじて受け入れましょう」
「じゃろう?」
自信満々に同意する目の前の爺に、再び釘を刺す。
「次に同じことをしたら殺しますが」
「おっそろしいことを言うでない」
「冗談だと思いますか?」
殺意を込めた目線を学園長に定める。
座ったままの彼は、顔を青くした。
だが、まだ余裕があるのか泣きまねをし始めた。
「うう…孫が冷たいわい」
「だから孫じゃないと…そんなにアレが嬉しかったんですか?」
「当たり前じゃ!」
とても高齢とは思えないほどの声を上げて、学園長は力説する。
こんなんが学園長でいいのか?初星学園。
「星南も小さい頃はおじいちゃんと呼んでくれたものじゃ。
じゃが、最近は学園長、祖父、良くておじい様じゃぞ?
もっと甘えてくれてもいいと思わんか?」
「分別をつけることは必要でしょう。
人間は成長するもので、何時までも小さい子供だったら困るでしょうに」
「それはそうじゃが…もうちょっと、甘えてくれてもいいと思わんか?」
「自分で直接言ったらどうです?
態度だけで人が察するのは限界があります」
「ぐぬぬ…」
まあ、自分の祖父にもっと甘えてくるのじゃと言われる十王さんも、可哀想ではあるが。
「プライドが邪魔するなら、諦めるべきですよ。
そういえば、十王社長はどうなんです?」
「逆に聞くが、あやつがわしに甘えてくると思うか?」
「いや、まったく。
なったら大爆笑で動画を撮る自信があります」
ついでに黒井理事長にも見せる自信がある。
かなり大爆笑。
「じゃろう?
あやつは星南以上に早熟だったからのう。
可愛かったのは3歳ぐらいまでじゃ」
「想像がついてしまいますね」
お父さん、といって甘える十王社長…。
見てみたいと思うのは私だけではないと思うが、十王さんが卒倒するのは確実だろう。
「っと、脱線しすぎたわい。
話を戻すが、おぬしが一番プロデューサー科で知名度があるのは、おぬし自身がわかっているじゃろう?」
「誠に遺憾ですが否定はしません」
「それもあっての、他の候補者からもお主が適任だという声が上がったというわけじゃ」
要するに、先輩方が面倒臭がったと。
下手に目立っている後輩に対しての意趣返しか?
「…別に学生代表の挨拶に知名度は関係ないのでは?
むしろ、プロデューサーは裏方業務ですし、表に出てしまった私は悪い例でしょう」
「反面教師としてちょうどいいじゃろう?」
………なるほど。
私のようなプロデューサーを作らないために、か。
「そういう意味で見ると、確かにちょうどいいですね。
新1年生たちが気にならないと言われると、気になるのも事実。
学生代表の挨拶、拝命させていただきます」
「うむ、おぬしなら承諾すると思ったわい。
頼んだぞ、未来のプロデューサーを導くのじゃ!」
「仰せのままに」
……というわけで、私は今ここに立っている。
「―――――新入生の皆さんの今後のご活躍を心からお祈り申し上げます」
面白みのない挨拶を行った。
学園長が露骨に面白くなさそうな顔をしているのがわかる。
まあ、テンプレート染みた挨拶しかしていないので当然だろう。
ここからはアドリブだ。
「最後に、私のことを御存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、私のようにはならないでください」
会場内が騒めきに包まれる。
学生代表のあいさつで言っていいことではないのは確かだからだ。
根緒先生の表情が面白いことになっているが、努めて無視した。
さっきまでの表情とは一転、学園長が笑いを堪えるのに必死になっている。
「プロデューサーというのは、アイドルを輝かせるために全力を尽くすべきです。
本来、表舞台に立つ人間ではありません。
私は失敗してしまったので、表舞台に一度上がってしまいましたが、本来のプロデューサーのあるべき姿ではありません」
そんなことはわかっているという人と、ハッとする人で少し割れてるな。
恐らく、前者は元々プロデューサーだった人で、後者はここで初めてプロデューサーになる人か。
「ですので、皆さんが参考にするべきは、他のプロデューサー科の先輩方になります。
不安なことや心配なことがあれば、是非先輩方を頼ってください。
新入生の皆さんが、アイドルを誰よりも輝かせるための努力を最大限に積み上げ、私たちと切磋琢磨していくことを心よりお祈り申し上げ祝辞とさせていただきます」
私は一礼して、今度こそ壇上を降りた。
学園長が期待していたことも、これで十分果たせただろう。
ついでに、私に全てを押し付けた先輩方にも後輩を擦り付けることができたはず。
後一つだけ知りたかったことも、ばっちりだ。
…恐らく、
彼だけが、私が最後に話している時に、他の人よりも話を聞く姿勢が真剣すぎた。
多分、もうアイドルのスカウトを考えているからこそ、当事者意識があったから真剣に聞いていたのではないだろうか。
つまり、
幾つか考えていたパターンの中でも、一番楽な部類だ。
早めの接触…いや、彼の自主性を尊重するべきか。
あまり早い段階で不用意に接触すると、彼の自主性を削いでしまうかもしれない。
それに、恐らく彼のことなら、もう今の段階である程度は絞り込んでいるだろう。
私の担当アイドル以外なら、誰になってもいいようにはしている。
彼がどんな選択をするのか、それに対応して私の取る手段も変わる。
後手に回るのは本来好ましくないが…致し方ない。
私が目を付けた相手の顔を忘れないようにしながら、私は明日の高等部の入学式に向けて、次に担当アイドルや『
幸いだったのは、今年の初星学園の入試倍率も例年と大して変わらなかったということ。
バタフライエフェクトで入試倍率が跳ね上がったりしたら怖かったが、優秀なアイドルがいることと同じぐらいに、やべーアイドルがいることとやべープロデューサーがいることが、逆宣伝効果になったらしい。
打ち消し合って、相対的につり合いがとれたというのが私の分析だ。
逆に言うと、それを超えて入学を志望してきた生徒たちは例年よりも、さらに覚悟を決めて入学してきたと言ってもいい。
あの十王会長のライブを見て入学してくるということは、彼女に喰らいつく自信があるのかもしれないし、彼女への憧れを原動力にしてくれることだろう。
……本当に良かった。
補欠合格の枠に『花海佑芽』の名前があった時は、『ストーリー』通りではあるが万が一があったらとびくびくしたものだ。
入学することが決まったのが、かなりギリギリになったので心臓に悪かった。
他にも、私が目をつけていたアイドルたちは、無事に全員入学できている。
学園長をおじいちゃん呼びしてまで、入学者のリストをもらった甲斐があったというものだ。
その後、入学式が終わった後は事務所に戻り、担当アイドルたちと明日の打ち合わせを行った。
各々のクラスでの立ち振る舞いに関してや、どこまで話すのかと言った話だが、私は彼女たちに全てを任せることにした。
どうせ、取り繕おうとしてもどっかでボロが出るだろうから好きにしてほしい。
全員納得していたが、案の定、次の日には藤田さんから泣きの電話が入ることになった。
篠崎 士野
中立・悪
ルールにはある程度従うが、自分のためなら何でもするタイプ。
自分のためにルールを利用することも、ルールを破ることもある。
月村 手毬
中立・善
ルールにはある程度従うし、言動の出力はともあれ相手を思いやってのこと
なお、結果起こることは考慮しないものとする
秦谷 美鈴
混沌・悪
ルールには従わないし、悪いと思っても自分(または自分の大切な人)のためなら、どんなことでもやる
賀陽 燐羽
秩序・悪(善)
ルールは絶対守るが、自分のためにルールを守っている。
なお、根底には相手を思いやる気持ちがあるため、見せかけである。
藤田 ことね
混沌・中庸(悪)
ルールよりも感情に従い、良いことも悪いこともする。
友達のためや家族のためなら、ルールを破ることも厭わない。
誰かさんたちのおかげでどちらかというと、悪寄り
花岡 ミヤビ
秩序・悪
ルールを守って、自分の正しいと思ったことをする。
なお彼女にとってのルールとは、自分の勝利のことである。
ルールを守ることが正しいとは限らない。
個々人の道徳的アライメントのイメージです。
詳細を説明するのは難しいですが、ざっくりいうと性格の方針や軸のようなものだと思っていただけると。
秩序-中立-混沌 は倫理に沿った軸でルールと感情の優先度
善 -中立-悪 は道徳に沿った軸で他人を優先できるか自分を優先するか…みたいな感じです。
診断できるサイトとかあるので、興味がある方はぜひ。(リンクは迷惑になると困るので掲載しません)
なお筆者の診断結果↓
私は100%悪、100%混沌で、混沌にして悪になっている