『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される 作:プロデューサー科のもの
コラァ!!
雨夜さんと十王さんを交えて、9人でレッスンをするのが常態化しつつあった、ある日のことだった。
放課後に事務所で仕事をしようと思っていると、中等部の先生とトレーナー陣からお叱りがあった通り、秦谷さんが既に布団の中で眠りについていた。
講義の合間にも毎回様子を見に来ていたが、すやすやと可愛らしく眠っていた。
白草さんがレッスンをつけてくれて暫くした後、最近頑張りすぎたのでお休みをもらいますと言って、秦谷さんがサボり続けて早3日。
授業もレッスンもサボっている彼女は、専ら中等部の悩みの種であった。
というのも、『H.G.F』でかなりの好成績を残した上に、中等部No.1ユニットと名高い『SyngUp!』のメンバーである一人が、授業もレッスンもサボっている。
上に立つ者としては、示しがつかないどころではない。
最も、誰もがそんなことを言っても聞かない相手だと、この半年で理解しきっている。
初星学園の生徒であれば、普通科の生徒だって知っているぐらいだ。
Q.初星学園で一番素行が悪いのは誰か?
A.中等部3年1組アイドルコースの秦谷美鈴
こんなQ&Aが成立するぐらいには、彼女のサボり癖は周知の事実となっている。
ただでさえ何かと話題に上がることが多い、私の担当アイドルというのもそれに拍車をかけているのだろう。
普通の人であれば罪悪感が生まれるほどのサボりを、躊躇いなく続けることができる胆力。
傲慢のパラメーターが振り切っている彼女らしいと言えば彼女らしいだろう。
…だが、流石に3日も続けられるのは困る。
何が困るかというと、トレーナー陣からの詰めと、月村さんのフラストレーションがそろそろ限界近くまで溜まってくる頃だということだ。
人にはそれぞれのペースがと言っているものの、彼女にとってのユニットメンバーでライバルが、目の前でずっとサボっているのは彼女にとっても気が気じゃないだろう。
はぁ…体内時計が正確と本人が特技に書くだけあって、お昼の時間には何事もなかったかのようにお弁当をみんなに振舞っていたのに…。
彼女がいってらっしゃいと言って、みんなを見送っていることに誰も疑問に思わないままだった。
私自身も、そのまま講義に行った後に気づいたぐらいだ。
どうしたものかと思っていると、いつのまにか彼女が目を覚ましていた。
「ふぁ…おはようございます、プロデューサー…」
「おはようございます、秦谷さん」
まだ微睡の中にいる彼女の声は、とろけてふわふわしているような印象を受ける。
足元も覚束ないような彼女の手を取り、私は彼女を隣の席に誘導した。
「ありがとうございます、プロデューサー…」
「まだ眠いようなら、眠っていても構いませんよ」
「でも…折角プロデューサーがいるなら、お話ししたいです…」
「その元気があるならレッスンにも出てほしいのですが」
「いやです」
「まあそうですよね」
少しずつ目が覚めてきたようで、受け答えがはっきりしてきた。
かと思うと、彼女は私の体に顔を近づけてきた。
「?
どうかしましたか?」
「プロデューサー、浮気、してましたね?」
目のハイライトが消えた彼女の声は、さっきまでのふわとろオムレツみたいな感じとは異なり、寒い真冬の中で食べるかき氷みたいに冷え切っている。
浮気…?
「さっきまで、秦谷さんがレッスンに来ないことと授業に参加しないことで、トレーナー陣と先生方から集団リンチならぬ、集団ガン詰めを受けていました」
ここに来るまでに、私は中等部の先生に呼ばれていた。
まあ、秦谷さんの件だろうと思って軽い気持ちで行ったのだ。
別に担任の先生だけなら、泣きついてくるぐらいだろうと思って、高を括っていた。
部屋に入ったら、彼女たちの担任の先生とトレーナー陣が待ち構えてた。
モンスターハウスに迷い込んでしまった私は、秦谷さんが3日連続サボりをしたことで完全にキレていた先生を筆頭に、トレーナー陣からガン詰めされることになったのだ。
秦谷さんがいつ復帰するかもわからない上に、私のプロデュース方針的に強制させることもしたくない。
最初からトレーナーと担任の先生にそう言っていたが、それとこれとは話が別だ。
彼女たちも、自らの仕事として中等部の生徒を指導している。
その指導に、肝心の生徒本人が来ないのであれば、お叱りを受けても仕方ないだろう。
平謝りすることしかできず、最終的には担任の先生に泣きつかれてしまった。
「美鈴ちゃんが授業に出てくれないと、学年主任の先生に怒られるんです~~~~!!!」
「大変申し訳ございません」
「美鈴ちゃんがレッスンに出てくれないと、私もトレーナーの皆さんに怒られるんです~~~~!!!」
「大変申し訳ございません」
「へー、そういう風に思ってたんだー」
「あ、ち、違うんです!
今のは言葉の綾で…」
「はーい、こっちでお話ししようねー」
「い、嫌です~~~!
「おいたわしや、先生。
骨は拾います」
「裏切者~~~~~~!!!!」
「じゃあ、
「お手柔らかにお願いします」
「聞けない望みだ。
早く来い。殺すぞ」
「はい…」
気が付いたら詰められる対象に、先生も追加されてしまったが、トレーナー陣からのお叱りを十分に受けることになった。殺すぞはないだろ
「へえ…言い訳ですか?」
…言葉を間違えると、
私は努めて平静に言葉を選んだ。
「ただの事実です。
秦谷さんには自分のペースでと言いましたが、月村さんも限界が近いですし、そろそろレッスンに参加してもらえませんか?」
あんまり言いたくないが、平日に完全休養日を3連続取られるとは思わなかったので、思わず弱音を吐いてしまった。
彼女も、私の言葉を聞いて少し迷った後で口を開いた。
「…はあ、しかたありませんね。
これ以上、プロデューサーを困らせてしまうのも不本意ですし、まりちゃんのためとあればしかたありません」
「お願いします」
不服そうな顔をしているが、彼女自身も潮時が近いと思っていたようで、意外なほどすんなり承諾してくれた。
できれば、私が集団ガン詰めされる前に言ってほしかった。
………
「そういえば、なんでわかったんですか?
私が詰められていたことを」
「プロデューサーの服に、わたしたち以外の匂いがついています」
「…匂い、ですか?」
「他の人は気づかないかもしれませんが、わたしにはわかりますよ。
どれだけ、わたしがあなたと過ごしてきたと思っているんですか?」
なるほど。
匂い、というのは気にも留めてなかった。
自分の匂いを消すために制汗スプレーを使うことはあるが、それ以外はあまり意識してなかった。
次からは意識した方が良いのだろうか?
「そうしてください。
わたしたち以外の匂いがついているのは、不愉快なので」
「心を読まないでください」
油断も隙も無い。
最近は減ってきたが、久しぶりに心を読まれた気がする。
「これぐらい距離が近くないとできませんし、前にプロデューサーがしたことも忘れていませんから」
「何かしましたっけ?」
「………心を読めるんですよね?、とおっしゃって、わ、わたしをひたすら……可愛い可愛い可愛い…と」
「ああ、しましたね、そんなこと」
「そんなこと、ではありません!」
珍しく声を荒げた彼女の顔を見ながら、確かにそんなこともしたなと思いだした。
だが、別に何もおかしくないだろう。
「何がおかしくないんですか?」
担当アイドルが可愛くないプロデューサーなど存在しない。
秦谷さんの可愛いところ述べよと言われたら、私は延々と語り続けられる自信がある。「プロデューサー、やめてくださいね」
まず、その清楚な風貌。
顔立ちが可愛いのはもちろん、その華奢な身体も、彼女の儚さを醸し出すに十分すぎる魅力を出している。
それでいて、可愛いだけではなくカッコいい表情、妖艶な表情、拗ねた表情も、困った表情も、怒っている表情も、目のハイライトが消えて怖い表情も、全てが愛おしい。「プロデューサー、その辺で…」
ジト目で嫉妬心丸出しで見つめられるのも、怖いと思うのももちろんがあるが、それよりもかわいいと思ってしまうのは、私だけではないだろう。
性格も、他の人からすると怖いとか、傲慢とか、可愛げがないとか思う人もいるかもしれない。
だが、私から言わせれば、秦谷さんのそれは全て可愛いに通じるものだ。
確かに秦谷さんには怖い部分もあるのは否定しない。「プロデューサー?」
ハイライトをオフにして何度も詰められている私が言うのだから、それは間違いない。
だが、その根底には嫉妬心があるのだから可愛らしいものだ。「プ、プロデューサー!?」
彼女の傲慢さは、彼女自身の自らの強さの象徴と言ってもいい。
ここまで自分を信じている者も少ないだろう。
ライブを見ていれば、それは誰もがわかるだろう。
彼女のライブを見た人は、誰もが彼女に魅せられる。「………(ぷるぷる」
人によっては、努力してないのに結果を出して生意気という人もいるかもしれない。
そう思うのは仕方ないだろうが、実際に何も努力していないわけではない。
彼女は彼女ができるペースの努力は、怠らない。
必要な努力は必ず完遂するし、必要な実力は必ず身に着ける。
何も、がむしゃらにレッスンするだけが努力ではないのに、それを理解している者が少ないのは悲しい。「も、もうその辺で…」
それに、知らない人もいるかもしれないが、彼女はとても仲間想いでお世話焼きだ。
『SyngUp!』に対しての想いは、他の2人にも負けないほど強いし、『H.J.I.F』の練習が本格化して、ユニットの練習が増えたら彼女もレッスンをサボることはないだろう。
ユニットでのライブも、最近は月村さんのサポートだけではなく、時に自分を出していくこともできるようになってきた。
これからも、どんどん彼女は仲間と一緒に成長していくだろう。
それに、サボり魔である彼女は、お世話を焼くことはサボらない。
ライブ後や、どれだけ激しいレッスンの後でも、仲間の様子に気を配ってお世話を焼く彼女は、とても嬉しそうで可愛いのだ。「プロデューサー…もう、ゆるしてください…」
第一、秦谷さんは普段から最高に可愛いだろう。
藤田さんを世界一可愛いと言っているが、プロデューサーにとって担当アイドルは全員世界一可愛いのは前提だ。
だが、贔屓目抜きにしても、秦谷さんは可愛い。
容姿もさることながら、その中身まで可愛いのだから、近くにいる私はいつも頑張って堪えている。「……プロデューサー、これ以上は……」
特に、秦谷さんは可愛いだけでなく美しさも兼ねそろえている。
彼女のライブを見ている者は、正しい意味で
『ツキノカメ』も『ヨルニテ』も、秦谷さんのそういった美しさが存分に表現される最高の曲だ。
そのうち伝えるあの曲も、さらに
それらを、秦谷さんがやることで世界が彼女に取り込まれる。
文字通り、世界を彼女に染め上げるライブは、誰もが彼女の実力を実感する瞬間だろう。
そんな美しい彼女が、怒ると拗ねるのだ。
しかも、ぷいって、ぷいって。
ぷいって、なんだよ。
可愛すぎるだろう。「も、もう…やめてください…」
ぷーんって、ぷーんって。
私が何回抱きしめたいと思ったか…。「……あうあう」
その上、一緒にお昼寝しようとして、結局寝れなくて膝枕した時も、最高にかわいかった。
その後に膝枕した時も、耳まで顔を赤くして、心を許してくれていると話してくれたことが本当に嬉しかった。
前はあんなに警戒心丸出しだったのに、ここまで信頼関係を築くことができたのだと。「あううううううう……」
そんな彼女が、少しのサボりで学園中から不良生徒だと思われるのは、悲しい……ん?
私が思考を戻して秦谷さんの方に視線を移すと、顔から湯気を出して真っ赤になった顔を俯かせた秦谷さんがいた。
…可愛いな。
「可愛いですよ、秦谷さん」
「も……もう、ゆるしてください……」
「申し訳ありません。
辱めるつもりはなかったんです。
ただ、思うことを思うままに考えていただけで」
そこまで言って、私は自分の失言を悟った。
意図しない
こんなに恥ずかしがるなら、心を読まなけれいいのに。
だが、些か調子に乗りすぎた。
「……すみません、そんな意図はなかったんです」
本当に失敗した。
ここまで追い詰めるつもりはなかった。
ただ、あんまり心を読まれるのも良い気分じゃないので、少しお灸を据えようと思って、秦谷さんが恥ずかしがるかと思って考えていたのだ。
まさか、自分でも止められないとは思わなかった。
完全に私が悪いのだが、暫くして顔を上げた彼女は、私に頭を下げた。
「………いえ、わたしも、申し訳ありませんでした」
「いえいえ、私が調子に乗りすぎました」
私も頭を下げたのだが、彼女は首を振る。
「そっちではなく…わたしのサボりのことも、そこまで考えていただいたとは思わなくて…。
わたしの評価が下がると、プロデュースに影響するから…ではないんですよね?」
「それがないとは言いませんが、秦谷さんの頑張りが少しのサボりで全てなかったことにされるというのは悲しいことです。
結果を出しても、普段の様子だけで決めつける人はいますから。
まあ、実際にサボっているので否定もできませんが」
あと、何を少しと捉えるかは人によるだろう。
それに、人気が出ると変なやっかみが出るのは確かだ。
秦谷さんは顔の熱が引いたようで、ようやく平静に戻っていつも通り柔らかく微笑んだ。
「……ふふ、プロデューサーはわたしたちのことをいつも考えてくれますね」
「ええ、もちろん。
先程のこと、声に出しても言えますよ?」
「これ以上は……今は遠慮しておきます。
もう、どうにかなってしまいそうですから……」
そう言って、耳を赤くした彼女の表情は、彼女が後ろを振り向いてしまったので見ることが叶わなかった。
だが、その表情を見たら、私はまた彼女に一つ惚れ込んでしまうことを確信している。
なので、回り込んで彼女の表情を見たのだが、その後、デリカシーがないと正座でお説教をされてしまった。
今日だけで何回お説教をもらえばいいのだろうか。
なお、彼女の表情は、お説教を受けてもおつりが出るぐらいに可愛らしいものだった。
プロデューサー VS 秦谷美鈴
本日の勝敗 プロデューサーの勝利
決まり手 褒め殺し
ことねさん、まりちゃんに続いて3人目の被害者。
責めるとつよつよなのに、受けに回ってしまったのが敗因だろう。
プロデューサーの
それに、何時までも褒めてくれるのが、可愛いと言ってくれるのが嬉しくて、自分で耳を塞ぐことができなかった。
お説教をもらいながらも、ニコニコしていたプロデューサーに敗北感を感じ、そのままレッスン室に逃げるように逃走した。
その後、顔を真っ赤にしてレッスン室に駆け込んだせいで、全てを察したりんちゃんに散々煽られて二度目の敗北を期すことになる。
プロデューサーの期待に応えたくて、少しだけやる気になった。
暫く大人しくなったせいで、却って先生方およびトレーナー陣は奇妙な顔をしていた。
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水着美鈴ちゃん実装記念です。
可愛すぎて悶え死んでます。
楽曲ストーリーの2話目は全人類見るべき。
前に話していた、幕間の話ですが色々と記念が出るたびにやっていこうと思います。
例えば、お気に入り数、高評価数、UA数、コメント数、しおり数の切りが良いときや、実装記念など。
手っ取り早くは、学マ水曜日記念と称して、水曜日に投稿し続けることなのですが、流石に続かなさそうなので無理しない程度にやっていきます。
予定では、土日は本編、平日は幕間の予定です。