『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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115話目

 

 入学式、おっわりー。

 はあ…ただ聞いてるだけとはいえ、結構面倒だよナー…。

 

 藤田ことね(あたし)は、クラスメイトたちの波に乗って教室まで歩く中、そんなことを考えていた。

 昨日から、他の担当アイドル(友達)4人と合計5人でルームシェアをすることになって、手毬が興奮して中々寝てくれなかったから少し寝不足気味だ。

 

 最初は美鈴ちゃんが寝かしつけていたのに、気づいたら先に美鈴ちゃんが寝ていたせいで、矛先があたしに向かった。

 ミヤビ、あたし、手毬、美鈴ちゃん、燐羽の並びで寝ていたから、隣にいたあたしが一番割を喰うことになっちゃった…。

 燐羽は無視して寝たふりしてるし、ミヤビはすぐに寝ていたせいで、あたししか付き合う相手がいなかったのもあると思う。

 無視しようかとも思ったんだけど、妹たちを思い出して放っておけなかったんだよナー。

 手足が冷えるからって、あたしに擦り付けてくるのはやめてほしかったケド。

 

 しかも、起きたら手毬が布団の中に入り込んでたせいで、ミヤビにからかわれるし…。

 

 美鈴ちゃんが起きてたら、間違いなく面倒なことになってた。

 プロデューサーに向けられるハイライトが消えたあの目が、あたしに向かってくるところだった…。

 入学式の日でも、朝の走り込みをしてたから、早く起きる日で助かった…。

 頼むから、今日だけにしてくれよ~。

 

 教室に着いたあたしたちは、それぞれ自己紹介をすることになった。

 プロデューサーからは、好きにしていいって言われてるし、なんて言おうか考えておこう~っと。

 

 内部進学組の自己紹介は、聞かなくても大体わかるから頭の片隅に置いておくとして、問題はそっちじゃない方。

 入(・)学(・)式(・)前(・)に(・)軽(・)く(・)一(・)通(・)り(・)声(・)は(・)か(・)け(・)た(・)けど、感触が悪かった人も多いし、この機会に覚えておこう。

 

「葛城、リーリヤです。……その。

 よろしくお願いします」

 

 あたしほどじゃあないけど、あの子、お人形さんみたいで可愛い~~!

 絵本の中から出てきたお姫様みたい。

 外国人? ハーフ?なのかな。

 ちょっと言葉に自信がないのか、引っ込み思案なのか、言葉をゆっくり選んでいたように見えた。

 入学式前に声をかけた時も、なんか挙動不審だったから、軽い挨拶にしておいたんだっけ。

 

 編(・)入(・)組(・)の(・)子(・)たちのことはしっかり覚えておこう。

 人付き合いも馬鹿にならないからナ~。

 

「紫雲清夏! アイドル初心者だから、色々教えてねー。

 幼馴染のリーリヤともども、よろしくー」

 

 あー、さっき入学式前にちょっと話した清夏っちだ。

 リーリヤちゃんと幼馴染だったんだ。

 リーリヤちゃんは人見知り激しそうだから、何かあったら清夏っちに声をかけようかな。

 

 ……プ(・)ロ(・)デ(・)ュ(・)ー(・)サ(・)ー(・)が(・)言(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)アイドルも、この中にいるのかな?

 

 名前は教えてくれなかったけど、この学年に後6人も、『一番星(プリマステラ)』を獲る才能があるアイドルがいるって…。

 他の人なら信じられないけど、プロデューサーのことだから、間違いはないだろうし…。

 

 編入組は、特に注意深く見ておかなくちゃ。

 燐(・)羽(・)か(・)ら(・)も(・)お(・)願(・)い(・)さ(・)れ(・)て(・)る(・)しね。

 

「月村手毬。内部進学組(アイドル4年目)。

 今年の予定は、学園一のアイドルになること。

 クラス単位での活動もあるから、特に未経験の新入生に言っておくけど……」

 

 あたしはこの時、すごい嫌な予感がした。

 背筋に氷を突っ込まれたような、そんな嫌な予感だ。

 

 何だかんだ1年近く、こいつと付き合ってきたあたしにはわかる。

 これは……炎上の気配だ。

 

「中等部のテスト最優秀成績者(中等部No.1アイドル)の私の足を引っ張ったら……殺すから」

 

 空気が死んだ。

 文字通り、手毬の言葉で。

 

 プロデューサーには好きにやっていいって言われてたけど、マジかよこいつ!?

 

「っちょ!

 手毬! 何言っちゃってんの!?」

「何、ことね。

 人の自己紹介の時ぐらい、黙ってた方が良いよ」

 

 こ、こいつ…!

 人の気も知らないで…!

 

「黙ってられないから言ってんだっつーの!!

 初対面の人たちに使う言葉を選べー!!」

「別にいいでしょ。

 仲良しこよししたいなら他の学校に行った方が良いし、最初が肝心だって燐羽も言ってた」

「お、お前なあ…!」

 

 決めた。

 今日の晩御飯は、こいつだけピーマンのピーマン詰めだ。

 前にプロデューサーに教わった、手毬に対しての一番の嫌がらせで、わからせてやる!

 

 次の自己紹介は…こいつも編入組だな。

 入学式前に声をかけられなかった唯一のアイドル。

 

 入学式の時に壇上に上がってたから、多分その準備であまり教室に居なかったんだよナー。

 確か、首席の…。

 

「花海咲季よ!

 目指すはもちろんトップアイドル!

 入学試験首席のこのわたしが、新入生を代表して宣言するわ」

 

 あたしはモーレツに嫌な予感がした。

 しかも、こいつとは面識がないから止めようにも止められない。

 

「内部進学組だからって、偉そうにしないでよね。

 すぐに実力で黙らせてやるんだから!」

「………………………………………」

 

 自分の顔から表情が抜け落ちるのを感じた。

 

 ………へー。

 手毬を、実力で、黙らせる?

 新入生の、未経験者が?

 

 手毬の言葉のトゲがきつかったのはわかるけど、その言葉の軽さはあたしにとっても気に食わない。

 去年のライブを見てそう言っているなら、大した自信家だ。

 

 知らないって幸せだね~。

 ま、近いうちに現実見るだろうし、放置でいいか。

 

 一瞬、自分でもわかるぐらいイラってきたけど、今は我慢我慢…スマイルスマイル。

 あらら、手毬ってばそんなに睨みつけちゃって…はあ、しょうがないなぁ。

 

「も~、初日から喧嘩とかやめな~。

 せっかく同じクラスになったんだから、仲良くしよー。

 ね~?」

 

 手毬が何か言いたげな顔してるけど、知らん顔しておこう。

 

「さっきもちょっと口だしちゃったけど、あたし藤田ことね~。1年間よろー。

 あ、あと、手毬って言葉はきついけど、本当はチョ~優しいやつだから、みんな仲良くしてやってねー」

 

 言いながら、手毬の方を指差して強調する。

 当の本人は顔を真っ赤にして絶叫した。

 

「ちょ、ことね、何を勝手なこと言ってるの!?」

「アイドルなんて客商売なんだから、無駄に敵を作るなーって言ってんの。

 わかったら、大人しくクラスメイトと仲良くしなさーい。

 じゃないと、プロデューサーに言いつけちゃうゾ~?」

「ぐぬぬ…」

 

 余計なことをって言いたげな顔をしてるけど、反論できないから黙ってるナー。

 ま、大人しくしておけよー。

 ただでさえ、あたしたちの印象は良いわけじゃないのに、こんなことで評判を落とされたら困るんだよ。

 あたしが後で大変になるんだから。

 

 あと残ってるのは…こいつか。

 さっきから、我関せずでず~~~っと人が困っている時もスルーしてた、薄情者だ。

 

「花(・)岡(・)ミ(・)ヤ(・)ビ(・)と(・)申(・)し(・)ま(・)す(・)。

 去年の中等部ソロアイドルで、No.1の座を勝ち取りました。

 編入組の皆様は不慣れなこともあると思いますので、わからないことは遠慮なく聞いてくださいね」

 

 スカートの端をつまんで優雅にお辞儀をするミヤビの佇まいは、とても様になっている。

 自分の顔が引きつっているのが、頬に手を当てなくてもわかった。

 

 うっわぁ…ミヤビ(こいつ)めっちゃ猫被ってる!

 口出ししてこなかったから想像してたケド!

 教室に入った瞬間に、話しかけるなってオーラだしてたからわかってたケド!

 

 内部進学組の全員があたしと同じ感想を持ったようで、誰だこいつって顔で見ている。

 編入組の人たちは、成績優秀なのに鼻にかけない態度が好印象なのか、大半が目をキラキラさせていた。

 もう片方の成績優秀者(中等部No.1アイドル)が、あんなことを言ったせいもあると思う。

 

 そいつ、打ち負かしたやつの死体を積み上げて悦に浸るようなやつなんだけどナー。

 

 ま、でも知らぬが仏って言うし、わざわざ言わなくていっか。

 プロデューサーに好きにしていいって言われてるから、多分ミヤビも好きにしてるんだろうし。

 邪魔するのも悪いし……あ、目が合った。

 

 はいはい、邪魔はしませんよー。

 

 その後、しばらくオリエンテーションで説明があったんだけど、教室内はずっとギスギスしたまま。

 あたしも寝不足で、そこまで意識してなかったけど、あまりいい雰囲気じゃないのはわかった。

 それでも、大体のクラスメイトの情報を把握したあたしは、満足して意識を手放す寸前だった。

 

 そんなとき、清夏っちが教室内で声を上げた。

 

「みんな~! ちゅうも~~~く!!

 今日の放課後!

 1年1組の懇親会やりまーっす!

 全員参加で! よっろしくー!!」

 

 懇親会かー…今日はタイムセールがあるから、できれば参加したくないんだケド…あ、やべ。

 眠たくて手毬の手綱握るの忘れてた。

 

「は? 勝手に決めないで。

 ―――私は行かない」

 

 案の定、リードを繋がれてない狂犬チワワ(ミヤビ命名)は、自由に吠えている。

 あー…こいつは人の気も知らないで……!

 

「行かないわ! 練習したいから!」

 

 って思ってたけど、他にも協調性がないやつはいるみたい。

 手毬と同じぐらい協調性がないって、本当に大丈夫かこいつ…?

 

 まあ、隠れ蓑にはちょうどいいか。

 

「ほんっとゴメン!

 用事あるから無理~~!」

 

 可愛く両手を合わせて必死に懇願する。

 清夏っちの顔がちょっと引き気味だけど、仕方ない。

 

 卵1パック100円は見逃せない。

 プロデューサーが食材を用意してくれたりするけど、主に野菜や肉系が多いから、卵は逃したくない。

 リクエストしたら、プロデューサーは用意してくれるんだろうけど、あんまりプロデューサーの負担を増やしたくないしね。

 美鈴ちゃんと一緒に行く話でまとまってるから、今日は無理だ。

 

 あ、ミヤビもこっちにやってきた。

 

「紫雲清夏さん、でしたわね?

 親睦を深める、という意味ではとてもありがたい機会ですが、今日の今日では皆さん予定があるかと思います。

 事前に時間や日付を確認して、予定を擦り合わせてはいかがでしょうか?」

 

 ……猫かぶりっぱなしのミヤビ、違和感がやばい。

 少し鳥肌が立ってきたけど、助け舟を出してくれたのは素直にお礼を言おう。

 

 手毬のコントロールも、あたしだけじゃ無理があるから助かった。

 

「そうだね!

 ごめんごめん、急ぎすぎちゃった~!

 3人ともゴメンね?

 また別の日に企画するから!」

 

 あたしたちが悪いのに、清夏っちも優しいナー…。

 

「わたし(ミヤビ)も協力しましょう。

 クラスの空気が悪いのは、あまり気持ち良くありませんもの」

「本当!? ありがとう!

 ミヤビっち!」

「ミ、ミヤビっち…?」

 

 距離の詰め方えっぐ…。

 これがギャルパワー…!

 あのミヤビがたじたじになっている…。

 

「あ、ごめん、あだ名とかダメなタイプだった?」

「いえ、いきなりで驚いただけです。

 内部進学組には顔が利きますから、紫雲さんは編入組…特に、花海さんをお願いしてもいいですか?」

 

 言いながら、ミヤビはあたしに視線を合わせた。

 

 ああ、そういうこと。

 手助けしたんだから、そっちもしろってことかー。

 

 ……はあ、明日あたりは空けておこうかな。

 手毬…に言っても無駄か。

 

 燐羽あたりと相談してスケジュールの都合付けさせるかー。

 

「おっけー!

 じゃあ、ミヤビっち、一緒に頑張ろうー!!」

「お、おおー?」

 

 ミヤビが押されてる。

 ギャルパワー…恐るべし。

 

 手毬も自分の席に戻ってるし、この後はお昼前に解散になるケド、まだオリエンテーションが少しある。

 多分、ミヤビはあたしたち以外の内部進学組に声をかけるだろうし、あたしたちは通常営業といきますかねー。

 あ、でもプロデューサーに先に報告だけしておこーっと。

 愚痴でも言ってないとやってらんねー!

 

 あたしは人目を避けつつ教室を抜け出して、人気のない場所でプロデューサーに手毬の言動に対しての愚痴を吐き出した。

 プロデューサーは頭を抱えているようだったケド、なんか様子がおかしかったような…気のせいかな?

 

 それが気のせいじゃないことと知るのに、そこまで時間はいらなかった。

 

 

 放課後、あたしは美鈴ちゃんとタイムセールに行く予定だったんだけど…そ(・)れ(・)ど(・)こ(・)ろ(・)じ(・)ゃ(・)な(・)く(・)な(・)っ(・)ち(・)ゃ(・)っ(・)た(・)んだよねー。

 放課後にお昼を食べるのを兼ねて、待ち合わせをしていた事務所に行ったら、燐羽と美鈴ちゃんが連れてきた、花海佑芽ちゃんがいた。

 何でも、入学式に遅刻して、講堂に入る前にあたしたちのプロデューサーと話しをして、あたしたちのレッスンに参加することになったらしい。

 

 勝手にそんな話をしたプロデューサーを、燐羽が正座させて太ももを踏んづけている。

 前にもやっていたけど、プロデューサーの顔が痛そうにしているから、結構力を入れてるのがわかる。

 靴を脱いでるのは、せめてもの優しさだろう。

 

 気持ちはわかる。

 あたしも靴を脱いで反対側の太ももを踏んづけた。

 美鈴ちゃんも両肩に手を置いて全体重を預ける。

 

 プロデューサーが呻き声を上げたが、同情の余地はない。

 今日は一日、なんでも言うことを聞いてもらおう。

 じゃないと割が合わない。

 

 なにせ、今事務所内にいるのは……あたしと、燐羽、美鈴ちゃん、プロデューサーと、佑芽ちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……さらに、その友達らしい倉(・)本(・)千(・)奈(・)ちゃんと篠(・)澤(・)広(・)ちゃん。

 

 担当アイドルの高等部入学初日に、他のアイドルを3人も連れ込むプロデューサーにはおしおきが必要だよナー!!

 




紫雲清夏

原作の問題児3人衆のうち、一人(ことねっち)がマイルドに、一人(月村さん)がワイルドになってしまって心労が多いギャル。
そんな彼女の元に、一筋の光(ミヤビっち)が現れた!

常識人(仲間)が増えるよ!
やったね、清夏ちゃん!

なお……とびきりヤバいやつだということを、まだ彼女は知らない
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