『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される 作:プロデューサー科のもの
「たこ焼きが食べたい」
「は?」
唐突に手毬が素っ頓狂なことを言うから、思わず低い声が出た。
というのも、私たちは今日、完全休養日。
プロデューサーが外せない用事ができたと言って、1日不在になるとのことだったので、折角だから休養日になった。
今は、この前の『H.G.F』の振り返りを兼ねて、手毬と美鈴の部屋で全員でライブを見ている。
そんな中、燕先輩のライブをちょうど見終えたタイミング。
ミヤビが喰い入るように見ていたかと思ったら、寄り掛かってた手毬がそんなことを言うせいで、余韻が冷めてしまった。
ことねも同じ感想だったみたいで、気が付いたらジト目で手毬を見ている。
美鈴はずっとプロデューサーのGPSをスマホで見たり、手毬を撫でたりしてご満悦ね。
私たちも見ることはできるけど、別に全員で見張るものでもないから見ていない。
美鈴だけは、手毬の言葉をにこにこしながら聞いていた。
「なんで今、たこ焼きの話?」
「前に有村先輩とたこ焼きの話したのを、雨夜先輩見てたら思い出したんだよね。
ねー、今日のお昼、たこ焼きにしようよ!」
たこ焼き…たこ焼き、ね。
「私作ったことないのよね、たこ焼き」
「え?
そうなの?」
「普通、お店で買うものでしょ。
美鈴は?」
「もちろんありますよ。
大阪ではありませんが、関西の方ではたこ焼きを食べる機会が多かったですから」
「美鈴の作るたこ焼き、美味しいんだよね!
外はカリッ! 中はトロッとしてて……タコの感触がこりこりしてて、ソースをかけると…ん~~~!
今から作ろう!」
もう手毬のおなかはたこ焼きで決まったらしい。
まあ、面白そうだからいいけど。
「え、あたしも?」
「
「え~~~…ミヤビ、来ないの…?」
「うぐっ」
ああ、何かおかしいと思ったら今日の手毬、だだっ子モードじゃない。
最近、レッスンが忙しすぎた反動かしら…?
美鈴が甘やかしすぎてるせいもあるわね。
あの捨てられた子犬みたいな目で見られると、断れないのよね…。
あと少しレベルが上がると、泣き出して手に負えなくなるし。
「ああ、もう!
わかりました、
「本当!?
ありがとう、ミヤビ! 大好き!」
そう言って、手毬はミヤビに抱き着いた。
ミヤビも振りほどかないで撫で始めているあたり、手慣れてきてるわね。
美鈴が少し寂しそうな表情をしてるけど、ミヤビは別に好きでやってるわけじゃないから、ため息を吐いた。
「はぁ…今日だけですわ」
「それ、今日だけじゃなくなるわよ。
ソースは私」
「知りたくなかった真実です……」
「こいつ、マジで時々うちのちびどもより、子供になるときあるよナ~」
「そんなまりちゃんが可愛いんじゃないですか。
はい」
そう言って、美鈴は手毬を抱き寄せた。
普段なら恥ずかしがる手毬だが、気が抜けている今はなすがままね。
むしろ、自分から美鈴の胸元に頭をこすりつけてるものだから、美鈴の顔がどんどんにこやかになっている。
「ふふ、かわいいですね、まりちゃん」
「ん~~~…えへへ~~…」
「か、かわいすぎます…!」
……はぁ。
「アホ二人は置いておいて、とっとと準備をしましょう。
とりあえず、材料を買うところからね。
流石にタコは用意してないし」
「たこ焼き器も買わないといけませんし、結構準備が必要ですね」
「じゃあ、食材班とたこ焼き器とか、竹串とかの機材班。
あと、この部屋でやるには狭いから場所も用意しなくちゃいけないよナー」
確かに場所が必要ね。
寮のキッチンを借りてもいいけど、人目に付くのは面倒よね。
……あ。
「場所ならちょうどいい場所があるから大丈夫よ」
「え、マジ?」
「ええ、だから先に物を買ってきましょう。
美鈴は手毬を連れて食材を買ってきて。
ことねもそっちね」
「うげっ」
ことねが露骨に嫌そうな顔をし、美鈴が睨みつけた。
「うげっとは何ですか、ことねさん?」
「いやあ~こんな仲いい二人の間に入るのは悪いじゃん?
あたし、お邪魔じゃない?」
「お気になさらず。
誰であろうと、まりちゃんとわたしの間を引き裂くことはできませんから」
「引き裂くつもりはないんだけど」
「ことねは、この不良娘たちのお守よ。
二人に任せるのは不安だから、任せたわ」
「それが本音か!?
燐羽がこっちじゃねーの!?」
「私、食材とかのことはからっきしよ。
美鈴に全部任せてるし、ことねの方が詳しいでしょう?」
「それはそうだけど…」
絶対にその二人を連れて買い出しなんて行ったら、面倒なことになる。
ことねがいれば、最悪はないはず……よね?
どっちにしろ、たこ焼きに何が必要なのかもわからない私じゃ、行っても役に立たないのは事実。
本当の理由はことねが言うように、この二人の面倒を見るのが嫌だからだけど。
何で折角の休養日なのに、振り回されなくちゃいけないのよ…。
巻き込まれたくないミヤビも、ずっと黙ってるし。
「こっちは私とミヤビに任せなさい。
ほら、早くしないとお昼が遅れるわよ」
「そうだった!
早く行こう! 美鈴! ことね!」
「ちょ、引っ張るな~~~~~~!」
その後、ことねから何回か電話があって泣きが入ったけど、何とかなったらしい。
もう二度とこいつらとは買い物に行かねーとは、ことねの言葉だったが、その誓いは数ヶ月もしないうちに崩れることになる。
まあ、それは置いておいて、ことねたちが両手いっぱいに荷物をもって帰ってくる頃には、私とミヤビも必要そうなものをそろえていた。
軽く調べたけど、そこまで調理器具も必要なくて意外と作りやすいのね。
その辺は、寮長に言ってキッチンから借りてきた。
流し台があるわけじゃないけど、新聞紙敷けばある程度は大丈夫でしょ。
「っで、燐羽。 どこでやるの?」
「まあ、ついてきなさい」
「はいはーい…って、ここプロデューサー科じゃん」
ことねの言葉で、美鈴とミヤビは察しがついたみたい。
美鈴は特に気にしてないようだけど、ミヤビは思わず呟いていた。
「……まさか」
「え、ミヤビ分かったん?」
「あなたももうわかるはずです。
ほら、見覚えしかないでしょう?」
「………え!?
燐羽、もしかして事務所でやろうとしてる!?」
何をいまさら。
「当たり前じゃない。
私たちが使えて、人目につかなさそうなところって言ったら、ここが一番でしょ」
「ええ……プロデューサーに怒られない?」
「軽い小言はもらうかもしれないわね。
プロデューサーは怒られるかもしれないわ。
担当アイドルを放置して、高等部の先輩方にお熱なプロデューサーにはちょうどいい薬でしょう?」
仕方ないとはわかっている。
プロデューサーから受けたプランの説明も理解はしている。
でも、感情的にはあまり納得していない。
プロデューサーが他のアイドルと仲良さそうに話しているのを見ると、少しモヤモヤするのは私だけじゃない。
むしろ、全員そう思っている。
「……それもそう!」
「「「(こくこく)」」」
ことねは同意し、他の3人も頷いた。
あなたたちなら、同意してくれると思ったわ。
たまには痛い目を見てもらいましょう。
「じゃ、とっとと準備をしちゃいましょう」
もうそろそろお昼になっちゃう。
手毬の我慢も限界が近そうだし、さっさとやってしまいましょう。
「なんでタコを丸々1匹買ってきたのよ!」
「燐羽ぁ~~!
タコがくっついてきたぁ!
とってぇ!」
「ああ、もう!
じっとしてなさい!」
「ひぇっ…美鈴ちゃん、タコ〆れるんだ」
「まりちゃんのためなら、これぐらい何ともありません」
「最初からそうしてください。
はい、生地の用意はできましたわ」
「お、ミヤビ手慣れてるじゃん!」
「ただ混ぜるだけでしょう?
なんでタコを切るだけで、そんなことになっているのかが疑問です」
「丸々一匹買ってきたこいつらに言ってちょうだい」
「タコは自分で買うって手毬が聞かなくて、美鈴ちゃんと二人で別行動で買いに行ってたから…。
あたしも、たこ1匹売ってることにびっくりしたんですけど」
「そいつらを二人だけにしていいわけないでしょ。
まあ…言って聞くわけないし、仕方ないわね」
「次からは燐羽が行けよナ~」
「絶対いや」
「りんちゃん?」「燐羽!?」
タコを丸々一匹買ってきた手毬たちのせいで大変な目にあったりしたけど、なんとか形にはなった。
そのまま、美鈴が主導してたこ焼き器を広げる。
「意外と油がっつり使うんだね」
「油が足りないと上手くひっくり返りませんから。
お店のたこ焼きだと、揚げ焼きになるぐらい油を入れることもあるんですよ」
「はへ~~!
そうだったんだ~!」
「家庭用だから、あまり多くはできないんですのね」
「18個って書いてあったわね、
焼けるのも時間がかかるし…これ、たこ焼き器もう一個買ってきた方がよかったかしら?」
「初めてですし、最初は4人で1つでもいいかと思いますよ。
器械の癖もあるので、時間通り全部できるとは限りません」
「癖?
そんなのがあるのですか?」
「ええ、例えば……この子は、真ん中の火の通りが良くありませんね。
ほら、端の方はもうひっくり返せますが、真ん中はまだ固まってません」
「へー…じゃあ、出来上がりにもムラがあるわね」
「ええ、―――この辺はもう大丈夫そうです。
はい、まりちゃん。
これはソースたこ焼きなので、ソースをかけてくださいね」
「ありがとう美鈴!
ソースと青のり、マヨネーズと、かつおぶしをかけて……いただきます!
はむっ! はふっはふっ!
ん~~~~~~~!!!
おいし~~~~~~~~~!!!!!」
「本当においしそうに食べますわね」
「あ、あたしも食べたい!」
「はい、ことねさん。
りんちゃんと、花岡さんも、どうぞ。
わたしは次の用意を進めますね」
「ありがとう! 美鈴ちゃん!」
「ありがとうございます。 秦谷美鈴」
「こうやってできたのを見ると、お店のとはだいぶ違うわね」
「お店のは、それ用の器材を使っているので大きさも違いますし、出来上がりのムラも少なくてまとめて大量にできるそうです。
それと、先ほども言ったように油を大量に使って揚げ焼きのようにするのも多いので、家庭でやるとまた違った味になるんですよ」
「これはこれで美味しいわ。
今日だけじゃなくて、また今度やりたいわね」
「たこはまだまだあるので、今日だけで使いきれなさそうです」
「じゃあ、またできるってこと!?」
「ええ、早いうちに。
傷んでしまわないうちに、消費しないといけませんから」
「……ねえ、見間違いじゃなかったら、さっき足を1本だけ切ったのよね?」
「ええ、そうですよ。
たこ焼きに、そこまで大きなたこを入れれませんから。
この生地の量だと、多くても後1本ぐらいですね」
「残ったタコ、どうするの?」
「今日の晩御飯はたこのお刺身を作りましょう」
「まあ、そうなるわね」
私たちの食卓には、暫くたこが出続けることになりそう。
嫌いじゃないから別にいいけど。
そうして、私たちが暫くたこ焼きパーティーを楽しんでいると、不意に事務所の扉が開いた。
「プロデューサー、『H.I.F』の
君たちは!」
「あっ」
中に入ってきたのは、有村先輩。
ドアの鍵が掛かってなかったから、プロデューサーがいると思って入ってきたのだろう。
「なんで事務所の中でたこ焼きを!?」
「あら、有村先輩じゃない。
有村先輩も一緒にやる?
たこ焼きパーティー?」
私の言葉で、彼女が一瞬目を輝かせたのを私は見逃さなかった。
でも、先輩としての威厳を保つためか、彼女はすぐに首を振る。
「え……いや、とても魅力的な提案だけど、断らせてもらうよ。
君たちも今は見逃してあげるから、早く片付けたまえ。
事務所でやっていいことと悪いことがあるだろう?」
「別にいいでしょう?
火を扱っているわけじゃないし、今日はお休み。
誰もいない事務所でただ食事をしているだけよ」
「…物は言いようだね。
でも、プロデューサーが許すとは思えないけど」
「プロデューサーから、事務所を好きに使っていいって言われてるわよ。
第一、ここでやっているってことが、どういうことかわからない先輩じゃないでしょう?
プロデューサーはちょっと席を外しているけどね」
「え…そうなのかい?」
ふふっ、可愛いところあるじゃない。
別に嘘は言ってないわ。
たこ焼き器は火は使ってないし、プロデューサーから好きに使っていいって言われて鍵を預かっているのも事実。
後は、ちょっと(今日一日)外しているってだけよ。
「え、燐「しーっ、ですよ、まりちゃん」
「え、まさか、本気?」
「うわぁ…」
あなたたちを庇ってあげたのに、酷い言いようね。
はぁ…私もあの人に似てきちゃったかしら…。
「で、先輩はどう?
手毬から聞いてるわよ、たこ焼き、好きなんでしょ?」
「……いいのかい?
君たちの中に、ボクだけ混ざっても?」
何をいまさら。
プロデューサーが気にかけているからだけじゃなくて、私たち自身が先輩たちを気に入っているからこそ、一緒にレッスンをすることを許している。
だから、
「歓迎するわよ、有村先輩。
一緒に、タコパ、楽しみましょう?」
「……ふふ、それなら、ご一緒させてもらうよ。
ボクは、粉物には少しうるさいんだ」
そう言って竹串を持った有村先輩は、とても楽しそうだった。
粉物にうるさいというだけあって、手慣れた手つきでたこ焼きをひっくり返すさまは手慣れたもの。
すごいスピードでくるくる綺麗にひっくり返すから、手毬が目をキラキラさせていた。
有村先輩も食べ始める余裕ができたころ、だんだんみんなの手が止まり始める。
おなかがいっぱいになったのとライブ映像でも見ようって言って、ことねとミヤビが一度寮に戻ることになった。
もう粗方食べ終えて、あとは残ってる分の生地を焼いてしまわないと、悪くなるから焼くだけ焼いておくって段階になったころに、美鈴が眠くなってきましたと言って撤退。
最後に、手毬がトイレに行きたいって言ったからついていった。
その時、タイミング悪く(良く)、あさり先生とすれ違った。
「あら、賀陽さん。
『
提出してもらう書類を1枚、渡しそびれてしまって」
「すみません、今日は見てないです」
「そうですか…事務所にいるでしょうか…」
そう言って、事務所に向かって歩いて行った。
手毬は何か言いたそうにしていたけど、わざわざ地雷を踏みに行くのは嫌だったようで、大人しく黙っている。
私も今の流れで事務所に行くのは無理になったわね。
仕方なく、私たちは寮の手毬の部屋まで移動することにした。
ちょっとかわいそうだとは思うけど、まあ、そんなこともあるわ。
運が悪かったと思って、諦めて頂戴。
寮に戻る途中にことねとミヤビに会ったら、流石に可愛そうという意見が出て、彼女たちは後片付けを兼ねて事務所に戻った。
少し怒られたらしいが、それでも反省の色があったということでお咎めはなかったらしい。
後から聞いた話だけど、有村先輩は大層ショックを受けていたようで、少し悪いことしたなと思った。
後でちゃんと謝りましょう。
その後、事態を把握したプロデューサーは急遽帰ってくることになり、事態はようやく終息した。
監督不行き届きのプロデューサーと、主犯(仮)の有村先輩は反省文を書かされる羽目になったとか。
その場にいなかった私たちは、証拠不十分だったからか、特に何事もなく終わった。
プロデューサーから小言をもらったぐらい。
……ま、こんな日もあっていいわよね。
有村麻央
本日の被害者
たこ焼きを久しぶりにやれたことには満足しているが、それとこれとは別として燐羽に嵌められたことは怒っている。
だが、先んじて謝罪を受けたので和解した。
燕に暫く小言を言われたのはストレスポイントだったらしい。
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