『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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116話目

 

 1年2組の教室。

 そこに、私こと賀陽燐羽は、ぼーっと窓を眺めている。その表情は多分誰が見てもつまらなそうな表情をしていることだろう。

 

 新入生がわいのわいの騒いでるけど、別に4年目となるとそこまで新鮮なことでもない。

 第一、私たちは去年やらかしすぎたこともあって、美鈴と二人で他の内部進学組からは畏怖の目で見られている。

 隣で美鈴は机に突っ伏して寝ているが、私たちの周囲にはほとんど人がいない。

 

 まあ、それもそうでしょう。

 

 去年、あの人がついてから、私たちはずっと学園内の台風の目になっていた。

 ただでさえ何かと話題に上がりやすい私たちが、プロデューサーの悪行のせいで、さらに目立つことになってしまった。

 それ自体は良いのだけれど、プロデューサーがつくことの意味を軽く見すぎていたわ。

 変なやっかみも多かったし。

 

 喧嘩を売られることも多かったわね。

 一人残らず返り討ちにしてきたけど。

 

 高等部の先輩方からも吹っかけられたけど…同じ『Campus mode!!』で負けた時の先輩方の顔は見ものだったわね。

 

 『H.G.F』以降はそんなこともめっきり減っちゃったし、最近退屈してたのも事実。

 だから、新入生の中で私たちに迫る才能を持った子が6人もいるって聞いて、少し期待していたのだけれど……2組にはいないのかしら?

 

 あまり面白みのない子たちしかいない。

 凄い才能があるような子がいるようには、とても思えない。

 

 別の意味で気になるのは…あの子たちね。

 

「では、篠澤さんも花海さんも、今年からアイドル科に?」

「うん、そう」

「『も』ってことは―――

 もしかして千奈ちゃんも?」

「はい!

 同じ境遇の方がいて、安心しましたわ~」

「仲間だね! あたしたち、

 友達になろうよ!」

「はい、ぜひ! 篠澤さんも―――」

「うん……なろう、友達」

 

 …和やかな雰囲気ね。

 懐かしい……あんなに仲よさそうなのを見ちゃうと……3年前を思い出すわ。

 

 はぁ…あの子たちも、こんなに可愛い時期もあったのに、どうしてここまで生意気になったんだか。

 

 ……でも、苦労しそうね、あの子たち。

 まさか入学成績最下位と、ワーストツーだったなんて…ん?

 

「千奈ちゃん、広ちゃん。

 ちっちっちっち…」

「は、花海さん……?」

「そんな……まさか……」

 

 え、嘘でしょ?

 それより下なんて…

 

「補欠入学」

「「!!」」

「あたしなんて、入学試験受かってないよ!」

「まけましたわぁ~~~~~~~~!」

「下には下がいた」

「うう~~!

 ほんとに自慢じゃないよぉ……!」

 

「~~~~~~!」

 

 ダメ…笑っちゃいそう。

 コントでもやってるのかしら……?

 

 っていうか、え、じゃああの子たち…補欠入学、入試最下位、ワーストツーのワーストスリートリオ……?

 ……夢破れて、退学とかしなければいいけど。

 

「千奈ちゃん! 広ちゃん!

 3人で、這い上がっていこうね!」

「うん……いちばん下から

 はじまるのって、すごくいい」

「お、おふたりとも、ものすごーく

 前向きですわね……?」

「「楽しいから」」

「わ、わたくしだって……

 立派なアイドルになるために、ここにいるのですからっ!

 おふたりに負けず

 がんばりますわぁ~~~~~~~!」

 

 ……心配はいらないみたいね。

 もっとも、何時まで持つのかは疑問だけど。

 

 手毬が同じクラスじゃなくてよかったわ。

 足を引っ張ったら殺す…とか言い出しそうだし。

 

 何か面白いことでも起こらないかしら……

 

「そういえば、千奈ちゃん、広ちゃん!

 あたし、放課後にプロデューサーさんに会いに行くんだけど、2人も一緒に行かない?」

「佑芽、もうプロデューサーついたの?」

「ほ、本当ですか?

 花海さん!」

「う~~~ん……プロデューサーがついたっていうのは、ちょっと違うんだけど…レッスンを見てくれるんだって!」

 

 ……ん?

 え、嘘よね?

 

「あたしね、入学式に遅刻しちゃったんだけど、その時にプロデューサーさんに会って……力になってくれそうだったから、プロデュースしてみませんかって言ったんだけど、断られちゃったんだ」

「おお、佑芽、大胆」

「ええ!?

 そ、そんなことをしていたんですの!?」

「でね、もう担当アイドルがいるから、担当にはなれないけど、一緒にレッスンを見るぐらいならいいよーって。

 その人の担当アイドルが、中等部のトップだったんだって!」

「ええええええぇぇぇぇぇぇ!?

 そんなすごい方が!?」

「わたしたちとは大違い」

 

 ………あのバカ、もう他のアイドルに粉かけたのね。

 これは、またおしおきが必要みたいね。

 

 教室内を見ると、いつの間にか全員が彼女たちを見ている。

 美鈴もいつの間にか目を覚まして、彼女たち……特に、佑芽を凝視していた。

 

「は、花海さん…いつの間にか、わたくしたち、みなさんから見られていますわ…!」

「千奈ちゃんの声が大きいからだよ!」

「佑芽が一番大きい、よ」

 

 ……仕方ないわね。

 美鈴と目を合わせてから、私は彼女たちの方に向かった。

 

「そこのあなたたち、ちょっといいかしら?」

「あ、あなたは…賀陽燐羽さん、でしたわよね?」

「そう、賀陽燐羽。

 中等部No.1ユニット『SyngUp!』のリーダーよ」

「えええええええええええええええ!

 あ、プロデューサーさんが言ってた賀陽さんと秦谷さんって…」

「私と、この子のことよ」

「『SyngUp!』のメンバー、秦谷美鈴と申します。

 あと、まりちゃんを含めた3人でユニットをしています。

 よろしくお願いしますね、花海さん、篠澤さん、倉本さん」

 

 軽く挨拶をしているはずなのに、美鈴の威圧感が尋常じゃない。

 かくいう私も、あまり穏やかな顔をしている自信はない。

 

 私たちの圧に充てられたのか、千奈は縮こまっている。

 2人はまだ威勢が良さそう…少し新鮮な気持ちになるわ。

 

「花海佑芽って言ったかしら?」

「はい!

 あたしのことは、佑芽って呼んでね!」

「じゃあ、佑芽。

 放課後、ツラを貸しなさい」

「うぇええええええええええ!?

 こ、これ、漫画で見たことあるよ!

 体育館裏に呼び出されるやつ!」

 

 ……はぁ、言葉選びを間違えたわ。

 プロデューサーからも気を付けるように言われてたわね。

 

「呼び出すのは私たちの事務所よ。

 一応、プロデューサーも含めて説明してもらうわ」

「な、なんだ…それなら、よろしくお願いします!

 先輩!」

「せ、先輩?」

「あたし、アイドル1年生だから、燐羽ちゃんと美鈴ちゃんは先輩だもん」

「同い年なんだから、先輩はいらないわ。

 普通に呼びなさい」

「じゃあ…燐羽ちゃん! 美鈴ちゃん!

 これからよろしくね!」

「……よろしく」

「…よろしくお願いしますね」

 

 元気がよすぎるのも困り物ね。

 美鈴も初対面なのに押されてるの、結構珍しいわ。

 

 って考えてたら、服の裾を引っ張られた。

 誰って思って振り向くと、そこに篠澤広がいた。

 

「燐羽、美鈴」

「? 何?」

「わたしも、事務所に行ってみたい」

「…は?」

 

 何を言ってるのかしら、この子?

 

「美鈴と燐羽、中等部のトップって聞いた」

「…そうね、去年のライブ映像もみようと思えば見れるわよ」

「そのトップを育てているプロデューサー、とても興味がある。

 わたし、さっきも言ったけど成績下から2番目」

「ドべと大差ないわね」

「そう。

 さっき、3人で這い上がるって決めた。

 だから、這い上がるために、どうすればいいのか、聞いてみたい」

「わ、わたくしも、プロデューサーの方に興味がございます!

 是非、一度お会いしてみたいと思っていましたの!」

 

 ……知らないって幸せね。

 他の子たちの視線に気づいてないのかしら…?

 

 『初星学園の黒幕(フィクサー)』の名前は、結構響き渡っているはずだけど、ワーストスリーの彼女たちは知らなくても無理はないわね。

 

「先に言っておくけど、私たちのプロデューサーは『初星学園の黒幕(フィクサー)』って言われてる、鬼畜外道よ」

「はへ……?」

「おお、鬼畜外道…。

 良い響き…!」

 

 ええ…? なんでこの子は嬉しそうに目を輝かせてるの…?

 美鈴も少し引き気味になっているあたり、私がおかしいわけじゃないわよね?

 

「え、でもプロデューサーさんは、周りの人にはめられてって言ってたよ?」

「嘘よ」

「うぇええええええええええ!?

 み、美鈴ちゃん、冗談だよね?」

「りんちゃんが正しいです。

 プロデューサーが『初星学園の黒幕(フィクサー)』と呼ばれているのは、日ごろの行いの賜物です」

「うぇえええええええええええええ!?

 そ、そうだったのかぁ……!」

 

 なんで騙そうとしてたのかしら?

 まあ、ざまあないわね。

 

「ほら、初対面のアイドルを騙そうとするプロデューサーなんて、やめておいた方が良いわよ?」

「う~ん…でも、燐羽ちゃんも、美鈴ちゃんも、プロデュースされてるんだよね?」

「…そうね」

「じゃあ、やっぱり会ってみたい!

 燐羽ちゃん良い人だから、プロデューサーさんも良い人だと思う!」

「まあ…」

 

 何を言ってるのかしら、この子は?

 美鈴も、頷くのはやめなさい。

 

「……は?

 私が良い人?

 冗談きついんだけど」

「ふっふっふ、さっきもあたしたちの話を聞いて、心配そうに見てたの、知ってるんだよ?

 あたし、そういうの敏感だから!」

「そ、そうだったんですの?」

「…確かに、わたしたちがみんなから見られてるときに、助けるように出てきた。

 心配してたのなら、納得」

 

 ………失敗したわね。

 

「最悪…。はあ、本当になんでこんな面倒ごとに巻き込まれるんだか。

 わかったわ。とりあえず、事務所に連れて行くところまではしてあげる。

 後は勝手になさい」

「…リーダーがそういうなら、仕方ありませんね。

 あとでプロデューサーを問い詰めましょう」

 

 それはそう。

 後で痛い目見させないとね。

 

「は~~い! ありがとう、燐羽ちゃん! 美鈴ちゃん!」

「ありがとう。 燐羽、美鈴」

「ありがとうございます。 賀陽さん! 秦谷さん!」

「…どうしてこうなったんだか」

 

 その後は、しつこく絡んでくる3人を適当に流して、スケジュールを終えた。

 美鈴が途中で抜け出してたけど、放課後になるころには合流してたぐらいしか、変わったところはない。

 

 これが平常運転だから、別に何も変わってないわね。

 

 放課後に3人を引き連れてプロデューサー科に向かった。

 美鈴もいるから、5人の大所帯。

 広がプロデューサー科に着いただけで、動けなくなってたから一休みしてから事務所に向かった。

 

 広を千奈が支えて後ろをついてきながら歩き、事務所に着いて、私が先陣を切る。

 そして、勢いよく事務所の扉を開けると、そこでいつも通りパソコンを叩いている彼の姿があった。

 

 

 

 高等部の入学式の今日は、プロデューサー科の講義はない。

 というか、高等部の2年生以上も授業はなく、本格的に動きが始まるのは明日からだ。

 

 いつも通り、彼女たちのスケジュール調整をしている。

 『H.G.F』や『H.J.I.F』の結果がよかったからか、最近は仕事も多くて彼女たちのスケジュールも中々過密なものになっている。

 入学してから暫くは環境の変化もあるから抑えるつもりだが、いつまでできるかは正直怪しい。

 

 そんな中、ノックもなしに勢いよく事務所の扉があけ放たれた。

 

「入るわよ。

 プロデューサー、説明してもらおうかしら」

 

 乱暴にドアを蹴り飛ばして空けたのは賀陽さん。

 先頭にいた彼女の後ろに続いている彼女たちに、私は体を向けた。

 

「早速ですね。

 申し訳ありません、そちらの佑芽さ……ん……?」

 

 思わず表情が固まった。

 見てはいけないものを見てしまったような気がして、思わず2度見する。

 

 だが、何回見ても、そこにいたのは()()()()()()()()だ。

 死にかけの篠澤さんを、倉本さんが支えている光景に、思わず目を白黒させた。

 

「……は?

 何故、佑芽さん以外のお二人が……?

 馬鹿な……」

「なぜって、佑芽が来るって言ったら、来てみたいって」

「プロデューサーの方は初めて見るので、是非一度お会いしてみたいと思ってました!

 ご迷惑でしたでしょうか…?」

「ぜぇー…はぁー……つきそい。

 興味があったのと…ぜぇー…佑芽と燐羽から聞いた話が、面白そうだった」

「いえ、迷惑というわけでは…」

 

 濁したが、はっきり言おう。

 迷惑かもしれない。

 

 ……初日だぞ!?

 

 初日に、今日入学した『原始星』の半分がここにいる…!?

 この二人がこっちにいるってことは…最悪があるかもしれない……!

 もし、万が一、彼がプロデュースする予定のアイドルに、彼より先に私が出くわしてしまったとしたら……!

 

 彼の可能性が、消えてしまう……!?

 

我々の…計画が…人類とアイドルの…可能性が…!

 

 自分の顔から血の気がどんどん引くのがわかる。

 

 もし、仮にそんなことになったら死んでも詫びきれない。

 彼がアイドル業界に施す利益は、私なんかの比じゃない。

 

 やばい、プランの修正が必要か……?

 

 今からでも事務所に引き籠って一切出ないようにするべきか……?

 いや、それでは私の担当アイドルのプロデュースに支障が出る。

 だが…それで彼の担当が万が一いなくなったら………………

 

「だ、大丈夫ですか?

 プロデューサーさん?」

「ほっときなさい。

 そんなことより…」

「え、賀陽さん?

 どうして靴を脱いでらっしゃいますの?」

「こうするためよ」

 

 私が茫然としていると、賀陽さんが足を上げて私の太ももに思い切り足を降ろした。

 

「うっ!」

「ひぇっ」

「おぉ……鋭い一撃。

 バイオレンスだ、ね」

「り、燐羽ちゃん!?」

「何勝手に、佑芽をレッスンに参加させることにしたのかしら?

 私、許可した覚えないわよ」

「わたしもです。

 プロデューサーのプロデュース方針に反対するようなことはしたくありませんが、こうも勝手をされると思うところがあります」

「それは…誠に申し訳ありません。

 先に説明をするべきでした」

 

 彼女の足をいったん降ろして、私はそのまま正座して謝罪をした。

 きちんと土下座する。

 

 他の人がドン引きしているのが、雰囲気で伝わってくる。

 …篠澤さん以外。

 

「これが土下座。

 初めて見た。おもしろそう」

「わ、わたくし、もしかしてとんでもないところに来てしまったのでは…!?」

「ご、ごめんね?

 燐羽ちゃん、美鈴ちゃん…。

 迷惑だった?」

「勝手なことを言ったこいつが悪いわ。

 断れたのに断らなかったのはこいつ。

 受けるにしても、保留にして、担当アイドルに確認を取ってから承諾するのが普通の流れでしょう?」

「うぐっ!?」

 

 土下座したまま、背中に柔らかい感触と確かな重みを感じる。

 賀陽さんが、私の背中に腰を下ろしたのだ。

 

 そんな私たちを見て混乱したのか、佑芽さんの動揺を感じる。

 

「そうかな…そうかも…?」

 

 だが、賀陽さんの言葉は正しい。

 何せ、藤田さんと電話する余裕があったぐらいだ。

 しようと思えば連絡ができたが…色々と考えてやめておいた。

 

 初日のクラスでいきなり電話で席を外したら、人付き合いが悪いと思われてしまうかもしれない。

 担当アイドル同士で仲が良いのは良いことだが、社会性が高い藤田さんと慕われやすい花岡さん以外は、友達が少ない。

 

 『SyngUp!』の悪い噂は、広まるのも早いだろう。

 

 まあ、結果的におじゃんにしたのは私になってしまったかもしれないが。

 

 にこにこしながらずっと私を見つめている秦谷さんも怖い。

 正座した私の背中に腰を下ろしている賀陽さんよりも、よっぽどだ。 

 

 そのまましばらく、担当アイドルに折檻される情けない姿のプロデューサーを彼女たちに見せつけることになった。

 釈明をするために、途中で背中から降りた賀陽さんが、正座したままの私の太ももに足を降ろして、彼女の気に障った時にぐりぐりと踏みつけられる。

 

 秦谷さんは、まだにこにこと笑顔のまま。

 他の3人は、1人は困惑したままその惨状を眺め、1人はキラキラとした瞳をして、1人はオロオロと周囲を見渡していた。

 

 そんな中、先ほどのことを説明して弁明している私は、誰か助けくれないかと内心で祈っていた。

 

 その祈りがへし折れる(追加の悪魔がやってくる)まで、後27秒。




賀陽燐羽

手毬とクラスが分かれて、嬉しいような寂しいような思いでいたら、もっと面倒そうなのが3人もいて頭を抱えた。
しかも、そのうちの一人がプロデューサーと関わりがあると知り、後で絶対にシバきまわすと誓い、シバいた。

近い将来、美鈴を含めた4人に振り回される未来を幻視したが、見ないふりをして被りを振った。
今は知らない方が良いこともある。

なお、現実の非情さを思い知るまで、2日も持たなかった。
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