『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される 作:プロデューサー科のもの
藤田さんは、入って来るなり一度固まって、自己紹介をした。
2組の3人も同じように自己紹介をしたかと思うと、藤田さんはにっこりと笑顔を浮かべて、賀陽さんに踏まれている反対側の太ももに足を振り下ろした。
秦谷さんも、私の両肩に手を当てて全体重を預けてくる。
彼女たちは全員小柄で、体重だって大して重くない。
アイドルじゃなければ、もっと食べて健康的になってほしいと思うぐらいだ。
特に藤田さんと秦谷さんは、少し不安になるぐらい線が細い。
だが、それでも全体重をかけられれば、いかに軽い女性と言えど苦しくなるのは事実。
自分のしたことを顧みて、私は甘んじてその罰を受け入れた。
私は暫く痛めつけられてから解放され、椅子に座ることを許された。
気づいたら、他の全員が座っており、連れてこられた3人はそれぞれ思い思いの視線を私に向けていた。
最後に合流した藤田さんが、口火を切った。
「で、これどういう状況?」
「プロデューサーが、こちらの佑芽さんをレッスンに参加させると言ったことがことの発端です。
それを聞いて、お友達のお二人も付いてきたんですよ」
「ああ、なるほど~。
やっぱり、入学式初日に一人は捕まえてたってこと」
「ええ、わたしたちというものがいながら」
藤田さんの低い声が事務所内に響き渡る。
彼女の様子も恐ろしいが、目のハイライトが消えている秦谷さんの方が、この場にいる誰よりも恐ろしい。
そんな雰囲気に耐えかねて、倉本さんは縮み上がっている。
「ひええっ!
ア、アイドルとプロデューサーって、思ったよりも恐ろしい関係なのでしょうか…?」
「これは例外だと思う」
篠澤さんの冷静なツッコミが響く中、元気印の佑芽さんが叫び声にも近い声で疑問を投げかけた。
「プロデューサーさん!
さっき、あたしのこと騙したんですか!?」
騙す?
「何のことでしょうか?」
「しらばっくれないでよ。
さっき佑芽に、周りにはめられて『初星学園の
ああ、そのことか。
「何も嘘はついていませんよ」
「いや、嘘じゃん。
プロデューサーが
「私は一度も周りにはめられてとは言ってませんよ」
「うぇ!?
え、でもあの時、プロデューサーさん…」
「私が言ったのは、『大変遺憾ですが、何もかも私のせいになったりしたせいで、皆さんから恐れられていたりするんです』ってだけです。
何も、私が悪いことをしてないとは一言も言っていませんよ」
暗に勝手に勘違いしたのでしょうと伝えると、佑芽さんは大きな声で叫んだ。
「だ、騙しましたね!?」
「騙してはいませんよ。
自分から言い出したわけではありませんし、周りが勝手につけたあだ名には変わりありませんから」
悪びれなく言った私に、賀陽さんが呆れたように指をさした。
「……はあ、佑芽、わかったでしょう?
こいつはこういうやつよ」
「ほ、本当に悪い人だった!?」
「否定はしません」
まあ、騙そうと思った気持ちが0かと言われると、違うとは言えないし事実だ。
今後のことを考えたら隠し通すのも無理だと思っていたし、別に構わない。
それで避けられてしまうなら、それもまた『引力』だろう。
そんなことを考えていたら、賀陽さんが連れてきた3人を指した。
「あなたのことよ、この子たちのこともとっくに調べてたんでしょう?
さっき、佑芽だけじゃなく、千奈と広を見た時の反応。
……そういうことなのかしら?」
………動揺、しすぎたのか。
秦谷さんも同じように頷いている。
藤田さんは一瞬、何のことかわからないような顔をしていたが、すぐに合点がいったようで、彼女たちを何回も見た。
当の本人たちは頭に疑問符を浮かべている。
そんな中、篠澤さんが疑問を零した。
「?
プロデューサー、わたしたちのことを知ってるの?」
「プロデューサー科の生徒たるもの、入学してくるすべての生徒の情報を把握しています。
その中には、当然あなた方もいます」
「そうかもしれない。
でも、燐羽の言い方だと、特にわたしたちのことを詳しく知ってそう」
…鋭いな。
頭が回る相手はこれだから厄介だ。
威圧感は感じないが、十王社長を思い出す。
「そうです。
皆さんは何かと特殊な経歴をお持ちですから」
「特殊な経歴?」
藤田さんの疑問は他の全員がそれぞれに思っていたようで、3人を全員が見て、3人はお互いを見合わせている。
篠澤さんだけが、納得したように頷いた。
「…なるほど。
わたしのこと、知ってるんだ」
「ええ、では僭越ながら、よろしければ私からお三方の説明をさせていただきたく思います。
私の担当アイドルたちも、気になっていると思いますし、皆さんもお互いのことを知っておいた方が良いかもしれません。
言われたくないことがあるようであれば止めますが、どうでしょうか?」
私が言うと、3人とも少し迷っていたが、再び顔を見合わせて頷いた。
「別にいい、よ」
「大丈夫ですわ!」
「あたしもOKです!」
全員から許可をもらったので、彼女たち全員を視界に入るように座りなおした。
最初は…やはり、彼女からだな。
「では、まず花海佑芽さん。
入学試験の補欠合格者で、入学者名簿への登録が遅れた、ある種のイレギュラーです」
「え、そうだったんですか!?
補欠合格だったのはわかってましたけど」
「ええ、ですのでプロデューサー科の生徒であっても、あなたのことを把握している者は少ない。
むしろ、知らない方の方が大多数でしょう」
『初星コミュ』において、『十王星南』が新入生の名簿を見た時に『花海佑芽』が登録されていなかったシーンがあったのを思い出す。
恐らく、補欠合格になったのがギリギリすぎて間に合わなかったのだ。
まあ、それを分かってたから手を打ったのだが。
「あれ、じゃあ、なんでプロデューサーは知ってるんですか?」
「学園長から聞き出しました。
ちょっとした伝手があったので」
おかげで面倒なことにはなったけど、とは言わなかった。
彼女たちは少し固まって、佑芽さんが驚きの悲鳴を上げた。
「うぇええええええええええ!?
学園長から!?」
「本当に
「ひ、ひええええええ!?」
担当アイドルたちから、またかと言わんばかりのジト目を向けられているが、努めて無視した。
もういつものことだ。
それに、学園長をおじいちゃん呼びして教えてもらいましたとは、いくら担当アイドルにも言いたくない。
「続けます。
愛知の出身で、彼女のご両親は有名な元プロアスリート。
その上、企業を立ち上げているぐらい有名な方々です。
彼女自身も、中学時代にいくつかの競技に出場していました。
幼少期からある種の英才教育を受けた結果、身体能力だけであれば初星学園全体を通しても、5本の指どころか、トップレベルと言っても過言ではありません。
これは、成人男性もいるプロデューサー科、学内のトレーナー陣、職員の皆様全てを含めた全体で、です」
同じ落ちこぼれ仲間だと思っていた友達の経歴と力量に、思わず声を上げたのは倉本さんだった。
「えええええええええ!?
そ、そうだったんですの!?」
「あ、あはは~~…大体あってますけど、そうまで言われると恥ずかしいですね」
「わたしとは大違い」
佑芽さんは照れくさそうにしているが、否定はしない。
篠澤さんも少し驚いているように見える。
私の担当アイドルたちは信じられないとばかりに、彼女に視線を送っている。
なら、なんで補欠合格だったんだと言いたいのかもしれない。
まあ、それだけならよかったが、当然この紹介には穴がある。
「反面、学力面の不安は大きく、補欠合格になったのもそれが理由でしょう。
また、身体能力が高くはありますが、それと飲み込みが早いのは別問題です」
「? どういうことでしょうか?」
「秦…美鈴さんは体を動かさなくても、イメージ通りにある程度の動きができる飲み込みの速さがありますが、佑芽さんはその真逆。
体を動かしても、動かした分だけ身に着くわけではない。
ダンスの成績があまり良くなかったことから、そう予想しています」
私の言葉で、全員が佑芽さんの方に視線を向けた。
当の本人は驚きの表情のまま固まっている。
「あ、あってる…!?
まだ、あたしのダンスも観たことないのに!?」
「これが、トッププロデューサー。
分析だけで、ここまでわかるんだ」
…過大評価なので、訂正しよう。
「というより、あまりにも評価が壊滅的すぎて、そう判断せざるを得なかったというほうが正しいです。
本来、中学時代の競技シーンを見る限り、これだけ動けるのにダンスの成績が明らかに低いのはおかしいですから。
歌ならともかく」
「ひ、ひどいですっ!」
佑芽さんは何か言っているが、今の評価として受け止めてほしい。
「っと、こんなところでしょう」
「あなた、それがわかっていてレッスンに参加させることにしたの?」
「ええ。
それを抜きにしても、彼女は成長できると思います。
何せ、逆に言えば体がイメージ通りに動くようになれば、その身体能力を存分に発揮できるはず。
動ける幅が広い分、ダンスパフォーマンスの向上幅は非常に広いでしょう。
…あくまで、私の予想ですが」
「プ、プロデューサーさん…!」
それ以外にも理由はあるが、今はまだ表に出ていない。
本当にそうなるかもわからないし、ここからは実際にかかわってからじゃないとわからないだろう。
しかも、彼女を誘った理由はきちんとある。
「それに、佑芽さんだけのためではありません。
佑芽さんの優れた身体能力と一緒にレッスンをすれば、皆さんのレッスンのレベルも必然的に上がっていくでしょう。
ね、ことねさん?」
「なんであたしに…?」
「もし、編入組のアイドルが、朝の走り込みをした時に誰よりも前を走っていたら、どうなると思いますか?」
「どうって……ミヤビが、本気で追いつこうとするんじゃないですか?
あの負けず嫌いが、先を譲るわけないし……あ」
彼女は顔を青ざめさせた。
私は満足して頷き、賀陽さんに視線を向けた。
「ええ、となると、皆さん必然的にペースアップしますよね?
手毬さんも、黙っていられる質じゃないでしょう?
ね、燐羽さん?」
「………冗談でしょ?」
「冗談だと思います?」
「………聞かなきゃよかった」
賀陽さんと藤田さんは顔を青くした。
朝の走り込みや、そのほか諸々のレッスンが体力お化けを基準にされる。
それによる影響は、どちらかというと振り回されがちなこの二人が多大な影響を受けるだろう。
もっとも、行き過ぎないように私も暫くつきっきりになって無理しないように調整する必要があるが。
秦谷さんだけは涼しそうな顔をしている。
だが、恐らくあなたも巻き添えを食らうんだぞとは言わなかった。
佑芽さんの身体能力は、何も腕力だけではない。
視覚、嗅覚も非常に鋭い彼女は、どこにいても秦谷さんを連れ出すことができるだろう。
「つまり、佑芽さんをレッスンに加えるのは、win-winな関係になれそうだからという打算があるからですよ。
疑うようであれば、後で競争してみてもいいでしょう」
「遠慮しておくわ。
あなたが事前調査の内容を間違えるわけないもの」
その方面の信頼が厚くて嬉しいが、ジト目で言っているあたり不満がありありと伝わってくる。
まあ、私が悪いか。
そんなやり取りをしているうちに、藤田さんは佑芽さんに話しかけていた。
「佑芽ってすごかったんだナ~」
「えへへ~~!
伊達にお姉ちゃんと競い合ってないからね!」
「花海さん、お姉さんがいますの?」
「わたしも初耳」
「そういえば、プロデューサーが名前で呼んでるのも、そういう理由だったのか~。
納得」
…しまったな。
別に口止めをしていなかったし、する理由もなかったが。
賀陽さんが凄い顔で私を見ている。
「うん!
とっても強くて、かっこよくて…あたしはいつも負けてばっかりで…だから、絶対にお姉ちゃんに勝ちたいんだ!」
賀陽さんの表情を見れば、言いたいことはわかる。
秦谷さんも納得した様な表情で、佑芽さんを見ていた。
「……プロデューサー」
「後で話しましょう」
「……わかったわ」
だが、彼女たちの前で言うことではない。
それをわかっているからこそ、賀陽さんは理解を示してくれた。
「お姉ちゃん…そういえば、花海って言ってたけど、もしかしてお姉ちゃんって花海咲季?」
「うん!
ことねちゃんと同じクラスだよね!」
「Oh…」
「なんでそんな嫌そうな顔をしてるの?」
「い、いや、何でもない、よ?」
そういえば、藤田さんからの愚痴で入学生首席が、月村さんに喧嘩を吹っかけたって言ってたな。
その相手の妹がレッスン仲間になるかもしれないと思うと、多少気が重くなるのは仕方ないだろう。
彼女たちが佑芽さんのお姉さんの話で盛り上がりつつある中、私は次のターゲットに狙いを定めた。
藤田ことね
新しく増えそうなレッスン仲間が、同じクラスのやべーやつの妹だと知って、面倒ごとの予感をひしひしと感じている。
その悪い予感は、近いうちに現実になるだろう。
もっとも、巻き込まれるのはが彼女だけでないのは間違いない。