『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される 作:プロデューサー科のもの
目の笑っていない秦谷さんを見つめながら、内心で何が悪かったのかを考える。
賀陽さんと話をしたこと…ではないだろう。
それで怒るようなら、プロデューサーになることに賛成されなかったはずだ。
…もしかすると、昨日のレッスン後の話の内容だろうか。
だが、あれも必要な…重要な話し合いだった。
「どんな話…というと、説明は難しいですね」
「まあ…説明できないようなことをしていた…と?」
秦谷さんの顔に影ができる。
ただでさえ目が笑っていないので、迫力が増している。
言葉選びを間違えると、地雷を踏みぬきかねない怖さがあった。
「賀陽さんのプライバシーに関わる話です。
担当のプロデューサーとして、本人の許可なく話すことはしません」
「…それで、深夜まで話し込んでいた…と?」
これは…秦谷さんも噂話に踊らされてしまっているのかもしれない。
いや、確実にそうだろう。
年頃の女の子はそういう話に聡くなるというのは、アイドルであっても共通のようだ。
それに、彼女の場合は自分の一番大切な親友の近くにいる人たちの話題だ。
仮に本当だとしたら、絶対に許さないだろう。
今日何度目になるかわからない誤解を、必死に説く必要があった。
「…ちょっと待ってください。
『深夜まで話し込んでいた』はデマです。
話し込んで遅くなったのは事実ですが、それでも20時頃には寮に送り届けてます」
「証拠は?」
ノータイムで返したその声は完全に冷え切っていた。
ここで変なことを言ったら、殺されてしまいかねない…。
「証拠…賀陽さんの寮長の生徒から、門限を破らせてしまった説教を受けていたので、それが証拠になるかと思います。
確認が必要であれば、一緒に話に行きますよ」
これで信じてもらえなければ、証明にはかなり手間取ってしまう…。
そう思っていたが、秦谷さんの表情の影がなくなった。
「ふむ…嘘は言っていないようですね…。
失礼しました。質の悪い噂話が流れていたもので、少し焦ってしまっていたようです」
「誤解が解けたようで何よりです」
「話の内容は…りんちゃんのプライバシーに関わるから言えない…ということでしたね」
「そうです。
話の内容を知りたいのであれば、賀陽さんから許可をもらってください」
やはり昨日の賀陽さんとの話の内容が気になっているようだ。
だが、あの会話を勝手に説明したら、賀陽さんが怒るのは火を見るよりも明らか。
それに、私としても積極的には話したくない内容がある。
そう思い、突っぱねたが目の前の秦谷さんはむすっとした表情になった。
「…むぅ…」
「かわいらしくしてもダメです」
非常に愛らしいが、それで口を割るわけにはいかない。
少し粘っていたが、問い詰めても無理だと判断したようで、諦めたようにため息をついた。
「はぁ…わかりました。
今回は、諦めます」
「そうしてください…」
とりあえず諦めてくれたことに安堵する。
胸をなでおろしていると、目の前の彼女は微笑んだ。
「…ふふ、そう怯えないでください。
わたし、これでもプロデューサーには感謝しているんですよ」
「感謝…ですか…?
私はまだ何もしていませんよ」
まだ何も成し遂げておらず、感謝されるようなことに心当たりはなかった。
寧ろ、感謝をしたいのは私の方なのに。
「りんちゃん、昨日と今日ではまるで別人のようだったんです。
今までは授業のレッスンなんて、適当に流すばっかりだったのに、今日はまりちゃんにお手本を見せてあげる、なんて言って歌っていたんですよ」
「それは何よりです」
昨日話したことで、少しでも賀陽さんの心が軽くなったのなら、大成功だったのだろう。
少なくとも、トラウマになっていたレッスンを、少しは楽しむ余裕ができたのかもしれない。
…だが、まだまだ本気で歌えるようになるには遠いはずだ。
「だから…気になったんです。
どんな魔法を使ったのか。
…わたしでは…どうしようもない…そう思っていたので…」
…想像はしていたが、やはり、秦谷さんは賀陽さんの問題に気づいていたようだ。
しかし、自分ではどうしようもないと思って諦めていた。
もしくは、機会を窺っていたのかもしれない。
分かり合える機会を。
「…そうですね…魔法なんて大それたものを使った覚えはありませんが、強いて言うなら『襟元を開く魔法』…とでも言いましょうか」
「『襟元を開く魔法』…ですか?
りんちゃんとは、わたしたちの方が付き合いは長いですよ」
目の前の彼女の視線が強くなる。
だが、もうこれくらいのことで臆することはなかった。
「付き合いの長さだけが、襟元を開く…いえ、
むしろ、付き合いが長いからこそ、関係を悪化させたくなくなってしまい、一歩踏み出せない…ということもあると思います」
「…それは…」
私の言葉に思うところがあったのか、言葉に詰まっている。
付き合いが長いということは、いいことばかりではない。
それまで築いてきた関係性を破壊しかねないような、デリケートな話題を避けてしまう傾向が生まれてしまうことは、社会に出てもままあることだ。
逆にそれを盾にする輩が多いことも事実で、企業間取引では付き合いの長さから多少の不利益を承知で契約する場合もある。
これは、単純に良い悪いの話ではない。
ただ、
私がこの問題に触れたのは、運良く分が良い勝負だったということもあるが、何よりも
ただ、それだけの話。失うものも何もないから都合がよかった
「私は、たまたま運よく、賀陽さんの問題の解決策の一つを提示できたにすぎません。
その解決策が合っているかどうかもわからない。
ですが、前に進む…進んでもらうためには、必要だと思いました」
「…もし、その解決策が間違えていたら、どうされるのですか?」
解決策が間違えていたら…その結果がいつ出るのかは、中等部の卒業までにはわかるだろう。
だが、間違えていた場合にすることは決まっている。
「その時は、
あなた方のプロデュースを他の信頼できるプロデューサーに引き継ぎ、
責任を取る…担当アイドルを導けなかったプロデューサーに存在価値などないだろう。
ましてや、代わりの担当アイドルを持つつもりがないのであれば猶更。
『SyngUp!』が解散してしまったら、私は潔くプロデューサーを辞めるつもりだ。
成人年齢が引き下げられて18になったが、中等部の生徒はまだまだ未成年だ。
高等部の生徒よりもさらに若い、少女の人生を弄んでおいて、そのままプロデューサーとして居座り続けるのは、私の中の良心が耐えきれない。
だから、私は彼女たちをより輝かせるために全力を注ぐのだ。
彼女たちのためにも、自分のためにも。
「…どうしてそこまでされるのですか?
他の担当アイドルを持つこともできるのに」
「『
一つ、お伝えしておきましょう。
プロデューサーなんて、大抵、担当アイドルの厄介ファンなんですよ。
先日も言った通り、私はあなた方が輝く姿を見たい。
そのためには、どんなことでもします。
逆に言うと、
これは決意表明でもあり、自戒するためでもある。
うら若き少女を、自分の目的のために使い倒すことへの。
秦谷さんは少し驚いたような顔した後に、微笑んだ。
美少女というのは、それだけで絵になるのだから、凄まじい。
「…プロデューサーは、思っていたよりも、情熱的な方なのですね。
少し、思い違いをしていました」
「できることをやっているだけですよ」
「でも、誰にでもできることではありません。
ソロ曲を3曲も用意することも、りんちゃんの心を少しでも開いたことも」
…そう言われると誤解してしまうので、勘弁してほしい。
だが、まだ正直に話していない状態で、秦谷さんがそう思うのは無理もないのかもしれない。
賀陽さんには、『ソロ曲の作り方』を教えたが、秦谷さんには伝えていないからだ。
他人の成果物を横取りしただけの私に、その評価は重たい。
そう思っていた私に、秦谷さんは、ですが、と続ける。
「ですが、責任の取り方は間違っていますよ。
どんなことがあっても、わたしたちを担当し続ける、そういう責任の取り方をしてください。
焚きつけた責任を、辞めるだけで取れると思わないでくださいね」
「それは…難しいことを言いますね」
本当に難しいことを言う人だ。
だが、それもそうかもしれない。
辞めるというのは一種の逃げだと、重たすぎる責任から逃げるのは理にかなっている。
「はい。
前から思っていたことですが、辞めて終わりでは、あまりにも無責任だと思いませんか?
責任を取るというのであれば、
…私も大概だと思っていたが、秦谷さんも相当重い。
だが、担当アイドルがそう言うのであれば、それに付き合うのがプロデューサーだろう。
「…確かに、そうかもしれませんね。
わかりました。
責任を取る必要が出たときは、秦谷さんが好きにしてください。
煮て良し、焼いて良し、でもタタキはいやですが*1」
そう軽口を叩いたが、また秦谷さんの顔に影ができていた。
少し声を低くして問い詰めてくる。
「まあ…プロデューサー、わたしをなんだと思っているんですか」
『秦谷美鈴』がどんな人物か…。
「決め台詞が『わたしが上で、あなたが下です』の、7つの大罪全てを網羅している、『SyngUp!』の睡眠欲担当です」
「そんなこと言ってません!
…少々言い過ぎではないでしょうか…?」
今にも泣きそうな顔になっている目の前の少女を見て、悪ふざけが過ぎたことと『秦谷美鈴』の幻覚を見ていたことに気づく。
まだ、目の前の少女は中等部の生徒で、秦谷さんであって、『秦谷美鈴』ではない。
「申し訳ありません、悪ふざけが過ぎました。
秦谷さんは、ユニットメンバーが大好きで、お世話好きで心配性で、サボり癖があって、アイドルとしての才能がとてつもない、そんな少女です」
「…そこまでストレートに言われると…恥ずかしいですね…」
今度こそ、目の前の少女に対して、自分の印象をありのまま伝えた。
秦谷さんは頬を赤らめて、照れくさそうに顔を逸らしている。
…本当にかわいいな。いろいろ着せ替えさせたら怒るだろうか…。
「こほん、プロデューサーの覚悟は、伝わりました。
わたしも、
咳払いをした秦谷さんは、急にペースを上げる宣言をした。
何が彼女の心を動かしたのかはわからないが、率直な感想としては無理にペースを上げる必要はない。
「…気持ちは嬉しいですが、無理をしないでいいんですよ。
秦谷さんのペースで歩く…それが、秦谷さんが一番強くなれる方法だと思っています」
これは本心だ。
秦谷さんは、自分のペースを守って進むことが、一番秦谷さんを秦谷さんらしく成長させてくれる。
だが、秦谷さんはゆっくりと首を横に振った。
「そう言ってもらえるのは嬉しいのですが…
このままでは…まりちゃんが盗られちゃいますから」
…なるほど。
これは…想定外だが、良い方向に進んでいる。
『憧れる必要がないぐらい、憧れさせるようなアイドル』になってもらいたい賀陽さん。
その賀陽さんを追い抜いてしまおうと、『後ろから憧れを追い抜かしかねない』秦谷さんは、いい刺激になるだろう。
それに、暫く月村さんは賀陽さんと付きっきりだ。
ただでさえ、賀陽さんが大好きな月村さんが、より賀陽さんとべったりしてたら、一番の親友としては面白くないのかもしれない。
例え、それがもう一人の大好きな親友だとしても。
「そういうことでしたら止めませんよ。
二人は、Vocalレッスン室②にいるそうです」
「わかりました。
それでは、失礼しますね」
そうして、ぺこりと一礼した秦谷さんは、レッスン室に向かっていった。
そんな彼女の後姿を見ながら、今後のことを考える。
とりあえず、月村さんの栄養管理と、体力づくりのメニューはある程度目途が立った。
賀陽さんにも、多少は火を点けることができた…はずだ。
秦谷さんも…取りあえずは問題ないだろう。
やはり、『SyngUp!』の彼女たちのポテンシャルは計り知れない。
伊達に、プロデューサーなしでユニット活動をしていただけはある。
…後足りていないのは…
学マスのストーリーはどの程度進めていますか
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