『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される 作:プロデューサー科のもの
1年2組の愉快な仲間たちが退出した後、私は
「まず、最初に謝らせてください。
事前に連絡しなかったこと、いきなり3人もレッスンに参加してもらうことになった件を」
「そうね。
どういうつもりか教えてもらおうかしら?」
「率直に言うと、想定外です。
今朝の私の行動から、全てがイレギュラー。
私の準備不足と言ってもいいです」
素直に自らの非を認める。
完全に舞い上がってしまった結果がこれなのだから、謝罪して然るべきだ。
顔を上げると、藤田さんが少し驚きながらも、納得したような表情を浮かべていた。
「…プロデューサーがそこまで失敗を認めるの、珍しいですね」
「事実です。
野次馬根性を出して、入学式中の入り口を張っていたら、佑芽さんに見つかって突撃され、断ることができたのに引き入れたことのメリットを勘定に入れて引き入れた。
本当に失敗した。
こうなる可能性を完全に考えていなかったわけではないが、軽く考えていたのは否定できない。
だからこそ、プランが早くも半壊してしまったのだ。
悔やんでいると、賀陽さんが切り込んだ。
「野次馬根性…あの子たち、やっぱり、そういうことなのよね?」
彼女の言葉で、先ほど理解していた藤田さんと秦谷さんの表情も真剣なものになる。
隠すつもりもなかったので、私はそのまま答えを出した。
「ええ、彼女たちが今年入学してくる、『原始星』6人中の3人になります。
彼女たちはそれぞれに特化した長所があり、それを覆い隠すほどの短所があるためワーストで入学してきました」
「特化した長所?」
「ストレートに言うと、『力、金、知恵』です」
「ああ…」
「アイドルに必要かしら…?」
納得しつつも困惑している担当アイドルたちは、何も間違えていない。
絶対に必要かと言えばそうでもないとは思う。
どちらかというと、バトル漫画とかそっち系で必要になりそうだ。
「ただ、その特化した分野では、あなた方をも凌駕します。
短距離走で仮に勝てたとしても、無尽蔵に近い体力を持つ佑芽さんの相手をし続けるころには、賀陽さんでさえ体力を使い果たすことでしょう。
秦谷さんもあまり座学に取り組まなくても十分な成績を出していますが、篠澤さんのように大学に飛び級で入学して卒業するのは困難だと思います。
倉本さんは言わずもがなですね。いかに中等部の上澄みでも、彼女の資産に比べたら微々たるものでしょう」
「うわぁ…改めて聞くと、とんでもないですね…」
中途半端に何でもできるより、特化した何かがあるほうが強いとは聞くが、いくら何でも極端が過ぎるというのが彼女たちだ。
「それに、何もアイドルの才能がまるっきりないわけではない。
特化した長所のせいで見落としがちですが、彼女たちには彼女たちの強みがあります。
それを開花させうるための源泉…『アイドルへの憧れ』も十分持ち合わせてる。
それを育て、芽吹かせ、成長させる。
そうすることで、私たちに立ちはだかる強敵になりうる…そんな素質を持っているのが、彼女たちなのです」
だから、欲張って手中に収めようとした。
佑芽さんだけで留めておけばよかったものを、彼女たちも加えた理由を白状したのだ。
藤田さんと秦谷さんは納得した様な表情をしているが、賀陽さんだけはまだそれだけで納得していなかった。
「…少し信じられないわ。
入学してからワーストスリーの彼女たちが、『
賀陽さんの言葉はもっともだ。
ワーストスリーで入学してきた彼女たちが、本来獲れるような安いものではない。
本来なら、だ。
「疑うのも無理はありません。
実際、佑芽さん以外の2人が勝つには、専属のプロデューサーが着いた上で、そのプロデューサーが私の1000倍は優秀だという条件が付いてなお、運の要素もあったと思います」
「1000倍は冗談でしょ」
賀陽さんの言葉に私は首を振った。
「いえ、事実です。
スマホを素手で握り潰し、次の日にライブがやりたいという無名の担当アイドルの要望を叶え、白草さんに担当アイドル名義で果たし状を送って勝たせ、編入組の1年生に夏の『H.I.F』で『
「いや、それはもう人間じゃないわよ」
ドン引きする賀陽さんに私も頷いた。
今考えても私にはできない偉業をいくつも成しているのが『彼』だ。
私もできる限りは努力してきたつもりだが、『彼の軌跡』がなければ為せなかったことが多い上に、『彼』に及ぶべくもない。
「流石に私もスマホを握りつぶすのは無理ですね。
頑張ればへし折るぐらいならできると思いますが」
「張り合わないでください」
「ていうか、フツーへし折るのだって無理ですよ」
藤田さんが少し引き気味な表情だ。
まあ、私も実際にやったわけではないからできるかはだいぶ怪しいことは置いておこう。
秦谷さんは不満そうな表情を隠そうともせず、私に詰め寄った。
「それに、仮にそうだとしても、それでも1000倍は言いすぎです。
自らを過小評価するのは、あなたの悪い癖ですよ」
「……そうでした。
少しプランが崩壊しかけたので、自虐的になっていました」
…多少は好調だったからか、以前ほどではないものの失敗を受け入れるとメンタル的に来るものがある。
最近はそこまで表に出していなかったが、自分の浮ついた気持ちでプランを崩しかけたことは、少なからず『プロデューサー』の私を傷つけていた。
そんな中、賀陽さんは何かに気づいたように呟いた。
「崩壊?……そういえば、あなたが言う言葉が正しいなら、あの子たちを『
「あ、確かに!」
…失言だったか。
いや、どうせすぐにわかることだ。
もう私が目をつけている以上、遅かれ早かれ担当アイドルには気づかれる。
「ええ…便宜上、『彼』と呼ばせていただきます。
私ではない、皆さんを輝かせる可能性が高かった、唯一無二と言ってもいい天性のプロデューサー…。
『彼』が入学しているのを観測しています。
その『彼』が、誰を担当するのか…」
その場にいる担当アイドルたち一人一人に視線を向ける。
彼女たちの瞳には、少し不安があるのか、その奥が揺れているように見える。
「目下の私の不安はそこです。
『彼』が担当候補にしていた相手を、私が奪ってしまっていないか。
『彼』が輝かせるアイドルは、あなた方にとって強大な敵になるはず。
それを超えてこそ、『
彼にはきちんと担当アイドルを持ってもらう。
プロデューサーとしての優秀さでは、絶対に勝てない。
こんな何故かここにいるだけの人間が、現役ストレート合格を決めた優秀なプロデューサーに勝てるわけがない。
そのために積み上げてきた。
そのために準備をしてきた。
そのために鍛えあげてきた。
全てに勝たせるつもりで用意してきた。
これまでも、これからもだ。
私が賀陽さんに視線を合わせると、張りつめた緊張感が弛緩した。
「…なんだ、きちんと勝つ気でいるのね。
これ以上弱音ばっかり吐くようなら、おしおきしてあげようかと思ったのに」
「?
確かに『彼』は強敵ですが、それとあなた方が『
何せ、私の自慢の担当アイドルですから。
どんな相手だろうと、負けるはずがありません」
…改めて言葉にすると少し恥ずかしかったが、その効果は彼女たちのやる気を引き出すのに十分だった。
「……おバカ」
「はぁ~~~~~~~~!
ぷ~~~ろでゅ~~~~~しゃ~~~~~!
だいだいだいだ~~~~~~いしゅきですよ!」
「ふふ、プロデューサー。
あなたに捧げてみせますよ。
学園最強…いいえ、トップアイドルの称号を」
「期待していますよ」
頬を赤く染めつつも、3種3様の反応で喜んでいる彼女たち。
賀陽さんは目を逸らして照れくさそうに。
藤田さんはおさげを振り回さんばかりに飛び跳ねて。
秦谷さんは信頼と親愛の眼差しを向けて。
その表情を見て、私は自分の悪癖が彼女たちを苦しめていたことに気づく。
わかっていたことだが、プロデューサーとして自信がないという様子は、担当アイドルには見せるべきではない。
担当プロデューサーから、もしも勝てないと言われてしまった時、アイドルがどう思うか。
自分よりも優秀なプロデューサーというのは、私からすれば事実なのだが、そういったことも今後は口に出さないように気を付けよう。
「さて、そろそろお昼にしましょうか。
そういえば、ことねさん。
手毬さんとミヤビさんはどうしました?」
「う~ん、もう少ししたら来ると思うんですケド…。
さっきも電話で言った通り、なんか暴れ回ってるからナー…あいつら」
藤田さんが遠い目をしている。
その哀愁漂う姿に、賀陽さんが肩をポンと叩いた。
「燐羽…」
「あの二人は任せたわ。
私はこっちで手いっぱいよ」
「燐羽~~助けてよ~~!」
藤田さんが賀陽さんに抱き着いた。
泣きながら助けを求めているが、賀陽さんは賀陽さんで遠い目をしている。
「あなたなら大丈夫よ。
それとも、このサボり魔とワーストスリーの面倒を見たいって言うなら変わってあげてもいいわ」
「……ガンバリマス」
藤田さんが賀陽さんから離れて、自らの運命を受け入れた。
4人より2人の方がマシだと思ったらしい。
「りんちゃん?
わたしはお世話をする側ですよ?」
「学園一の問題児とはあなたのことよ。
知ってるかしら?
私、さっき担任の先生から、秦谷のことは頼むぞって既に言われてるわ」
「プロデューサー?」
「私はまだ先生に何も言ってません」
「日頃の行いでしょ」
同じ学園内なので、トレーナー陣と教師陣で情報交換はしていたのだろう。
第一、
「安心してください。
私からわざわざ先生に伝えてはいませんが、既に秦谷さんの素行不良は学園中に広まっています」
「え?」
「あー…まあ、そうだよナー」
「当然ね」
ショックを受けている秦谷さんと、当然だと言わんばかりに頷く二人。
まあ、意外と本人は気づかないのかもしれない。
「プロデューサー?
どうして、わたしの素行が学園中に広まっているのですか?」
「いくつか理由はありますが、秦谷さんの清楚な外見で、授業をサボりまくっているとなれば、目立つという点。
去年、私たちが中等部で散々やらかしたので、何かと話題に上がっていた『SyngUp!』のメンバー、この2点が主な理由かと」
「むぅ…」
不満げに頬を膨らませた彼女は可愛らしい。
その姿と裏腹に流れている噂は紛れもない事実で、欠片も可愛くないが。
そんなことを考えてると、事務所のドアが勢いよく開いた。
「プロデューサー! 美鈴!
おなか減った!」
「はあ…気持ちはわかりますが、もう少し大人しくしなさいな」
入ってきたのは、月村さんと花岡さんだ。
「あれ、手毬とミヤビ、一緒に来たんだ。
ミヤビ、クラスで猫被ってたから、別々だと思ってた」
「さっきそこで会ったんです。
「手毬は?」
「レッスン室とトレーニングルーム見てきた!
中等部より、高等部の方が施設が充実してる!」
「確かにそうですね。
高等部になると、体格も大きくなる方が増えるので使用できる器材も増えますから」
月村さんはともかく、花岡さんがクラスメイトと交流できているようでよかった。
彼女も彼女で、取り巻きのような子以外からは、『SyngUp!』と仲良くなってしまったからか、交流関係が乏しくなっているのは私の耳にも入ってきている。
……いや、待てよ。
「花岡さん、クラスの方と仲良くなれたようでよかったです。
参考までに、どなたと仲良くなったのか、聞いてもよろしいですか?」
「?
紫雲さんはとてもフレンドリーな方で少し話すだけで打ち解けました。
葛城さんは最初は怯えられてしまいましたが、ゲームが好きなようで今度一緒にやる約束もしています」
「そうですか。
よかったですね」
表情を可能な限り抑え込んで、私は何とか言葉を吐いた。
………いや、大丈夫だ。
別に担当アイドルと仲良くなったからと言って、どうなるわけでもない。
大丈夫…のはずだ。
その後、私は1年2組の愉快な仲間たちのことを彼女たちにも紹介し、月村さんと花岡さんにも謝罪会見をすることになった。
最後には納得してくれたが、2人は他の担当アイドルと違って、直接会っていないこともあり、完全には納得していなかった。
直接会えば変わってくれることを期待し、私は彼女たちに謝り続けるのだった。
葛城リーリヤ
オタクバレに怯えてるが、ミヤビちゃんが少しゲームをすると言っていて盛り上がってしまった。
オタクトークを我慢しきれず、少し片鱗を出していたものの、ゲームの約束をすることができてウキウキしている。
後日、趣味程度にやっていた相手を負かせ続けて、泣きながら部屋を飛び出させるとは、この時はまだ知らなかった。