『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される 作:プロデューサー科のもの
初星学園、高等部の廊下を
昨日、高等部の入学式があったから、今日は俺が入学してから3日目。
高等部の入学式には様々な生徒が集まっていて、俺の夢を叶えてくれそうなアイドルもいた。
…だが、
今年、初星学園に入学した俺は、あさり先生が言うには例年数人だけいる、数少ない現役合格の生徒らしい。
その上、アイドルをプロデュースするためには何かしらの条件があるらしく、俺は入学した時に許可されているが、他のクラスメイト達は違うみたいだ。
入学初日からプロデュース契約を結ぶことが許されている生徒は多くないらしく、現役合格と相まって、かなりのレアケースだということを知ったのは、
あること……
これは、正式名称を『
またの名を、『初星学園中等部高等部アイドル交流会』というらしい。
これまでに一度もなかった、初星学園の新しいイベントいうことで、アイドル業界ではかなり話題になった。
その上、それを企画した人物が学園長や生徒会ではなく、『プロデューサー科の一生徒』というのだ。
しかも、それは噂などではなく、学園長が直々に『H.G.F』の舞台で打ち明けた。
当時、受験勉強に勤しみながらも、初星学園のイベントということもあって、無理やり時間を作って観に行ったのだが、その時に受けた衝撃はかなりのものだった。
さらに、
俺はその姿を見て、戦慄した。
なるほど、『プロデューサー』というものは、ここまでしないといけないのかと。
アイドルをプロデュースするということが、決して簡単なことではないと理解していたつもりだが、実際に『先達』を見ると、俺の想像を遥かに上回るものだった。
自分の担当アイドルのためなら、イベントを自ら創り上げ、他者を巻き込み、必要であれば自ら先頭に立ち観客を沸かせ、アイドルを奮い立たせる。
今日の授業で、あさり先生が『プロデューサーは魔法使いでないといけない』と言っていたが、なるほど、確かにその通りだ。
…まさか、彼が入学式で挨拶をしてくれるとは思わなかったし、そこで話していたことは頷けないものだったが。
確かに他の先輩方も素晴らしいプロデューサーなのだとは思う。
だが、『H.G.F』で見た彼の担当アイドルは、『
そこには、疑いようがないほどの、アイドルとプロデューサーの信頼関係が見えた。
彼の担当アイドルは調べようと思わなくても、『H.G.F』のライブを見ればすぐにわかった。
中等部側で参加していた
それを理解した瞬間、壇上で語った彼の真意を正確に理解し、更に奮えた。
彼はあの時、高等部のアイドルたちに対して、宣戦布告をしていたのだ。
自らの担当アイドルを信頼しているからこその所業だろうが、普通出来るだろうか。
学園最強と言われている、『
その上、5人も担当アイドルを持ちながら、こんなことをやってのけた彼には畏敬の念を禁じ得ない。
彼らから学ぶものは多い。
いろいろノイズもあるので、情報の精査をしなければいけないのは難点だが。
彼は去年入学し、俺と同じ現役合格且つ、入学当初からアイドルのプロデュースを許可された人物。
毎年数人しかいないらしいが、去年は彼だけだったらしい。
今年は俺だけしかいないからか、何故か俺まで先輩方や、先生方から目を付けられているような気がする…。
気のせいだと思いたかったが、調べれば調べるほど、そう思われても仕方ないと思わざるを得ないことばかり出てきた。
中等部の大会で『SyngUp!』をソロ部門に出場させて大会荒らしをしたり、学園長や生徒会長を利用したり、961プロとも仲が良いとか。
どこまで本当か怪しいし、誇張もあるだろうが、火のない所に煙は立たぬとも言うから、警戒しておくに越したことはないだろう。
話によると、既に卒業した先輩にも同じようにヤバい人がいたらしい。
卒業してくれていてよかった。
少なくとも、俺と関わることはない。
…俺や彼らのように入学当初からアイドルをプロデュースすることが許可されたプロデューサーには、ある義務があると思う。
その義務とは、
初星学園の生徒でいる期間は、高等部にせよ中等部にせよそう長い期間じゃない。
その上、アイドルで一番輝かしい時期とも言っていい、その期間を少しも無駄にすることは許されない。
他のプロデューサーも、先にプロデュースをしている生徒がいる方が、プロデュース契約を結びやすいだろう。
だから、入学前から丹念に調べた。
どんなアイドルがいるのか、誰を担当するべきか、どのアイドルなら俺の夢を叶えられるのか。
恐らく彼の担当であるアイドルたちも調べた。
いずれ越えなければいけない壁として、立ちはだかることは間違いないからだ。
彼が『H.G.F』を企画したのも、高等部に進学した際に『
中等部のうちに経験を積ませた方が、『H.I.F』で勝ちあがるには合理的だ。
そんな中、調べているうちに見つけた一人のアイドル。
その時に感じた直感と、
俺の担当するべき…いや、
「少し、よろしいでしょうか」
「私ですか?
はい、いいですよ」
「
プロデューサー科の1年で———」
「……っ!?」
「どうかしましたか?」
「え、えっと……
ごめんなさい。
少し……いえ、すごく、びっくりしてしまって……」
……よかった。
俺のこと、覚えていてくれたんだ。
「あ、あのっ!
もしかして、私のこと……覚えて、ますか?」
「
もちろん、覚えています。
子供の頃、お世話になりました」
「よかった……。
勘違いだったり、忘れられてたりしたら、どうしようって……。
久しぶりですね。お元気でしたか?」
「はい。
姫崎さんも、お変わりなく」
「……懐かしいです。
あの……失礼なことを、言ってもいいですか?」
「どうぞ」
「ずっと、私が年上だと思っていました」
彼女の微笑む笑顔を見て、俺も思わず苦笑する。
「じつは、俺もです」
「なんだか不思議な感じ……
弟みたいに思っていたきみが、こんな素敵なプロデューサーさんになってるなんて」
少し気恥しく思っていたら、彼女はハッとして謝罪した。
「……あ、ごめんね!
つい、懐かしくて、昔みたいに話しちゃって……ちゃんと敬語で話します」
「いえ、どうか、昔のように話してください」
「ええっ!?
だ、だめですよ!
年上の先輩で、目上の人なんだし……」
「構いません。
かなりくだけた感じで接してくれる方も、割と多いと聞きますので」
「ううん……あ、でも燐羽ちゃんはそうだったし、いいのかなぁ?」
……燐羽?
もしかして、賀陽燐羽さんのことか?
「じゃあ、いまだけ……昔に戻ったつもりで、きみにお願いしてもいいかな」
「なんなりと」
少しの疑問があったが、今は目の前の彼女に集中することにした。
「それじゃあ、あの頃みたいに、呼んでくれるかな……
『莉波お姉ちゃん』って」
「………………………莉波お姉ちゃん」
「えへへ。
もっと大きな声で、呼んでみて」
「社会的に死んでしまいます」
「そ、そうかなぁ……」
幸いなことに、廊下には今は誰もいない。
もう放課後の時間だから、誰かいてもおかしくなかったが、運がよかったようだ。
「……ごほん。
冗談はさておいて、ここに来たのは、スカウトのためですか?」
「はい」
「よかったら、案内しましょうか?
寮のみんなのことなら、だいたいわかりますし——————」
「いいえ、それには及びません」
そう、その必要はない。
何故なら……
「探していた人は、目の前にいますので」
「えっ?
そ、それって……」
「あなたをスカウトしにきたんです……姫崎莉波さん」
『▶あなたをプロデュースさせてください』
「……———!?」
俺の精一杯のスカウトに、彼女は驚いた表情と……
これは…もしかして…
「……びっ……くり、したぁ。
…確認なんだけど、私で、いいの?」
「あなたがいいんです」
「そっかぁ……」
彼女は嬉しそうに頬を赤らめながらも、困ったように眉を八の字にしている。
「気持ちはすっごく嬉しいんだけど……。
私、今お世話になっているプロデューサーさんがいるんだ」
「えっ?」
目の前が真っ暗になりそうな錯覚を感じる。
目をつけていたアイドルが、既に他のプロデューサーがついている可能性を考えなかったわけじゃないが…そんな……。
「で、でも、プロデュース契約を結んでいるわけじゃなくてね。
レッスンを見てもらってるの。
その言葉で、俺の真っ暗な視界に光が差し込んだような気がした。
少し冷静になって、思考を回す。
レッスンを見ていると言っても、プロデュース契約を結んでいないということは、結べない理由があるということ。
それに、彼女にスカウトを自由に受けてくれと言ったということは、こうなることも予見していたのだろう。
なら、俺の本気の気持ちを見せるしかない。
姫崎さんの強みを引き出し切るのは、
とりあえず——
「なるほど、わかりました。
そのプロデューサーの方とお話しすることは可能でしょうか?」
「プロデューサーさんと?
ちょっと待ってね」
そう言うと、彼女はスマホを取り出した。
そのまま通話を繋げて、確認をとっているようだ。
「はい。
スカウトしてくれた方がいて……え?
あ、わかりました」
彼女は通話を付けたまま、俺の方を見た。
「一度会いたいって言ってるんだけど、いいかな?」
「構いません。
今すぐにでも」
「ありがとう!
…はい、じゃあ、今から向かいますね」
ピッと通話を切って彼女は俺の前を歩く。
「じゃあ、案内するから、一緒に行こうね」
「はい」
連れられて、俺は歩き始める。
彼女に目を付けたプロデューサーはどういう人物なのだろうか?
………ん?
いや、待てよ…。
「姫崎さん」
「?
どうかした、学くん?」
「姫崎さんのレッスンを見ていたプロデューサーの方は、どなたか聞いても良いですか?」
「あ、そういえば言ってなかったね。
ちょっと悪い噂もあるけど、良いプロデューサーさんなんだ」
「………なるほど」
嫌な予感は最悪の形で実現したらしい。
姫崎さんが賀陽さんのことを知っていたのは、彼女のレッスンを見ていたプロデューサーの担当アイドルだからなのだろう。
そういうことなら、姫崎さんのこれまでの経歴にも頷ける点が出てくる。
彼女のことを見つけたのは、『H.I.F』の
『H.I.F』の2回目の
恥ずかしいことに、それまですっかり忘れていたのだが、彼女のライブを見て俺の原点とも言うべき大切な記憶を思い出したのだ。
だから、絶対に『プロデューサー科』に合格したくて、努力を重ねた。
それが実を結んで、彼女のことを調べた。
1年生の時はユニットを組んでいたが、途中で脱退。
その後、実績らしい実績がなかったにもかかわらず、いきなり『H.I.F』の
大きな規模ではなかったが個人ライブも行っていて、クラスメイトの有村さんと連日行っていた。
その影に、『
……こんなことなら、周囲の人から姫崎さんのことも聞いておくべきだった。
直接本人と話すまでは変な先入観を持ちたくなかったから、実績や書類ベースで調べるだけにしていたが、まさか裏目に出るとは…。
「はい、着いたよ」
「ここが……」
そうして着いた場所は、プロデューサー科にある、一つの教室。
プロデュース契約を結んだ生徒に、事務所として貸与される、特に珍しくないはずの教室だ。
なのに、そこはかとない威圧感を感じるのは、俺がここにいる人物が誰かを知っているからだろう。
魔王城に入城する勇者のような気持ちで、俺はその扉を叩いたのだった。
弟月 学
俗にいう『学P』。
先達のやらかしのせいで、既に何人かには目を付けられてしまっている。
姫崎さんが『H.I.F』の
初手NTRを食らいそうになったが、何とか持ち直した……と思いきや、魔王城に突入する羽目になってしまった。
鶏が先か、卵が先か。
それを知る者はいない。
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