『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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125話目

 

 昨日のレッスンは中々濃かった。

 最後は私の担当アイドルたちが、見本として『初』を5人で通しでやった。

 咲季さん以外の3人は、まだ『初』も覚えきれていない。

 

 だが、その彼女たちでも、どれだけハイレベルなものだったかは感じたのだろう。

 終わった後、篠澤さんも倉本さんも佑芽さんも目を輝かせていた。

 咲季さんは悔しそうにしていたが、いつか絶対に勝って見せる、と呟いていたのが印象的だったな。

 

 その後は解散となった。

 咲季さんは早く寝ないといけないからと、一番に帰っていった。

 帰る直前に、1-2の3人を捕まえて、次の日は朝の走り込みもするから来るように、と伝えた時の、倉本さんの絶望の表情は今でも覚えている。

 

 そう、ついに朝の走り込みもスタートだ。

 とはいっても、篠澤さんは散歩からになるな。

 まともに走らせようとしても、恐らく数分と持たないだろう。

 

 

 色々考えながら初星学園を目指して歩くと……既に担当アイドルたちと、1年生の他のメンツ……ん?

 なんか人数がやけに多いような……。

 

 ああ、そうか。

 今日は十王さんと雨夜さん、有村さんもいるからか。

 それに、昨日帰る直前に話していなかったのに、咲季さんもいる。

 元々朝の4時に走っているからか、妹の佑芽さんに聞いたからだろう。

 

 それに、今日が初顔合わせだからか、珍しく秦谷さんまでいる。

 私が校門前に近づくと、代表してか、十王さんが近づいてきた。

 

「あら、先(・)輩(・)。

 おはよう」

「おはようございます、十王さん。

 みなさん」

「先輩に早速聞きたいのだけれど…ちょっと見ない間に、ずいぶんメンバーが増えたのね。

 莉波にプロデューサーがついた件は聞いていたけれど、こうなっているのは聞いていなかったはずよ」

 

 冷たい目で私を見ている十王さん。

 まあ、そう思われても仕方ないとは思うが、私は努めて平静を装った。

 いつの間にか、周りには全員揃っている。

 

「ええ。

 少々込み入った事情がありまして……まあ、プラン的には些事です。

 お気になさらず」

「気にならないわけないでしょう!

 また何か企んでるのね!」

「心外です。

 ほら、倉本さんが心配そうな顔をしてますよ」

 

 倉本さんに視線を向けると、非常に困ったような、申し訳なさそうな目で十王さんを見ていた。

 

「せ、星南お姉さま…ご迷惑でしたでしょうか…?」

「ち、千奈!?

 そういうわけじゃないの。

 ただ、そこの邪悪な先輩が、一言も申し送りもなく、当日顔合わせばっかりさせるから怒ってるのよ!

 あなたの担当アイドルたちの気持ちが、よくわかったわ!」

「良いこと言うわね。

 もっと言ってやって頂戴」

「それで聞くような奴じゃないだろう。

 こいつは」

「そうですよ、星南会長。

 プロデューサーは、わたしたちにも隠し事をよくするので、これぐらいで怒っていては身が持ちませんよ」

「……あなた、悪い方の信用がありすぎるのね」

「否定はしません」

 

 咲季さんからの鋭い指摘に、私は頷くしかできなかった。

 私は周囲を見渡して、全員の視線が集まってきたのを確認してから、切り出した。

 

「全員揃っていますね。

 今日から、朝の走り込み、レッスンを共同で行うことにしています。

 今日が初対面の人もいると思うので、走る前に自己紹介をしましょう」

 

 全員からの反論はなかったので、そのまま続ける。

 

「まず私から、プロデューサー科2年、篠崎士野です。

 『初星学園の黒幕(フィクサー)』と呼ばれていますが、お好きに呼んでください」

 

 そこまで自称したいわけではないが、これが一番通りがいいので仕方がない。

 私は隣にいる十王さんに視線を向け、彼女は視線が合うとそのまま頷いた。

 

「初星学園3年1組、生徒会長で『一番星(プリマステラ)』の十王星南よ!

 新入生は不安なことがあったらいつでも相談してくれて構わないわ!」

「初星学園3年1組、生徒会副会長の雨夜燕だ。

 ここに来たということは、やる気はあるのだろう。

 貴様らを徹底的に鍛えてやる。覚悟しておけ!」

「こら、燕。

 新入生を威圧しない」

「い、威圧などしておらん!」

「…まあいいか。

 3年1組、有村麻央。

 寮長をしているから、困ったことがあったら相談してくれたまえ」

 

 姫崎さんがいないため、3年生組の自己紹介が終わり、次に私は準備万端にしていた咲季さんに視線を向けた。

 

「1年1組、花海咲季よ!

 目指すは1番! トップアイドル!

 十王星南! あなたもいつか、倒して見せるんだから!」

「あら…また可愛い挑戦者ができたわね。

 楽しみにしているわ」

「1年2組! 花海佑芽です!

 お姉ちゃんともども、よろしくお願いしまーす!」

「1年2組、篠澤広。

 よろしく、ね」

「1年2組、倉本千奈ですわ。

 まだまだ未熟な身ですので、みなさまのご指導、ご鞭撻、よろしくお願いいたしますわ!」

「1年1組、藤田ことねでーす!

 よっろしく~!」

「1年1組、花岡ミヤビです。

 よろしくお願いいたします」

「1年1組、月村手毬。

 よろしく」

「1年2組、秦谷美鈴です。

 よろしくお願いしますね」

「1年2組、賀陽燐羽よ」

 

 編入組の人たちは、どちらかというと丁寧に。

 私の担当アイドルたちは既に全員と面識があったからか、軽くの紹介で済ませていた。

 

「では、始めましょう。

 篠澤さんは別メニューですが、他の皆さんは始めてください。

 目標は7時までに6周。

 最初の1周目は、コース確認もかねて、ペースを一定にして集団で。

 2周目からは、各自のペースで構いません」

 

「「「「「「「「「「「「はい」」!」」」」」」」」」」

 

 そうして、10人は走り始めた。

 残されたのは、私と篠澤さん……あと、秦谷さん。

 

「あれ、美鈴は走らないんだ」

「ええ、わたしは走るのは好きではありませんから。

 ここで、みなさんを見守っていますね。

 ですので、プロデューサー、ここは任せてもらって大丈夫ですよ」

 

 …秦谷さんの言葉は、サボっているように見受けられるかもしれないが、篠澤さんがいるからか。

 それに、確かに初日ということもあって、できることならここに一人は置いておきたいと思っていたのも事実。

 

 少し彼女に負担をかけてしまうが、ありがたく受け入れよう。

 

「そういうことでしたら…朝ごはんの時間まで、お願いします」

「任されました」

「では、篠澤さん。

 篠澤さんは、今日の1日をかけて、彼女たちのランニングコースを1周することを目標にしましょう」

「走って?」

「いいえ、とりあえず歩いてにしましょう。

 賀陽さんに体の動かし方を昨日教えてもらいましたね?」

「うん。

 燐羽、教えるのとっても上手だった。

 でも、まだぜんぜんできてない」

「そうでしょう。

 1日2日で改善できるようなものではありません。

 恐らく、今日も途中で倒れると思います」

「ふふ、よくわかってる、ね」

「ええ、私も一緒に歩くので、行きましょう」

「え、プロデューサーも、着いてきてくれるんだ」

「ルートを教えるのと、途中でへたばった時に休みながらでも、無理やり歩かせるためにです」

「……プロデューサーも燐羽も、厳しい」

「でも、厳しくされた方が良いのでしょう?」

「プロデューサーはわたしのこと、深く理解してる」

「……プロデューサー?

 本当に大丈夫でしょうか?」

「大丈夫です。

 美鈴さんだと、甘やかしてしまうと思うので、寧ろ、私か燐羽さんが適任でしょう。

 では、行ってきます」

「いってらっしゃい。

 プロデューサー、篠澤さん」

「頑張ってくる、ね」

 

 そうして、私は篠澤さんの歩行訓練を開始した。

 歩行訓練と言っても、10分もしないうちに、篠澤さんの呼吸は荒くなり、途中で崩れ落ちそうになる。

 水分を取らせ、汗をぬぐい、少し休憩してまた歩き始める。

 歩いている道中すら、ふらふらしている。

 

 だが、着実に前進している。

 

 何度か休み休み、歩きながら進んでいく。

 やがて、疲れ果て、崩れ落ちそうになる彼女を支え、ちょっとした段差に腰を下ろさせる。

 飲み物を再度取った彼女は、息も絶え絶えで口を開いた。

 

「ぜぇーーー……はぁーーー……ふふ……ぜんぜん進んでない、ね」

「無駄口叩く暇があったら歩いてください」

「鬼、悪魔、鬼畜…」

「早くしないと時間までに初星学園まで帰れませんよ」

「そうなったら、置いていってもいい」

「置いていきません。

 レッスンの面倒を見ると言った以上、投げ出すことはしません」

「……そう、なんだ。

 じゃあ、もうちょっと頑張る、ね」

 

 篠澤さんは再び歩き始めるために、立ち上がった。

 

 その時、後ろから聞き覚えのある声が、私たちの鼓膜を打つ。

 その声は………聴きたくない声でもあったかもしれない。

 

「こ、と、ねえええええええええええ!!」

「うっぎゃあああああああああああ!!!

 本性を現すの、早すぎるってぇええええええええ!!」

「待ちなさーーーーーい!

 先頭は、この花海咲季のものよ!」

「お姉ちゃん!

 待ってよ~~~~!!!」

「う、佑芽…待ってって…!」

「手毬、無理ならペース落としてもいいのよ」

「はぁ!?

 無理なんかじゃないから!」

 

 第一陣が去った後、後ろから第二陣が現れた。

 

「せ、星南お姉さま!?

 ことねお姉さま!?

 お待ちくださいませ~~~~~!」

「おい! 待て星南!!

 後輩を置いていくな!」

「はぁ…相変わらずですね…。

 追いかけたいところですが、付き合っていたら授業に身が入らなくなってしまいます………でも、弟子に負け続ける師匠は、いませんよね」

「え、ミ、ミヤビまでペースを上げた!?」

「しょ、正気か!?」

 

 後ろにいた第二陣から、花岡さんが飛び出した。

 倉本さんは必死に着いていているが、恐らく途中で限界が来そうなほどヘロヘロだ。

 有村さんは無理なペースに付き合わないぐらいのペースで、雨夜さんはついていこうと思えばついていけそうだが、倉本さんを気にしてかペースを落としている。

 生徒会長である十王さんがはっちゃけてしまったからか、しわ寄せは雨夜さんにいってしまったらしい。

 

 藤田さんが言うように、馬脚を露すのが早すぎるだろう。

 

 『一番星(プリマステラ)』の正体が、ただの面白お姉さんだと思われるじゃないか。

 いや、アイドルなんてみんな個性的で、トップアイドルにまで昇り詰めるようなアイドルは猶更変わっているのも自明の理だが。

 

「ねえ、プロデューサー。

 星南って……一番星(プリマステラ)って、変な人?」

「アイドルなんて全員変人ですよ」

「そうなんだ。

 千奈、大丈夫かな?」

「多分、次あたりでちぎれそうなので、タイミングが合えば回収しましょう」

「ちぎれる?」

「集団から離れて、追いつけなくなってしまうことです。

 ただ…あのペースで走り続けると、恐らく途中で大半が力尽きると思うので……失礼」

 

 私は秦谷さんに連絡を入れることにした。

 そうじゃないと、かなり悲惨なことになりそうだ。

 

『もしもし』

「美鈴さん、私です」

『プロデューサー、いかがなさいましたか?』

「お願いしたいことができてしまって」

『あのハイペースで走り続けている、みなさんのことですか?』

「その通りです」

『承りました』

「頼みますね」

 

 とりあえず、最低限のお願いだけしておいた。

 恐らく、藤田さんのペースは、良くて後1周ぐらいしか持たないはずだ。

 

 そして、それに追いつこうと全体のペースが跳ね上がっているので……完走できる人物は、恐らく限られるだろう。

 なるべく早めに戻らないといけないかもしれない…いや、次に抜かれるときに賀陽さんにも伝えておこう。

 

「……プロデューサーって、美鈴と仲良いね。

 以心伝心って感じがする」

「もう1年以上の付き合いですから。

 頼みごとをいくつも聞いてもらっているので、頭も上がりません」

「知ってる。

 一昨日、面白かった」

「できれば忘れてください」

「それは無理」

 

 記憶力のいい彼女のことだから、忘れられることはないだろう。

 縋るように言ったその言葉も、一蹴されてしまった。

 

 その腹いせではないが、私は努めて彼女を歩かせ続けた。

 途中で倉本さんも合流し、3人で初星学園の校門まで歩いて戻る。

 休み休み歩きながら、彼女たちと何とか時間までに校門まで戻ることができた。

 

 

 校門まで戻ると、そこは死屍累々だった。

 

 力尽きて朽ち果てている藤田さん、花岡さん。

 月村さんと賀陽さんは疲弊はしているが、まだ大丈夫そう………だが、何故か固まっている。

 咲季さん、佑芽さん、3年生組はまだまだ元気そうだが……3年生組も、何かを持ったまま固まっている。

 秦谷さんは食事の用意に取り掛かっているのだろう。

 

 いや、待てよ。

 陰で隠れて見えなかったが、月村さんが手に持っている物…3年生組の手にある……あ(・)の(・)光(・)る(・)液(・)体(・)は………まさか…!

 

「あら、あなたたちようやく戻ったのね」

「ええ、お疲れ様でした、咲季さん」

「ちょうどいいわ!

 あなたたち、これを飲みなさい!」

「はぁ…はぁ……咲季。

 それ、なに?」

「お姉ちゃん特製SSD(スーパースタミナドリンク)よ!!」

「ふわぁ……きらきらしてキレイな飲み物ですわね~」

「すごい見た目ですが、どういったものでしょうか?」

「滋養強壮、疲労回復、トレーニング効果増大よ!」

「の、飲むだけでそんなにすごい効果が……ごくっ」

「すごい、わたしも…これで健康になれる?」

「もちろんよ!

 多めに用意してよかったわ。

 プロデューサーの分もあるわよ!」

 

 キラキラした液体が入ったボトルを、キラキラした笑顔で渡してくる咲季さんに、私は断る術を持っていなかった。

 例え、必死に首を振る後ろにいる3年生の姿が見えたとしても。

 

「……ありがとうございます」

「それでは遠慮なく―――いただきますわッ!」

「いただきます」

 

 倉本さんが口に運んだのを見て、彼女だけを死地に向かわせるのは憚られたので、諦めて口に含める。

 篠澤さんも同じようにボトルを口に運んだ。

 

 …………これ、毒です。

 

 いや、もちろん誇張表現だが、毒だと思うぐらいに味が悪い。

 彼女が毒物を盛るような人間ではないのはわかっているが、口の中を暴れている、苦みのような、酸味のような、甘みのような、辛みのような、暴力的なこの味は何なんだ。

 倉本さんは泣きじゃくっているし、篠澤さんも目を回しているように見える……が、次第に目を輝かせた。

 

「んぐぅうぅぅ……ひぐッ……ひぐッ……ふぇぇ……」

「……んっ……んっ……けほっ……んっ……んっ……面白くて、不思議な味。

 ……いい」

「でしょ~?

 すっごく体に良いんだから!」

「不味いです」

「効果を重視しているもの。

 確かに、味はそれほど良くないけど」

「………」

 

 流石はマザーAIだ。

 これをそれほど良くないで済ませるのか。

 

「咲季さん、倉本さんが半泣きになるぐらいには、常人には味が良くないです。

 作ってもらった手前、申し訳ないとは思いますが……改良できるなら、してみた方が良いです」

「必要かしら?」

「私に言わせれば、毎日飲むのであれば……いえ、人に飲ませるのであれば、口当たりは良い方が良いでしょう。

 貰っておいて言うのもあれなのですが……あくまで、1ユーザーの意見として受け取ってもらえれば」

「むぅ……考えといてあげるわ」

 

 不満げな咲季さんだが、プロデューサーの私の言葉だからか、渋々受け入れてくれた。

 月村さんと賀陽さん、十王さんに雨夜さんと有村さんまで、良くやったとばかりに頷いている。

 よっぽどまずかったんだろう。

 

 気持ちはよくわかる。

 ぶっちゃけ甘く見てた。

 

 その上、咲季さんは悪意無しの善意100%で持ってきた。

 つまり、彼女は何事もなければ、これからも善意で他の人に飲ませるだろう。

 なんて恐ろしい無自覚爆弾だ。

 

 なんか凄い疲れた気がする……。

 ……ただの朝の走り込みでこれ?

 

 私はこれからの彼女たちをきちんと導くことができるのかと足取りを重くしながら、授業の準備に取り掛かるのだった。




SSD(スーパースタミナドリンク)

それは飲み物である。
それは虹色に光っている。
それの作成者は花海咲季である。
それは滋養強壮、疲労回復、トレーニング効果増大、太りすぎの人にはダイエット効果もある。

それはとても不味い。

改善されるかは、アイドルたちの味覚は、作成者とプロデューサーに掛かっている。
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