『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される 作:プロデューサー科のもの
13話目
秦谷さんと屋上で話した日から、2週間ほどが経った。
あれから起こったこととして、重要な点を挙げるとするならば、『ソロ曲の音源の目途が立ったこと』だろう。
初星学園から紹介してもらった、作曲家は端的に言うと『化け物』だった。
どれぐらいかというと、
そもそもが音楽に明るいわけではないので、実は音楽家は全員これぐらい出来るというなら、私は音楽業界で仕事をしている人全てに敬意を表する。
編曲してもらった曲も、そこまで大きな違和感がなかったが、細かなところの覚えている部分との差異を修正してもらう作業があるため、後2週間程度で完成する見込みだ。
出来たものを直接聞いて、口頭で修正をお願いする形なので、どうしても時間がかかってしまう。
3曲平行でやっているため、猶更だ。
…とんでもなく変人だったので、可能であれば直接会うのは控えたいが、修正以外にもお願い事をしてしまったので、週に2度は会わなければならない。
曲のことは、既に彼女たちに伝えており、その時の反応は上々だった。
彼女たちのレッスンは順調に進んでいるようで、秦谷さんが時々サボっていることもあるが、概ね真剣にレッスンに取り組んでおり、月村さんの食事管理も順調にできていた。
賀陽さんも、以前よりもレッスンに取り組めるようになったようで、時々事務所にやってくる秦谷さんから、報告…という名目のサボり中に話を聞いていた。
プロデューサー科は大学にあたる教育機関ではあるが、どちらかというと、高校と大きく変わらない作りだと思った方がいい。
人数が少人数のため、履修登録のようなものはなく、基本的に学年ごとに同じ講義を受ける。
講義形式ではあり大学の講義時間と同じではあるものの、同級生が同じ教室で全員授業を受ける基本スタイルは高校の方が近い感覚になるだろう。
だが、私のように既に担当アイドルを持っていたり、本業で仕事をしている生徒はいくつかの授業を免除される場合がある。
勿論、それには成績優秀且つ、レポート提出が求められることもあるため、現状利用してはいない。
今日は金曜日で、長かった週がようやく終わろうとしていた時、事務所の扉が開いた。
そこに立っていたのは、月村さんだ。
失礼します。と言ってつかつかと入ってきた彼女は、いつぞやの誰かのように私の前の席に腰を下ろした。
違ったのは、座ってすぐに彼女の方から話しかけてきたことだ。
「プロデューサー、美鈴と燐羽と話をしたんですよね。
…なんで私とは話をしてくれないんですか?
あれから、レッスンにも顔を出してくれませんし」
そう言われて、私はパソコンを叩く手を止めた。
思い返すと、今週、レッスンに顔を出せたのは最初と次の日だけで、あれ以降顔を出すことができていない。
言い訳をすると、自分の能力不足を痛感したので、プロデューサーとしての能力を伸ばすためにいろいろ手を尽くしていた。
だが、それで担当アイドルを放置してしまうのは、あってはならないことだ。
秦谷さんとはそれなりに話をしていたし、賀陽さんとも個人チャットで毎日少しはやり取りをしていたが、月村さんとだけはまだ二人きりでほとんど話ができていなかった。
数回会話をしていたぐらいで、それもほとんど業務連絡や他の二人を介してで、月村さんと腹の内をさらけ出して話したことはなかった。
これでは、プロデューサー失格だろう。
「申し訳ありません。
私も、月村さんとは話をしたいと思っていましたが、余裕がなくて、自分のことで手いっぱいになってしまっていました。
私の落ち度です。申し訳ありません」
「…わかっているならいいんです。
だから、こうしてわざわざ来てあげたんですから」
少し拗ねたようにそっぽを向いているが、それでも彼女の方から向き合いに来てくれたことに感謝しなければならない。
本来であれば、私から向き合う必要があったのだから。
「ありがとうございます。
それで、何を話しましょうか?」
「は?
そんなの、プロデューサーが考えてください」
…前言を撤回したい。
話に来たというのに、話す内容はそっちで考えろとは…?
相変わらず…彼女
「そうですね…そろそろ3週間近く経ちますが、賀陽さんとのレッスンはどうですか?」
少し考え、レッスンの状況について聞くことにした。
秦谷さんから軽くは聴いているものの、月村さん自身がどう思っているかを確認することも重要だと思ったからだ。
「燐羽とのレッスンは順調…だと思います。
気持ちよく歌えてますし、燐羽にもいろいろ教えてもらってます」
「それはよかったです」
概ね上手くいっているようで少し安心した。
だが、よく見ると彼女の表情は曇っているように見えた。
「…でも…」
「でも?」
言い淀んでいる彼女に続きを促す。
「このままで…いいのかな…って思うんです。
燐羽から教えてもらっても、燐羽を追い抜ける気がしなくて、美鈴もサボったりしているのに、私よりもずっと先にソロ曲をものにしてるんです。
燐羽だって、私に教えないで一人でやっていたら、今頃ソロ曲を完璧に仕上げているはずです。
…私が足を引っ張っているんじゃないかって…そう思うんです」
私は彼女の自己肯定感の低さを甘く見積もっていたのかもしれない。
私の中では、彼女たち三人は既に上澄みだと思っているが、彼女にとって、
「…以前も同じことを言いましたが、月村さんには才能があります。
それこそ、賀陽さんにも秦谷さんにも負けない才能が」
「そんなの…プロデューサーがそう思っているだけじゃないんですか…?
現に、美鈴にも燐羽にも…私は相手にされてない。
二人とも、いつも私を子ども扱いして…
「なるほど…」
月村さんの悩み相談は思ったよりも深刻なものだった。
歌唱力の高さに見合っていない、自己肯定感の低さは、体力の少なさと周囲の比較対象の二人が凄すぎるのが原因だ。
それに、月村さんが精神的に幼いということも一因ではあると思うが、秦谷さんのお世話好きと賀陽さんが何だかんだ面倒を見てしまうことから、子ども扱いされていると感じてもおかしくはない。
これは…次のプランを開示するしかない。
「そういうことでしたら…一つ、わかりやすく簡単にライバルだと思わせる方法がありますよ」
「え、そんな方法あるんですか…?」
私の言葉に、目を丸くした。
どんな方法があるのか、目をキラキラさせて待っている彼女に、私のとっておきのプランを端的に説明する。
「
「…は?」
理解が追い付いていないのか、さっきよりも目を丸くして私を見ている月村さんに問いかける。
「ちょうど都合よく、6月に中等部での学内オーディションがあるのはご存じですね?」
「…確かに、学内オーディションはあるけど、あれはユニットとソロは別の部門になってるよ。
高等部の『H.I.F』の予行演習を兼ねた、中等部で年2回ある『H.J.I.F』でしょ?
プロデューサーなのに、そんなことも知らないんですか?」
『学マス』をしている時にはあまり中等部の話は出ていなかったが、『中等部ナンバーワンユニット』という名称が存在していることから、中等部でもライブやオーディションがあることは予想していた。
中等部のライブ事情を調べていると、『H.I.F』の予行演習とした立ち位置で、時期を少しずらして中等部でオーディションがあることを知ったのだ。
時期を少しずらしているのは、『H.I.F』に完全に被せてしまうと学園側の負担が大きいことや、中等部、高等部のライブ両方を見たい人にとって負担が大きいからだろう。
それに、中等部の生徒が高等部のライブを、逆に高等部の生徒が中等部のライブを見ることも多いことも一因かもしれない。
アイドルコースで入学したばかりの1年生は希望者のみ、他の学年も希望者のみではあるが実質ほとんど全員が参加する形で『
学年ごとで分かれて行われるわけではないため、基本的に3年生が優勝することが多いが、去年のユニット部門では冬に開催された方で『SyngUp!』が優勝していた。
このオーディションライブは通称、『H.J.I.F』。正式名称を「初星
「ですので、
その貴重な一回を、
プラン名は「ユニット全員でソロ部門に殴り込みをかけて、他の中等部のアイドルを怖がらせましょう」*1だ。
「…はぁ!? 正気!?
私たちはユニットですよ!?」
案の定、月村さんは声を荒げた。
だが、
それに、リスキーな面もあるがこの問題を乗り越えることができれば、月村さんは一回りも二回りも大きく成長できる。
月村さん以外の二人も、大きく成長できるきっかけになる。
「ユニットだからこそです。
月村さんが今感じている思いを解消させるためには、夏の『H.J.I.F』でソロ部門で参加し、あの二人に実力を見せつけてライバル視してもらうしかありません。
じゃないと、
ユニット同士のわだかまりがあるのであれば、直接ぶつけあうしかないだろう。
「…それは…そうかも…だけど、わざわざ『H.J.I.F』でやる必要はないんじゃないですか!?」
「確かにそうかもしれません」
「だったら」
「ですが、学内オーディションで圧倒的ライブを見せつけることができれば、賀陽さんと秦谷さんが認めなくても、他の皆さんが認めてくれますよ。
月村手毬は、中等部のナンバーワンアイドルで、『SyngUp!』で一番歌が上手いのは、月村手毬だと」
月村さんの、『H.J.I.F』でやる必要がないのではないか、という言葉は一理ある。
確かに、これで貴重な機会を捨てるのはもったいなくはあるのだ。
だが、月村さんの主目的である、『賀陽さんと秦谷さんにライバル視してもらう』ためには『H.J.I.F』の大舞台である必要がある。
「…」
「そうなれば、二人も認めざるを得ないでしょう。
そのためには、賀陽さんと秦谷さんが全力のライブをした上で、月村さんが勝つ。
これ以上に、二人からライバル視してもらう方法はないと思っています。
言葉だけではなく、実績でぶん殴って黙らせて、誰が上かはっきりさせた方がいいですよ」
そして、そうでなければ月村さん自身が納得しないだろう。
審査員が白黒分けることも重要だが、それだけではなく、
そのためには、誰もが言い訳できない舞台でぶつかり合ってもらうしかない。
月村さんも頭を悩ませているが、納得してしまったと言わんばかりに私を睨みつけてきた。
「…本当に、プロデューサーていやらしいことばっかり考えますね。
無駄に説得力があるのが腹立つ…」
「お褒めにあずかり光栄です」
「褒めてないです…。
わかりました…私はソロ部門で出ることに賛成します…けど、二人とも納得するんですか、これ」
月村さんは渋々といった様子で納得していたが、他の二人の説得方法は考えている。
「納得させるようにしますよ。
いくつか方法はありますが、どうしますか?
私から二人にそれとなく説明するか、
「…本当に、本当にプロデューサーは性格が悪いです…」
月村さんは噛み締めるようにそう言って俯いている。
だが、実のところ月村さんから言った方が後腐れが少なく済むだろう。
「私から話す方がスムーズに進むかもしれませんが、月村さんが挑戦状を叩きつけたほうが、挑戦を申し込む意味は伝わりやすいと思います」
「わかってますよ!
私があの二人に挑むんですから、自分から挑戦状を叩きつけてやります!」
吹っ切れた月村さんはそう言って机を思いっきり叩いた。
手を痛めるので止めてほしいが、今の昂っている彼女には言っても無駄だろう。
「素晴らしい。
月村さんの良い点の一つですよ。格上だと思っていても、物怖じしないで挑戦心を持って挑めるそのマインドは」
「…褒めてるんですか、それ?」
そう言って訝しげに私を見ているが、間違いなく本心から言っている。
「当然褒めています。
言い方を悪くしますが、格下を蹴散らしたところで、得られるものは少ないです。
それよりも、格上に挑んで、ギリギリの勝負をした方が、勝っても負けても得られるものは大きい。
格上の相手に勇猛果敢に挑戦できることは、紛れもない長所ですよ」
「…ありがとう…ございます」
褒められて顔を背けながらも、喜んでいるのが丸わかりな彼女に、一言だけ釘を刺すことにした。
「まあ、言葉は選んだ方がいいですが」
「プロデューサーだけには言われたくないです!!
やっぱりバカにしてるじゃないですか!」
「褒めてますって」
そう言って掴みかかってくるかと言わんばかりの月村さんを宥めながら、今後のプランについて話すことにした。
プランを決めた以上は、早めに行動したほうがいい。
私は、月村さんと話をしながら、チャットで秦谷さんと賀陽さんを呼び出すことにした。
学マスのストーリーはどの程度進めていますか
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アプリをそもそも入れていない
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どのキャラも親愛度10未満
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特定のキャラのみ親愛度10まで
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特定のキャラのみ親愛度20まで
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全キャラ親愛度20まで
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特定のキャラのみ親愛度27まで
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解放可能なキャラ全て親愛度MAX