『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される 作:プロデューサー科のもの
『SyngUp!』が参加する、外部のライブイベント当日。
このイベントはユニットをメインとしたイベントで、その名を『ハーモニクス・シンフォニー』。
『一人ではなく、複数人で響かせる歌声を届けよう』…というのは建前だ。
個人で際立っているアイドルの方が昨今目立つためか、ソロで参加できるイベントの方が圧倒的に多いのが現状だ。
それを解消するための一手として設けられ、それが定着…その中でも、歌唱力に重きを置いたものとなる。
これは、『ユニット推進計画』と、私が勝手に思っている中で高校生以上を対象にしたイベントだが……実質、高校2年生以上からのイベントと言ってもいいだろう。
『この世界』は学生アイドルがかなり多く、中等部の生徒でもアイドルをしているぐらいだが、高等部1年の5月から高等部以上が対象のユニットライブに参加する生徒は珍しい。
よっぽど自信がないと難しいだろう。
実際、私たち以外だと同学年では
そして今回のイベントは週末ということもあり、学園も休日のため、いつものメンバーも観戦に来ていた。
初星学園の中とは違うため、控室に彼女たちが来ることはない。
そのため、なんとか控室を一つ抑えることはできているが、むやみやたらと人を呼び込むことはできないのだ。
それに、今回は外部イベントということもあって、ふだんとは違う雰囲気の中のライブになる。
去年も数回参加してはいたものの、今回のようにトップアイドルに近いアイドルたちとの共演となると、そこまで多くはない。
極月学園のアイドルもいると聞いていたが…
今回のイベントはユニットがメインということもあるのかもしれない。
そんな中、各々、最初のソロ曲の衣装に身を包んだ彼女たちの様子は……。
「まりちゃん、りんちゃん。
今日は…少し、本気でやるので、頑張ってついてきてくださいね」
「美鈴、珍しくやる気だよね。
そっちこそ、意気込みすぎてペース配分間違えたりしないでよね」
「こっちのセリフ。
どうしてもって言うから、セトリはあなたに合わせてあげたけど、後は好きにやらせてもらうから」
欠片も気に留めてない、至っていつも通り……というわけではないが、普段通りといっても差し支えないだろう。
秦谷さんがやる気を出しているのは…私がお願いしてしまったことを、遂行してくれているから。
未来の咲季さんの代わりに、紫雲さんの先導をするためだ。
良い意味でいつも通りの彼女たちに、私ができることは少ない。
…が、プロデューサーとして、私は彼女たちをさらに万全の状態で送り出さなければいけない。
そのためには、いつも通りではいけない…なら。
「賀陽燐羽」
「何よ。いきなりフルネームなんて」
「月村手毬」
「な、なんですか?」
「秦谷美鈴」
「はい」
全員の視線が集まったことを確認し、私は一度目を閉じる。
そして、意識を切り替え、ゆっくりと目を開いて、彼女たちを見渡した。
「仕事の時間だ」
普段の口調から変えて、声のトーンも落とし、場を厳粛なものに書き換える。
私の中で重大な意味がある言葉は、場の空気を切り替えるのに十分だった。
「今回のイベント、『ハーモニクス・シンフォニー』…簡単に言えば、ユニットで活動しているアイドルにとっての、登竜門だ。
6大オーディションほどではないが、ユニットに限って言えばそれに準ずると言っても過言ではない。
メディアからの注目度も他のイベントに比べてそれなりに高く、出場するアイドルも知名度が高いのがわかるだろう。
学生アイドルだけではなく、既に事務所に所属しているアイドルも出場しているぐらいだ。
高等部以上のアイドルが参加できるこのイベントは、実績だけで言えば格上と言っていい」
「そんなこと今更言われなくてもわかってるわ。
だからと言って、やることは変わらないでしょ」
賀陽さんが身も蓋もないことを言っているが、それは間違っていない。
「その通りだ。
ただ…知っていると思うが、今回のライブは多くの人が見に来ている。
この意味が、分からないわけではない」
「当然です。
佑芽たちに、情けない姿は見せられません」
月村さんも力強く頷いた。
最近、佑芽さんが実力を開花させ始めているらしく…その躍進具合は月村さんも目を見張るぐらいらしい。
だからこその言葉だろう。
「今日、この日は初星学園黄金世代が、世間に轟かせる日にしなければならない。
そうすることで…あなた方が頂く栄冠は、更に輝くものになる」
「相変わらず、はかりごとがお好きですね。
「褒めないでください」
「褒め言葉なんだ、それ」
ただの諦めである。
…ふぅ、もういいだろう。
「さて、堅苦しいのは、この辺でいいでしょう」
私が一息ついて、厳粛な空気を霧散させると、彼女たちも安堵したように息を吐いた。
「…びっくりしたわよ。
いきなり口調まで変えて…おかげで気合は入ったけど」
「少し気が緩んでいたようだったので、引き締めさせてもらいました」
「はぁ、本当に心配性なプロデューサーだよね」
「必ず勝つと信じてはいますが、後悔だけはしてほしくないので…ほど良い緊張感は持っておきましょう」
「お任せください。
ことライブに限って、わたしたちがこれまで、あなたの期待を裏切ったことがありましたか?」
秦谷さんの自信に満ち溢れた言葉に、他の2人も同じように頷いた。
後は…もうできることはない。
「今回も期待していますよ。
…そろそろ時間ですね」
控室内のモニターに視線を移すと、彼女たちの前の出番のユニットが、2曲目を終えるところ…今回は1ユニット3曲になるため、後数分もしたら出番になる。
「そうね。
じゃ、行くわよ」
「プロデューサー、安心して待っていていいよ。
私たちが…あなたの、初星の期待を背負って輝くところを見せてあげる」
「このライブを見ているすべての人に教えてあげます。
誰が上で、誰が下なのかを」
「ええ…最後に、『SyngUp!』のみなさん」
敢えてユニット名を口に出し、彼女たちの足を止める。
「「「はい」」」
足を止めて私と目を合わせた彼女たちは、最後に送り出す言葉をいつも通りに待っていた。
「みなさんは、去年の『H.G.F』での力量を参考に、下馬評を下されていることでしょう。
冬の『H.J.I.F』を見ていない方々もいらっしゃいます。
世間の評価では、まだこのレベルのライブは早いという声も、ちらほらあります」
これは事実だ。
SNSでそういう声が少しだけだが、みられている。
だが、そんなことは彼女たちにとって大して障害でもない。
「ですが、あなた方はあの時よりも格段に成長している。
…相手が悪かったと、教えてあげてください」
「「「はい」!!」」
力強く返事をくれた彼女たちを、私は送り出した。
心配はしていないわけではないが、ここまでするべきことを積み重ねたのだから、後はなるようにしかならないだろう。
物事に絶対はないが…不思議と、不安は消えていた。
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結果を言うと、何も問題はなかった。
白草月花さん、十王さん、雨夜さんといった実力者たちに揉まれて、鍛え上げられた彼女たちは楽勝で対戦相手を軽々と粉砕………と、まではいかなかった。
だが、ステージ上の彼女たちの輝きは、贔屓目抜きにしても、抜きんでていた。
それこそ…会場が、『SyngUp!』一色で染まってしまうぐらいには。
特に…賀陽さんと月村さんも凄かったが、
今回の『SyngUp!』のセトリは、『太陽』、『Luna say maybe』……それに、新曲としてお披露目した『
最初に、『太陽』を合唱するように歌い上げ、イベントの趣旨とユニットの歌唱力の高さを。
次に、『Luna say maybe』で、歌詞割に合わせて彼女たちのハーモニーを響かせた。
そして、最後に………秦谷さんが、彼女の想いをステージにぶちまけた。
それは紫雲さんにも向けたものではあったものの…彼女自身の本心。
会場にいる全員を、わたしで満たしたい。
わたしと…大好きな、この二人で、世界を染め上げる。
そう言わんばかりの、深く、沈み込むような歌。
同じユニットの曲なのに、3曲全てで雰囲気ががらりと変わる。
そんなライブは、会場にいる全員を虜にするに十分すぎた。
『Superlative』…最上級を意味する、その曲はハッキリと会場にいる参加者と、『SyngUp!』の格付けを表すに相応しいものだった。
ユニットでの歌い方として、主体を秦谷さんに、他の2人は補助に回る形に。
ステージの上段で歌い続ける秦谷さんと、下段で歌い続ける賀陽さん、月村さんは決して交わることがないのに、歌だけで引きあう。
最後は、スポットライトが下段にいた彼女たちを照らしていたが、途中で二本のライトが秦谷さんに彼女に重なり、下段にいた彼女たちも秦谷さんを崇めるように祀り上げる。
そうして、終わった後の爆発的な歓声は、控室にいる私にも聞こえるほどだった。
もう次のアイドルのライブが始まっているのに、『H.G.F』の時と同じように、未だに秦谷さんの余韻が抜けていないのか、ペンライトの色を変え損ねている人がいるぐらいだ。
モニター越しでも見えるのだから、今ステージで歌っているアイドルにとって、どれほどの重圧が襲っているのかは計り知れない。
そんな中、廊下を走っている足音が聞こえる。
…一人分だから、これは………。
「プロデューサー!
どうだった!?」
「今日も最高でしたよ。
…見るたび見るたびに、常に上を更新していく、そんなライブでしたね」
「でしょでしょ!
美鈴がこんなにやる気だしたの初めてだったから…私も、燐羽も、普段よりさらに全力だったから!」
「ですが、廊下を走ったのは減点です。
ここは初星学園でもない、他所の会場です。
万が一、誰かにぶつかって転倒してしまっては…最悪も考えられます」
「…プロデューサーって、本当にそういうところ細かいよね。
折角ライブを終えた担当アイドルに言う言葉がそれですか?」
そうこうしている間に、いつの間にか賀陽さんと秦谷さんもいつの間にか月村さんの隣に陣取っていた。
「プロデューサーって変なところ細かいわよね。
エスカレーターでは歩かない、歩きスマホはダメ、廊下は走らない、階段を飛ばして歩かない…」
「危険ですからね。
大切な大切な担当アイドルには、仮に0.1%であっても危ない橋を渡ってほしくないんです」
「……プロデューサーって、私たちのこと好きすぎだよね」
「当然です。
みなさんのことは、誰よりも………「誰よりも?」
…万が一があったら困るな。
信頼している大切なパートナーですから」
「えへへ…」
「…今はそれで満足してあげる」
「むぅ…」
…月村さん以外には不評だったようだ。
ライブ終わりでテンションが高めの月村さんだけが、ほわほわしている。
「さて…後、2組ほどライブをしたら、結果を発表しておしまいです。
優勝だったら、もう1曲やりますが…」
今回はセトリを含めて、ある程度彼女たちの自由にさせている。
私のしてほしいことを押し付けるより、彼女たちがファンに届けたいものを意識してもらいたかったからだ。
その方が、彼女たちの場合は良いライブになる。
だが、メインのライブに全力を注いできた彼女たちは…
「ああ、そうだったわね。
特に深く考えてなかったわ」
「プロデューサー、リクエストはありますか?
…
…『あれ』かぁ……いずれはお披露目するが、
「いえ、それは置いておきましょう。
最後は初星学園らしく…『Campus mode‼』で〆ましょう」
「それ採用!
衣装は違うけど…私たちの『Campus mode‼』が一番だって、教えてあげるから」
折角の初星学園の狼煙とするなら、やはりこれが相応しい。
今のうちに、『Campus mode‼』を浸透させれば…さらに後々有利に働くだろう。
「まあ、それもこれも優勝してからのことです。
今は、ライブを見守っていましょう」
そして、私がモニターに視線を向けると、そこでは最後のユニットがライブをしていた。
彼女たちのライブは、歌を聞かせるライブ、と言ってもいいぐらい歌に全力を注いでいるように見える。
というのも、ダンスが極端に少ないのだ。
並んで歌う二人は、要所要所で決めているが、ダンスというダンスはほとんどない。
なのに、その歌唱力に思わず目が奪われる。
ほとんど同じ格好をした二人の少女は、二つの声質を絡ませ、溶け合わせ、響かせている。
透き通った声と、かすれ気味な色気のある声…クリスタルボイスと、ハスキーボイスが耳に心地よい。
そっくりな少女は…恐らく双子なのだろう。
息が完全に合っている。
ユニットとしての歌い方だけなら、私の担当アイドルよりも上ではないのかと思わせるほどに。
『
「………この子たち、歌上手いわね」
「…本当だ。
私ほどじゃないけど、他校の生徒の割には上手いね」
「たしか…
…なるほど。
上等だ。
そうじゃあないと、面白くない。
正直、ユニットでわざわざ参加したが、目ぼしい相手が見当たらなくて物足りなかったところだ。
ようやく…次の強者を見つけることができた。
あるいは、よっぽど、私たちを『N.I.A』に引きずり出したいのか…
…………一つ、プランの修正を考えたが、今は置いておこう。
「『
他に高等部1年生がいない中、参加しているぐらいの実力者だとは想定していましたが、とんだ隠し玉ですね」
私の担当アイドルたちも、彼女たちを見る目が変わっている。
自分たちに迫るぐらいの、ユニットでの実力者。
それは、彼女たちにとってもいい刺激になったようだ。
歌い終わった彼女たちを、会場の歓声が迎える。
素晴らしいライブだったのは否定しない。
それでもなお、今回は私の担当アイドルが勝つが。
月村手毬
美鈴はやる気だし、燐羽も気合十分で最高の状態。
その上、後輩(同い年)たちも観に来ていることもあって、いつもよりも張り切っている。
その結果、十全なサポートもあり、最高のパフォーマンスを発揮した彼女の歌は、観客はおろか審査員、同じく参加しているアイドルすらも魅了した。