『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される 作:プロデューサー科のもの
私の予想通り、結果は『SyngUp!』の優勝で幕を下ろした。
『Campus mode‼』を歌いきり、初星学園の名を知らしめるのに十分すぎるライブを行った。
これで、目的は最大限達成できたと言ってもいいだろう。
それに、望外の収穫もあった。
『Mimiqa』のライブ……確かに素晴らしかったが、彼女たちのライブには足りないものもあった。
双子というインパクトと、その高い歌唱力は会場の歓声を攫うには十分だったが…3曲とも同じような構成では、飽きも出てしまう。
それでも、結果発表で2位になっていたのだから凄まじい。
黒井理事長の隠し玉だと思えば当たり前かもしれないが…。
……彼女たちのライブには、どこか『熱』が足りないように見えた。
アイドルそのものを、楽しみ切れていない…そんな印象だ。
……逆に言えば、まだまだ伸びしろがある、ということだ。
恐ろしくも素晴らしい……。
「プロデューサー?
随分、あの子たちにお熱のようですね」
「は? もしかして、あいつらのこと?」
「またおしおきが必要かしら?」
「…あなた方のライバルに成りうる相手です。
滾らない方がおかしいでしょう」
目の前の担当アイドルを差し置いて考え事をしていた報いだろう。
秦谷さんに心を読まれてしまったのか、気が付いたらライブ終わりでテンションが高い彼女たちに水を差してしまった。
だが、優勝を勝ち取ったとはいえ、彼女たちも思うところはあったようだ。
「…極月学園なんて、って言いたいけど、月花さんを見てたら、そうも思えないしね」
「いや、あれは特別でしょ。
極月があんなんばっかりだったら、黒井理事長もやってられないわよ」
「黒井理事長を振り切って、初星に来るぐらいですからね。
そこまでではないはずですよ」
じゃないと黒井理事長の心労が凄まじいことになってしまう。
ただでさえ、961プロの癖が強そうなアイドルたちのプロデュースをしているのだ。
極月学園ぐらい、平和であってほしい。
まあ、それは置いておいて…今は、彼女たちを労おう。
「みなさん、本当にお疲れ様でした。
期待通り……いえ、期待以上の戦果を挙げたと言っていいでしょう。
100点満点中の150点です」
「当然の結果です。
言ったでしょ? 何も心配いらないって」
「……昨日、緊張して眠れない~って、私の布団に潜り込んできたのは誰だったかしら?」
「ちょ!?
それは言わないでって言ったのに!」
「そうなんですか?」
「そうですよ。
りんちゃんだけじゃなくて、わたしと二人でまりちゃんを寝かしつけたんですから」
「み、美鈴まで!?
裏切者!」
…しらばっくれ続けたらバレないかもしれないのに、月村さんは表情に出すぎているので、それが真実だと一目でわかった。
この分だと、花岡さんと藤田さんにも迷惑をかけてそうだ…。
この二人でよかった。
「お二人が迷惑であればやめた方が良いかもしれませんが、お二人ともまんざらでもないようですし、良しとしましょう」
「は?
寝言は寝てから言ってくれる?」
「燐羽さんなら本気で嫌だったら追い出すでしょう?
次の日にライブが控えているならなおのこと。
ファンに観てもらうために、万全の態勢で臨むはずですから」
「……さ、帰るわよ。
あの子たちも観に来ていたみたいだし、早く合流しましょ」
顔を見られないように、くるっと翻って控室を出ようとする賀陽さん。
そんな彼女の肩を、秦谷さんが掴んだ。
「りんちゃん。
話は終わってませんよ?」
「は、離しなさい!
もう終わり、おしまいよ!」
「…燐羽って、私のこと本当に好きだよね」
「あ゛ぁ~~~~~~~!
だから早く帰りたかったのに!」
「まりちゃん、わたしも負けていませんよ?」
「知ってる。
はぁ、ユニットメンバーが私のこと好きすぎて困っちゃうよ」
「こ、こいつ…!」
賀陽さんがブチギレ手前まで来ている。
そろそろ不味いな。
「そこまでです。
もう撤収しますが…最後に、今回の講評を」
「最初にしなさいよ!」
「みなさんが仲がよさそうだったので、つい…」
「つい、じゃないわよ!」
中々にお冠な彼女だったが、私が真面目な話をしようとしているのは伝わっているようで、明らかに不機嫌そうではあるものの、話を聞いてくれる態勢になってくれた。
「まず、燐羽さん。
今日もリーダーとして、周りをよく見ていましたね。
この二人を引き連れて、ユニットをまとめ上げるのは中々に骨が折れるとは思いますが、よく頑張ってくれました」
「プロデューサー!?」
「まぁ…プロデューサー?」
二人ほど不服そうな人がいるが、諦めてほしい。
「本当にね。
でも…今回も、楽しかったわ」
「ここで見ていても、楽しんでいるのがよく伝わりました。
アイドルは楽しませるのも大切ですが、自分が楽しむことも大事です。
その点でも、今回はあなた方に軍配が上がっていました」
「…そうね。
次も勝つわ」
「期待しています」
やはり、アイドルに全力の賀陽さんは良い。
…だが、どこかでもう一段…いや、今は置いておこう。
賀陽さんに向けていた視線を、月村さんに移す。
「次に、手毬さん。
前よりも、さらに成長しているのはもちろん。
歌も最後まで綺麗に、しっかりと歌いきれていましたね。
特に、最後の『Campus mode‼』は、3曲やった後だと体力的にはぎりぎりのペースだったはず…ですが、それを感じさせないぐらい、素晴らしいライブでした」
「これぐらい当然です。
…頼りになる仲間が、隣にいるので、安心して背中を任せられますから」
月村さんは、そう言って恥ずかしそうに二人を見た。
賀陽さんは少し恥ずかしそうに視線を逸らし、秦谷さんは優しく月村さんの頭を撫でた。
「前みたいに一人で背伸びをしている手毬さんではなく…伸び伸びと、歌っている手毬さんは、ステージでとても輝いていましたよ」
「えへへ…じゃなかった。
今日のライブ、相手も凄かったけど…それ以上のものを、私たちが見せつけてやりました。
トップアイドルになるまで、今日みたいに勝ち続けるので、これからもついてきてください」
「ええ、必ず」
月村さんも着実に成長している。
1年前からプロデュースを進めている以上、『ストーリー』の時よりも成長してもらわないといけないのは当然だが…張り合う相手がいっぱいいるからか、今の彼女は毎日楽しそうだ。
そして私は、残りの人物に視線を移した。
「最後に、美鈴さん。
美鈴さんには、紫雲さんのことでもお願いしたり、新曲を披露してもらったりと、結構無茶なことを言ったつもりです」
「そうですか?
信頼して、のことだと思っていましたが…」
「もちろん、信頼してのことです。
できるとは思っていましたし、実際に難なくこなしてくれました。
『Superlative』…これに込められたメッセージも、伝えてくれたようですね」
「…この曲は『SyngUp!』が解散した後の、『秦谷美鈴』が歌っていた曲。
…思うところはありますが、共感できるところも多かったです」
「ちなみに、一部ではこれのイメージが『邪神』と言われていました」
彼女のイメージにぴったりだ。
「まぁ…誰のことでしょう?」
「美鈴しかいないでしょ。
邪神にぴったりじゃない」
「傲慢なところとか、世界を自分で染めたいとか完璧じゃん」
「全人類の夢を掌中に、
「
秦谷さんは否定しているが、隣の2人は言いそう…と言わんばかりに頷いている。
前と違って、全員が意味を正確に理解しているのに、反応は同じだ。
「…美鈴さん。
これからも、美鈴さんには色々とお願いすることがあると思います」
「ねぇ、プロデューサー。
なんで美鈴ばっかりなの?」
まあ、言ってもいいか。
「簡単に言うと…美鈴さんが授業をサボっている理由の一部に、私のプロデュースプランの兼ね合いがあると、先生方に伝えているからです」
「え、そうなの?」
「まぁ…そうだったんですか?」
「あなたは知ってなさいよ」
誰にも言っていなかったので無理もない。
「授業には出てほしいと思ってはいますが、美鈴さんの主体性を尊重しています。
ただ、高等部になってからは出席日数も重要な指標となってます。
そのため、留年しないように…こういった小細工をしています」
「美鈴、プロデューサーをあんまり困らせるの、やめた方が良いよ」
「………考えておきます」
珍しく殊勝な表情を言っている秦谷さんだが、まあ続かないだろう。
別にそれは……良くはないが、必要と思っていないなら、授業に出ても話を聞かないだろう。
それなら、他のことに時間を有効活用した方が良いという気持ちもある。
「ですので、授業をサボっていて時間に余裕がある美鈴さんにお願いしているんです。
お二人には、レッスンと同時にできること…篠澤さん、佑芽さんをはじめとした、彼女たちの面倒を見てもらっている代わりだと思ってもらったら」
「まあ、そういうことなら…」
「ですが、暫くは忙しくなるので、無理はしないようにしましょう」
この後も、ライブイベントにいくつか参加してもらう予定がある。
ライブ以外にも…大丈夫か不安な仕事もあるので、付き添っておいた方が良いだろう。
………ラジオ番組、どうしようかな。
まだ断り切れてないんだよな…。
っと、それは後だ。
「最後ですが…初星学園黄金世代として名を馳せる、あなた方の1発目のライブとしては、十分すぎるライブでした。
今後も、全力で、のんびりと、力の限り頑張りましょう!」
「「「はい」!!」」
力強い返事の中に、声は大きくないものの芯の通った声が混じった、彼女たちの声が私の鼓膜を震わせた。
私はそれに満足して頷き…秦谷さんのスマホが鳴った。
「?
失礼しますね」
少し距離を取って、誰かと電話をしている彼女は、そう時間もかからないで戻ってきた。
「…プロデューサー、少し、外しても大丈夫でしょうか?
お友達に、お呼ばれしてしまいした」
…なるほど。
「ええ…お願いします」
「任されました。
まりちゃん、りんちゃん。また後で」
「…美鈴、よろしくね」
月村さんを安心させるように、最後に月村さんの頭を撫でて、彼女は席を外した。
恐らく…紫雲さんに呼び出されたことを、私だけじゃなくて月村さんも察したのだろう。
そんな彼女を見送って、私たちも控室を出た。
恐らく秦谷さんは、紫雲さんと二人きりで話したいはずだから、他の人と合流しよう。
そうして会場の廊下を、2人を引き連れて歩いていると…見覚えのある顔が、正面から歩いてきた。
「あ、『SyngUp!』」
「!」
気怠そうに人形のようなケースに入れたスマホを持ちながら歩いている少女と、自信満々に腕を組んでいる少女の2人。
漆黒の衣装に身を包み、髪型が同じなら見分けがつかないかもしれない双子の少女。
そんな彼女たちの前に、私と月村さんを後ろにする形で前に立ったのは、賀陽さんだった。
月村さんに、黙っているように耳打ちしていたから…私も見守ることにした。
「『Mimiqa』だったかしら?
名前を聞いても?」
「……灰川楓乃」
気怠げな少女は名乗ったが、もう片方はきりっとした表情のまま口を開かない。
見かねた賀陽さんが、もう一度促した。
「そっちは?」
「こっちは、灰川鈴吏。
鈴吏は自分の声がコンプで人前で話さないの」
うんうんと大きく頷いている。
そして、楓乃さんの耳元に口を近づけた…何か話しているみたいだ。
「自分で話しなよ」
「(フルフル)」
「めんど……」
そのまま視線をスマホに向けたまま、楓乃さんは話し始めた。
「…勝てると思ってたけど、負けた。
次は負けない…だって。
はぁ…だる……」
「そう言う割には、あなたも嬉しそうじゃない。
…少しわかったわ」
短い会話だったが、賀陽さんも少し理解したようだ。
私も、少しだけだが見えてきた…彼女たちのライブになかった、『熱』の正体が。
「なんのこと?」
「あなたたち、今まで、
「……で?」
「つまらなかったんでしょ?
何でもかんでも上手くいって」
「……」
黙り込んだのが答えだろう。
一度も負けたことがないと言えば聞こえはいいかもしれないが……負けを知らない、ということも怖いものだ。
たまにいるタイプだ。
何でもかんでもうまくいって、刺激を求めて強者を探しているタイプ……極月学園には、ちょうどいいのかもしれない。
あそこぐらいの実力主義なら、競い合う相手も多いはずだが…ユニットだからか、競い合うちょうどいい相手がいなかったのかもしれない。
そんな彼女たちを安心させるように、彼女は柔らかく…邪悪に微笑んだ。
「よかったわね。
これは教え子からの受け売りだけど、
その言葉は、彼女が教えている大切なクラスメイトの言葉。
ある種、彼女に近いものを求めていた、目の前の2人の少女は、その言葉に一瞬目を見開いた。
そして、鈴吏さんが再び楓乃さんに耳打ちしている。
「ゴニョゴニョ」
「……これ?
恥ずいんだけど…」
再び首を横に振って、絶対に言うようにと言わんばかりに楓乃さんを見つめている。
………一々ドヤ顔なのは、理由があるのか…?
「…本気で勝ちたいって思ったの、初めて。
『SyngUp!』…特に、賀陽燐羽。
次に会うの、楽しみにしてる」
「そう。
私たちも、楽しみにしているから…精々頑張りなさい」
そう言って、彼女たちは歩き始めた。
私たちの後ろに向かって、そのまますれ違う。
あえて口出ししなかったが…賀陽さんだけではなく、月村さんも滾っているのが見てわかる。
二人が去った後で、月村さんは目をキラキラと輝かせて賀陽さんに飛びついた。
「燐羽~~~!!!
カ、カッコよかった~~~~!!!!」
「お、おバカ…!
みんなに観られちゃうでしょ…!」
「燐羽燐羽燐羽燐羽~~~!!!!」
「ぷ、プロデューサー!
この子を剥がし………グェッ!」
「手毬さん、そこまでです!
それ以上は燐羽さんがつぶれちゃいます!」
体格差も相まって、月村さんが飛びついている賀陽さんは限界が近い。
崩れ落ちそうになる前に、頑張って引き剥がす。
……賀陽さんに下がってと耳打ちされてから、黙っていたまでは良かったのに台無しだ。
賀陽さんからアイドルらしからぬ声を上げていたのも露知らず、月村さんは彼女を逃さない。
ようやく引き剥がしたころには、賀陽さんはゲッソリしていた。
その後…いつものメンバーに、咲季さんに連れられたようで葛城さんも参加する形で合流し、口々に月村さんと賀陽さんを褒めていた。
それからしばらくして…紫雲さんと秦谷さんが、仲良く二人で現れたところを見て、私は今回のライブイベントの目的が、完全に達成できたことを察した。
賀陽燐羽
カッコいいところは最高にカッコいい我らの太陽。
なお、ユニットメンバーに特攻を持たれているため、天敵はその二人。
因みに、『SyngUp!』はお互いに特攻を持っているようなものなので、ユニットで刺しあうと刺された側が基本的に負ける構造になっている。