『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される 作:プロデューサー科のもの
あの決意の日から、1週間が過ぎた。
あれからは頻繁にレッスンにも顔を出すようにした。
レッスンの進捗状況を、秦谷さんから聴くだけではなく、自ら確認することが重要だと感じたからだ。
それぞれのソロ曲の目途をつけるために、学園経由で『太陽』のみ振付師に依頼をかけ、振り付けを用意してもらった。
他の2曲は直接振りを教えたので、問題ないはずだ。
『学マス』内のライブは何回も見たので振りは頭の中に入っていた。
違和感があれば好きに変えていいと伝えているので、大丈夫だろう。
『H.J.I.F』の出場手続きも提出自体は済んだが、揉めに揉めた。
相上含めたプロデューサー科の生徒はもちろん、プロデューサー科の先生どころか、中等部の先生にまで呼び出される羽目になった。
元々中等部の先生からは、『
そして、最終的に学園長直々の呼び出しを食らってしまった。
どうやら、私がやってしまったことは、私が想定していたよりも大事だったらしい。
ただし、十王
元々そのつもりだったので問題があるわけではないが、引っかかるものがあったのは事実だ。
元の世界でも言われていたことだが、『十王社長』が『賀陽燐羽』を特別扱いする理由とは何か。
普通、どんなに実力があろうともやる気がなければ意味がない。
やる気がない者をいつまでも居座らせておくことは、他の者に示しがつかなくなってしまうし、特別扱いするとなってはなおさらだ。
だが、『十王社長』は『賀陽燐羽』を3組に所属させ、アイドル活動をしていない状態を黙認していた。
これが特別扱いではないというのであれば、何なのだろうか?
可能性はいくつか考えられ、『中等部ナンバーワンユニットのリーダーを手放したくなかった』『賀陽燐羽の実力をよく理解していた』『賀陽継から妹のことを頼まれていた』、などの予想が挙げられる。
…これに関しては、そのうち確認する必要があるな。
最優先ではないタスクに、『十王社長』について調べることを追加してからパソコンを閉じた。
既に、私が彼女たちの担当を受け持ってから、4週が過ぎている。
そして今日、賀陽さんが月村さんにレッスンをつけてから1か月が経過するのだ。
あの後、月村さんは賀陽さんと以下のようなやり取りがあった。
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「勝負することになったんだから、今日で歌を教えるのはおしまいね」
「え…? なんで…?」
「勝負する相手から教わるのなんて嫌でしょ?
私も、敵にわざわざ塩を送る趣味はないわ」
「…ふーん…燐羽、怖いんだ」
「はぁ?」
「私に追い抜かされるのが怖いから、教えるのやめるんでしょ?
…折角憧れたアイドルが、こんなことでビビっちゃうなんて…リーダーのくせに情けない…」
「…随分と言ってくれるじゃない。
いいわ、そこまで言うなら、きちんと1か月は教えてあげる。
その代わり、『H.J.I.F』であなたが負けたら…その時はわかってるわね?」
「いいよ。
燐羽の言うことなんでも聞いてあげる。
奴隷にでもなんでも、すればいいよ」
「…そんな趣味はないわよ。
ただ、手毬からとんかつとラーメンを没収するだけ」
「………………………」
「………はぁ、冗談よ。
そんな今にも死にそうな顔をするのはやめなさい」
「ふ、ふーん…そうだよね、そんなことするわけないもんね。
知ってたから」
「…本当に禁止にしてやろうかしら」
「それだけはやめて!!」
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あの会話があった後の賀陽さんは、かなり機嫌が悪く、その後のやり取りに苦労したのを覚えている。
そして、そんな賀陽さんと月村さんのレッスンが今日で終わりを迎えるのだ。
だから、今日はレッスンが終わる直前ぐらいに顔を出すことにしている。
ノートパソコンを鞄に入れ、事務所の鍵を閉め…る前に、事務所の机の隅で寝ている秦谷さんを起こす。
「秦谷さん、そろそろ時間です」
「ん……はぁ…もうそんな時間ですか…では、まりちゃんとりんちゃんを迎えに行きましょう」
秦谷さんは、あれから一人でレッスンをしている。
別に仲が悪くなったわけではない。
むしろ、以前より仲睦まじく、賀陽さんと月村さんのレッスンが終わる頃には合流して、3人で寮に帰ることがほとんどだ。
ただ、
最低限必要だった、ユニットで歌う上での打ち合わせや曲合わせのレッスンすら必要なくなった彼女は、完全に自分のペースで動くことにしたらしい。
ソロ部門に参加することが決まって、吹っ切れたのかもしれない。
事務所で寝ていたのは、
いくら『初星学園』が治安がいいとはいえ、プロデューサー科には私を含めた男性がいるし、他にも用務員さんなどの男性職員はいる。
そんな中で、無防備にアイドルが外で眠っていてはどうなるか。
今まで何も起きることはなかったし、ことを起こした後の顛末を考えると手を出すような人はいないだろう。
それを嫌というほど知っている私は、彼女が一人で外で昼寝をすることを許容しなかった。
ここは、『学マス』の世界ではあるが、彼女は『
『ストーリー』ではそういうことは起こらないのが当たり前だが、『
そのため、お願いしたのだ。
『私の目の届く範囲で昼寝をすること』
『私が手を離せないときに、昼寝をする際は、私に一報入れて場所を教えること』
この二つのお願いは、万が一を考えた、最悪なことが起こらないようにと考えての対策。
束縛したくても、されることは好きではない彼女だったが、外でのお昼寝も同行すると伝えると、そこまでするならと承諾してくれた。
授業をサボってのお昼寝も最近始めたようで、その時は連絡を貰った後に授業の合間を見て様子を見に行っている。
彼女の趣味を否定するつもりも、止めるつもりもないが、最悪これだけで全てが破綻することを考えると無視できないリスクだ。
月村さんのSNS炎上なんかよりもよっぽど怖い。
…言いたくはないし、絶対に口には出さないが、『ストーリー』では月村さんと賀陽さんの口論がネットに上げられたことが、『SyngUp!』解散の決定的なものになった。
『月村手毬』の『ストーリー』でも、極月学園とのやり取りや、賀陽さんとのやり取りがネットに流出していた。
…何が言いたいかというと、ネットに流れる速度と頻度が尋常じゃないのだ。
…彼女自身が特大の問題児ということもあるだろうが。
1回や2回ではなく、3回目ともなると
もし、それが万が一真実だった場合、億が一『SyngUp!』を、『月村手毬』を陥れる目的だった場合、秦谷さんが無防備で寝ているのは格好の餌と言っても過言ではない。
だから、本当の本当に最悪の可能性を、欠片でも生み出さないために極力目の届くところにいてもらうことにした。
「…そんな険しい顔をして、どうかされましたか?」
その言葉で、思考の海から引き揚げられた。
思ったよりも考え込んでしまったようで、とっくに準備が終わって鞄を持っている秦谷さんが、不思議そうにのぞき込んでいた。
「…いえ、少し考え込んでしまったようです。
月村さんと賀陽さんのもとへ向かいましょう」
「…はい。
……話したくなったら、教えてくださいね」
「…担当アイドルが授業をサボるようになって、中等部の先生から詰められることが増えたのですが、何かいい解決方法はありませんか?」
なお、他の二人による呼び出しも多いことは言わずもがなだ。
「…まあ、中等部のアイドルコースの先生とお話しとは…浮気ですか?」
「なぜ浮気…?
それに、誰のせいだと思ってますか?」
「冗談ですよ。
ですが、好きにしていいと言ったのは、プロデューサーです」
「…言ったことを後悔しているところです」
…そう言って事務所の鍵を閉めたが、完全には誤魔化せていないだろう。
現に隣を歩く秦谷さんは、まだ心配そうにのぞき込んできている。
だが、このことは詳しく言うつもりはない。
取り越し苦労の杞憂で、周囲に不信感を持つような情報を与えるわけにはいかない。
まだ中等部の彼女に、そこまで心配させてはいけないし、今は大事な時期だ。
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レッスン室に着き、中に入ると賀陽さんが月村さんの声で「Luna say maybe」を歌っている。
その様子を見て、隣の秦谷さんが驚いているのがわかる。
確か、『ストーリー』ではこの特技は二度と使わないと誓ったらしい。
恐らくだが、その原因は中等部1年の最後にあった、賀陽さんがお姉さんを超えた件からだろう。
以前にお手本で歌っていた時の話を聞いたが、その時も特に何も言っていなかったことから、この特技は使っていなかったのだろう。
だが、目の前の彼女は、かなり力を入れて月村さんの声で、まるで自分の持ち歌かのように「Luna say maybe」を歌っていた。
「聴いて欲しいの、あのね~~~~~~~~~~~~ね~~~~~~~~~~~~~~~」
歌い切った彼女は、今の持てる全身全霊で歌っていたのだろうか。
肩で息をする彼女に、いつもの余裕はあまり見えない。
「…燐羽! 凄い!
私の曲なのに、私よりも上手く歌ってる!!」
そう言って歌い終わった賀陽さんの周りと月村さんが飛び跳ねている。
とても先週決闘を吹っ掛けたとは思えない仲の良さに、思わず笑ってしまいそうになる。
まだ歌い終わって疲弊しているのが丸わかりな賀陽さんも、賀陽さんの周りを飛び跳ねている月村さんも、私たちが入ってきたことに気づいていないようだった。
「はぁ…はぁ…ふぅ…ふふ、あなた、本当に変わらないわね」
普段の刺々しい雰囲気とは打って変わって、穏やかな表情をして月村さんを見て微笑みながらそう漏らす。
…普段とのギャップが凄まじく、この路線でいってもファンは爆発的に増えるだろう。
「…普通、怒るところじゃないの?
自分の持ち歌を自分より上手く歌われたら」
その疑問は、恐らく1年生の最後、『賀陽継』との勝負の件があったからだろうか。
いや、それより前のこと…『SyngUp!』を結成した理由は確か…。
「怒る? なんで?」
言われた月村さんは、ポカンとしてそう返す。
「なんでって」
「だって、いつか燐羽を超えるための見本を見せてくれたんだよ?
感謝することはあっても、怒ることなんてない。
今燐羽が歌ってたよりも上手く歌えるようになって、燐羽を超えて見せるから!」
そうやって輝く笑顔で言い放った月村さんを見て、賀陽さんは衝撃を受けたように固まった。
しばらくそのまま俯いていたが、やがて思い出したように顔をあげる。
「…ああ、そうね…そうだったわ…あなたって子は…本当に…」
そう言って賀陽さんは、月村さんの頭を優しく撫で始めた。
撫でられている月村さんは、最初はびっくりしていた様子だったが、次第におとなしくされるがままになっている。
その光景を微笑ましく見ていると、隣からの圧が3段階ぐらい跳ね上がった感覚があった。
隣の秦谷さんがにこやかにキレているのがわかる。
「……りんちゃん?」
「あら、美鈴。来てたのね」
「み、美鈴!? いつからいたの!?
恥ずかしいから見ないで!」
「どうしてりんちゃんがまりちゃんを撫でているんですか…?」
「…さぁ?
1か月もハードなレッスンをこなしたご褒美かしらね」
「…まりちゃんを撫でるのは、わたしの役目です」
「美鈴!?」
「あら…嫉妬しているの?
かわいいところあるじゃない」
普段であればキレている秦谷さん相手には、賀陽さんも気後れするぐらいの圧がある。
だが、今日の賀陽さんは一味違ったようだ。
「なっ…嫉妬なんてしていません!!」
「いや、それは無理があるでしょ」
「むぅ…ぷいっ」
「拗ねないの」
「つーん」
図星を指された秦谷さんは、また拗ねてしまったらしい。
あれだけ怒っていた秦谷さんを流し切ってしまったのは、付き合いの長さによるものだろう。
「ああ、もうめんどくさい。
あなたもこっちに来なさい」
「!
ちょっとりんちゃん待ってくださ…むぅ!」
だが、今日は機嫌がいいのか、拗ねてしまった秦谷さんに月村さんごと近づいた賀陽さんは、秦谷さんも抱き寄せた。
「ほら、おとなしくしてなさい。
たまにはされるのもいいでしょう?」
「……むぅ…」
「すごい…美鈴が丸め込まれちゃった」
「プロデューサー、あなたも来る?」
「担当アイドルとプロデューサーが直接触れ合うのはご法度です。
プロデューサーじゃなければ誘いに乗っていたかもしれませんね」
「そう、じゃあ、アイドルじゃなくなったらやってあげるわ」
「20年後ぐらいですかね。
楽しみにしてますよ」
「中々言うじゃない」
そう軽口を叩きながらも、賀陽さんは月村さんと秦谷さんを撫でる手を止めない。
今後の、2週間後に始まる最初の
嬉しそうに目を白黒させる月村さんと、不満げながらも手を止めると催促している秦谷さん、その二人を優しく微笑みながら撫でている賀陽さんを見て、それを確信したのだった。
学マスのストーリーはどの程度進めていますか
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アプリをそもそも入れていない
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どのキャラも親愛度10未満
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特定のキャラのみ親愛度10まで
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特定のキャラのみ親愛度20まで
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全キャラ親愛度20まで
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特定のキャラのみ親愛度27まで
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解放可能なキャラ全て親愛度MAX