『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される 作:プロデューサー科のもの
時間が経つのは早いもので、あれから2週間が経った。
『H.J.I.F』に望むにあたって、3人とも『初』、『Campus mode!!』の衣装は既にあるが、『Luna say maybe』『ツキノカメ』、そして『太陽』の衣装の手配をした。
『Luna say maybe』『ツキノカメ』は衣装のデザインを覚えていたから問題なかったが、『太陽』に関しては衣装を一から作らないとならず、手配はしているものの、完成は2回目のセレクション直前になってしまうとのことだ。
楽曲も完成して渡しているが、3人とも指示通り『初』の練習を熱心にしていた。
『
…それに伴って、問題を起こす頻度も上がっていったことにはこの際目を瞑ろう。
担当アイドルのためを思えば、これぐらいのことなんでもない。
だが、それで調子に乗られて、悪化されても困る…というよりは、この状況がよそに露出されては困るため、毎日注意することはやめないし、どこかのタイミングで改善させなければならない。
そんな思いも、とりあえず、今日でひと段落着くはずだ。
あれから2週間…つまり、今日は『H.J.I.F
そして、彼女たちが
幸いなことに、今回は3人ともぶつかるようなことはない形式だ。
楽屋も同じにしてもらうように手配できたため、そこまで困るようなことはないと
「プ、プロデューサー…出番はまだですよね?」
「まだですよ。
もうしばらくかかるので、落ち着いてください」
「…なんでそんなに落ち着いているんですか?
プロデューサー、担当アイドルがライブに出るのは初めてですよね?」
「もっと緊張している人が目の前にいるからです」
「ひぅ…」
『初』の衣装に包まれている月村さんは、まるで怯えている小動物のように縮こまっている。
そう、初めてのソロライブで思っていたよりもかなり、月村さんが緊張しているのだ。
プレッシャーにならないようにと、秦谷さんと賀陽さんが時間をずらして来ることになったことも、拍車をかけているのかもしれない。
「月村さん、どうしてそこまで緊張しているんですか?」
「緊張なんてしてないです!!」
月村さんはそう強がっているが、どこをどう見ても緊張しているのは丸わかりだ。
私や他のメンバー以外の人が見ても、同じことを思うだろう。
「月村さん」
「……いつもは…燐羽が本番前に、リラックスさせてくれるんです。
美鈴も、落ち着いてて、落ち着かせようと色々世話を焼いてくれて…。
……知らなかったんです。一人でライブに出るって、こんなに不安になるんだって」
そう言う月村さんは、普段の二人がどれだけサポートしてくれていたのかを実感するように、顔を歪めている。
「それが、ユニットでライブに出るということです。
あの二人が、サポートに徹しすぎているということもありますが…。
当たり前のことを言うと、ソロで出るということは、
当たり前の事実だが、想像と実際に直面するのはわけが違う。
そして、実際に直面してしている月村さんは顔が青くなっていた。
「…」
「ステージの上に立ってしまっては、
独り立ちする、ということはそういうことです」
「…わかってます」
「それでは、気合を入れなおしてください。
そのままでは勝てるものも勝てませんよ」
「……じゃあ、どうすればいいんですか」
そう言ったものの、言葉一つで変わるものならそこまで緊張しないだろう。
そうなれば、さらに踏み込むしかない。
「目を瞑って、イメージしてください*1」
「イメージ…」
「本戦で競うどころか
「…!」
イメージできたのか、月村さんの顔がさらに歪む。
「秦谷さんが、まりちゃんはやっぱり一人じゃダメなんです。私がいてあげないと、と言う姿を」
「…!!
言う、あの二人なら…!
間違いなく…!」
そう言いながら、月村さんの表情が険しくなる。
無事にイメージができたようだ。
二人と戦うステージに立てず、
……あの二人なら、実際に傷心中の月村さんにそこまで言うことはないだろうが、月村さんを奮い立たせるには多少誇張しておいた方がいいだろう。
それに…。
「そして、二度と一人前に見られなくなりますよ」
「そんなのは嫌です!!」
「じゃあ、気合を入れて頑張りましょう。
大丈夫です。
あなたはこれまで、誰よりも積み上げてきました。
頑張り続けることを止められても、走り続けて頑張ってきたあなたは、誰よりも強い」
「私が…誰よりも…?」
そして、次に月村さんの自信を呼び起こす。
自信を失いかけている彼女にする、最後のメンタル調整だ。
「そうです。
言う人がいないようであれば
あなたは、強い」
「…ふぅん…じゃあ、プロデューサーは、私があの二人に勝てるって断言できますか?」
「できます。
本調子の月村さんなら、秦谷さんにも、賀陽さんにも勝ちます」
「……わかりました。
そこまでプロデューサーが言うなら、軽く捻ってきます。
月村手毬のソロデビューです。
期待して見ててください」
ここまで言ってようやく、月村さんはいつもの調子に戻ってきた。
後はなるようにしかならないだろう。
彼女は天性のアイドルだ。
調子に乗せれば大丈夫だと確信してはいるものの、担当アイドルの初ライブに緊張しない者はいないだろう。
そんな緊張を、折角緊張が抜けた月村さんに伝えてはいけない。
「ええ、もちろん。
楽しませてもらいますよ」
私も余裕をもってそう言い、自信満々にライブに向かう月村さんを見送る。
あの様子なら大丈夫だと思うが…胃が…胃が痛い…。
最悪を考えて、終わる前には舞台袖でスタンバイしておこう。
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結果的に言えばライブそのものの心配は無用だった。
いや、最後のメンタルケアが利いたと思おう。
『SyngUp!』のソロデビューと噂されていた月村さんのライブは、
そこで、誰が見ても文句なしの太鼓判を押せるライブをやり切った月村さんは、丘の上に打ち上げられた魚みたいに楽屋で朽ち果てていた。
時々、腕がぴくぴく動いているあたりが、魚が打ち上げられているみたいだとは口が裂けても言えない。
「はぁ…はぁ……はぁ………ふふふ…どう…でしたか……プロ………デュ……サー…………?」
「素晴らしいライブでした。
心労で心臓が止まるかと思ったのと、胃がねじ切れるかと思ったこと以外は」
紛れもない本心だ。
素晴らしいライブではあったが、胸が張り裂けるかと思わんばかりのライブでもあり、もっと見たい気持ちと、もう見たくない気持ちが両方ある不思議な気持ちになっている。
「………頑張った…担当アイドルに……もっと……言うことが……あるんじゃ……ないですか…?」
「お疲れさまでした。
流石は中等部の頂点に立つアイドルです。
後は、ゆっくり休んでください。
そして、もっと頑張っていきましょう」
「…あり…がとう……ございます………」
そう言って、正真正銘、全力の力全てを使い果たした月村さんは、突っ伏したまま寝息を立て始めた。
衣装が皴になってしまうとか、薄めとはいえ施した化粧が衣装についてしまうとか、汗で顔がべとべとになっているから拭いてからの方がいいとか、そういったことを普段であれば言うのだが、今回ばかりはそっとしておこう。
彼女は、それに見合うだけのライブをやり切ったのだから。
「まりちゃん!!」
楽屋のドアが勢いよく開けられる。
見たことない勢いで楽屋に飛び込んできたのは、秦谷さんだ。
後ろには賀陽さんもついてきているのがわかる。
勢いよく入ってきた秦谷さんに、口元に人差し指を立てるジェスチャーで静かにするように伝える。
「まりちゃん……寝ちゃっていますね…」
月村さんの安らかな寝顔を見て、毒気を抜かれてしまったようだ。
近寄って起きないようにやさしく頭を撫でている。
「ええ、文字通り、すべての力を使い果たして寝入ってしまってます」
私がそう言うと、キッっと睨みつけてきた。
後ろにいる賀陽さんの表情も穏やかではない。
「プロデューサー!
なんで…なんであんな…命を削ってやるような、すべてを出し尽くすような限界のライブをさせたんですか…!」
「…それが、月村さんのマイペースだからです」
私は、端的にそう言った。
秦谷さんには秦谷さんのマイペースがあるように、月村さんには月村さんのマイペースがある。
当然、賀陽さんにも。
それが、全員かけ離れすぎているだけだ。
だからこそ、衝突する必要があった。
避けているだけでは、理解しあえないから。
「…あれが…あんなのが…」
秦谷さんの想像を超えていたのだろう。
月村さんのマイペースの激しさは。
受け入れがたい現実に狼狽えている。
「私も、できることならもっと安定して安心して見ていられるライブをしてほしいです。
ですが、それで満足するような月村さんではありません。
類まれなハングリー精神が、彼女に全力を出させる後押しをし続ける。
だからこそ、格上ですら喰いかねない底力を発揮できるんです」
これは本心だ。
初めて担当アイドルのライブを直接見る形になったが、こんなに見ているだけで精神的に辛くなるライブは初めてだ。
昔ライブを見ていた時は、ただの観客だったから当然ではあるのだが、それにしても今回は酷い。
いつ倒れるのか心配になるほどの魂の叫び。
歌いながら、だんだんとふらふらになって覚束なくなっていく足取り。
なのに、歌はどんどん調子を上げていって、きちんと最後にピークを合わせていた。
練習の成果の、ペース配分はきちんとできていた。
何せ、最後まできちんと一人で歌い切れていたのだから。
ライブ本番で、普段の、何倍も実力を発揮していたのに、最後まで歌い切れたのは紛れもない成長だ。
…歌い終わって舞台袖に来た瞬間に崩れ落ちた彼女を支えて、楽屋に連れていくのは大変ではあったが、準備した甲斐があったというものだろう。
信じられないようなものを見る目で、私と月村さんを見ている秦谷さんは、まだ受け入れがたい様子だ。
「……確かに…今のまりちゃんはわたしも、勝てるか危ういと思わせるだけのパフォーマンスをしていました。
だからと言ってあんな…」
「月村さんが寝落ちする前に、もっと頑張っていきましょうと言いました。
その時の返答が何かわかりますか?」
「…わかりません」
何を言いたいのかわからないような顔で、少し考えるも、やはりわからないと首を振りながら答える。
これは心配性な、のんびり屋な彼女には理解しがたいことだろう。
「『ありがとうございます』ですよ。
彼女は、まだまだ頑張り足りないようですよ」
あれだけ頑張っていたのに、更に頑張らせようとするのかと言わんばかりに睨みつけてくる彼女に、そう突きつけた。
「…!
わたしは…わたしたちは…もしかして、まりちゃんに不自由を強いていたのでしょうか…?」
そうして、ようやく理解してくれた秦谷さんは、今にも泣きそうな顔で、今までの行動が全てお節介で、月村さんを拘束してしまっていたのではないかと思い至ったらしい。
だが、私が整えられる場はここまでだ。
「さあ?
そこまでは、私にはわかりません。
後は、話し合ってください。
ユニットメンバー同士で、襟元を開いて、ね?」
私はあくまで、『プロデューサー』であって、『月村さん』ではない。
これ以上、私の勝手な考えで彼女の心境を語り切るのは無粋だろう。
ここからは、彼女たちが話し合って進めていく必要がある。
そして、今まで沈黙を保っていた賀陽さんが、口を開いた。
「…そうね、余計なことはしないでって言ったのも、お節介だったみたいだし、いい加減この子の気持ちをきちんと聞かないとだめみたいね。
美鈴、あなたの出番もそろそろでしょ?
いったん切り替えて、終わった後に話し合いましょう」
そう、月村さんのライブが終わり、一人挟んで秦谷さんのライブだ。
既に、今行われているライブは終盤に差し迫ろうとしている。
つまり、秦谷さんの出番がもう来るということだ。
「…そうですね。
まりちゃんがあんなライブを魅せてくれたんです。
…今は、ちょっとだけ、本気で歌いたい気分です」
普段の秦谷さんの、のんびりした雰囲気ではなく、本気でやると決めたときの、目に力が灯った秦谷さんだ。
そして、それに応えるのは私ではない。
「あなたたちがそう来るなら…私も、手を抜いてやるのは失礼ね。
他の子たちには悪いけど…今の出せる本気で遊んであげるわ」
そう言う賀陽さんも、普段よりも表情が真剣だ。
元々、そこまで手を抜くような性格ではないだろうが、多少流してもいいだろうと思っていたのはあったのだろう。
だが、まだ手がかかる子だと思っていた月村さんが、本気で、全力でライブをしていた。
一人で、孤高にステージで歌い切った。
そんな彼女が、後でライブ映像を見返したときに、がっかりさせるようなことはしない。
後の結果は言うまでもないだろう。
1回目の『H.J.I.F
学マスのストーリーはどの程度進めていますか
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全キャラ親愛度20まで
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