『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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19話目

 

 『H.J.I.F選抜試験(セレクション)』の1回目が終わって、事務所に3人を引き連れて戻った。

 ライブ後のデブリーフィング(反省会)のためだ。

 事務所に向かう途中も、秦谷さんが月村さんの頭を撫でながら歩いていたため、非常に目立っていたのは言うまでもない。

 

 事務所に着き、録画していたライブ映像を見るために、届いたテレビモニターとパソコンを接続させる。

 月村さんが寝ている間に、録画したカメラの映像を、ノートパソコンに取り込んでいたため、モニターに繋げたらすぐに見れる状態にできた。

 

 なぜこんなことをしているかと言うと、月村さんが朽ち果てていたため、デブリーフィングのためにライブを見返すためだ。

 

 録画した映像、5()()のうち、最初に撮った月村さんのライブから流す。

 秦谷さんの表情がだんだん曇り、賀陽さんは呆れて、月村さんは我ながら素晴らしいライブをしたと言わんばかりににこやかだ。

 当然ながら、私は顔から血の気が引いてきているのがわかった。

 いかに映像といえど、担当アイドルが死に向かいながら歌っているのを見て、平常心でいられないようだ。

 だが、そんな気持ちとは裏腹に、自分の担当アイドルが素晴らしいライブを行っていることに対して、誇らしい気持ちもあるのは事実。

 複雑な気持ちでライブを見ているのは、恐らく私だけではないだろう。

 

「さっきも見たけど、酷いわね」

 

「酷いですね」

 

「酷いです」

 

「はぁ!?

 完璧なライブでしょ!!」

 

「歌は上達してるわよ。

 私が教えたんだから、当然ね。

 でも、足元がふらつきすぎて、ダンスが終盤につれてダメになってるわ」

 

「うぐっ」

 

 自分のライブの評価を受け入れられない月村さんに、賀陽さんが指摘点を挙げていく。

 図星を指されて、怯む月村さんに、更に追撃を加える。

 

「表情も、少し崩れてるわ。

 もっとうまく作りこまないと、限界が近くなって苦しいのはわかるけど、それを観客に悟られるような表情をしないこと。

 わかるわね?」

 

「………」

 

 月村さんは、折角ライブを成功させたのに、ダメ出しが多くて少し拗ねた表情になっている。

 賀陽さんは、そんな月村さんを見て、ため息を一つついて、続ける。

 

「歌で誤魔化せているだけで、他がまだダメって自覚はあるんでしょ?」

 

「………うん」

 

「自分がどこができないのか、把握しないと上達はできないわよ」

 

「……わかってる」

 

 少し拗ねた様子だったが、言っていることは理解できるから、納得せざるを得ない。

 相手が賀陽さんなら猶更。

 

「そう、じゃあ、次を観ましょう」

 

 賀陽さんの言葉に合わせて、秦谷さんのライブ映像をつける。

 秦谷さんのライブは月村さんとは打って変わって、穏やかで優しい雰囲気で会場が包み込まれている。

 同じ曲をやっても、人によってこれほど違うのかと思うほどだ。

 

 だが、普段の秦谷さんとは違い、表情は柔らかく見せているものの、歌に込めている力が段違いだ。

 そして、このライブを見て『SyngUp!』が『月村手毬』のワンマンチームだと思っている人はいなくなっただろう。

 

「美鈴、かなり本気でやってるわね」

 

「ええ、まりちゃんがあんなライブをしたのですから、少々熱くなってしまいました」

 

「…いつもこれぐらいしてくれたらいいのに」

 

「それは…わたしのペースではありませんので。

 のんびり、歩いて、歩いたまま、二人を追い抜きます」

 

「ほんっと…美鈴って、傲慢だよね。

 言うと思ってたけど…!」

 

「まりちゃんこそ…あんな暴走っぷり、わたしたちじゃないとカバーできませんよ」

 

「…別に頼んでないから」

 

「ふふ、そうでしたね」

 

 月村さんの、さっきまでのムスッとした表情は、ライブを見てすぐに消えていた。

 すぐにライブ映像に夢中になり、秦谷さんと楽しそうに話している。

 

「…私からは特に言うことないわね。

 プロデューサーからは、何かある?」

 

「そうですね…。

 誰を意識するかにもよりますが、月村さんを相手にするなら、より歌唱力を磨く必要があるかと思います。

 他の要素込みであれば、秦谷さんの方が現状上ですが、歌唱力だけなら月村さんの方が上回る可能性があります」

 

 もっと言うなら、賀陽さんが以前の実力を取り戻した場合も、同じように歌唱力で差が出るであろう。

 仲間でもあり、良きライバルでもある関係を継続していくのならば、歌唱力の強化はこれまで以上に必要になる。

 

「…わかりました。

 まりちゃんを正面から打ちのめすために、少し力を入れてレッスンしますね」

 

「ふん!

 できるものならやってみなよ、絶対に負けないから」

 

 そして、最後に賀陽さんの映像に移る。

 全体的に完成度は非常に高いもので、歌唱力も、ダンスも、表現力も申し分ない。

 ただ…。

 

「…燐羽、これ、本気でやってる?」

 

「…さぁ、どうかしらね?」

 

「前の燐羽の方が凄かった。

 これが本気なら、今日の私なら勝つよ」

 

 そう、確かに賀陽さんのライブは中等部の生徒にしては完成度が高いものだった。

 だが、あのライブでは卒業生に勝ったレベルでは、『一番星(プリマステラ)』に勝ったほどではない。

 それを誰よりもわかっているのは、賀陽さん自身だ。

 

「…そうかもね」

 

「燐羽?」

 

「りんちゃん…」

 

 誤魔化す賀陽さんだったが、心配そうに自分を見ている二人を見て、諦めたようにため息を吐いた。

 

「……はぁ…いいわ、白状するわよ。

 今の私に、1()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………………?!

 なんで!?」

 

 賀陽さんの言葉を受け入れがたいのか、面を食らって呆けていた月村さんだが、正気に戻るとすぐに賀陽さんに詰めよった。

 そんな月村さんに、賀陽さんは説明し始めた。

 

「そんなの…見てたらわかるでしょ?

 今の今まで、()()()から、本気でアイドルをやっていなかったからよ。

 使()()()()()()()()()()()()()()()()

 当然のことよ」

 

 説明するたびに月村さんのボルテージがどんどん上がっていくのがわかる。

 プルプルと震え始め、そして爆発した。

 

「…何それ………何それ!!

 今の今まで、本気でやっていなかったって…サポートしてくれたからだけじゃないの?

 ……なんで!?」

 

「…今は詳しく言わないわ。

 どうしても教えてほしいなら…私に勝ったら、教えてあげる」

 

 声を荒げる月村さんに対して、賀陽さんはどこまでも冷静にあしらう。

 その冷静な様子を見て、月村さんは遂に泣き出してしまいそうな顔になってしまった。

 

「何それ……なんで今言ってくれないの…?

 …そんなに、私、頼りない…?」

 

 賀陽さんは、今にも泣きそうな月村さんを見て、困ったように言葉を選ぶ。

 

「そういうわけじゃないわ。

 言いたくない理由は…ただの意地よ。

 言ったところで、納得してもらえるとも思えないけど」

 

「…意地って…なんで…」

 

「さぁ、なんででかしらね。

 知りたいなら、本気でかかってきなさい。

 それに、今はあれが精いっぱいだけど…そう簡単に負けてあげるつもりはないわ」

 

 そう言って堂々と月村さんを見る賀陽さんは、その思いを変えることはないだろう。

 月村さんも、それを悟ったのか、諦めたように目を伏せた。

 

「……わかった。

 言っても聞かないみたいだし…ここからは、勝って聞き出すから」

 

「ええ、そうしなさい」

 

 そう言って月村さんは納得…いや、とりあえず聞き入れたようだ。

 だが、秦谷さんはそうではない。

 そのやり取りを見守っていたが、賀陽さんに声をかける。

 

「りんちゃん…いえ、()()

 

「何かしら、美鈴」

 

 秦谷さんが賀陽さんを名前で呼ぶの聞いたのは、初めてだった。

 その声音は固く、表情も真剣そのものだ。

 賀陽さんは、そんな秦谷さん相手に一歩も引きさがらない。

 

「わたしとも、約束してください。

 私が勝ったら、全部話すと」

 

「ええ、もちろん話してあげるわよ」

 

 秦谷さんの言葉に、当然と言わんばかりにそう返答する。

 だが、秦谷さんはそれだけに留まらなかった。

 

「プロデューサーにも、です。

 わたしにだけで抑えておけるなら、いくらでも迷惑をかけてもいいのに、まりちゃんやプロデューサーまで巻き込むなら、話は別です」

 

「…別にいいわよ。

 どうせ、プロデューサーはもう知ってるし」

 

 一瞬考えて、そういった賀陽さんの言葉で、空気が一瞬静まり返る。

 そして、月村さんが一番に反応した。

 

「!?!?

 それ本当!?

 プロデューサー!!」

 

「プロデューサー、今の話は本当ですか?」

 

 そう言って二人が私に詰め寄ってくる。

 本来であれば私から言うことはないが、こうなってしまっては誤魔化すこともできない。

 だから、正しいことだけ言うことにした。

 

「…本当ですよ。

 ですが、これ以上は私からは言うつもりはありません」

 

「理由は、りんちゃんが言いたがらないからですか?」

 

「そうです。

 賀陽さんが言ってもいいと言えば言いますが、言う時は自分の口から伝えたいみたいですし、私から言うべきことではないでしょう」

 

 そう言うと月村さんは不機嫌そうに私を睨んでいる。

 それだけでは納得できないのだろう。

 自分に黙って、賀陽さんとプロデューサーが秘密を持っていたことに。

 

「……プロデューサーも、そっち側だったんですね。

 今、私、凄く裏切られた気分です」

 

「私は、あなた方三人のプロデューサーです。

 どっち側も何もありません。

 プライベートなことは、極力本人の前以外では言いません」

 

「…だとしても、私たちに黙っていたのは事実ですよね?」

 

「ですが、月村さんのことも、お二人に言いふらしてはいませんよ。

 そうじゃないと、私に話なんてしてくれなくなるでしょう。

 信頼関係を築くために、最低限の守秘義務は守っています」

 

「…それは…わかりますけど…でも…」

 

「はぁ…手毬、プロデューサーには、私から言わないようにお願いしたの。

 恨むなら、私を恨みなさい」

 

「……燐羽がそこまで言うなら、今回だけは許してあげます」

 

 賀陽さんが間に入ってくれたから、月村さんは何とか下がってくれた。

 だが、目のハイライトが消えている秦谷さんがその隣に控えている。

 

「わたしは許しませんよ」

 

「美鈴、あんまりプロデューサーを困らせないの」

 

 そう言って賀陽さんが間に入ってくれているが、目のハイライトが消えた秦谷さんは止まらない。

 

「どんな理由があろうとも、担当アイドルに隠し事をすることを、わたしは許しません。

 わかってますか、プロデューサー?」

 

 あまりの圧に、秦谷さんの隣にいる月村さんがまた泣きそうな顔になっている。

 そして、その圧を直に受けている私は想定が甘かったことを察した。

 

「…そうでしたね、秦谷さんはそういう人でした。

 …賀陽さん、助けてくれませんか?」

 

「助けてあげたいけど、この状態の美鈴はたぶん聞かないわよ」

 

 助けを求めた返答は、無慈悲なものだった。

 さらに秦谷さんからの圧が上がっていくのがわかる。

 そろそろ月村さんが限界に来ていそうな顔をしている。

 

「よくわかっていますね。

 …『H.J.I.F』が終わったら、わたしの言うことを一つ聞いてくださったら、許してあげます」

 

 何を要求されるのかはわからないが、ここは聞いておかないと何をされるかわかったものじゃない。

 よく見ると賀陽さんさえ顔が少し青くなっている。

 

「……他の人に危害を加えるものと、犯罪行為以外ならいいですよ」

 

 その一線は超えられては困るので、念のための線引きを言い渡すと、秦谷さんの視線が更にきついものになる。

 

「プロデューサー、わたしたちのことを好きと言っているのに、扱いが些か酷いのではないでしょうか?」

 

「誤解を招く発言は避けてください。

 こんなことで万が一炎上されても困ります。

 それに、丁度いい塩梅だと思いますが」

 

「……後で覚えておいてくださいね」

 

 今にも包丁を持ち出しそうな圧で、事務所内を圧で満たしている秦谷さん。

 遂に圧に負けた私は、椅子から立ち、頭を下げる。

 

「大変申し訳ございません」

 

「……今回はこれで許してあげます。

 『H.J.I.F』が終わったら、楽しみにしていますね」

 

 楽しみにしているというその眼は、一切の光を映しておらず、ただただ闇が広がっている。

 ともすれば、その瞳に吸い込まれるのではないかと錯覚するような闇の深さは、まるで月と太陽を包み込む宇宙空間そのもののようだ。

 そんな瞳に魅入られてしまっては、言うことを聞かざるを得ない。

 

「……はい」

 

「プロデューサー…死なないでね」

 

 そう言う月村さんの顔は悲壮感にあふれている。

 月村さんからそう言われることは想定外だったのか、秦谷さんは声を上げた。

 

「まりちゃんまで!?」

 

「はいはい、いい加減その辺にしておきなさい」

 

 間に入る賀陽さんをジト目で見つめる秦谷さん。

 

「…元々はりんちゃんのせいなんですよ?

 わかっていますか?」

 

「わかってるわよ。

 私に勝ったら、全部教えてあげるわ」

 

「楽しみにしていますね」

 

 そう言って、やっと秦谷さんの機嫌が戻ったところで、賀陽さんが切り出す。

 

「それで、プロデューサー。

 私たちのライブの振り返りのためだけに呼んだわけじゃないでしょう?」

 

 そう、ライブ映像を見ながらデブリーフィング…擬きをしていたが、それ以外にも話さなければいけないことがある。

 具体的には、『H.J.I.F』で優勝してもらうための対策だ。

 

「察しがいいですね。

 あなた方に見ていただきたいライブ映像があります」

 

「途中で抜けて見に行っていたライブよね?

 確か…」

 

 

「『花岡ミヤビ』、あなた方がソロ部門に出なければ、ソロ部門の頂点に立っていたアイドルです」

 

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