『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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20話目

 『花岡ミヤビ』

 アプリの方の『学マス』では、時々試験で名前が出ているなーぐらいしか気づく人はいないだろう。

 何より、『ストーリー』で言及されることのないキャラで、知っている人の方が少ないかもしれない。

 彼女は、『学園アイドルマスター』のコミカライズ、『学園アイドルマスター GOLD RUSH』で登場し、ざっくり言うと主人公の『藤田ことね』に絡む悪役令嬢が近いだろう。

 その後の、万全になった『藤田ことね』に負けたところまで含めてだ。

 容姿は整っていて、髪は肩より少し長い程度で外側に軽くカールしており、左側の髪の一部をお団子のようにまとめている。

 自信家で自分よりも先に目をつけられた『藤田ことね』に嫉妬して喧嘩を吹っ掛ける一方で、相手の実力を認め、自信を出せと言えるその潔さは素晴らしい。

 凄腕プロデューサーにはお嬢様のように、スカートの裾を摘まんで挨拶をする礼節も持ち合わせている。

 なお、彼女の猫かぶりは相当なもので、『藤田ことね』すら引くレベルだ。同族嫌悪である。

 

 そして、何より、彼女は『SyngUp!』の次点の立ち位置、『中等部No.4と名高い』と明言されているのだ。

 

 つまり、中等部で彼女以上の実力者は、『SyngUp!』しかいない。

 念を入れて、相上に協力してもらって今回の『選抜試験(セレクション)』を抜けた生徒のライブ映像を確保する目途を立てていたが、彼女だけは直接見ておいた方がよいと感じた。

 何せ、ユニットではない、ソロ(一人)で『SyngUp!』の面々に一歩劣る程度の実力を持っている。

 『SyngUp!(彼女たち)』のプロデューサーとして、『H.J.I.F』を取りに行くために一度見ておくのは当然と言えるだろう。

 

 

 『花岡ミヤビ』のライブ映像を流す。

 それを見る『SyngUp!(彼女たち)』の表情は、真剣そのものだ。

 『花岡ミヤビ』のライブは、特徴的なものがあるわけではなかった。

 (Vo.)が特別上手いわけでも、ダンス(Da.)が特別上手なわけでも、ビジュアル(Vi.)が特段優れているわけでもない。

 

 だが、全てにおいて高水準だ。

 

 それは他の生徒と比較するとよくわかるのだが、()()()()()()()()()()()

 よっぽどのことがない限りは、彼女たちの勝利が揺らぐことはなさそうだというのが、今の私の素直な感想だ。

 問題があるとするなら、『SyngUp!(彼女たち)』の調子が上振れるか下振れるかによって、パフォーマンスに大きく影響を及ぼすことだろう。

 

 そう思っていると、賀陽さんが口を開いた。

 

「ふぅん…確かこの子って、成績が私たちの次ぐらいに優秀な子だったかしら?」

 

「ええ、そういう風に聞いていました。

 実際にどうなのかは、見てみないとわからないので見させていただきましたが、前評判に劣らない素晴らしいライブだと思います」

 

「私たちの脅威になると、そう言いたいわけね」

 

 そう言って私を見つめる賀陽さんに対して、頷き他の二人にも言い聞かせるように言葉を紡ぐ。

 

「そうですね。

 メンタルケア、前日の体調管理、そういった細かいところで失敗すると、負けてしまうのではないかと思うぐらいには」

 

「……そうね、一番可能性がある…と言うだけはあるわ」

 

 今日のライブの状況だけで言うと、賀陽さんが今当たると少し厳しいかもしれない。

 後2週間、本戦でぶつかるなら4週間あり、本戦にはソロ曲で全力を出せるようにするため、問題ないと思いたいが、2回目の選抜試験(セレクション)でぶつかった場合は、実力を戻さないと厳しいだろう。

 

 それを薄々感じ取っている賀陽さんは、真剣に考え込んでいるが、一方で月村さんはそう思っていないようだ。

 

「…でも、さっきのライブ映像と見比べても私の方が上だよ。

 負けるとは思えないけど?」

 

「そうやって油断していると、足元を掬われると言っているのよ」

 

「油断じゃなくて、事実でしょ。

 どっちにしろ、二人に勝つには最低条件なんだから…全力でやるのは変わらないし」

 

 自分の中では大成功のライブを収めた彼女の精神状態は無敵に近い。

 調子に乗っていると言えばその通りかもしれないが、やることは同じと言う意味ではその通りではあるのだ。

 

 秦谷さんも、月村さんに同調するように頷いた。

 

「そうですね。

 大丈夫ですよ、プロデューサー。

 わたし()、負けませんから」

 

 秦谷さんからすれば、それはそうだろう。

 今日のライブの実力だけ言えば、秦谷さん=月村さん(絶好調時)>賀陽さん>超えられない壁>月村さん(メンタル不調時)と言ったところだ。

 積極的に自分のペースで取り組んでいる彼女の伸びしろはすさまじく、表現力も、歌唱力も日に日に進歩している。

 

 だが、自分()負けない…他の二人はもしかしたら負ける可能性があると思っていることの裏返しだ。

 つまり…。

 

「秦谷さんは、彼女が月村さんとぶつかった場合はどうなると思いますか?」

 

「まりちゃんが、今日と同じような感じであれば、問題ないかと思いますよ。

 なので、暫くはしっかりお食事の管理をしていかないと…もしかしたら、があるかもしれません」

 

「は?

 美鈴も、私が負けるかもしれないって思ってるってこと?」

 

「もしかしたら…の話です。

 それで、まりちゃんと勝負できなくなってしまっては…わたしが、自分を、抑えられなくなってしまうかもしれません」

 

「…」

 

 話しながら圧を強めている秦谷さんを見て、月村さんも黙り込んでしまった。

 賀陽さんが月村さんに勝って、勝負できなくなるならまだ許せるのだろう。

 だが、自分と勝負する前に他の人に敗退してしまうのは、秦谷さんは…ライバルとして許せなくなる。

 本領を発揮できなかった月村さんと、それをサポートしきれなかった自分自身。

 そして、同じく本領を発揮させられなかったプロデューサーを。

 

「まりちゃんが、そう簡単にわたしとぶつかるまで負けるとも思えませんが…不安な要素を極力排除しておいた方が、わたしもプロデューサーも、枕を高くして眠ることができます」

 

「……わかった。

 美鈴と燐羽、プロデューサーまでそう言うなら、もっときちんと対策を立てるよ。

 プロデューサー、このライブ映像、貰ってもいい?」

 

「ええ、後でデータを送らせてもらいます。

 賀陽さんも、秦谷さんにも送らせてもらいますので、しっかり見てください」

 

「ええ、貰っておくわ」

 

「りんちゃんも、わたしに負けるまで、負けてはいけませんよ」

 

「あなたにも負けるつもりはないんだけど?」

 

「ふふふ、頑張ってくださいね。

 もっと、本気でやってくれないと、いまのりんちゃんでは勝てませんよ?」

 

「私だっているんだけど!」

 

 そう言って三人で言い合い始めた。

 いつもの調子に戻った三人を見て、後は大丈夫だろうと確信する。

 

 ……なんで、三人とも言葉のチョイスが、悪の幹部の密会みたいになっているのかは目を瞑っておこう。

 それに、『花岡ミヤビ』が最有力候補ではあるが、他にも言わなければいけない事がある。

 

「負けさせるつもりもありませんが、油断はしないようにしてください。

 後、有力候補…『選抜試験(セレクション)』を抜けた他の候補のライブ映像を、友人に頼んで確保してもらっています。

 彼女以上の有力候補がいた場合は、先に教えますのでそのつもりで」

 

 そう言って、次の『選抜試験(セレクション)』についての話をしようと思ったが、場の空気が凍り付いていたことに気づく。

 見ると、3人とも私を見て呆けており、月村さんは何かを言いたいように私に訴えかけてきていた。

 

「…………」

 

「?

 どうしましたか、月村さん」

 

 他の二人も何か言いたげではあるが、月村さんが一番そわそわしているので月村さんに話を振る。

 そうすると、少し言いづらそうに口を噤んでいたが、たっぷり時間をかけて言った。

 

「………プロデューサー、友達いたんだ」

 

 隣にいる二人も頷いている。

 ……もしかすると、担当との間に酷い認識の違いが生まれているかもしれないことに気づいた。

 

「……失礼ですね。

 多くはありませんが、同級生の友人ぐらいはいますよ」

 

 そう言うと全員心底意外そうな顔をして見てくる。

 

「いつも美鈴の面倒見てるから、独りぼっちなんだと思ってた」

 

「…恥ずかしながら、わたしも同じように思っていました」

 

「同じく」

 

 ……確かに、私は友人が少ない。

 初星学園内では、相上しかいないし、他の同級生は(相上もだが)全員年上で距離を縮めるのが難しい状況だし、他に友人と呼べるようなのは自称心友(しんゆう)の音楽家ぐらいしかいない。

 しかし、決して0ではないのだ。

 

 秦谷さんから目を離さないようにしていることもプロデュースの一環であって、不要ならプロデューサー業についてもっと学ばなければいけないのに…。

 担当から最悪な評価を受けている可能性に気づいた私は、さらに質問を重ねる。 

 

「もしかして、友達がいないから中等部に通い詰めてると思っていたわけではありませんよね?」

 

「…」

 

 誰一人として目を合わせようとしない。

 

「目を合わせてください」

 

「そ、そんなことよりさぁ、他にはないの!?

 『H.J.I.F』の本戦に向けての話とか!」

 

 露骨に話題を変え始めた月村さんを見つめながら、これ以上時間を無駄にしても仕方ないことに気づき、本題に移る。

 

「………衣装に関してですが、本戦の1週間前には完成する見込みなので、完成次第一度衣装を着た状態でソロ曲の通しをしましょう。

 もし、次の『選抜試験(セレクション)』でぶつかる形になってしまった場合は、衣装は今日着た『初』か、『Campus mode‼』にするかはお任せします。

 音源はこの前お渡ししましたが、ダンスと合わせて習得状況はどうですか?」

 

 担当アイドルとの信頼関係は重要ではあるが、今の貴重な時間を無駄にしてまで回復させる名誉でもないと割り切り、次の『選抜試験(セレクション)』に向けての話を詰める。

 三人に習得状況を確認するが、月村さんが自信満々に胸を張って言った。

 

「問題ないよ。

 衣装があれば、今すぐでもライブできるぐらい」

 

「いや、今すぐは無理でしょ。

 足、まだ震えてるわよ」

 

「わたしは、今すぐでもできますよ。

 お望みとあれば、今ここでお披露目いたしましょうか?」

 

 月村さんは強がりを言っているのがもろわかりだが、秦谷さんはお願いしたら本当にやってくれそうなほど余裕がありそうだ。

 

「それは、『H.J.I.F』の本戦まで取っておきましょう。

 私、ショートケーキのイチゴは最後まで取っておくタイプなので」

 

「まあ、それではいちごを増やして差し上げないといけませんね。

 期待しておいてください。

 わたしだけじゃなくて、まりちゃんも、りんちゃんも、プロデューサーの期待を超えて羽ばたいてみせますので」

 

 全員の意思は同じようで、秦谷さんの言葉に意見がある人はいなかった。

 ならば、プロデューサーとして、三人に伝える言葉は…。

 

「そうしてください。

 私の目的は、以前にも言っている通りです。

 『SyngUp!(あなた方)』を輝かせたい、『SyngUp!(あなたたち)』の最高のライブを見たい。

 あなた方全員が、それぞれの輝きで、ファンを、生徒を、先生を、すべての人に刻み込んでください。

 『SyngUp!(あなた方)』こそが、ナンバーワンだと」

 

「わかってます」

 

「了解よ」

 

「ええ、もちろんです」

 

「私もレッスン状況は随時確認させてもらいますが、ライブ、楽しみにしています。

 …それでは、今日は解散しましょう。

 ライブの疲れも残っているので、寮に戻ってゆっくり休んでください。

 くれぐれも、レッスンをしようなどとは思わないように」

 

「わかった、手毬?

 言われてるわよ」

 

「流石に今日レッスンは無理…明日にする」

 

「えらいえらいですよ、まりちゃん」

 

「子ども扱いしないでってば…」

 

 相変わらず撫でられる手を振り払えない月村さんは、秦谷さんにいいように撫でまわされている。

 まだ普段よりも早い時間のため、三人が事務所を出るのを見送り、寮までは見送らなかった。

 秦谷さんに一緒に食事でもと言われたが、まだやるべきことがあったからだ。

 

 

 

 三人がいなくなった事務所の中で、モニターに接続しているノートパソコンから選ぶのは、最後の、5本目のライブ映像。

 

 そこに映っているアイドルは、『選抜試験(セレクション)』を落ちてしまっているアイドルだ。

 顔色も悪く、疲労が溜まっているのかダンスの切れもよくないし、歌も上手ではない。

 

 ではなぜ、疲弊している担当アイドルを任せてまで、そんなアイドルのライブ映像をわざわざ自分で撮りに行ったのか。

 その答えはただ一つ、そのアイドルが()()話の主軸になる可能性があるからだ。

 いくつかの書類をまとめて、封筒に入れる。

 そして、そのライブ映像のファイル名を変更してパソコンに保存して今日は帰ることにした。

 

 『月村手毬』『秦谷美鈴』『賀陽燐羽』『花岡ミヤビ』…そして、『()()()()()』。

 

 中等部出身の『ストーリー』上では1年生になるネームドキャラのライブ映像を、パソコンに大事にしまい込んだ私は、誰もいない事務所を後にした。

 

学マスのストーリーはどの程度進めていますか

  • アプリをそもそも入れていない
  • どのキャラも親愛度10未満
  • 特定のキャラのみ親愛度10まで
  • 特定のキャラのみ親愛度20まで
  • 全キャラ親愛度20まで
  • 特定のキャラのみ親愛度27まで
  • 解放可能なキャラ全て親愛度MAX
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