『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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22話目

 

 プロデューサーと分かれ、中等部の校舎に向かい、『3-1』の教室に入る。

 まりちゃんとりんちゃんが、驚いたような顔でわたしを見ていますが、微笑んで手を振ると二人とも少し驚いた顔をしていました。

 恐らく、昼休みの時間にわたしが教室に戻ることが珍しいからでしょう。

 好きにやっていいと言われてから、最近ほとんど授業に出ていませんので。

 

 そんな二人から視線を外し、教室内を一周見渡す。

 クラスメイトから向けられる視線は…驚きと恐怖…?

 何故そんな畏怖の感情を向けられているかは…恐らくまりちゃんとりんちゃんが、また何かしたのでしょう。

 

 そんなことにかまっている暇はないので、改めて教室を見渡す…そして、金髪のおさげの少女を見つけました。

 彼女が、『藤田ことね』さん。

 

 プロデューサーの…新しい担当候補………そう思うと、少し怒りが湧いてきますね。

 

「藤田、あんた秦谷さんに何かした?

 凄い睨まれてるけど?」

 

「してないしてない!

 …なんで見てくんのかナー…」

 

 藤田さんがお友達とそのような会話をしているのを聞きながら、藤田さんの方に足を運ぶ。

 周りがギョッとしながら、その様子を見守っているのがわかりますが、面倒事は先に片づけてしまいましょう。

 藤田さんとお友達も、驚きながらわたしを見ています。

 心なしか少し震えているようにも見えますが、些細なことですね。

 

「藤田ことねさん…ですね?」

 

「…そうだけど…あたしになんか用?」

 

 彼女の顔を見る。

 血色が悪く、目の下にはクマがあるのを化粧で隠しているのでしょう。

 顔は非常に整っているのに、血色の悪さがそれを阻害しています。

 明らかに睡眠時間が足りていません。

 肌は手入れされているようですが、健康状態があまりよくないのが顔を見るとよくわかります。

 

「……不服ですが、少しお話したいことがあります。

 時間が取れそうな時を教えてください」

 

「不服って……話って、ここじゃダメ?」

 

「ダメです。

 とても、大事な話ですので」

 

「大事な話!?」

 

 藤田さんはそう大きな声で言うと、教室中がざわついた。

 何かおかしいことでも言ったのでしょうか………ああ、なるほど。

 

「間違っても告白とか、そういうことではありません。

 そこは勘違いしないでください」

 

 そう言うと教室内のざわつきが少し落ち着いた。

 プロデューサーから、言葉選びに気を付けてくださいと言われていましたが、確かに気を付けないといけないかもしれませんね。

 少し離れた席で、まりちゃんとりんちゃんも動揺していたのが見えてしまいました。

 

「……だ、だよナー。

 び、びっくりしたぁ」

 

「それで、どうでしょうか?

 お時間とれそうですか?」

 

「ゴメンね~。

 放課後は基本的に用事が入ってるから無理なんだ~」

 

 そう言って手を合わせながら頭を下げる藤田さんに対して、睨みを利かせて少し待つことにしました。

 相手がわたしを畏怖しているのなら、自分から妥協案を出すだろうと思ってのことです。

 

「………昼休みでもいいなら、30分ぐらいとれるかもなんだけど、どう?」

 

 案の定圧に屈した藤田さんは、妥協案として昼休みの時間を差し出しました。

 成果としては上々でしょう。

 プロデューサーもそれしか時間が取れないと伝えれば、承諾するはず。

 人を使っておいて文句を言うような方ではありませんから。

 

「なら、明日のお昼休みに時間を頂戴します。

 お迎えに上がるので、教室にいてくださいね」

 

「はーい。

 じゃあ、また明日、よろしくねー」

 

「ええ、それではまた明日」

 

 そう言って藤田さんと別れ、教室を出ました。

 まりちゃんとりんちゃんがわたしを見ているのがわかりますが、変な空気になってしまったので授業に出る気分ではなくなってしまいました。

 教室から出て、プロデューサーに今から事務所に戻ります。と送って歩き始めます。

 

「………って授業は!?」

 

 そんな声が後ろから聞こえた気がしますが、もう授業に出る気分ではなくなったので、今日も今日とてサボりました。

 

 

 事務所に向かいながら、プロデューサーの言葉と藤田さんのことを思い返します。

 

 藤田さんは……プロデューサー曰く、才能を秘めたアイドル。

 確かに、容姿は非常に整っていました……ああいう子がタイプなのでしょうか?

 才能が開花しないのは、恐らく健康状態…『睡眠不足の状態で常に生活』しているから。

 『放課後には用事』が基本的に入っている、『プロデュース契約をするだけで改善』する、『わたしたちには必要なかった』もの……なるほど、プロデューサーが担当したいと言った理由が分かった気がします。

 

 それだけなら、他のプロデューサーでもいいのでは、と思いますが、友達がいるとは言っても()()()()()()()()()()()プロデューサーのことなので、恐らく任せられるような人がいないのでしょう。

 

 プロデューサーは…()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 恐らく藤田さんのことも…よく知っているのでしょう。

 

 そろそろ、問い詰めないといけないですね。

 プロデューサーが、わたしに隠し事をしたままなんて………あってはならないことです。

 

 

 

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 秦谷さんからのメッセージを確認して、結局授業に出なかったのかとため息を吐きながら、彼女を待つ。

 この前も中等部の先生に、どうにかして秦谷さんを授業に出してほしいと泣きつかれていた。

 最初は説教から入ったのだが、気づいたら泣き出してお願いだから何とかしてほしいと泣きつかれてしまった。

 

 好きにしていいと言った手前、私の責任ではあるのだが、あくまで本人の自由意思によるものだから困っている。

 『ストーリー』においては、高等部に進学するまでは猫を被っていたはずなのだが、私が好きにしていいと言ってしまったばっかりに悪化してしまった。

 そろそろ本格的に手を打っておかないといけないかもしれない。

 そうでないと、もし万が一アイドルで食べていけなくなった時に、社会人として生活を営んでいくことがかなり難しくなるだろう。

 社会性は、学生時代は甘く見がちだが、その実社会で、会社で働く上では重要になることばかりだ。

 

 自由にしていいとは言ったが、ここまで自由奔放になるとは思わな…いや、そんな気はしていたが見ないふりをしていただけだ。

 最低限、学生としての体裁を保つか、そうでなければ高等部に進学する時に3組に所属することになるかもしれない。

 秦谷さんの実力を鑑みれば、『初星学園』側が彼女を手放すことはないだろうが、このまま授業に参加しない状態が進むのであれば、特別枠にせざるを得ないだろう。

 このままでは、彼女のご両親にも顔向けできない事態になってしまう。

 

 考え込んでいるうちに、事務所のドアが開いた。

 

「戻りました、プロデューサー」

 

「おかえりなさい、秦谷さん」

 

 戻った秦谷さんにそう返すと、秦谷さんは隣に座った。

 相変わらずかわいらしい顔をしているが、その顔つきは普段より少し険しい。

 

「藤田ことねさんはどうでしたか?」

 

「……かわいらしい顔をした方でしたね。

 目元のクマが気になりましたが」

 

「やはりそうでしたか」

 

 想像通りの『藤田ことね』さんの印象で、自分の推測とそう変わらないことを把握できた。

 やはり、早急に彼女の負担を軽減させる必要があるなと考え、秦谷さんから声をかけられる。

 

「プロデューサー」

 

「?

 なんでしょうか?」

 

「プロデューサーは、なぜここまで、わたしたちのことを知っているのでしょうか?」

 

 何故、今その質問が出てくるのだろうか。

 へまをした覚えはなかったが……いや、いきなり成績底辺のアイドルが『最高の才能を持ったアイドル』なんて言ったら、警戒されるのは当たり前か。

 

「………どういうことでしょうか?」

 

 淡い期待を持って、そうとぼけてみることにしたが、彼女の眼には闇が広がっている。

 

「以前から気になっていました。

 わたしたちのソロ曲、あれは入学して1週間しか経っていないプロデューサーが作れるようなものではないと思っていました。

 次に気になったのは、いつの間にかりんちゃんと仲良くなっていたことです」

 

 ソロ曲の方は怪しまれても仕方ないと思ったが、賀陽さんの件は想定外だ。

 

「仲良く…なっていましたか?」

 

「ええ、最初、りんちゃんはプロデューサーのことをあまりよく思っていなかったのは、ご存じでしたか?」

 

「そうですね…警戒されていたのは感じていました」

 

「そんなりんちゃんが、いつの間にか篭絡されていた…それも、プロデュース契約を結んで数日足らずでです。

 これは、ぐれてしまった今のりんちゃんになってからは、誰も成し得なかったことなんですよ」

 

 そう言われてみればそうかもしれない。

 言われるまで気づかなかったが、今の賀陽さんの交友関係は非常に狭い。

 ユニットメンバー以外の友人はいないと言ってもいいほどだ。

 その指摘に対して、私は何も言えなかった。

 

「……」

 

「それに、プロデューサーはわたしがトップアイドルになって()()()()()()を知っているのですよね?」

 

 それは……。

 

「参考までに、何故そう思ったのか、聞いてもよろしいですか?」

 

「違和感を持ったきっかけは、最初に『ツキノカメ』をプロデューサーにお披露目したときです。

 『どんな思いでも』込めてしまえ……ほとんど初対面のアイドルに、まるで悪い考えがあるような言い方…酷いプロデューサーですね」

 

 なるほどと、少し納得したが、それだけでは根拠は薄いだろう。

 

「他には?」

 

「その後、『ツキノカメ』をわたしが歌いながら込めた想いが、プロデューサーにきちんと伝わっていたはずです。

 ですよね?」

 

「ええ、『わたしだけを見て』と、目で、歌で、表情で、手の振りで、訴えかけていたことが伝わってきました」

 

 あの時の内心の衝撃は今でもよく覚えている。

 本当に心が持ってかれそうになって…いや、持ってかれてしまったのだろう。

 

「そして、それが()()()()()()()()()()()()()()()

 まるで、()()()()()()()()()()()()()()です」

 

「……なるほど、確かにそうかもしれません」

 

「そして、今回の『藤田ことね』さんの件です。

 これでも、随分我慢したほうなんですよ。

 プロデューサーが、自分から話してくれることを待っていましたから」

 

「それは……申し訳ありません」

 

「謝罪はいりません。

 それで、話していただけますか?」

 

 目の前の少女の瞳には、有無を言わせない力強さがあった。

 ここらが年貢の納め時だろう。

 

「……わかりました。

 かなり、荒唐無稽な話になりますので、信じていただくかどうかはお任せします」

 

「ええ、かまいません。

 本当かどうかは、わたしが判断します」

 

「そうしてください。

 では…」

 

 そうして、私は賀陽さんに説明したことと同じように説明した。

 『夢』を見たこと、『夢』の中では『ソロアイドル月村手毬』や『ソロアイドル秦谷美鈴』がライブをしていたこと。『SyngUp!』が解散して高等部に進学した彼女たちの話。

 『夢』は人の人生を濃縮したようなもので、賀陽さんのソロ曲はそこから引っ張ってきたものだということ。

 

 そして、賀陽さんにも言っていなかった、『ソロアイドル月村手毬』『ソロアイドル秦谷美鈴』をプロデュースしていたこともあったことを伝えた。

 そこで、『秦谷美鈴』の目標を知ったことも。

 

「……というわけです」

 

「………にわかには信じがたいですが、プロデューサーが嘘をついているようにも見えませんので、とりあえず信じてさしあげます」

 

「ありがとうございます」

 

 こんな話を信じてしまうなんて、賀陽さんもだから、将来詐欺にあうのは『SyngUp!』全員かもしれない。

 いや、それほど信頼関係を築くことができたと喜ぼう。

 そして、詐欺にあいそうになったら死ぬ気で止めよう。

 

「ですが……わかっていると思いますが、その『秦谷美鈴』さんと、わたし(秦谷美鈴)は別人です」

 

「ええ、もちろん、承知しています」

 

 賀陽さんからも言われているのだが、未だに『秦谷美鈴』の印象が強く、抜け切れていない点は反省しないといけない。

 

「そう、プロデューサー(あなた)()()()()()()()()です」

 

 話が飛躍しているが、訂正が必要だ。

 

「いえ、『SyngUp!(あなた方)』のものです。

 秦谷さんだけではありませんよ」

 

「そうですね……まりちゃんと、りんちゃんは許しましょう。

 ですが……藤田ことねさんまで許すかどうかは、別問題です」

 

「あ、やっぱりまだ許していなかったんですね」

 

 話の流れで行けないかと思っていたが、やっぱりそう簡単にはいかなかった。

 秦谷さんの眼がまた濁ってきている。

 

「当然です。

 まだ納得のいく理由をいただいておりません」

 

 どこまで説明するべきか……そうだ。

 

「そうですね……私が見た『夢』には、いくつか『ルート』と呼んでも差し支えないものがあります」

 

 私は『初星コミュ』の話をすることにした。

 

「『ルート』…それは…どういうものなのでしょう?」

 

「簡単に言うと、『月村手毬』がソロアイドルとしてデビューするルート。

 『月村手毬』が他にユニットを組んでアイドル活動をするルート…といったものが「まりちゃんが…わたしたち以外とユニットを組む?」

 

 いつもよりも瞳が更に深い闇に染まった秦谷さんが話に割り込んだ。

 やはり地雷ではあるようだが、ここまで言えば、なぜ藤田ことねさんを担当したいのかがわかるはずだ。

 

「そういう世界線もあるかもしれないということです。

 私がいる限り、『SyngUp!』が解散させないように努めますが……。

 秦谷さん」

 

「………………………………なんですか?」

 

 秦谷さんが凄い不機嫌になっているが、気にせず続ける。

 

「月村さんが、『SyngUp!(あなた方)』以外でユニット活動をできると思いますか?」

 

「……‥………………正直、想像がつきません。

 まりちゃんに合わせられる方も、まりちゃんが合わせようと思う方も」

 

「それの一端を、藤田ことねさんは持っています。

 それは、『SyngUp!(あなた方)』にはないものです」

 

「……なるほど、それをわたしたちにも理解してほしいと、そう仰るのですね?」

 

「そうです。

 理解しても、実践できるかは怪しいですが、実践できないにしても理解しあうことが重要ではないでしょうか?

 藤田ことねさんは、その手助けになるはずです」

 

「…まだ、完全には許しませんが、今はそれで納得してあげます。

 その言葉が、嘘だったときは、絶対に許しませんので、お覚悟を」

 

「承知しております。

 そう思った時は、煮るなり焼くなり……タタキは嫌ですが*1

 

 そう言うと場の雰囲気が一気に緩んだ。

 秦谷さんも張りつめていた顔が、少し緩んでいる。

 

「それ、好きですね」

 

「ええ、因みにこれを言っていたナマモノはすね毛が大量に生えた足を生やした魚*2です」

 

「想像させないでください」

 

 そう言ってため息を吐いた彼女は、先にお願いしていたことについて話し出した。

 

「明日のお昼休みの時間を頂きましたが、この事務所にお呼びしてよろしいのでしょうか?」

 

「ええ、お昼を食べてからで大丈夫ですので、こちらにお呼びしてください」

 

「わかりました。

 それでは、わたしはここでお昼寝させてもらいますね」

 

「……それなのですが、なぜ授業に出るのをやめたのですか?」

 

「藤田さんとお話ししていたら、教室内が変な空気になってしまったので、出る気になれませんでした。

 言葉選びを間違えてしまったみたいです」

 

「それは…詳しく聞いてもいいですか?」

 

 そして、教室内で起こった惨状を聞き、やはり『SyngUp!(彼女たち)』には『藤田ことね』さんが必要かもしれないと感じた。

*1
南国少年パプワくんのタンノくんから

*2
南国少年パプワくんのタンノくんのこと

学マスのストーリーはどの程度進めていますか

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