『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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23話目

 昨日はあれから色々秦谷さんと話をしたが、結局彼女が授業に出てもらうように説得するのは無理だった。

 元々望み薄ではあったが、多少出るようになってくれればと思っていたので残念ではある。

 

 だが、可能性の話でも、高等部の進学時に月村さんと同じクラスになれる可能性が低くなることを伝えると、少しは考えると言ってくれただけまだましだろう。

 その甲斐があってか、今日は珍しくお昼寝をする報告の連絡が来ていないので、自主レッスンをしているか、もしかしたら授業に出ているかもしれない。

 

 後は秦谷さんが無事に藤田さんを連れてきてくれればいいのだが………。

 

 そう思って事務所で藤田さんのライブ映像を見ていると、事務所のドアが開いた。

 そこにいたのは、秦谷さんと借りてきた猫のように怯えている藤田さん。

 

 そして、その二人を後ろから威圧している『SyngUp!の他メンバー(月村さんと賀陽さん)』だった。

 

 

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 ……結局、プロデューサーに昨日懇願されてしまったので、今日は久しぶりに朝から授業に出ることにしました。

 無視して、自主レッスンでもしてお昼に藤田さんを呼んでもよかったのですが……まりちゃんやりんちゃんとも離れてしまう可能性があると言われてしまうと、少しだけ授業に出ようと思ったのです。

 

 朝教室に入った後は、少し騒々しかったですし、担任の先生から泣いて喜ばれたのは少し驚きましたが……明日もきちんと出席するとは思わないことです。

 

 まりちゃんとりんちゃんには、昨日の放課後に藤田さんの件を聞かれたので、その時にプロデューサーが用件があるので呼び出してほしいとお願いされたことをお伝えしました。

 その真意までは、お伝えしないでぼかしたので……後は、プロデューサーに何とかしてもらいましょう。

 そして、呼び出す用件もあるから、授業に出ることを伝えていたので、二人とも驚いた様子はありません。

 

 藤田ことねさんは……今にも死にそうな顔で、わたしを見ており、お友達も心配そうにしています。

 交友関係が広いのでしょうか、朝から彼女に声をかける人はそれなりに多いように見えました。

 

 そうして、午前中の授業を受けて、終了したので藤田さんに声をおかけしました。

 わたしが近づくにつれ、周囲のざわめきがまた大きくなってきますが、些細なことです。

 

「藤田さん、昨日お話しした通り、お食事が終わったらお話したいことがあります」

 

「もちろん、覚えてるよー。

 食べたら行くから、ちょっと待っててねー」

 

「ええ、お待ちしております」

 

「……えーと…美鈴ちゃんは食べないの?」

 

「先程軽く食べましたよ。

 それに、あまり食べすぎると……午後の時間がたっぷりありますので」

 

「もしかして、またサボるつもり?」

 

「まぁ…少し、お休みするだけですよ」

 

「それをサボるって言うんだよナー…」

 

 そう言いながら広げたお弁当の箸を進める藤田さんを待ちながら、プロデューサーに連絡を入れる。

 このペースでいけば、恐らく後15分後には事務所に着くはずです。

 

 そうしているうちに、藤田さんは食べ終わっていました。

 

「お待たせ~。

 じゃあ、行こっか」

 

「ええ、わたしについてきてください」

 

「ちょっと待って、美鈴」

 

 教室を出ようとしたら、まりちゃんに呼び止められました。

 遠巻きに見聞きしているのはわかっていましたし、昨日お話ししてからずっとそわそわしていたので、気になっていたのでしょう。

 りんちゃんもちょっとそわそわしていたのが可愛らしかったので、敢えてスルーしていたのですが捕まってしまいました。

 

「まりちゃん、どうかしましたか?」

 

「私と燐羽もついていくから」

 

「うぇええええええ!?」

 

 まりちゃんの言うことは予想通りでしたが、藤田さんの反応は些か大げさではないでしょうか。

 

「ええ、良いですよ」

 

「いいの!?

 ふたりっきりの話じゃないの!?」

 

 ああ、なるほど。

 確かに昨日『SyngUp!』全員で話をしなかったことを考えたら、わたしだけが用があるように思っても不思議ではないですね。

 実際は、わたしじゃなくて、用があるのはプロデューサーなのですが、それは言う必要はないでしょう。

 

「ええ、他の方ならまだしも、まりちゃんとりんちゃんは関係あることですので」

 

「じゃあ勝手についていくから、よろしく」

 

「そういうことだから、まあ、気にしなくていいわ」

 

「ええ~~~…。

 よくわかんないけど、とりあえずよろしくねー」

 

 そう言って教室から出て、歩き始める。

 中等部を出たあたりで、藤田さんが空気に耐えられなくなったのか、わたしに話しかけてきました。

 

「それでさー。

 これって、どこに向かってるの?」

 

「プロデューサー科の教室ですよ」

 

「……え?

 なんで!?」

 

「プロデューサーが用があるとのことでしたので……藤田さんのライブ映像も、見ていましたよ」

 

「うぇえええええ!!???」

 

「ふーん……」

 

「へぇ……」

 

 わたしがそういうと、まりちゃんとりんちゃんが藤田さんを後ろから睨んでいるのがひしひしと伝わってきます。

 それは藤田さんも感じているのか、顔色が更に悪くなっていました。

 

「………なんで二人とも、私を睨んでいるのかナー…」

 

「ふふふ、さあ、もうすぐ着きますよ」

 

「はーい…」

 

 観念したかのように少し項垂れながら歩く彼女は、まるでこれから処刑される罪人のような足取りでした。

 

 

 

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 事務所に入ってきた藤田さんを、座ってもらい、他の三人には少し離れてもらった。

 途中まで見ていたライブ映像は、事務所のドアが開いた段階で消してある。

 藤田さんには、私の正面に座ってもらい、私を睨みつけている月村さんと賀陽さん、ニコニコしているが目が笑っていない秦谷さんには、少し離れて座ってもらった。

 

 露骨に『SyngUp!(彼女たち)』が離れた瞬間に息を吐いた彼女を見るに、これまでも彼女たちの圧にやられてきたのだろう。

 私でもここまでの圧を3人から感じるのはそんなに多くない。

 

「ええっと…それで、あたしに『SyngUp!』のプロデューサーさんが、何の用ですか?」

 

 一人で座っていた彼女は、少し事務所を見渡しながら、私にそう話しかけた。

 それを聞き、彼女の顔を見る。

 血色の悪い顔は、ライブ映像を見たときよりも悪く、ライブでは多少化粧で誤魔化していたのがわかる。

 そして、そこから改善どころか悪化している。

 碌に休養もとっていなかったのだろう。

 

 私は、ゆらりと椅子から立ち上がり、右手を手の甲を藤田さんに見せる形で少し上げた。

 

「藤田ことねさん。素晴らしい提案をしましょう。*1

 あなたも担当アイドルになりませんか?」

 

「……え?」

 

「見ればわかります。

 今が本調子じゃないことが。

 ですが、あなたのその才能、他に類を見ないほどです。

 磨き上げれば、『一番星(プリマステラ)』にさえなれる」

 

 私にとっては誇張ではないが、彼女にとっては信じられないようで一瞬呆けた後で手を、頭を全力で横に振りながら否定した。

 

「……いやいやいやいや、あたしのライブ、見たんですよね!?

 『H.J.I.F』の選抜試験(セレクション)で落ちたんですよ!?

 あんたがプロデュースしている、『SyngUp!(あいつら)』の方が、才能あふれてるって!」

 

「確かにそうかもしれません。

 ですが、あなたほどの才能を腐らせたままにしておくのは、あまりにも忍びない……。

 あなたが『H.J.I.F』の選抜試験(セレクション)に落ちた理由はわかりますか?」

 

「それは……あたしがダメダメの落ちこぼれだからで」

「あなたに担当プロデューサーがついていないからです。

 担当プロデューサーがついていれば、あなたのその才能を腐らせることはしない」

 

「え……いやいやいやいやいやいやいや、やっぱりおかしいですって!

 大体、そんな才能があったら、こんなに苦労してないです!」

 

 一瞬嬉しそうな顔をしたのを見逃さなかったが、すぐにまた否定している。

 自分に自信がないが、褒められると嬉しくなってしまうのだろう。

 

「才能があっても、それを磨ける環境になければ、輝くことはできません。

 ダイヤモンドでさえ、採掘されなければ岩盤に埋もれたまま、採掘しても磨き上げなければ宝石としての価値は低いままです。

 ですので、専任とはいきませんし、『SyngUp!』を優先してしまうことが前提となりますが、あなたをプロデュースさせてください」

 

「………ちょーっと考えさせてくださいね」

(うへへー…あたしが才能にあふれたアイドル…いやいや、そんなわけ…でも……最後に褒められたのって、いつだったっけ…?

 アイドルをやってるときは、褒められたことなんてなかった……。

 ここで断る理由は……『SyngUp!(怖い人たち)』がいるぐらい。

 でも、あたしは絶対成り上がって、トップアイドルになりたい。

 そのためには……利用できる……ケド…どこまで信じていいんだろう…)

 

 そう言うと、目の前の彼女は少し頭を捻らせ、考え込んでいた。

 恐らく頭の中ではいろいろな考えがよぎっているのだろう。

 そして、少し考えて口を開く。

 

「………あの……それで、プロデューサーさんには、どんなメリットがあるんですか?

 仮に…万が一、あたしに才能があったとしても、もう『SyngUp!』のプロデュースをしているんですよね?

 別に、あたしまで担当しなくても、いいんじゃないかな……ってそう思ったんですケド」

 

「確かに、プロデューサーとしての実績だけなら、藤田さんをプロデュースする必要はないかもしれません」

 

 これは紛れもない本心だ。

 『SyngUp!』は問題児の集まりではあるものの、ライブの評価だけで言えば高等部の生徒にも負けないレベルだ。

 

「ですよねー」

 

「ですが、私は『SyngUp!』を『一番星(プリマステラ)』にしたいのです」

 

 しかし、『一番星(プリマステラ)』になるには、トップアイドルになるには、それだけでは不十分だ。

 

「……?

 それとあたしのプロデュースに何の関係があるんですか?」

 

「『SyngUp!(彼女たち)』に必要なものを、藤田さんは持っています。

 ですので、藤田さんをスカウトすることで、お互いに不足している部分を補完しあい、互いに競い合える相乗効果を狙えると考えています」

 

「ええー……あたしの成績、知ってます?」

 

 そう言って卑屈な笑みを浮かべた藤田さんに、事前の調べ通りの情報を打ち明ける。

 

「成績不良、赤点と補習の常連だとは知ってますよ」

 

「ですよねぇ!

 そんなあたしに、『SyngUp!(あいつら)』に教えられるようなものなんてないですよ!」

 

「そんなことはありませんよ。

 藤田さんは、自分の強みに気づいていないだけです。

 それで、藤田さん、いかがでしょうか?」

 

「……うーーん………」

 

 そう言ってまだ考え込んでいる。

 これが、来年…高等部に進学した後で、もっと余裕がない状態であればそのまま承諾されたかもしれない。

 だが、『ストーリー』の1年前の今は、『ストーリー』の時よりもまだ多少余裕がある……と本人は思っているのだろう。

 中等部で完全に成果を出せなくなってからの方が、言い方を悪くすれば()()()()()()()()()()()

 だが……今の状況のままでは、芽が出る可能性は限りなく低い。

 私は、自分が『悪い大人』になることを自覚しながら、彼女の背中を押すことにした。

 

「……藤田さん、迷っているようでしたら、一つお聞きしたいのですが」

 

「なんですか?」

 

「藤田さんがアイドルになりたい理由を、アイドルになってやりたいことを、教えてほしいのです」

 

「あたしが…アイドルになりたい理由……アイドルになってやりたいこと……」

 

「そうです。

 成績が奮わない状況で、結果が出ない状況で、それでもアイドルになりたい理由を、なってやりたいことを、教えていただきたい」

 

 彼女の境遇は、想像するに絶する苦労があることに間違いない。

 アイドルになりたいと言ったのは自分自身だとしても、努力し続けることが誰しもできるわけではない。

 アルバイトと学業の両立なんて、大学生でもできない人がいるぐらいだ。

 それを、中等部のアイドルがやって、折れないままでいられる方が珍しい。

 

 だから、私は直接聞きたいのだ。

 『藤田ことね』ではなく、藤田ことねさんのこれまで絶やすことがなかった『灯』を。

 

「あたしは……大金持ちになりたい!!

 家族がちょっといいご飯を食べられるように、お母さんを安心させられるような大金持ちになりたい!!

 ステージを見ているだけで元気を貰えるようなアイドルに…あたしが憧れたようなアイドルになりたい……です」

 

 最初は勢いよく言っていたが、言っている途中で『SyngUp!(他にも人)』がいることを思い出したのか、最後の方は声が少し小さくなっていた。

 だけど、

 

「その言葉が聞きたかった*2

 

 そう言って私は彼女に封筒を渡す。

 昨日からしたためていたものだ。

 

「私は、あなたの手助けをしたい。

 もし、私の手を取っていただけるのであれば、こちらにサインをお願いします」

 

「これって…なんですか?」

 

「プロデュース契約の契約書と、プロデュース契約をしているアイドルが申請できる、特別な奨学金の申請書です」

 

「奨学金の申請書!?」

 

「ええ、プロデューサーが付いたアイドルには、奨学金や支援金の申請条件が緩和されます。

 これで、アルバイトを減らすことができますね?」

 

 そう言うと、藤田さんは目を見開いた。

 

「知っていたんですか?

 あたしが、アルバイトをしていること」

 

「プロデュースするアイドルのことは一通り調べます。

 藤田さんが放課後に何をしているのか…アルバイトをしていることは、すぐに調べがつきました。

 中等部の生徒でアルバイトをしている生徒は、そう多くありません。

 そして、そうしてまでアルバイトをする理由……不躾ながら、家族関係だと推測しておりました」

 

 そう言うと、彼女は少し引いた顔でわたしを見ていた。

 

「こわーちょっとひきます。

 ケド、正解ですよ、それ」

 

「詳しく聞いてもいいでしょうか?」

 

「うーん…」

 

 少し困った顔で、離れて座っている『SyngUp!』の方に目を向ける藤田さんを見て、言いたいことを察した。

 

「彼女たちなら、藤田さんの個人的な事情を言いふらすようなことはしませんよ。

 そもそも、言う相手もいません」

 

 遠くで少し圧が強くなったような気がするが、否定できないだろう。

 

「信頼しているんだかしていないんだか…。

 わかりました、話しますよ」

 

 覚悟を決めたくれた藤田さんは、話し始める。

 

「あたしの家、あんまり裕福じゃなくて、小学生の時にアイドルになって稼げるようになったら、一発逆転で家族も全員救えるんだーって思ってたんです。

 アイドルになるって、とってもおカネがかかるんだって知らなくて、親に無理言って『初星学園(ここ)』に入学して、それでも芽が出なくて…。

 お父さんも家を出て行っちゃって…でも、アイドル辞めたくないから、学費を稼ぐためにバイトをしながら、レッスンをして…」

 

「今に至る…と」

 

「そういうことです」

 

 話し終わって少し気恥しそうに顔を背けた彼女を見ながら、封筒の書類について説明をすることにした。

 

「なるほど……。

 予想通りではありましたので、ここにある書類を記載していただければ、学費の面は大方解決するはずです。

 早期に入る分は、これらですね」

 

「え、こんなに?

 マジですか?」

 

「中等部から申請できる分は高等部よりは少ないですが、苦学生用の奨学金が用意されているので、プロデュース契約を結んでいれば問題なく申請できます。

 これだけではなく、寮賃に関しても、軽減する方法があります」

 

「既に支払った分は!?」

 

「差額が返ってきます」

 

「うぇぇぇい!」

 

 そう言って手を天に突き上げ吠える藤田さんを見て、『SyngUp!』の面々は目を丸くしていた。

 そして、興奮冷めやらない藤田さんに更なる追い打ちをかける。

 

「そして、プロデュースが軌道に乗り、上位の成績を収めてライブをしていけば、更なる収入も見込めます」

 

「マジ?

 収入大幅アップ!!??」

 

「藤田さんなら、できると確信しています」

 

「テンションMA~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~Xッ!!

 これからよろしくお願いします!

 プロデューサー!!」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。

 藤田さん」

 

 そうして、藤田ことねのプロデュース契約を取り付けることに成功した私だが、控えている魔王たちを討伐しないといけない。

 藤田さんが書類を書いている間に、私の後ろには、月村さんが立っていた。

 

*1
鬼滅の刃の猗窩座から

*2
漫画「ブラックジャック」のブラックジャック風

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