『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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26話目

 あれから、中等部の先生に頼み込み、賀陽さんには詳細な事情を説明し(『藤田ことね』が未来で『月村手毬』のユニットメンバーになる可能性を含め)、秦谷さんに藤田さんを休ませている進捗報告を確認し、月村さんを焚きつけた。

 

 中等部の先生からは、頭を抱えられたが何とか理解を得ることができた。

 その条件として、『SyngUp!』をもう少し何とかしてほしいと言われたが、善処するとしか言えなかった。

 中等部の先生はまた半泣きになっていたが、元々私が完全に制御できているなら、こんなことにはなっていませんと言うと泣き出したので、そのまま職員室を後にした。

 

 賀陽さんからは、『藤田ことね』のことについて聞かれたため、私が知っている詳細を話した。

 『SyngUp!』が解散した未来のルートで、『藤田ことね』が『月村手毬』がユニットメンバーになる可能性があること、『藤田ことね』は『月村手毬』とぶつかりながらも仲良く?していたこと。

 また、別のルートでは未来の『一番星(プリマステラ)』が『藤田ことね』の才能を見出していたこと、『藤田ことね』が相手の調子が悪かったとはいえ『トップアイドル』の一人を()()で下していたことも。

 

 そして、『藤田ことね』の家庭事情。

 妹たちがいることも、父親が出て行き、消息不明なこと……父親が本当は消息不明ではないことは言わなかった。

 それが本当に、()()()でも同じだという裏取りができていない。

 そして、賀陽さんを信頼はしているが絶対に藤田さんに漏れないとも限らない。

 

 もし、それで希望を与えられ、そして奪われたときに、藤田さんが最も美しい顔を(絶望)*1してしまったら、プロデュースに影響が出るのは間違いない。

 そうなってしまっては、今後のスケジュールに支障が出る。

 本当のことを言うなら、さっさと裏取りして教えてあげる方が藤田さんのためになるのだろうが、残念ながら手掛かりをつかむことすら今はできていない。

 どうやって『ストーリー』の『プロデューサー』はそこまで調べ上げたのか……藤田家の財政事情を把握したときだったか…。

 そこまで私が踏み込むべきか、それも込みで考えていかないといけない。

 賀陽さんは最初は半信半疑だったが、藤田さん自体は気に入ったようで、後で可愛がってあげると喜んでいた。

 

 賀陽さんからは月村さんのアフターフォローが大変だったこと、こういうことをするならもっと相談してからにすること、後で詫びを入れないと殺すと言われてしまった。

 相談に関しては、できることはするが確約はできないと言ったら一発蹴られてしまったが、とりあえずは許してくれたらしい。

 藤田さんを担当すること自体は反対しないが、月村さんからの納得を得られるように頑張りなさいと言われた。

 

 月村さんには、『花海咲季』さんと同じ方式で煽っておいた。

 藤田さんはのんびり休養していますよ、秦谷さんと一緒に、と伝えると、落ちこぼれの劣等生のくせにレッスンも授業もサボって勝つつもりなんてあるの、と怒っていた。

 だが、ちょっと冷静になれば、休んだ方が実力を発揮できることには気づくだろう。

 月村さん自身、日頃からのレッスンを欠かすタイプではないから心配はそこまでしていない。

 説明もしようとしたのだが、勝負の後でいいよ。気が散るから、と言われて追い返されてしまった。

 

 秦谷さんからは、藤田さんを甘やかしてもらった。

 最初は抵抗されたようだが、食事を作り、傍で寝かしつけて、お風呂で体を洗う…までしようとして、逃げられたらしい。

 同室の生徒にもうまく説明できたようで、二人で藤田さんを見張っているらしい。

 『学マス』の『ストーリー』では『藤田ことね』は一人部屋だったはずだが、『GOLD RUSH』では同室の生徒がいた…いや、中等部ではまた話が違うのかもしれない。

 なんにせよ、今は重要なことではない。

 

 秦谷さんからは、藤田さんがアルバイトは毎日入れており、アルバイトの後に自主レッスンをして毎日2時頃に寝て7時に起きる生活をしていたことを聞きだしてもらった。

 『GOLD RUSH』では3時就寝だったはずなので、それに比べたら少し早く寝ているが、それでも中学生が寝るには遅い時間だ。

 

 『睡眠負債』と言う言葉があるように、慢性的な睡眠不足になると睡眠不足が『借金』のように積み上がり、心身の状態を悪くする。

 そしてそれを解消するためには、睡眠時間を確保する生活習慣にすることが必要だ。

 

 本来、藤田さんのパフォーマンスを全開にするには、『GOLD RUSH』では半月必要だった。

 『ストーリー』上で『花海咲季』相手なら2日じっくり休めば負けを認めさせられるぐらいになっていた。

 これは、いずれも高等部になってからの話になるため、その時に比べたら多少はましになっているだろう。

 

 だが、逆に言うと、1年分の積み重ねがないのがどこまで響くのか……。

 ライブを見る限り、表情を頑張って取り繕い、ダンスのキレはところどころ鋭いものがあったものの、ダンスが上手いと言える領域ではなかった。

 ここから、3日分の疲労抜きでどこまで藤田さんが本来の実力を発揮できるのか、といったところか。

 

 秦谷さんは()()()()()()()()()()()()()()()ではある。

 そこに、お願いしたとはいえ()()でお世話をするようなことはこれまでなかったはずだ。

 後は、秦谷さんがどれだけ藤田さんを癒し、リラックスさせ、長年の疲労を取り除けるか。

 状況報告を聞いてアドバイスを行ってはいるし、ちょっといい食材、果物を渡しているが、如何せん中等部の女子寮には入ることはできない。

 

 秦谷さんから聞く進捗報告上は問題ないような感じがするが……いや、ここは担当アイドルを信じよう。

 私は『プロデューサー』なのだから。

せめて彼女たちの『プロデューサー』の代用品として

 

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 放課後のレッスン室。

 1つのレッスン室を貸し切って、カーテンも閉め切り、外部に情報が漏れないように注意したうえでメンツを呼び出している。

 『SyngUp!』のメンバーと、藤田さんだ。

 

「よく逃げずに来たね」

 

「もっちろん!

 今日のあたし、めっちゃ調子いいし、今の調子なら月村さんにも勝っちゃうかもナ~」

 

 藤田さんは前に合った時とは比べ物にならないぐらい元気になっており、秦谷さんの職人の腕が見られる。

 それは月村さんも感じていたようで、少し驚いていた。

 

「……随分大きな口を叩くね。

 この前とは別人みたい、キャラ変わったの?」

 

「誰かさんが付きっきりでリラックスさせてくれたから、気持ちの余裕があるんです~」

 

 藤田さんがそういうと、クールキャラの月村さんは露骨に顔を歪めた。

 

「そういえば、美鈴までそっちについたんだっけ?

 本当に……むしゃくしゃする」

 

「あ、でも美鈴ちゃんはそっちの味方だって。

 昨日なんて、まりちゃんはきちんとご飯を食べているのでしょうか?、って心配してたゾ~」

 

()()()()()、それは言わない約束です!」

 

「あれ~?

 そうだったっけ~?」

 

「ふうん…美鈴がここまで気を許してるなんて、珍しいわね」

 

 賀陽さんが二人の仲が良くなっていることに感嘆し、じゃれ始めた二人を気持ち羨ましそうに見ている。

 そんな3人を尻目に、月村さんは私の方を向いて本題に入った。

 

「……無駄口はそこまでにして。

 時間の無駄だし、早くやろう」

 

「う~い。

 で、ルールはどうすんの?」

 

「プロデューサー、プロデューサーが提案したんですから、ルールはプロデューサーが決めてください」

 

 確かにルールに関しては説明していなかった。

 元々用意していた機材と、彼女たちがこれまで積み上げてみたものを鑑みて、ルールは既に考えている。

 

「それでは、お互いに『初』のダンスを披露し、()()()()()()()()()()()でいきましょう」

 

「何それ?

 審査員とかはいないわけ?」

 

「八百長を疑われる可能性がありますし、勝ったか負けたか、他の人が決めるよりも自分で決めたほうが納得できると思います。

 『納得』は全てに優先されます*2

 

 今後も付き合いが長くなる可能性を考えると、最初に心行くまでぶつかったほうがいいだろう。

 

「…それもそうだね。

 じゃあ、お互いに自分が勝ったと思ったら?」

 

「お互いに納得のいくようにしてください。

 方法は問いません」

 

「ふーん。

 まぁいいよ、その時はその時考えればいいし、どうせ私が勝つから」

 

「あたしもそれでいいで~す♡

 あたしが勝つんで」

 

 お互いにバチバチとぶつかり合って、ボルテージは上がっている。

 

「はぁ……落ちこぼれのくせに、威勢だけはいいね。

 いいよ、中等部ナンバーワンになって近い将来『一番星(プリマステラ)』になるこの月村手毬が、思い上がった落ちこぼれの劣等生を、完膚なきまでに叩き潰してあげる」

 

「あたしだって、プロデューサーから期待されてきてるんだ!

 持てる全てを持って、あんたにぶつけてやる!」

 

「ふうん…この前より、良い顔してるね。

 来なよ、先行は譲ってあげる」

 

「おっしゃー!!

 見ててくださいね、プロデューサー!!」

 

 そうして、藤田さんの準備が完了してことを確認し、PCに繋げたスピーカーから音楽を流し始める。

 

 藤田さんのダンスはライブで見たときよりも、キレががあって鋭く、レベルが格段に上がっている。

 

 それに、()()()()()()()()()

 血色が悪く、見ている方が心配になりそうな顔色でライブをしていた藤田さんではなく、血色が良くてにこやかに笑顔でダンスをしている彼女は、()()()()

 秦谷さんからはダンスのレッスンをつけた報告は当然だが受けていない。

 

 つまり、これが藤田ことねの本領だ。

 未来のトップアイドル候補としては紛れもない逸材。

 

 不調の原因を、短期間で極力排除した結果生まれた、『一番星(プリマステラ)』すら呑み込みかねない『超新星(スーパーノヴァ)』。

 その卵。

 

 この今の状態でさえ、秦谷さんをもってして、完全に疲労を抜くことはできませんでした、と言わせたほどだ。

 つまり、彼女の正真正銘の全力はまだまだこんなものではない。

 

 『SyngUp!』のライブを見た時以来かもしれない…こんなにワクワクした気持ちになるのは。

 これが人を惹きつける、アイドルの才能を持つ少女。

 『SyngUp!(彼女たち)』の方を見ると、全員驚愕の表情を浮かべている。

 

 当然だろう、こんなダンスを踊れる人物が、落ちこぼれの劣等生なわけがない。

 この数日一番近くで見ていた秦谷さんでさえ、目を見開いているのだから相当だ。

 

 気づけば、『初』の終盤に差し掛かり、最後に手を上に掲げて絞るように掌を握る。

 そして、終わった後、暫く全員動くことができずに、藤田さんの荒い息遣いだけが静かな室内に響いていた。

 

「はぁはぁ……どうでしたか!

 プロデューサー!

 今のあたしが持てる、全身全霊をぶつけてやりました!」

 

「…正直、予想を上回るものを見せられて……驚いてます。

 秦谷さん、これで本当に疲労抜きが完全じゃないんですか?」

 

「……わたしの見立てでは、後1週間はお休みに専念して、やっと通常通りぐらいのパフォーマンスになる……はずなのですが………想像以上ですね……」

 

「なんでそんな引いてるんですか!?」

 

「いや、思った以上の物を見せられて、混乱しているだけです。

 素晴らしいダンスでした、藤田さん」

 

「うへへ~~。

 ありがとうございまーす♡」

 

「それでは、月村さん、準備はいいですか?」

 

「問題ないよ。

 大口叩くだけはあったけど、それでも、私の方が上だって教えてあげる」

 

「それでは、お願いします」

 

 そして、音楽を流し始め、今度は月村さんがダンスを披露する。

 月村さんは歌が得意で、ダンスはそこまで……と言った印象を抱きがちだが、中等部のトップになるために、トップアイドルになるために努力を欠かしたことはない。

 その月村さんのダンスは、確かにハイレベルなもので、先の藤田さんと比べても、欠片も劣るものではない。

 

 ダンスの技術も、キレもいいし、勢いもあり、表情の作りこみもいい。

 客観的に見ても、私の眼から優劣をつけるのは憚られるが……少し月村さんが優勢か。

 これは贔屓目ではなく、これまでの積み重ねを考え、実績を考えれば当然のことだ。

 

 それに3日休んだぐらいで食らいつこうとしている、藤田さんがおかしいだけで、流石は『SyngUp!』のセンターを張り、中等部のトップに立つアイドル。

 藤田さんも少し旗色が悪いのを感じ取っているのか、表情が少し曇っている。

 

 そして、曲も終盤に差し掛かり、曲の終わりとともに荒い息遣いだけが教室に木霊する。

 月村さんは息を荒くしているが、まだ余裕はありそうだ。

 日ごろの体力づくりが実っているのだろう。

 

「はぁ…はぁ…ふぅ…。

 どうでしたか、プロデューサー!!」

 

「素晴らしいダンスでした。

 流石は中等部のトップに立つと豪語するだけはある」

 

「当然でしょ。

 で、藤田はどう?

 私の勝ちだと思うけど、一応聞いておいてあげる」

 

 月村さんが自信満々にそう言うと、藤田さんは一瞬迷ったように言葉を詰まらせたが、すぐに言い返した。

 

「……いいや、あたしの勝ちでしょ。

 確かにダンスは凄かったけど、あたしの方がいいダンスだったって!!」

 

 確かにどっちが勝ってもおかしくないと、見る人によって評価が変わるようなギリギリの勝負だった。

 藤田さんもメンタルが大分回復しているようで、真っ向からぶつかる覚悟を決めている。

 それを月村さんも察しているのか、()()()()()()()()

 

「往生際の悪い…。

 なら、()()()()()()()

 そっちが負けを認めるまで、何度でも相手をしてあげる」

 

「望むところ!

 負けを認めるまで何回でもやってやるからナ~!!」

 

 そう言って二人は踊り続けた。

 『初』だけを、何度も、何度も、何度も。

 私も、秦谷さんも、賀陽さんも二人の邪魔をすることはなかった。

 

 それは、『記録』には残らないレッスン室の一幕。

 

 映像資料として残ることはない。

 誰かに公開されることもない。

 観客も数える程しかいない。

 どこの記録にも残らない。

 

 だけど、見ている私たちの…実際に踊っている二人にはもっと、『記憶』に残ることは間違いない。

 それは何事にも代えがたい、財産になるはずだ。

 これからのアイドル人生を彩るための、成り上がっていくための、トップアイドルの道の一部として。

 

 そして、その対決は2時間も続き、永遠かと思われた勝負に決着がつくことになる。

 

*1
遊☆戯☆王ZEXALのⅣ様より

*2
ジョジョの奇妙な冒険7部のジャイロ・ツェペリから

学マスのストーリーはどの程度進めていますか

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