『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される 作:プロデューサー科のもの
カーテンを閉めた隙間から、夕日が差し込むようになった頃、『初』を踊っている藤田さんが膝から崩れ落ちそうになる。
私が反応するよりも早く、秦谷さんが駆け寄った。
「大丈夫ですか!?」
「大丈夫…まだ…まだ…負けてない…!」
俊敏に動いた秦谷さんにも驚いたが、それよりも藤田さんの闘志が尽きていないことに驚く。
もう2時間は踊りっぱなしで、曲も何回再生させたのかわからない。
その中で、全力で踊り続けて、崩れ落ちても尚、目の炎は消えていない。
だが、秦谷さんが抱きかかえている腕の中で、藤田さんの膝は震えており、とても踊れるような状態ではなかった。
「もう十分でしょう。
ここで無理をしてしまっては、後々のレッスンにも支障が出ますよ」
「今、ここで、勝たないといけないんだよ!
そうじゃないと、期待してくれたプロデューサーにも、美鈴ちゃんにも顔向けできないし…何よりここまでしてもらった、あたし自身を信じられなくなる!」
「ことねさん…。
どうしてそこまで……それに、これ以上は……」
その悲痛な叫びは、背伸びをして歩きたくない秦谷さんにとっては受け入れ難いものだろう。
今までチャンスを掴むことができず、中等部の生徒の中で埋もれてきた藤田さんは、これまで期待されてきたことが少なかった。
そんな彼女が、中等部のトップに勝てると言ってしまった私に責任がある。
「藤田さん、それ以上は私もプロデューサーとして許可できません」
「でも!!」
「確かに、私は藤田さんに期待していますが、それはこの勝負だけではなく、今後のアイドル活動を踏まえてのことです。
これ以上は…体が悲鳴を上げてます」
「プロデューサー…でも…」
「……もういいよ、藤田…ことね……だっけ?
今回は…勝ちを譲ってあげる」
「え?」
「私も…正直、もう限界だし……これ以上は、お互いに体を壊しかねないでしょ」
そう言って月村さんはその場に座り込んだ。
見ると、膝ががくがく震えており、かなり虚勢を張っていたことが見てわかる。
「そっちが先にダンスをして、それで先に力尽きた、でも、私ももうダンスするのは無理。
私が先にしてたら…先に私がそうなってたと思う…。
もう、立ってるのも限界だし……何より、ここまで喰らいついてこれるなんて思わなかった。
癪だけど、プロデューサーが言っていることはわかったし…認めてあげる」
「え…ほんとに…?」
呆けている藤田さんを抱えていた秦谷さんが、月村さんと向かい合うように月村さんの近くで藤田さんを下ろした。
ふたりとも、立ち上がることもできずに座り込んだまま向かい合う。
「私が全力でやっても、負けを認めさせられなかったし、ここまで全力でぶつかり合ったのなんて、久しぶりで……………楽しかった。
これから同じプロデューサーの担当として、よ、よろしく」
月村さんは恥ずかしそうにそう言って、藤田さんに手を差し伸べる。
藤田さんは、その手を握って、感極まって少し涙目になっていた。
「うん……!
うん! よろしくね、手毬ちゃん!」
「ちゃんはやめて」
「そんなこと言って~~。
顔がにやけてるゾ~。
て・ま・り・ちゃん♡」
「にやけてない!」
そう言って藤田さんは月村さんのほっぺを指でつついている。
月村さんは逃げたそうに身をよじっているが、立ち上がれないので成すがままだ。
とりあえず、これで元々の目的は果たせただろう。
そう思っていると、隣に賀陽さんと秦谷さんが並んだ。
「……で、これでプロデューサーの想定通り…かしら?」
「概ねはそうですが、いくつも予想外のことが起こってます。
これだから面白いんですよね、人間って奴は*1」
「まりちゃんがあんなに嬉しそうな顔をしているなんて……少し、妬いてしまいます」
「……なるほどね。
手毬に必要だったのは、私たちのようにサポートすることじゃなくて、一緒に無茶して走ってくれる子だったってことね」
「対等の相手……本気でぶつかり、切磋琢磨して、競争することで高めあうことができる。
または、無茶して走っても、それを無理に止める人がいない環境。
走り続けることを、肯定し、時にぶつかり、時に競い合い、時に支えあう。
そういう道もあったというだけです。
あなた方が、月村さんと合わないわけではありません」
「……そう」
「りんちゃん……りんちゃんも、プロデューサーから聞いていましたか?」
「……あの子が、どういった
最初は少し疑ったけど、わからなくはないわね」
「そうですか……。
りんちゃんはいいのですか?」
このいいのですか、と言う言葉には、様々な意味が込められているのだろう。
まりちゃんを取られていいのかとか、りんちゃんは本気でやらないのかと。
付き合いの長い賀陽さんの方が、それはわかっているはずだ。
「………少なくとも、今回の『H.J.I.F』は本気でやってるわよ。
今はそれしかないわ。
それからのことは……勝ってから考えるわ」
「まぁ…それでしたら、
「本当に、傲慢ね。
これ以上言葉を重ねても無意味、後は結果で語りましょう」
二人のダンスバトルで二人の闘争心も上がっているのかもしれない。
そうして睨みあっている二人は置いておいて、へたり込んでいる二人に近寄った。
「月村さん、藤田さん、大丈夫ですか?」
「ふへへ~~~。
手毬ちゃん、抱き心地さいこ~~」
気づかないうちに百合の花が咲いていた。
秦谷さんに気づかれないうちに引き剥がした方がいいかもしれない。
テンションが上がって、情緒がおかしくなっている藤田さんによって抱きつかれた月村さんは、藤田さんの言葉でギョッとした。
「わ、私が太ってるって言いたいの!?」
「え、いやそんなつもりじゃなくて、スタイルがいいな~って」
普通にセクハラなのだが、本人がいいならまあいいだろう。
予想外のことが起こってもいいように、レッスン室を閉め切っておいて正解だった。
「ふ、ふ~ん。
なら、いいけど……って、抱きつかないでよ!
気持ち悪い!!」
されるがままにされていたから受け入れたのかと思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。
振りほどいて突き飛ばした月村さんと、ほどかれて寝転がる藤田さんを見て、思ったよりは元気そうなので本題に入ることにした。
「元気そうなら何よりです。
こんな時に言うのもあれなのですが、藤田さんの歓迎会を兼ねて、夕食をご一緒しませんか?
勿論、私が全て出します」
「タダ飯ヤッター‼
あ、でも今すぐは無r「ご飯! どこ行くの!?」
「うわ、びっくりした。
……手毬ちゃんって食いしん坊キャラ?」
断るつもりだった藤田さんも、月村さんの反応に驚いている。
それもそうだろう。
明らかに悪役なキャラだった相手が、いきなり食い意地を見せたら驚くのは当然だろう。
そんな私たちの視線もつゆ知らず、月村さんは睨みつけてくる。
「は?
どう見てもクールキャラでしょ?
目、きちんとついてる?」
「クールキャラでさっきの反応は無理があるって」
「くっ」
「行き先は焼肉です。
個室を押さえてあるのですが、後1時間で準備できますか?
ダンスバトルが想像よりも激しかったので、厳しいなら別日にしますので、無理はなさらず」
藤田さんが乗り気じゃなかったため、今日じゃなくてもいいと念を押した。
無理そうなら、最悪キャンセルするか、月村さんたちだけ連れて行こうと思ったからだ。
だが、月村さんはもう目をキラキラ輝かせている。
これは止まらないだろう。
「焼肉!!
食べ放題!?」
「食べ放題です。
流石に食べ放題じゃないところだと、私の財布が持ちません」
「ことね!
シャワー浴びに行こう!
準備しないと、ご飯に間に合わなくなっちゃう!!」
そう言って、先ほどまで疲弊して崩れ落ちていたのが嘘のように立ち上がった月村さんは、藤田さんの手を引いてレッスン室から飛び出て行こうとしている。
だが、藤田さんはまだ立ち上がれないでいる。
「え、いやいや、ちょっと待って。
まだ膝が震えてるって…美鈴ちゃん!?」
そんな藤田さんを抱きかかえるように持ち上げた。
その細い体のどこにそんな力があるのかと思うが、『SyngUp!』に包囲された藤田さんがもう逃げることはできない。
賀陽さんも、レッスン室を出る準備をして、しれっと藤田さんを逃がさない位置に陣取っている。
「こうすればいけますよね、ことねさん。
まりちゃんが楽しみにしているから、早くいきましょう」
「もうちょっと休ませて~~~~~~~!!」
レッスン室から無理やり出される形になった藤田さんの嘆きの声が、中等部の校舎に木霊した。
今思えば、藤田さんの苦労はここから始まったのかもしれない。
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天川市にあるとある焼き肉屋。
大衆向けでありながら、個室も用意されており、事前に予約すれば個室で食事をとることが可能だ。
タッチパネルで商品を選ぶ形式で、事前に食べ放題の種類を選び、決められた商品を随時注文するスタイル。
今ではそう珍しくないが、『私』が彼女たちの年齢の頃にはこんなシステムはなかった。
時刻は夕方18時半前。
18時半からの予約で、少し早く着いたがすぐに案内してくれた。
メンバーは、私、月村さん、秦谷さん、賀陽さん、藤田さんの5人。
事前に焼肉に行くと伝えていたので、おしゃれな服ではなく、レッスン着のようなラフな格好で来ている。
そのせいで、私だけがスーツなのが浮いているが、『仕事』である以上は仕方ない。
明日クリーニングに出すだけだ。
中等部の生徒を、門限を越える時間に連れ出すためには、寮長に申請する必要があり、事前に話をつけてある。
明日が土曜日とはいえ、あまり遅くまで連れ出しすぎるのもよくない。
それに、土日は基本的に早く出ないといけないため、2時間コースではあるが最後まで残ることはないだろう。
席に案内され、片方に月村さんが奥、秦谷さん、藤田さんで座る。
もう反対側に、賀陽さんを奥に座らせて私が隣に座った。
座ってタブレットに人数やコースを打ち込んでいると、藤田さんから話しかけられた。
「プロデューサー、今更ですけど、いいんですか?
あたしまで奢ってもらうなんて…?
さっき美鈴ちゃんに聞いたんですけど、元々『SyngUp!』に奢る~って話だったって聞いたんですけど…」
「大丈夫ですよ。
幸い、蓄えは少しありますし……
「まあ、そういうことなら、ありがたくいただきまーす」
「プロデューサー!!
早く注文しよう!!」
「積もる話があるのですが……先に食べてしまいましょうか。
その方が月村さんも満足できるでしょうし」
「流石プロデューサー!!
あなたが担当で、本当に良かったです!!」
「もっと感動的な場面でその言葉が欲しかったです」
「美鈴!
一緒に注文しよう!!」
「ふふふ、まりちゃん、慌てなくてもご飯は逃げませんよ」
「あたしも見たーい!!」
そう言って反対側の席でタブレットを囲んで、注文を始めた三人をよそに、賀陽さんが話しかけてきた。
「プロデューサー、手毬に甘すぎよ。
もう少し、自制させた方がいいんじゃないの?」
「今日だけ特別です。
それに……後から地獄を見てもらった方が、薬になるでしょう」
「あなたも大概悪いこと考えるわね。
『H.J.I.F』の2回目の
「好きなものを食べる以上、乗り越えてもらいます。
とりあえず、明日の朝一で体重計に乗せてあげてください。
その方が、月村さん自身のやる気も出るでしょう」
「……流石に同情……いいえ、自業自得ね」
「私は直接見れないので、特別メニューを賀陽さんに送っておきます」
「手毬に直接送りなさいよ。
それ、私も付き合う羽目になるじゃない」
「私が言うより、賀陽さんが言った方が聞くんです」
「……貸しよ。
そのうち返してもらうわ」
視線を感じて顔を正面に向けると、自分で地獄の門を開けようとしているとは欠片も思ってもいない月村さんが、目をキラキラさせて私を見ていた。
「プロデューサー!
今日はご飯大盛でいいよね!?」
私は慈愛の心で顔に微笑みを浮かべた。
「ええ、しっかり食べてください。
おかわりもいいですよ。*2
遠慮しないで、今までの分、食べてください」
「プロデューサー大好き!!」
そう言ってタブレットにかじりついた月村さん。
隣の賀陽さんがひきつった顔でわたしを見ていた。
「………本当に大丈夫?」
「明日より地獄のダイエットメニューを開始します。*3
計算上死ぬことはありませんが、いやしく腹いっぱい食べた人ほど苦痛は続きます。
好きなものを食べることを許容はしますが、トップアイドルになってもらう以上、やりきってもらわないと話になりません」
「……元々食べ過ぎるつもりもなかったけど、気を付けておくわ」
「どうせ賀陽さんは付き合うことになるので、好きにしていただいていいですよ」
「引き受けるんじゃなかったわ…」
そう話しているうちに、最初に注文しておいた飲み物と、勝手に注文された肉の数々が運ばれた。
さっそく肉を焼こうとする月村さんを手で制し、飲み物を全員に回す。
「お肉を焼く前に、乾杯しますよ」
「ええー。
別にやらなくてもいいでしょ」
本当のことを言うなら私もそう思う。
「社会に出たときに飲み会や食事会に参加することもあるでしょう。
特に、アイドルも打ち上げなどで食事に呼ばれることは十分考えられるので、予行演習も兼ねています。
料理が来て、いきなり手を付けると白い目で見られることがあるので、周囲をよく見て空気を読めるようにしましょう」
「そういうことなら…早くしてね」
あまり焦らしすぎるのも可哀そうなので、全員に飲み物が回ったのを確認して、音頭を取った。
「全員飲み物を持ちましたね?
それでは、……藤田さんを担当できたことを祝して、乾杯」
「「「「乾杯!」」」」
さぁ、始めましょう。宴の時間です。*4
学マスのストーリーはどの程度進めていますか
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アプリをそもそも入れていない
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どのキャラも親愛度10未満
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特定のキャラのみ親愛度10まで
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特定のキャラのみ親愛度20まで
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全キャラ親愛度20まで
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特定のキャラのみ親愛度27まで
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解放可能なキャラ全て親愛度MAX