『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される 作:プロデューサー科のもの
宴は10分もしないうちに地獄絵図に早変わりしている。
主に藤田さんにとっての。
「て~ま~り~!!
その肉、あたしが焼いてたんだけど!!」
「早い者勝ち。
悔しかったら、先に取ればいいでしょ」
「まりちゃん、ほっぺにソースが飛んでますよ。
拭いてあげますね」
「ん、ありがとう、美鈴」
「あ、これおいしいわね。
あんまり見たことなかったけど…せんまい?だっけ?」
「そうです。
牛の胃の部位だったはずですよ。
詳しくは私もわからないですが」
「ふーん。
こう見ると、結構お肉の種類って色々あるのね」
「スーパーでも珍しいものを売ってる時もありますが、意識しないとなかなか気づけないですね。
特にセンマイは、売ってるところはほとんど見たことないですね」
「プロデューサー!!
手毬が焼けたの片っ端から取ってくんですけど!!」
「もうちょっと待ってください。
そろそろ月村さんも限界になるはずなので」
「甘いねプロデューサー。
今日はたくさん運動したから、まだまだいけるよ」
「あたしたちもいるってこと、考えてほしいんですけど!!」
「……見ていなかった私が悪いのですが、そろそろお皿が机に乗り切らなくなってるのに、まだ半分しか来ていないのは何故です?」
ダイソンのように焼けた端から食べている月村さん。
月村さんに食べたいものを取られて憤慨する藤田さん。
月村さんの取り皿にさりげなく焼けた肉を集めつつ、お世話をしている秦谷さん。
自分の取り分だけ確保して楽しんでいる賀陽さん。
運ばれてきたものがまだ半分であることに気づいて、これ最終的に食べきれるのかと絶望している私。
とりあえずタブレットは没収した。
最低限、机の上を平らげて、空にしたら注文していいことにする。
月村さんがそれに気づいて騒ぎ始めた。
「プロデューサーの鬼!!
悪魔!!*1」
「鬼なのはお前だー!!
まだ、あたし肉1つも食べてないんだけど!!」
「ことねさん、もう少し我慢してください。
まりちゃんが満腹になるのが、一番大事ですから」
「甘やかしすぎだー!!
美鈴ちゃんが手毬に甘いのは知ってたけど、流石にやりすぎだって!!
うちのちびでも、もっと遠慮するぞ!」
「はぁ、手毬、今日は歓迎会って名目なんだし、来週末は2回目の
はい、これ食べていいわよ」
「あ、ありがとう!
燐羽ちゃん!」
「燐羽でいいわ。
私もことねって呼ぶから」
「うん!
これからよろしくね!」
親睦を深める目的は達成できたのかもしれない。
藤田さんの負担が大きいのは……早いところ慣れてもらおう。
賀陽さんも結構
「……はい、ことね。
これあげる」
「え、ありがとう、手毬。
あたしを歓迎する気になったか~?」
「それ、あんまりおいしくなかった」
「いらないものをあたしに押し付けるな~~~!!」
月村さんが空気を読んだのかと思ったら、いつも通りの月村さんで安心した。
「まりちゃん、めっですよ。
わたしが食べてあげますから、ことねさんにあげたらかわいそうです」
「そうやって甘やかすから調子に乗るんだって!」
「そうよ、もっと言ってやって」
便乗する賀陽さんに、藤田さんのボルテージがまた上がっていく。
「燐羽が言えばいいだろ!」
「美鈴は私が言っても聞かないのよ」
「舐められてるじゃん!
燐羽が『SyngUp!』のリーダーじゃなかったの!?」
「そこの傲慢娘に言って聞かせられる人がいるなら見てみたいわ」
「まぁ…りんちゃんってば酷い言い草ですね。
プロデューサーの言うことは、少し聞いてますよ」
「少しかよ!」
「って言ってるけど、そうなの?」
「お願い事はいくつか聞いてもらってますが、全部聞いてくれるなら、授業をここまでサボってないです。
最近、皆さんの担任の先生が、秦谷さんが授業に出てくれないって泣いてるんですよ」
これは本当だ。
何なら、プロデューサー科の先生よりも、話しているかもしれない。
それを聞いて、藤田さんは顔を青くした。
「うわぁ…先生、そんな苦労を…」
「…プロデューサー?
担当アイドルに隠れて、女性と密会は……浮気ですよ?」
「秦谷さんが授業にきちんと出てくれれば、そんなことしなくて済みますよ」
「むぅ…」
秦谷さんが少し怖くなっていたが、そもそも秦谷さんのせいなので仕方ないだろう。
それを理解した秦谷さんは、頬を可愛く膨らませている。
「ですが、秦谷さんのペースで好きにしていいと言ったことを、撤回するつもりもありません。
秦谷さんは、秦谷さんのペースで歩いていくことが一番良いと、この短い期間でも理解しました。
もう少し授業には出てほしいですが……」
「考えておきますね。
わたしのペースで、のんびりと歩いて…月も太陽も追い越して…授業に出るのは、そのあとでもいいでしょう?」
「そう簡単に負けてあげるつもりはないんだけど」
「私も負けないから」
「そのあとでは困るのですが…まあいいでしょう」
「……いいなぁ~。
あたしは、『H.J.I.F』の
気づいたら月村さんは自分の分を粗方食べ終えたのか、満足そうに会話に入ってきた。
食べている間はあんまり話に入ってこなかった月村さんだが、アイスクリームまで3つも食べて満足したのか、食べながら肩を落としている藤田さんを見て、少し迷ってから問いかける。
「……ねぇ、ことね、聞きたいことがあるんだけど」
「なに?」
「ことねは、家族のためにアイドルになりたいんだっけ?
そのためにアルバイトもしてる」
お肉の焼ける音と換気扇の音だけが場を支配する沈黙、少し真面目な話をしているからと言うのもあるが、答える藤田さんが口にご飯を頬張っているからだ。
よく噛んでから飲み込んだ藤田さんが、口を開く。
「そうだけど?」
「…私が今から言うことは、過ぎたことだと思うけど、聞いて欲しい」
「…ご飯食べてから聞くからナ~。
手毬は食べて満足してるかもしれないけど、あたしはまだ全然食べられてないんだよ!」
真面目な話をしたいのを察して、食べながら答え続けるのは無理だと判断したのだろう。
その判断は正しいが、ここで月村さんが言う言葉は私にも想像できた。
「早くしてね」
「お前が言うな~~~~!!」
想像通りのセリフを吐いた月村さんは、待っている間にアイスクリームを追加で頼み始めていた。
よく見ると、除けておいたはずのタブレットが秦谷さんに盗られている。
もうなるようになるだろう。
全てを諦めて、机の上に残っているお肉を平らげることにした。
およそ1時間が経過したころ、ようやく机の上のお肉が底をつき始めた。
月村さん以外はアイドルの自覚があるようで、月村さんのように暴飲暴食の限りを尽くしていない。
つまり、机の上にあったお肉の半分と注文して届き待ちだったお肉の大半を食べる羽目になった私は、死にかけていた。
藤田さんが満足そうにしているのが救いだろう。
そろそろいい頃合いだと思ったのか、アイスクリームを食べ終えた月村さんが話し始めた。
「さっきの話なんだけど…ことねはバイトを減らした方がいいと思う」
「それは…わかってるけど…でも、バイトしたら、その分家にお金入れられるし、ちびたちにも使ってもらえるし……」
「ことねが家族のために頑張ってるって言うのはわかる。
でも、アルバイトしながらトップアイドルになるのが難しいことなんて、子供でも分かるよ。
今日の勝負ができるような人は、本来『H.J.I.F』の
だから、過ぎたことだとは思うけど、最低限バイトは減らした方がいいよ」
バイトを減らす提案を渋る藤田さん。
月村さんも背景を知っているから、言いにくそうにしていたが、言い切った。
藤田さんも正論なのはわかっているようで、ため息をつきながら項垂れる。
「だよなぁ~~。
その方が、レッスンもいっぱいできるし、わかってはいるんだけど」
項垂れる藤田さんに心配そうにのぞき込みながら、秦谷さんも苦言を呈す。
「いえ、ことねさん。
アルバイトをしない日はきちんと休んでください。
普段も2時に寝て7時に起きるような生活を繰り返していたら、体は休まりませんよ。
少なくとも、10時には寝たほうがいいです」
「ええーー!!
そうしたら、自主練する時間が無くなっちゃうじゃん!!」
「いや、学校でもレッスンあるし、夜遅くに自主練するぐらいなら、朝早くに起きて体動かした方がいいでしょ。
そんなこともわからないんだ、劣等生だから」
「うぐっ!
う~~~~~反論できない…」
「そこまでです、月村さん」
正論で詰め始めた月村さんを止める。
これ以上詰めたところで、このままではいけないことは本人が一番よくわかっているだろう。
「プロデューサーは今のままでいいんですか?
ことねに才能があるのはわかりましたが、今のままなら、冬の方の『H.J.I.F』でも同じ結果になるよ」
「今ここで言うことではないかもしれませんが、藤田さんのバイトは減らす方向で考えてはいます。
奨学金の申請や、寮費の補助もありますが、成績が悪いままだと資格を剥奪される可能性もありますので」
「え!?
聞いてないんですけど!?」
「言っていませんからね。
学園側も慈善事業ではないので、成績が悪い生徒にいつまでもお金を投資することはありません。
藤田さんには成績を一刻も早く伸ばしてもらう必要がある」
驚く藤田さんに、事実を伝える。
苦学生向けのものと言っても、成績が悪い生徒に学園が甘いことはない。
「それは…そうですよね」
暗い顔になる藤田さんに、私からのプロデュースプランを提示していく。
「ですので、まずはきちんと生活習慣から直していきましょう。
藤田さんは今後、暫く皆さんと同じ生活リズムになれるようになってもらいます。
バイトも減らしてもらいたいですが、完全になくすことができない以上、バイトも生活の一部と考えて、生活リズムに取り込むことが理想です」
「ええっと…具体的にはどうやって?」
「全員で同じ時間に寝るようにしてもらい、朝はお互いに起こしあってもらいます。
簡単に言うと寝る前はチャットで報告、朝はモーニングコールしてから朝練という形ですね。
就寝は9時…遅くても10時に、朝は4時…難しいようなら6時起床から始めてもらいます。
これが難しいようなら、寮の4人部屋の手配をします。
理由はもちろんお分かりですね?*2」
私の言葉に3人が顔を青くし、1人だけ嬉しそうににこにこしている。
「最悪こいつらと一緒の部屋になるってこと!?」
「わ、私だって嫌なんだけど!?」
「まぁ…それは楽しそうですね」
「折角一人部屋なのに、4人部屋なんて嫌。
やるなら3人でやって」
「ですので、それが嫌ならお互いに頑張って生活リズムを合わせてください。
あ、秦谷さんは別です。
嫌がってなさそうなので」
「残念です」
「美鈴だけずるいですよ!」
「秦谷さんに合わせて生活リズムを作ると、朝起きて昼に寝て、夕方に寝て、夜に寝る生活になりますよ」
誇張に聞こえるかもしれないが、一番寝ている日の秦谷さんはこんな感じだ。
「いくら何でも寝すぎだろ!」
「なんでこれで実力が伸びてるのか、本当に疑問なんだけど」
「自主練したいときはレッスンしてるんですよ。
やりたいときにやって本当にその分伸びているので……前にトレーナーと話したときにそう言ったら、頭を抱えてましたが」
「そんなのあり?」
「丁度いい機会です。
藤田さんに、改めて『SyngUp!』の紹介をしましょう*3」
驚愕する藤田さんに、認識をすり合わせることにした。
「え?」
「中等部1年で過激なレッスンを続けた結果、卒業生を虐殺してグレた最強のリーダー、賀陽燐羽」
「殺されたいの?」
「レッスン狂いで、素直になれない甘えん坊の食いしん坊、歌が上手い女児、月村手毬」
「わ、私のこと、そんな風に思ってたんですか!?
嘘を吹き込まないでください!!」
「品行方正で清楚な外見とは裏腹に、誰よりも傲慢で素行が最悪、レッスンは気が向いた時だけやるがポリシーの秦谷美鈴」
「後で覚えておいてくださいね?」
「以上です」
「ロクなやつがいね~~~!!
知ってたけど!
美鈴ちゃんに話を聞いた段階でわかってたけど!」
憤慨する藤田さんに、ですが、と続ける。
「中等部の誰よりも実力があります。
高等部の生徒にさえ、そう簡単に負けることはないでしょう。
藤田さんは以前も言いましたが、才能がある。
この3人と切磋琢磨すれば……冬の『H.J.I.F』ソロ部門の優勝はあなたのものです」
「そ、それは言いすぎですよ~~。
あたし、顔はイイし、ダンスもちょーーっと自信出てきたけど、歌は下手だし運動神経だっていいわけじゃないし……」
「自己評価が高いのか低いのかわからないわね」
賀陽さんがそうツッコむと、月村さんは呆れていた。
「はぁ?
いつまでそんなうじうじ言ってるわけ?
あなたは私に、中等部のトップ、『SyngUp!』の月村手毬にダンスで勝ったんだから、もっと自信もちなよ」
「あ、あれはそのために美鈴ちゃんが協力してくれたからで、あたしだけの力じゃないって」
「だから何?
使えるものは全て使って、全力を持って勝負に挑む、当然でしょ?
じゃなきゃ、トップアイドルになんてなれない。
この前言ってた夢って、『家族に良い思いをさせたい』ってのも達成できないよ」
「手毬…」
「それでも自信がないって言うんなら、私が歌を教えてあげる。
燐羽ほどじゃないけど」
「手毬…うん!
よろしくお願いします!」
月村さんが他の人に歌を教えると、自分から言うのは珍しい。
恐らく、初めてではないだろうか。
それだけ、藤田さんのことを認めてくれたのかもしれない。
ふと隣を見ると、賀陽さんが顔を背けていた。
「…………りんちゃん、泣いてるんですか?」
「泣いてないわよ」
「目元、腫れてますよ」
「気のせいよ」
「そういうことにしておいてあげます。
……まりちゃんが素直じゃないのは、りんちゃんに似たんですね」
隣の賀陽さんは月村さんの成長を目の当たりにして、感極まったのか少し泣いていた。
それを秦谷さんが気づいたが、賀陽さんは恥ずかしいのか誤魔化している。
秦谷さんはもちろんだが、賀陽さんも月村さんが大好きなのは、これまでのプロデュースを通じてよくわかっている。
その月村さんの成長に喜びを隠しきれないのだろう。
目元は少し腫れているし、口角は上がっていて、私でも気づくぐらいだ。
敢えてスルーしてあげることも優しさだ。
「さて、そろそろ時間ですので、お開きにしましょう。
満足いただけましたか?」
「プロデューサー待って!
後1個アイス来るから!」
「……それを食べたら行きましょうか」
「プロデューサーも手毬に甘いですねぇ~」
「キラキラした目で美味しそうに食べているところを見ると、甘やかしてしまいたくなる秦谷さんの気持ちがわかるんですよね。
良くないとも思っているのですが」
「(あ、これあたしがしっかりしないといけないやつだ)」
そうして最後のアイスも平らげた月村さんは、とても満足そうだった。
次の日、賀陽さんから、泣きながら走っている月村さんと、それにへとへとになりながら追従する藤田さんの写真が送られてきたことは言うまでもないだろう。
秦谷さんからは月村さんが藤田さんに歌を教えている様子の写真が送られてきた。
来週末は2回目の
寄り道はしたが、得たものも大きい。
期待できるものを見れるはずだ。
学マスのストーリーはどの程度進めていますか
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アプリをそもそも入れていない
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どのキャラも親愛度10未満
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特定のキャラのみ親愛度10まで
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特定のキャラのみ親愛度20まで
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全キャラ親愛度20まで
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特定のキャラのみ親愛度27まで
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解放可能なキャラ全て親愛度MAX