『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される 作:プロデューサー科のもの
レッスン室の前に立ち、中を軽く覗く。
他の部屋でも同様にしていたことだが、この部屋だけは様子が違った。
圧倒的な歌唱力で、扉越しにでも吸い込まれそうな勢いがある。
他の中等部の生徒にはライブで披露することが許されていない、
朝、テレビで見たライブとはまた違った迫力があるが、感じる印象は似たようなものだった。
「月村手毬」が熱唱する。
「秦谷美鈴」がサポートする。
「賀陽燐羽」はさらにそのサポートをする。
その状態でも、既に他の部屋から聞こえていた歌とは一線を画す歌唱力だった。
このまま扉の前でずっと聞いていてもいいが、それでは目的が果たせない。
私は意を決して扉を開けて中に入った。
私がレッスン室の中に入っても、「月村手毬」は歌うことをやめなかった。
「秦谷美鈴」と「賀陽燐羽」も私に気づいているが、「月村手毬」が歌うことをやめなかったため、そのまま歌い続ける。
…しばらくして、歌い終わった「月村手毬」が息を切らせながらも話しかけてきた。
「はあ…はあ…。…どなたか知りませんが、レッスン中です。邪魔をするなら出て行ってください」
「失礼いたしました。私はプロデューサー科の生徒です。この度は、『SyngUp!』の皆様と話をさせていただきたくてここに来ました」
そう話しながら、学生証を見せる。
最初は怪訝な顔をしていた「月村手毬」は、それを見て眉を顰めた。
「プロデューサー科の方ですか…。私たちをプロデュースしにきたんですか?」
「そうさせていただければ理想ですが、今日は話だけでもさせてほしいと思ってきました。
ですが、レッスン中に無理に長時間止めてしまうのも申し訳ない。
レッスンが終わった後にお話しさせていただく時間が欲しいのですが、いかがでしょうか?」
私がそういうと、「月村手毬」は困ったような顔で他の二人を見た。
「…燐羽、どうする?」
「あなたの好きにしなさい。別に無理に聞かなくてもいいとは思うけど」
「…美鈴は?」
「そうですね…折角来てくださったのですから、お話ぐらいなら聞いてあげてもよいのではないでしょうか?」
「うーん…」
他の二人に意見を求めた「月村手毬」だったが、結局どうするべきか悩んでいるようだった。
少し考えた後に、再度こちらを見る。
「…決めました。レッスンが終わった後に話だけなら聞いてあげます。
もう知っているとは思いますが、『月村手毬』です。
こっちはリーダーの『賀陽燐羽』と、同じユニットメンバーの『秦谷美鈴』。
全員中等部の3年1組です」
「ご丁寧にありがとうございます。私の自己紹介は…さっき学生証をお見せしたので不要ですね。
それでは、レッスンが終わったらこの番号に電話をしてください」
そう言ってルーズリーフを切り取ったメモを渡す。
時間を取ってくれるようなので安心した。
後は電話が来るまで中等部を見学し、余裕があれば高等部の施設も見て回ろう。
そう思いながら背を向けてドアのほうに向かって歩こうとした。
「あなた、プロデューサーになりたいなら、レッスンぐらい見ていきなさいよ」
背を向けて歩いた私に声をかけたのは、意外にも「賀陽燐羽」だった。
私は再度彼女たちと向き合う。
意外だと思ったのは私だけではなかったようで、「月村手毬」と「秦谷美鈴」も驚いているようだった。
「よろしいのですか? 邪魔になってはいけないと思ったので、席を外していようと思ってましたが」
「別に観客が一人いたぐらいじゃ気にならないわ」
「…それでは、お言葉に甘えて居座らせていただきます」
「そうしなさい。レッスンが終わったら感想を聞くから、そのつもりで」
「わかりました。心して聞かせてもらいます」
どういった風の吹き回しかはわからないが、運がいいことに彼女たちのレッスンを見学させてもらえることになった。
中等部No.1ユニットのレッスンを見学できる機会はそう多くないだろう。
…いや、それ以上に好きなアイドルのレッスンを見れる機会なんてまずない。
だが、今の私はプロデューサー志望としてここにきている。
ミーハーな気持ちは封印して、プロデューサーとしての意見を伝えられるようにしないといけない。
ここで見て学ぶことは、これからのプロデューサー業で役立つことは間違いない。
私は、覚悟を決めて彼女たちに向き合った。
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気が付けばレッスンが終わってしまった。
楽しい時間はあっという間だというが、私にとっては彼女たちのレッスンを見学していた状況がまさにそれだった。
「初」「Campus mode!!」「標」
どれも初星学園を代表する曲で、難易度も高い。
だが、彼女たちはそれらを全て高い水準で歌っていた。
問題があるとするならば、途中で見るからに「月村手毬」の体力が尽きていたことぐらいだろう。
彼女のそれを、他の二人がカバーする。
結果的にアドリブで解決させている部分が多いように見えるが、それが彼女たちのやり方なのだろう。
「…それで、どうだったかしら?」
「凄まじいレベルです。それこそ、中等部では敵になるような人がいないでしょう」
「…それだけ?」
「一つ聞かせてほしいことがあるのですが、月村さんを全面的に押し出しているのは、皆さんの総意でしょうか?」
私がそういうと、「月村手毬」がキッとこちらを睨みつけた。
それに伴って、「秦谷美鈴」と「賀陽燐羽」も同じようにこちらを見ている。
「そうよ。それが何か問題でも?」
「月村さんに負担をかけすぎだと思いました。
シンプルに、歌うパートが一人だけ多いように見えます。
後半の失速感は、月村さんの体力切れかと思いましたが、そうならないように工夫したほうが良いように見えました。
サポートに回ってばかりで、あまり賀陽さんと秦谷さんの実力がわかりづらく感じましたので」
私の言葉に、「月村手毬」は声を荒げた。
「私が足を引っ張ってるっていうんでしょ。燐羽も美鈴も…私なんかよりすごいから…」
「いえ、そんなことは言ってません」
「え?」
「月村手毬」の言葉に、私は否定で返す。
驚いたような顔で、こちらを見返していた。
「本当に足を引っ張っているのであれば、一緒にユニットを組んではくれませんよ。
それに、月村さんの歌に感情を乗せる力は本当に素晴らしいと思います。
月村さんが『SyngUp!』で一番歌う形になっているのも、そういう信頼からだと思いましたよ」
「…そうなの? 燐羽?」
「…さあ、どうかしら」
「月村手毬」が「賀陽燐羽」にそう尋ねた。
「賀陽燐羽」は顔を背けてそう言うが、耳が少し赤くなっているように見えた。
「そうですよ。まりちゃんは凄いんです」
「…美鈴に言われても…」
「最初から最後まで全力で歌いきる姿勢、そう誰でもできることではありません。
普通の人なら、ペース配分を考えるものですが、そんなことを考えないで最初から最後まで全力を出し切る。
だからこそ、感情を全力で乗せて歌うことができる。
それが月村さんの強みだと思いました」
「…褒めてるんですか、それ…?」
「月村手毬」は私のほうをジト目で見ながら問いかける。
隣にいた「秦谷美鈴」は少し不機嫌そうな顔になっていた。
「もちろん、褒めています。
危なっかしくて見ている人が不安になるのは間違いないですが…だからこそ、心打たれるものがあると思います」
「やっぱり馬鹿にしてますよね!!??」
そう言って掴みかかろうとする「月村手毬」を「秦谷美鈴」が止めていた。
「
「失礼しました…少々失言してしまいました」
「少々じゃないんですけど!!」
「はいはい、そこまでにしておきなさい」
さらに食い掛ってくる「月村手毬」を止めながら、「賀陽燐羽」が間に入る。
「レッスンも終わったし、約束通り感想も話してもらったから、そっちの話も聞いてあげるわ」
その言葉に、私は改めて彼女たち三人に向き合った。
「では単刀直入に言います。
私はあなた方、『SyngUp!』をプロデュースしたい。
具体的には、このままいけば順当になるであろう中等部の頂点だけではなく、高等部で『
「お断り…って言ったら?」
「賀陽燐羽」の言葉に、「月村手毬」と「秦谷美鈴」がぎょっとした顔をして「賀陽燐羽」を見た。
「急な勧誘ですので、断られても仕方ありません」
「そう…なら「ですが、1度断られただけで諦めるつもりもありません」…どういうことかしら?」
断りの言葉を言い切られる前に、被せて言った。
「今日会ったばかりの、新人プロデューサーを信用できないのは当然です。
断られても仕方ないことだと思います。
ですが、それでも私はあなた方がさらに輝く姿を見たい。
あなた方は、自分たちが思っている以上にもっと高く高く羽ばたくことができます」
「買い被り過ぎじゃないかしら? そこまで評価されるようなことをしたつもりはないわ」
「中等部で『Campus mode‼』をライブで歌うことが許されている段階で、評価としては十分すぎるでしょう。
賀陽さん以外のお二方はいかがでしょうか?」
そう言って私は「賀陽燐羽」から視線をずらし、「月村手毬」と「秦谷美鈴」に目を向けた。
少し目が合い、「月村手毬」が口を開く。
「私は必ずトップアイドルになってみせます。
そのための役に立ってくれるのであれば、別に文句はありません」
「わたしは…そうですね…まりちゃんとりんちゃんが良いというならいいですよ」
「なるほど…実質、賀陽さんを説得できれば良いということですね?」
「そうなりますね」
「はあ…あなたたちは本当に…」
そう言って「賀陽燐羽」は怒ったような、困ったような顔で目を向けてきた。
「…でも、燐羽、プロデューサーがついたら色々できることも増えるって聞くし、いいんじゃないの?」
「確かに、学内でプロデューサーとアイドルの契約をするとできることが増えるのは確か。拠点となる事務所となる教室が宛がわれたり、活動費が支給されたり、寮の費用や奨学金関係も融通してくれるはずよ」
「…そう聞くとわたしたちにあまりメリットはありませんね。活動費の支給は魅力的ですが、現状は事足りてますし」
「それ以外の利点となると、プロデューサーがどれだけプロデューサー業をできるかだけど、まだ新入生で1週間程度しか経っていないのに何ができるのかしら?」
「新入生!? 1年生だったんですか!!??」
「おバカ。さっき学生証見せてたでしょう? この人は私たちの4歳上、つまり飛び級でもしていなければ入学して1年目の新入生よ」
「…そこまで見てなかった…」
そう言って頭を抱えている「月村手毬」。
「秦谷美鈴」はそんな状況でもにこにこと、「月村手毬」の方に笑顔を向けていた。
「それで、あなたは私たちに何をできるのかしら?」
ここが正念場だ。
使わないで済めばよかったが、念のために用意していた『ルーズリーフ』を3枚取り出す。
『ルーズリーフ』にはそれぞれ、3人の名前とその横に『曲名』が記載されている。
「私はあなた方三人に、ソロ曲を用意しています」
そう言って、鞄から取り出した
「…は?」
「賀陽燐羽」は珍しく、呆気にとられた顔で私と手に持ったルーズリーフを見ている。
「まだ、きちんとした編曲まではできておらず、作曲したものの音源もできていません。
正式なものではありませんが、歌詞を書き出したものがこちらです。
稚拙ながら、少しは歌うことができるので歌って聞いてもらったほうが早いかもしれません」
「ちょっと燐羽、私にも見せて」
「わたしも見たいです」
「月村手毬」と「秦谷美鈴」も横からルーズリーフを1枚ずつ取っていった。
「…これで何がしたいわけ?
ソロ曲を用意したから、プロデューサーにしてくれってこと?
それに、私たちは3人組のユニットよ?」
そう言いながらも、彼女はルーズリーフに綴った歌詞から目を離さない。
「月村手毬」と「秦谷美鈴」も食い入るように歌詞を見ていた。
「ユニットだからと言って、ソロ曲を歌ってはいけない理由はないでしょう。
それにソロ曲があることで、できるライブ演出もありますし、月村さんに休憩を挟むこともできます。
その分、お二方には負担が増える形になりますが、大した問題ではないでしょう」
「…そういうことじゃなくて、これに対しての見返りに何を求めているの?」
その言葉で、他の二人がはっとして顔をあげ、全員が私のほうを向いた。
3人と目線を合わせながら、
「
「…は?」
私の言葉に、今度は全員が呆気にとられた顔になった。
「私が勝手に用意して、勝手に渡したものに対して見返りを求めるのは求めすぎでしょう。
強いて言うなら、その曲が気に入ったのであればライブで歌えるぐらいに仕上げてほしい。
それだけです」
「…本気で言ってるの?」
「本気ですよ。
私の主張は一貫しています。
そのためなら、できることは何でもしますよ」
「…そこまで行くと怖いんだけど」
「これは失礼しました。
ですが、私にできることといったら、これぐらいだったので…。」
そう言うと、「賀陽燐羽」は呆れたように息を吐いた。
「はあ…あなたが本気だということはわかったわ。
そうね…この曲、音源はまだって言ったわね?」
「そうですね。
私の頭の中ではできていますが、まだ音源はできていません。
私だけでは編曲は難しいので、きちんとした作曲家にお願いするつもりです」
そう言うと、「賀陽燐羽」は少しがっかりしたように肩を落とした。
そんな中、「月村手毬」は歌詞を持って私に詰め寄ってきた。
「でも、
「ええ、歌は上手ではないですし、アカペラになってしまいますが、それでも良ければ歌いますよ」
「歌ってよ! 全員分!!」
そう言いながら「月村手毬」が詰め寄ってきた。
他の二人も同じ意見だったのか、動こうとしない。
予想できていた通りではあったが、人前で歌うことに対しての緊張を無理やり押さえつけ、平常を装いながら歌う決意を固めた。
「わかりました。それでは、歌いますね」
そう言って、私は彼女たちから離れ、彼女たちに渡した歌詞を頭の中に思い出す。
そして、口を開き、稚拙ではあるが歌を紡ぎ始めた。
「Luna say maybe」
「ツキノカメ」
「太陽」(ヨルシカ)
最後は「太陽(曲名)」(ヨルシカ【の曲】)です。
学マスのストーリーはどの程度進めていますか
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アプリをそもそも入れていない
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どのキャラも親愛度10未満
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特定のキャラのみ親愛度10まで
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特定のキャラのみ親愛度20まで
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全キャラ親愛度20まで
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特定のキャラのみ親愛度27まで
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解放可能なキャラ全て親愛度MAX