『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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30話目

 

 秦谷さんの『初』は圧巻と言わざるを得なかった。

 1回目の選抜試験(セレクション)の時もすさまじかったが、会場全体が秦谷さんの掌にいるかのような、彼女に全てが吞み込まれてしまったような、そんな感覚。

 『初』自体にはそんな印象は欠片もないのに、彼女の持つ雰囲気と歌声の引き込ませる力が凄まじい。

 以前にも増して、その引力が強くなっていることを感じた。

 

 彼女の一挙手一投足に目が離せない。

 彼女の歌声に引き込まれて息をつくことすら忘れてしまう。

 隣にいる藤田さんも、コールすることも忘れて魅入っている。

 

 これで、真面目にレッスンに出ていないというのだから恐ろしい。

 いや、彼女の場合はだからこそ、なのかもしれないが……理不尽にもほどがあるだろう。

 そして、藤田さんにも何故月村さんに余裕がないと言ったのかが、理解できたはずだ。

 

 以前は多少猫を被っていたとはいえ、あの生活態度の人間が、努力し続けている自分に常に迫っている…自分よりも前にいると考えたら、余裕がなくなるのは当然だろう。

 そして、どれだけ努力しても成果が出ない、ということがどれだけ辛いかは、彼女の方がよくわかっている。

 意図してはいないと思いたいが、秦谷さんは月村さんにかなりえげつない精神攻撃をしていた形になってしまっていた。

 

 そして、曲が終わり、ポーズを取った秦谷さんを待っているのは、一瞬の静寂と爆音の歓声。

 これなら、文句なしで選抜試験(セレクション)を抜けただろう。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 控室に行き、秦谷さんを藤田さんと存分に褒めて、褒めて、褒めすぎてテンションがおかしくなって、「秦谷さん鬼つええ!このまま逆らうやつら全員ブッ殺していこうぜ!」*1「いいぞ!いいぞ!*2」と藤田さんと囃し立てる。

 「そんなことはしません!!」と顔を真っ赤にして止められて、早く賀陽さんの法被を着てくださいと言われたため、大人しく着替えて藤田さんと秦谷さんと3人で関係者席に戻る。

 

 そう、後二人ほど挟んで次の出番は賀陽さんだった。

 

 賀陽さんの法被を着こんで3人で席に戻る。

 前の生徒のライブを観つつ、賀陽さんの番を待っていた。

 

 他の生徒のライブも、ほとんどが『初』、若しくは『標』の歌唱だ。

 傾向としては『初』の方が多い。

 これは、1回目の選抜試験(セレクション)から見ても変わらない傾向だ。

 『標』の方が少ないのは、校歌でもあるこの曲は複数人の歌唱の方が向いているからだろう。

 ユニットの方もデータ収集で見ていたが、そちらソロに比べると『標』もそれになりに多かった。

 また、ユニットの方では『キミとセミブルー(通称サマーマ)』『ハッピーミルフィーユ(通称ガナーナ)』をしているユニットもいたが、両方とも1組ずつのみ。

 やはり、『初星学園』といえば『初』なのだろう。

 

 また、中等部で持ち歌がある生徒はほとんどいないようで、例年いても数人程度。

 現状では恐らく、『SyngUp!(彼女たち)』しかいない。

 だからこそ、選抜試験(セレクション)では『初』で差を見せつける形にした。

 

 それを、今見せてもらおう。

 

 

 賀陽さんの番になり、賀陽さんがステージに立つ。

 そして、『初』のイントロが流れ始めた。

 

 まず感じた印象は、前回の選抜試験(セレクション)に比べてレベルが大幅に上がっている。

 歌唱力も、表現力も、ダンスも。

 前回の時でも、中等部の生徒の中ではレベルが低いわけではなかった。

 寧ろ、上位のレベルだからこそ、選抜試験(セレクション)を抜けたのだ。

 

 それなのに、今の賀陽さんはそれよりもさらに仕上げている。

 秦谷さんの時のような吞まれるような雰囲気とはまた違い、キラキラと輝き周囲も輝かせるような太陽の片鱗が見えつつある。

 

 様々な刺激を与えて続けてきた成果が、少しずつ出てきたのかもしれない。

 月村さんに挑戦状を叩きつけてもらい、秦谷さんに触発してもらい、藤田さんと月村さんのダンスもいい刺激になったはずだ。

 

 ()()()()()…と以前言っていた。

 内容は他の人には伝えないようにと言われていたし、止めようとしたが、賀陽さんの意思を尊重すると()()()()()()了承した。

 

 内容はなんてことはない。

 ただの練習。

 ただ、その()()()()()()なだけで。

 

 『日に30時間の鍛錬という矛盾』とでも言うべきなほどの、密度の練習を1週間行っていた。

 1日の放課後にレッスンをする時間が3時間あるとする。

 本来3時間で行える量を、()()()()()()()()()()()6()()()()()()()()になる……のかもしれない。

 日を跨いでのレッスンは当然ながら認められないし、レッスンのみをしていたわけではない。

 もっと言うと、他の3人に気づかれないように立ち回っていたこともあって、時間がそこまで取れてないようだったが、内容を圧縮し続けることで疑似的に高密度のレッスンを行っていた。

 

 体を壊しかねないことを考えると止めるべきだった。

 だが、こうでもしないと二人に勝てる見込みがないと本人が言い切ったから……最大限のケアをする条件のもと、承諾した。

 賀陽さんがやる気を少しでも出してくれたのだから、できる範囲での協力をした。

 レッスン後の時間に合わせて、賀陽さんを回収して寮に戻ることもあった。

 事務所にいなくていい時は、レッスン室に居合わせて賀陽さんの様子を見ていた。

 だが、ライブを通しで見ることはなかったため、彼女がどの程度リハビリできたのかはわかっていなかった。

 

 

 彼女のライブは大盛況だ。

 私自身、気分がとても高揚している。

 隣にいる藤田さんも目を輝かせて、秦谷さんは驚きながらも嬉しそうにペンライトを振っている。

 周囲の生徒も、観客も、熱狂的な『燐羽様』ファンも、全員が夢中でライブに魅入っている。

 

 そして、永遠に思えるような時間も、いつかは終わりが来る。

 最後のポーズの後で、秦谷さんの時と同じぐらいの歓声が、会場を包み込む。

 暫く熱気に包まれたまま余韻に浸っていたが、二人を連れて控室に戻ることにした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 控室に行き、アフターケアを行っている賀陽さんを見つける。

 賀陽さんの表情は、すっきりしたような表情だった。

 

「お疲れ様です、賀陽さん。

 素晴らしいライブでした」

 

「ありがとう。

 どうだったかしら?

 美鈴」

 

「とても良いライブでしたよ。

 それでもまだ、1年生の最後の方と比べると、少し劣っていますが……。

 再来週の本戦で、直接ぶつかるのが楽しみですね」

 

「まだ結果は出てないわよ」

 

 賀陽さんはそう言うが、その顔は自信に満ち溢れている。

 

「いやいや、絶対二人とも抜けてるって!

 あれで抜けてなかったら、逆にびっくりするって!」

 

 藤田さんも、二人が抜けたことを確信しているのだろう。

 テンションが普段に比べて大分高い。

 

「そうですよ。

 りんちゃん、以前に言っていた通り、本気で勝負してくれるんですね」

 

「私は約束は守るわ。

 知ってるでしょ?」

 

「ふふ、ええ、そうでした。

 りんちゃんは、約束は守ってくれますから……最近の様子が少し変だったことも、隠れてレッスンしていたんですね」

 

「隠すことでもなかったけど…どう?

 サプライズにはなったでしょう?」

 

「ええ、とっても。

 ……本当に、本当に本戦が楽しみです」

 

 そう言って不敵にほほ笑む秦谷さんと、賀陽さん。

 そうして話し込んでいると、控室の入り口の方から忙しない足音が聞こえてくる。

 そして、凄い勢いでドアが開き、精神統一のために他の控室にいたはずの月村さんが飛び込んで賀陽さんに飛びついた。

 

「燐羽! 燐羽! 燐羽!

 見てたよ!

 前よりも凄くて、かっこよくて、キラキラ輝いてて、あの時見たアイドルみたいに、誰よりも輝いてた!」

 

「ちょ、ちょっと手毬、離れなさい!

 まだ汗臭いから…」

 

「燐羽!

 燐羽!

 燐羽ぁあああ!!」

 

「ち、力つよ…離れなさい!」

 

 タックルするかのように賀陽さんにくっついている月村さんは、テンションが振り切ってしまっているようで、賀陽さんが引き剥がそうとしてもなかなか剥がれない。

 

 秦谷さんの目からハイライトがだんだん消えていき、藤田さんがそれを察して月村さんの法被を着こんで控室の入り口にまで下がって逃げようとしている。

 私は月村さんのスタイリストさんに謝らないといけないなどと、場違いのことを考えていた。

 現実逃避していると言ってもいいだろう。

 

 …そろそろ賀陽さんも限界を迎えそうだ。

 

「月村さん、あと30分もすればAブロックのライブが終わり、Bブロックの選抜試験(セレクション)が始まります。

 トップバッターは、言わなくてもわかっていると思いますが、月村さんです。

 賀陽さんのライブを見た以上、あれ以上のものをしてもらわないと困ります」

 

 そう言うと、月村さんは少ししてから、賀陽さんを解放する。

 必死に引き剥がそうとしていた賀陽さんは息が乱れて、一歩間違えたら私が通報されそうな見た目になっていた。

 少し冷静さを取り戻した月村さんは不満そうだが、覚悟を決めたいい目をしている。

 

「……わかってます。

 ごめん、燐羽。

 ちょっとはしゃぎすぎた」

 

「はぁ…はぁ…本当にはしゃぎすぎよ…。

 後はあなたの番よ。

 ()()()()()()()()()

 

「うん、燐羽、プロデューサー、美鈴も、()()()

 私が…月村手毬が、燐羽と美鈴に並び立つ、未来のトップアイドルだってところ」

 

「楽しみにしてるわ」

「まりちゃん…上で待ってますよ」

「頑張ってください。あなたなら、トップになれます」

 

 そうして、控室を出る直前に、扉の近くにいた藤田さんにも宣言する。

 

「ことね、これからのライブ、全力で、全身全霊でやるから、私のやり方は参考にならないかもしれないけど、しっかり見てて。

 あなたも、トップアイドルになるんでしょ?」

 

「…もっちろん!

 しっかり見てるから、かっこいいところ、期待してるゾ~!」

 

 それに返答はしないまま、手を挙げて部屋を後にする月村さんは、クールでかっこよかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 あれから賀陽さんに抱きついた月村さんの件で秦谷さんが少し拗ねたが、月村さんの出番が近いので、急いで月村さんのフル装備を用意する。

 賀陽さんも少し休んだ後に、合流してもらい全員で他の生徒のライブを見ながら、月村さんのライブを心待ちにしていた。

 

 そして、Aブロックの全生徒のライブが終わり、すぐにBブロックのライブが始まる。

 先に話していた通り、トップバッターは月村さんだ。

 

 もう何度聞いたかわからない、『初』のイントロが流れ始める。

 前回も聞いていたが、月村さんの歌唱力は凄まじい。

 全力で、全身全霊で歌っていることが、肌で伝わってくるような感覚。

 感情を込めて歌っていることが、はっきりわかり、聴いている者の、観ている者の心を震わせる。

 

 藤田さんは目を見開いて食い入るように魅入っており、秦谷さんは心配そうにしながらもペンライトを振っている。

 賀陽さんは驚いてはいたが、これぐらいならできて当然と言わんばかりに頷いた後にペンライトを振っていた。

 

 そして、歌も前回より仕上がっているが、それ以上に目につくものがある。

 

 それは、ダンスだ。

 

 藤田さんとの2時間にも及ぶダンスバトルは、確かに月村さんの力になっていたようだ。

 ダンスのキレが以前よりもよくなっているのは、『初』のみを踊り続けたあのバトルのおかげだろう。

 体力もついたのか、足元のふらつきもなくなっている。

 

 ……Bブロックに振り分けられた生徒には同情せざるを得ない。

 何せ、月村さんがトップバッターということは…必然的にこの月村さんと比較されることになるのだから。

 中等部の中ではトップレベルの彼女は、賀陽さんのライブを先に見たことで超が付くほどの絶好調だ。

 

 気づけばライブは終盤。

 曲が終わり月村さんを包むのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 私は、『SyngUp!(彼女たち)』が選抜試験(セレクション)を抜けることを確信した。

 

 

 

 そして、全ての生徒のライブが終了し、本戦出場者が発表されることになる。

 予定通り、『SyngUp!(彼女たち)』と花岡さんの本戦出場が決まり、会場は大盛況のまま幕を下ろした。

 

 結果だけ見れば予定通りではあったが、過程は想定通りとは言い切れなかった。

 藤田さんからの刺激はいい方向に作用されて…ちょっとしたことで予想は大きく覆るだろう。

 賀陽さん、秦谷さん、月村さんの誰が優勝しても、花岡さんが優勝したとしても、ここで得られる経験値は大きい。

 良い意味で私の想定を超えた成長をしている彼女たちは、これからも成長を続けていくだろう。

 

 この分なら……本戦(再来週)はもっと面白いことになる。

 

*1
タコピーの原罪の感想より。チェンソーマンは実は関係ない

*2
自己肯定感爆上げ↑↑しゅきしゅきソングの合いの手。なお本人はまだ知らない

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