『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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31話目

 

 無事に選抜試験(セレクション)が終わり、予想よりもいいペースで成長していることが分かったため、『SyngUp!(彼女たち)』のプロデュースプランを修正する必要がでてきた。

 月村さんも、秦谷さんも、賀陽さんも……『H.J.I.F』の本戦が終わるまでは、彼女たちにリソースを裂く必要がある。

 

 だが、藤田さんのプロデュースも買って出たのだ。

 彼女の()()()も、既に進めつつあるが()()()()()()が出てきてしまった。

 ユニット間ではないものの、同じプロデューサーがついているアイドルで扱いに差をつけすぎるわけにはいかない。

 

 幸いなことに、ここは『アイドル』関連のコネは強い『初星学園』。

 手っ取り早く藤田さんの問題を解決したいが……『ストーリー』のようには中々上手くいかない。

 補助金関係の手続きは滞りなく完了しているが、アイドル活動に結びつくようなアルバイト先を見つけることに難航していた。

 

 というのも、ここに来て周囲からの評価があまり良くないことが響いている。

 コネ入学の噂、『H.J.I.F』のソロに殴り込みをかけたことによる印象悪化、素行がそれほど悪くなかった担当アイドルの素行不良、トラブルメーカーの担当アイドルユニット、成績不良の新規担当アイドル、中等部(アイドルコース)に呼び出される大学生(プロデューサー科の生徒)…挙げればきりがない。

 過激なことをしてきたツケが、今になって回ってきているのだ。

 協調性が重要と担当アイドルには言ったが、その実、協調性がないのは私の方だ。

 

 数少ない相談できる相手の根緒先生や級友の相上、中等部の先生やトレーナーにも相談したが、そもそも中等部の生徒に学園を通して請け負う仕事自体が回ってくることが少ないらしい。

 高等部の生徒は頻繁に働かせているようだが、中等部の生徒が働くこと自体に色々制限がある。

 義務教育中の生徒を積極的に働かせるような学校は、あってはならないのだ。

 

 そのため、中等部の生徒に回ってくるような仕事は、有名な生徒にのみ声がかかるような大きいライブステージや、そのほかのイベントで諸事情によって欠員が出たものの補填程度。

 そして、そういう仕事は成績優秀な生徒に声がかかることがほとんど。

 

 成績不良な生徒に回ってくるようなことはほとんどなく、そういった話に詳しい先生とも仲が良くない。

 高等部の生徒会がそう言った仕事の管理も一部請け負っているようだが、今は繋がりがないうえに、あちらも『H.I.F』の時期で忙しい。

 学園内の繋がりを軽視していたわけではないが、融通を聞かせてくれるようなコネづくりができていなかった。

 八方塞がりとはこのことだろう。

 

 つまり、『アドリブ』で何とかしないといけないのだが…取れる手はそう多くはない。

 バイトを生活リズムに取り入れると言っても、最終的にアイドルで食べていくのであれば、バイトは減らしてもらう必要が出てきてしまう。

 バイトを完全に禁止すること自体はできるが、藤田さんの家庭事情を考えると精神的な負担が大きくなってしまうだろう。

 如何に才能があると言っても、同じように才能がある者同士で競い合う以上、レッスン量の差は実力の差になっていく。

 

 ……発想を変える必要がある。

 そもそも、私は本来のプロセスを経てプロデューサーになった人物ではなく、『プロデューサー』の知識を持っているだけの素人。

 どれだけ自己研鑽をしようと、正規のプロデューサーに比べて、何段も劣ることは事実。

 コネ入学と言われても、繋がるようなコネがないから否定できるだけで、実態は同じ。

 

 ()()()()()()()()()

 そんな私が、『ストーリー』通りに何もかも行くと思っていたこと自体が間違いなのだ。

 学マスのプロデューサー…通称『学P』はどのルートを辿ろうと、かなりのハイスペック。

 『魔法使い』さながらのプロデュース力は言わずもがなだが、スマホを素手で握りつぶすあたり*1、人間かも怪しい。

 

 詰まるところ、解決策を出すためには今の私では難しい。

 ならどうすればいいのか。

 褒められたことではないが…解決策を出してもらう外ない。

 私ではなく、彼女自身に。

 

 

 事務所代わりの教室がノックされる。

 今は一人しかいないため、他に答える人はいない。

 入っていいですよと言うと、目的の人物がドアを開けて現れた。 

 

「プロデューサー!

 ことねちゃんが来ましたよ~

 大事な話って何ですかぁ~?」

 

「お待ちしておりました。

 藤田さん、少々面談をさせてください」

 

 そう言って向かいの椅子に座ってもらう。

 考え込んでいるだけでは埒が明かないので、あんまり好ましくないだろうが打ち明けてしまった方が早いだろう。

 何も知らない彼女は、どこか爛々とした目で私を見ている。

 

「プロデューサーとお話なら、いつでもいいですよ~」

 

「それではさっそく、『H.J.I.F』の選抜試験(セレクション)の二回目、見てどう思いましたか?」

 

 私の質問の真意はまだ気づいていないのか、少し迷った顔になった。

 

「どう思ったかですか?

 う~ん…美鈴ちゃんが思っていた以上に凄かったとか、燐羽があれで1年生の時の方が凄いって手毬と美鈴ちゃんが言っているのがちょっと信じられないとか、手毬って噂では聴いていたけど噂以上に凄いなって思いました!」

 

「それだけですか?」

 

 さらに踏み込む。

 藤田さんの顔つきが少し変わった。

 

「…どういう意味です?」

 

()()()()()()()()()()()()()を悔しく思いましたか?」

 

 私の言葉で藤田さんは目を見開いた。

 そして、少しの沈黙を挟んだ後で、少し声を震わせながら口を開く。

 

「……プロデューサーって性格悪いって言われませんか?」

 

「心外ですがよく言われます」

 

「心外でもなんでもなく、当たり前だと思いますよ~」

 

 少しからかうように言っているが、目が笑っていない。

 彼女の地雷を踏みぬいたのだから、当然だろう。

 

「そう思われても仕方ないですね。

 それで、どう思いましたか?」

 

 まだ爆発していない彼女の導火線に、思い切り灯油をまいて火を点ける。

 そして、彼女はわなわな震えたかと思うと声を張り上げた。

 

「…………悔しいですよ、すっごく悔しいですよ!!

 あたしだけ観客席で、みんなの応援して、みんなのライブはとっても凄くて、あたしのライブとの差を痛感して、冬はあそこに立てるって言われても実感なんてこれっぽっちもないです。

 でも、バイトも減らしたくないし、全部やるって決めたから…どうすればいいんですか…」

 

 声を荒げていた彼女だったが、すぐにしおらしくなって、力なく俯いた。

 

「レッスンに取り組む姿勢が良くなっていることも、生活リズムを整えていることも、順調にステップアップには結びついていると思います。

 ですが、実際に成果が見える形に出ていない」

 

 藤田さんは首を振るだけで答える。

 

「私のプロデュースの方針としては、基本的にしたいことをしたいようにしてもらう、そのためのお手伝いをする、と言ったものが多いです。

 『SyngUp!(彼女たち)』はある程度、それで何とかなってしまっています」

 

「でも、あたしはそんなに器用じゃないです」

 

 少し顔を上げて私の方を見る彼女は、何かに縋り付くようだった。

 

「ですので、話をしたかったのです。

 私は、藤田さんがバイトをすることを否定するつもりは欠片もありません。

 以前も言った通り、成績上位に入ってもらう必要がありますが、これだけならそう難しい話ではないと思っています。

 ですが、今のペースでバイトを入れていると、どうしてもトップ層との差はできてしまうでしょう。

 特に『SyngUp!』は才能がある上に、ペースに差はあれど努力を止めることはありません」

 

「それは……わかってます」

 

 藤田さんも自分の現状を受け入れる準備はできている。

 短い期間ではあるが、『SyngUp!』を間近で見ていたことも理由になるだろう。

 

「藤田さんをアイドルとして、大成させてみせます。

 藤田さんは前にお伝えした通り、素晴らしい才能がある。

 1ヶ月で構いませんのでバイトを減らしていただけませんか?

 それで成果を出せなければ、元に戻していただいて…いえ、一度減らしたバイトを戻すのは難しいですね…」

 

 言いながら自分の提案が現実的ではなかったことに気づく。

 働き口を広く紹介できない私が無責任に収入を減らすようなことを言うのは、無責任だ。

 

「プロデューサー…」

 

「申し訳ありません。

 もっといい提案をできればよいのですが……妙案を思いつかず、こんな形で相談するしかできませんでした。

 バイトをすることを否定したくはなかったのですが…現実的にはバイトを減らしてもらわないといけないと考えております」

 

 事前にシミュレーションをしていたはずだが、やはり上手くいかない。

 藤田さんは意外そうな顔でわたしを見ていた。

 

「プロデューサーでも、上手くいかないことあるんですね。

 意外です」

 

「完全無欠であればよいのですが、私にはまだ早かったようです。

 幻滅しましたか?」

 

 恐る恐る彼女の様子を伺うが、予想に反して藤田さんはにっこり笑っていた。

 

「いえ、プロデューサーも人間なんだなって安心しました」

 

「逆になんだと思ってたんですか?」

 

「う~ん……残虐非道の殺戮機械?」

 

 思いのほか藤田さんからの評価が悪い。

 何故だ…。

 

「流石に殺人はしたことないですよ」

 

「他の犯罪はしたって聞こえるんですけど!?」

 

「ジョークですよ。

 プロデューサージョーク」

 

「真顔で言わないでください!」

 

 ぷんすか怒っている彼女に思わず笑顔になってしまう。

 秦谷さんたちもからかうと面白いが、彼女の反応も中々だ。

 

 だが、昼休みはあまり長くはない。

 

「さて、時に藤田さん」

 

「なんですか?」

 

「藤田さんの『アイドルとしての強み』は何だと思いますか?」

 

「あたしの強み……ダンスもちょ~っと自信がありますけど、一番は、この可愛い顔で~す!」

 

 私の質問に対して、少し迷ったがすぐに回答が返ってくる。

 それも、期待していた通りだ。

 ピースサインとともに笑顔の彼女は、自分で言っている通り世界一可愛い。

 

「きちんと自分の強みを理解しているようですね。

 そうです。『世界一可愛い』が、藤田さんの強みです」

 

「えへへ~~。

 プロデューサーってば褒めすぎですよぉ~~」

 

「というわけで、こちらを聴いてもらってもいいでしょうか」

 

 そう言って小型の音楽プレイヤーを机に置く。

 

「?

 いいですけど、今までの話と何か関係があるんです?」

 

「聴いてもらえばわかります」

 

 そうして流れ始める音楽。

 藤田さんのプロデュースを決める()から依頼をかけていたため、想定よりも早く完成できた。

 予定のない土日に練習していたこともあり、多少は声を寄せることができていると思いたい。

 

 曲の名前は『世界一可愛い私』。

 

 聴いてすぐにえ、え、っと言いながら私を見ている藤田さんを見て、口元に指をあてて静かに聴いてもらう。

 恐らく彼女も予想がついているだろうが、一度きちんと聴いて欲しかった。

 途中から目が輝き、キラキラした顔で聴き入っている。

 

 そして、曲が終わり藤田さんが怒ったような嬉しいような複雑な顔でわたしを見ている。

 

「いかがでしたか?」

 

「プロデューサー、言いたいことはたくさんあるんですけど、まずこれ、何か一応聞いてもいいですか?」

 

「『世界一可愛い私』。藤田さんのソロ曲です」

 

 端的にそう言うと、藤田さんは興奮しながら叫び始めた。

 

「いつも唐突なんですよ!

 嬉しいけど!

 とっても嬉しいですけど!!」

 

「喜んでもらえて何よりです」

 

「怒ってるんですけど!?

 ていうか、曲名!

 なんですか、その曲名!?」

 

 それは本当にそう。

 初見はみんなそう思うだろう。

 だが、これこそが彼女に相応しいと、『みんな』が知っている。

 

「『世界一可愛い』藤田さんが歌うのに相応しい曲だと思ってます」

 

「…もう、うへへへ~~プロデューサぁ~~~!

 ほんっとうにあたしのことしゅきしゅぎ~~♡」

 

 くねくねと化した藤田さんをスルーして、今後のプランを伝える。

 

「これをものにしてもらいます。

 そして、『H.J.I.F』が終わった後にある中間試験。

 そこで披露してもらい、『SyngUp!(彼女たち)』よりも上に行くつもりで、『H.J.I.F』で頂点に立って調子に乗るであろう『SyngUp!(問題児たち)』をシバキ回してください」

 

「言い方ぁ!!

 いつもですけど、プロデューサーってなんでそんなに過激なんですか!!」

 

 正気に戻った藤田さんにそうツッコまれる。

 なんで過激な物言いなのか、それには理由がある。

 

「その方がウケがいいからです。

 プロデューサー科で習ったことの応用ですが、普段冷静な人が、過激なことを言いギャップを生むことで、相手にインパクトのある印象を与えることができるそうです」

 

「うわぁ…計算づくだったんですねぇ」

 

「プロデューサー科は真面目な人が多いというハロー効果を応用したもの、だそうです。

 もちろん、普段の関わり方を通してやり方は人それぞれですが…『SyngUp!(彼女たち)』はこういった物言いをした方が喜ぶんですよ」

 

「それのせいで、あいつらの普段の言葉遣いが悪くなってるってことないです?」

 

 その指摘に思わず言葉が詰まる。

 彼女たちは元から口が悪いと思っていたが、もしかしてそれを助長しているのは私だったのか…?

 

「…………この曲をものにしてもらいます。

 成績を伸ばし、中間試験で『SyngUp!(彼女たち)』を抑え、成績上位になってライブをすることができれば、楽曲の一般販売が可能になり、印税による収入も見込めます」

 

 話をずらして藤田さんの目の前にニンジンをぶら下げることにした。

 

「印税!?

 本当ですか!?」

 

「本当です。

 学園を通して販売する形になるので、少々手続きが必要なことと、いくつかのハードルがありますが……一般販売できるレベルにまでなれば問題ないでしょう」

 

「よしよしよしよし!

 アガッてきたー!!

 それで、あたしは何をすればいいんですか!?

 バイトを休んで、レッスンすればいいんですか!?」

 

 ニンジンに食いついた藤田さんから思いのほか早く、期待通りの言葉が出てきた。

 だが、まだ焦ってはいけない。

 

「よろしいのですか?

 楽曲収入は可能になるとしても、先の話になります。

 バイトで減った収入を補填するまでには、時間を要してしまいますよ」

 

「それは…すこし、いや、かなーり困りますケド…あたしは()()()()()()()になりたいんです。

 この前の『H.J.I.F』選抜試験(セレクション)で悔しかったから…本当に悔しかったから…『SyngUp!(あいつら)』と同じステージに立つためなら、少しは我慢できます。

 プロデューサーが色々手続きしてくれたおかげで、少しは余裕もできてますし!」

 

 そう言いながらも少し目が泳いでいるのは、本当はバイトもしたいのだろう。

 でも、それでも私についてきてくれると言ってくれたのだ。

 その期待に応えなければならない。

 

「藤田さん…ありがとうございます。

 必ずあなた()頂点に連れていきます。

 泣いて嫌がっても連れて行くので、覚悟はできていますか?

 私はできています」

 

「了解です!

 藤田ことね、覚悟を決めて! 頑張りまーす!!」

 

 嬉しそうに教室をスキップで出て行った彼女の今後は、秦谷さんからの連絡で把握できるだろう。

 中間試験では直接生徒同士のバトルというわけではないが、そこで競い合うことができれば彼女の評判を上げることができる。

 そして、ソロ曲を手に入れて無双するであろうはずの『SyngUp!(魔王たち)』の対抗馬としては

同じようにソロ曲最低限の武器を渡すことができた。

 ソロ曲を手に入れたぐらいでトップに並べるわけではないのが普通だが、彼女は普通のアイドルではない。

 

 早急に彼女の成績を伸ばし、『藤田ことね』のソロライブを行い、彼女を中等部トップアイドルの仲間入りをさせる。

 そして、常に『SyngUp!』と鎬を削ってもらう形にすることが理想だ。

 良き友でもあり、良きライバルでもある状況が、私の求めていたものだ。

 

 『H.J.I.F』の上位を総取りする。

 落ちこぼれの評価をつけられたアイドルをトップに導く。

 「両方」やらなくちゃあならないってのが「担当を掛け持ちしたプロデューサー」のつらいところだ。*2

 覚悟は、できている。

 

 さてまだまだやることがある。

 『H.J.I.F』の本戦までの猶予はもう2週間を切っているのだ。

 できることを、できる限りやっていこう。

 

*1
紫雲清夏の親愛度第14話参照

*2
ジョジョの奇妙な冒険5部、ブローノ・ブチャラティ風に

学マスのストーリーはどの程度進めていますか

  • アプリをそもそも入れていない
  • どのキャラも親愛度10未満
  • 特定のキャラのみ親愛度10まで
  • 特定のキャラのみ親愛度20まで
  • 全キャラ親愛度20まで
  • 特定のキャラのみ親愛度27まで
  • 解放可能なキャラ全て親愛度MAX
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