『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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32話目

 

 『H.J.I.F』の本戦まで1週間を切った。

 『SyngUp!(彼女たち)』のソロ曲の衣装も遂に完成し、全員衣装合わせも完了している。

 通しでの練習もしているが、衣装もライブも本番まで見ないでほしいと言われて追い出されてしまった。

 

 確かにお楽しみは最後にとっておくタイプとは言ったが、まさか見させてもらえないとは思わなかった。

 演出関係の方とは既に話をつけているが、彼女たちにある程度任せていることが仇になってしまった。

 衣装は問題なかったと聞いているが…不安はある。

 

 だが、彼女たちは『アイドル』だ。

 ファンを裏切るような真似はしないし、ライブに関して不備や不満、不安なことがあれば彼女たち自身が私に言ってくれるはずだ。

 

 ………藤田さんにも、問題がないかだけ確認してもらおう。

 

 その藤田さんだが、宣言してくれた通りバイトを少し減らしつつあるらしい。

 元々、週6でバイトを入れていたが、週5になった。

 今後も少しずつ減らして、週3を目標にする形だ。

 

 …冷静に考えて、中学生で週6バイトを入れている方がおかしいのでは…?

 これ、もしかしなくても高等部に進学したら、週7バイトだったのではなかろうか。

 放課後は全てバイトを入れていると言っていたし……いや、考えるのを止めよう。

 

 そろそろ()()()()()()()()になる。

 ドアがノックされる音を聞き、パソコンを閉じてそちらを向く。

 

「どうぞ」

 

「失礼するわ」

 

 いつも通り、そう言って私の向かいに賀陽さんが座った。

 

「で、今日は何の用かしら?

 本戦まで時間もないし、レッスンしたいのだけれど?」

 

 彼女の口から、レッスンをしたいと聞けるとは、感慨深いものがある。

 時間が有限なのはお互い同じなので、本題に入ろう。

 

「ライブ直前の個人面談兼ミーティングです。

 当日は3人まとめて話す機会はあれど、個別で話す機会は少なくなる可能性がありますので。

 さっそくですが、レッスンへの苦手意識は、もう消えましたか?」

 

 賀陽さんはレッスンに対しての苦手意識があったはずだが、最近はそんな様子は見られない。

 以前よりも改善しているのはわかっているが、彼女の口から直接聞きたかった。

 

「……そうね、前よりはなくなったわ。

 完全に…じゃないけど、今はそんなこと言っていられないもの」

 

 彼女の表情から、完全に振り切ったわけではないのだろう。

 だが、以前よりも改善しているのは確かだ。

 

「それは何よりです。

 『H.J.I.F』の方はどうですか?

 言いづらいことはあるかもしれませんが、流石に本戦で失敗してほしくないので、懸念点があれば申し上げていただけると」

 

「特にはないわね。

 強いて言うなら、私の衣装について、いいかしら?」

 

「どうぞ」

 

()()()()、デザインしたのはプロデューサーがしたのかしら?」

 

 既に衣装合わせを終えているが、何か気に食わないことがあったのだろうか。

 もしそうなら、早急に対応しなければならないが…。

 

「原案だけですね。

 賀陽さんの衣装に関しては…元になるものがなかったので、プロに頼んだ方が良いと考えました。

 そのため、イメージだけお伝えして後は出来上がったものを少し調整してもらった形です」

 

「そう。

 私のイメージとは、少し違うと思ったのだけれど」

 

「『青い太陽』、賀陽さんを表すのに、これ以上のものはないと思っています。

 あなたは、月村さんと秦谷さんにとっては太陽そのもの。

 『SyngUp!』を象徴する青をベースとしたそれは、『SyngUp!』のリーダーである、あなたに相応しい」

 

 そう、賀陽さんの衣装を発注する際に渡した原案には、『青い太陽』のイメージを全面的に押し出すようにしてもらっていた。

 そして出来た衣装は、ロングドレスタイプの衣装で、学マスで例えると『カクシタワタシ』の衣装に近い。

 色合いは全体的に青で統一しているが、袖、ドレス先に行くにつれて色が濃くなっている。

 胴部分の色味が一番淡く、中心に行くにつれて淡く、外側に行くにつれて濃くなっているデザインは、太陽が周囲に力を降り注いでいくことを連想させている。

 露出は全くなく、髪もエクステで青い編み込みをツインテールに混ぜる形だ。

 

「ふうん…まあ、あなたがそこまで言うなら、いいわ。

 手毬も目をキラキラさせてて、可愛かったし、衣装自体は気に入ったわ」

 

「それは何よりです。

 まさか、衣装合わせを見せてもらえないとは思わなかったので、少し心配でした」

 

「あなたが言い出したんじゃない。

 お楽しみは最後に取っておくタイプだって。

 まあ、言い出したのは手毬だけど」

 

「なぜお二人は賛同されたので?」

 

「いつもいいようにやられてムカついたからに決まってるじゃない。

 前の焼肉の時に言われたこと、忘れてないわよ」

 

 意外と根に持つタイプなのか。

 だが、

 

「事実でしょうに」

 

「一発殴らせなさい」

 

 身を乗り出してくる彼女に対して、手を前にして制する。

 

「暴力はよくありません*1

 

「ムカつくわね。

 私のファンサービスよ。

 ファンなら受け取って当然じゃない?」

 

 こう言える辺りが彼女を『燐羽様』と呼んで崇めるファンを作り出したカリスマ性なのだろう。

 私も『スーツ』じゃなければ喜んで受け入れていたし、時期が時期じゃなければ大人しく殴られていた。

 

「今はライブ前です。

 人を殴る時も、殴り方を間違えると殴ったほうの手が折れることもあります」

 

「そんな力で殴らないわ」

 

「『H.J.I.F』が終わった後なら、幾らでも受け入れるので、今はやめましょう」

 

 心外だと言わんばかりにわたしを睨みつけているが、万が一があってはいけない。

 そう言うと、彼女はため息を吐いた。

 

「はぁ…プロデューサー、ちょうどいいから聞きたいのだけれど」

 

「どうかされましたか?」

 

「まどろっこしいのは嫌いだから、率直に言うんだけど、()()()()()()()()()()()()のかしら?」

 

 その質問にわたしはスムーズに回答できず、固まる。

 

「……どうしてそう思ったのでしょうか?」

 

「まだあなたが担当になってから、3カ月も経っていないわ。

 なのに、ことねを追加で担当したのだから、また増えるのかどうか、聞くのは普通じゃない?」

 

「なるほど。

 もしかして、他の方々も同じように思ってるのですか?」

 

「手毬はそこまで考えてないわ。

 美鈴は……夜道には気をつけなさい」

 

 確かに、これに関しては私が完全に悪いのだが、なんて怖い話をしてくるのだろう。

 

「それは困りますが、後で秦谷さんとも面談をさせてもらうので、その時に話します。

 率直に言うと、()()()()()()()()()()()()

 

「理由は?」

 

 端的にそう返した彼女に、理由を続ける。

 

「いくつかありますが、()()()()()()()です。

 あなた方4名でも持て余しているのに、ここに追加で担当を増やすとなると……1日が60時間あっても足りません。

 それに……『SyngUp!』をトップにしたいのに、これ以上担当を増やすと流石に難しいものがあります」

 

「そう。

 なら、もしあなたが成長してもっと担当を持てるようになったとしたら?」

 

 彼女の質問の意図がわからない。

 だが、言えることは一つだ。

 

「私のキャパシティーが増えたら…ですか。

 それでも、これ以上は厳しいですね」

 

「どうしてかしら?

 さっきの理由なら、出来ることならもっと増やしたいと言っているように聞こえたのだけれど」

 

 確かに、担当を増やすことならできる。

 契約を結んで、プロデュースして、アイドル同士の相互関係で成長させていけば手間も減るかもしれない。

 しかし、それでは重要な要素が抜け落ちてしまう。

 

「それで、藤田さんのように『SyngUp!』の成長にも結び付くなら考える余地はありますが……私にこれ以上は荷が重すぎます」

 

「そうかしら?

 私たちのように、先がわかるならできるんじゃない?」

 

 賀陽さんは確信めいて、私が『SyngUp!』と『藤田ことね』以外のアイドルの未来も知っている口ぶりだ。

 確かにそれはそうだが、それでも、私には荷が勝る。

 

「荷が重すぎると言ったのは、プロデュースそのもの、という意味もありますが、それ以上にあなた方の人生も含めてです」

 

「人生って…大袈裟すぎるわよ」

 

 賀陽さんはそう言うが、私の考えは違う。

 アイドルをプロデュースする、これはそう簡単なことではない。

 

「そんなことはありません。

 中等部、高等部の時期は多感です。

 特に『初星学園』の生徒でアイドル科、アイドルコースともなれば、この時期で今後の生涯年収が変わると言っても過言ではありません」

 

「ああ、そういうこと」

 

 何か賀陽さんの思い違っていた部分があったのだろうか。

 

「?

 続けます。

 そんな重要な時期に、軽い気持ちでプロデュースを多く受け持つことは、多くの人に対して誠意を欠いた行動と言えるでしょう。

 以前に賀陽さんには言いましたが、やる気がない人がアイドルになることには反対と言ったことと同じです。

 プロデュースするなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を持つ必要があると思ってます。

 良かれ悪しかれ、その後の人生に大きな影響を与えることは間違いないのですから。

 藤田さんのことも、できる範囲内でできることは何でもやらせてもらうつもりです」

 

 そう言い切ると、賀陽さんは顔を少し青くした。

 

「おっも…あなた、美鈴に似てきたんじゃないの?」

 

「元からですよ。

 成果が出なかったらクビにしてくれて構わないというのは、文字通り()()()()()()()()()()()()()という意味です。

 寧ろ、未来ある若者4人の人生を無茶苦茶にした大人が、死ぬだけで責任を取れるとも思いませんが」

 

 私の言葉を聞き切った後で、賀陽さんの顔が大きく歪んだ。

 そして、声色に怒気を含ませて口を開く。

 

「……あなたの考えはよく理解したわ。

 よく理解したうえで言わせてもらうけど、二度と死ぬなんて言わないで」

 

「それは…そうですね。

 失言でした」

 

 完全に言いすぎてしまった。

 ライブ前のこの時期に、こんな話をするべきじゃなかったことは、プロデューサーでなくてもわかることだ。

 

「私たちは、あなたに強制されてついてきているわけじゃないわ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()からついてきているの。

 それで成果が出ないとしたら、あなただけの責任じゃなくて、私たちにも責任がある。

 私たちの責任まで、勝手に奪って抱え込まないで」

 

 そう言う彼女は明らかに苛立っている。

 これに関しても完全に私のミスだ。

 

「申し訳ありません。

 出過ぎた真似でした」

 

「はぁ…まあいいわ。

 担当アイドルを増やすつもりがないってわかっただけでもいい収穫だし」

 

「?

 それはどうしてですか?」

 

「簡単に言うと、あなた、中等部の生徒から狙われてるわよ」

 

「……………は?」

 

 賀陽さんの言葉が理解できず、思わず聞き返してしまう。

 続く賀陽さんの口から告げられた言葉は、私の予想していない内容だった。

 

「これまでは『SyngUp!(私たち)』しか担当していなかったから、他の生徒は諦めていたみたいだけど、落ちこぼれの評価がつけられていることねも担当したから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってこと。

 中等部の生徒にプロデューサーがつくことはそう多くないし、今年は今のところあなたしかいないから、プロデューサーをつけたいって思っている子が狙っているのよ」

 

「…………マジですか?」

 

「マジよ。

 美鈴が授業にあんまり出てないのは幸いね。

 これ、美鈴が知ったら荒れるのは間違いないわよ」

 

 思わず天を仰ぎ見る。

 予期していないところで面倒事が増えるのは、勘弁してほしい。

 

「そう言えば、中等部の先生から他に担当を増やさないのか聞かれたことがあったような…」

 

「確実にそれね。

 断ったなら、少ししたら収まるかもしれないわ」

 

「もしくは、藤田さんの本気を見せつければ、諦めてくれるでしょうか」

 

「それもそうね。

 とりあえずは安心したわ。

 ()()知らないところで担当を増やされたら、たまったものじゃないもの」

 

「その節は申し訳ありませんでした」

 

「ことねが可愛かったから許してあげる。

 あの子、頬にキスをするとすっごく可愛い反応するのよ!」

 

「ほどほどにしてあげてください」

 

 藤田さんからその話は聞いていなかったが…本気で嫌がるなら止めるべきだろう。

 そのうち確認しておいた方がいいかもしれない。

 

「善処するわ。

 最後に一つだけ聞いていいかしら?」

 

「どうぞ、時間が許す限りいくらでもいいですよ」

 

「私たち以外に『先を知っている子』は何人いるのかしら?」

 

 確かにそれは彼女たちにとって知っておくべきことかもしれないが…いや、恐らく担当を増やす可能性の話にも繋がるのだろう。

 おとなしく言ってしまおう。

 

「……高等部に進学してからになりますし、高等部で他の学校から編入してくる方もいますが、全部で『13名』…あなた方を抜いたら『9名』ですかね。

 後は、少し知っている程度の方がいるぐらいです」

 

「そう。

 誰かは聞かないでおくわ。

 お楽しみは、後にとっておいた方がいいものね?」

 

 そう言って悪戯っぽく笑う彼女は、とても可愛らしい。

 私も思わず笑みがこぼれる。

 

「ええ、その方が楽しみも増えますから」

 

「じゃあ、私はこれで失礼するわ」

 

「賀陽さん、最後に一つ、私からもいいですか」

 

 そう言って出て行く彼女を引き留め、最後に聞きたいことを確認することにした。 

 

「何かしら?」

 

()()()()()?」

 

 最後に聞きたいことは、本戦への意気込み。

 彼女の相手は、現状の()優勝候補と言っても差し支えない秦谷さんだ。 

 

「……さぁ?

 美鈴は、正直言って一番の強敵よ。

 ここ最近でさらに仕上げているのもわかるし、この前の選抜試験(セレクション)も想像以上だった」

 

 賀陽さんはそう言って少し弱音を吐いて、目を瞑る。

 そして、再度目を開けた彼女は、先の弱気な表情は欠片もなかった。

 

「それでも、勝つつもりで全力でやる。

 あの子たちが憧れてくれたって言うから……負けられないのよ」

 

「ありがとうございました、賀陽さん。

 最後にもう一つ」

 

「最後って2回目よ」

 

「『青い炎』は通常の炎よりも、温度が高いのです。

 太陽は本来白く光っているそうですが…『青い太陽』、何よりも熱く、見るもの全てを照らして焼き尽くせそうではありませんか?」

 

「……意外とロマンチストなのね。

 はぁ、言われるまでもないわ。

 楽しみにしていなさい。

 最高のステージで、最高のライブをしてあげる」

 

 そう言って彼女は出て行った。

 色々想定外の話もあったが、聞きたい言葉は聞くことができた。

 後は彼女次第だ。

 誰が勝っても嬉しいが、彼女が輝くところは是非とも見たい。

 

 このぶつかり合いの結果がどうなろうとも、今後も彼女は『SyngUp!』が輝くための道を照らす光になるだろう。

 

*1
遊☆戯☆王ZEXALのⅣ様より

学マスのストーリーはどの程度進めていますか

  • アプリをそもそも入れていない
  • どのキャラも親愛度10未満
  • 特定のキャラのみ親愛度10まで
  • 特定のキャラのみ親愛度20まで
  • 全キャラ親愛度20まで
  • 特定のキャラのみ親愛度27まで
  • 解放可能なキャラ全て親愛度MAX
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