『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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33話目

 

 賀陽さんが出て行った後の事務所。

 次は月村さんを呼び出そうかと思ったところで、事務所のドアが開く。

 

「お邪魔します、プロデューサー」

 

「秦谷さん、いかがなさいましたか?」

 

「先程りんちゃんに会って、りんちゃんとお話ししていたと聞いたので。

 次はわたしか、まりちゃんかと思い、参りました」

 

 本当であれば月村さんを呼び出そうと思っていたが、そういうことなら話は早い。

 順番が前後することの影響もそこまで多くないし、秦谷さんとこうして真面目な話をする良い機会だ。

 

「なるほど。

 折角来ていただいたのなら、始めましょう。

 既に賀陽さんから聞いているかもしれませんが、ライブ前のミーティング兼面談です。

 ライブ前に気になることはもちろん、他に気になることがあれば今のうちに解消してしまいましょう」

 

 そう言って座るように促すと、普段何もなければ隣に座る彼女が珍しく対面に座る。

 真面目な話をする合図とも言えるだろう。

 秦谷さんは少し言葉を選び、口を開く。

 

「ふむ…それでは、プロデューサーはわたしに貸しがいくつかありますね?

 それに、『H.J.I.F』終了後になんでも言うことを聞くとおっしゃっていました」

 

「そうですね。

 あの言葉に嘘はありません」

 

 今その話になるとは思わなかったが、否定する理由はない。

 

「本来なら、『H.J.I.F』が終了したら頂こうと思っていましたが、他にも貸しがあることですし、今、頂いてもよろしいですか?」

 

 そう言って秦谷さんは手を私に差し伸べる。

 何かを掌に載せてほしいようなその動作は、身に覚えがあるが敢えて聞こう。

 

「何をですか?」

 

「プロデューサーの家の鍵です。

 以前も申し上げましたが、わたし、親しい方のお世話をすることが好きなのです。

 ですので、プロデューサーのお世話もしたくなってしまいました。

 わたしがプロデューサーのお世話をするために、お部屋の鍵を渡してください」

 

 ふむ…。

 遅かれ早かれこうなるとは思っていた。

 秦谷さんの性格、『ストーリー』でもあったことだし、そう驚くことではない。

 

 なので、私は躊躇いなく鞄の中から鍵を机の上に置き、()()()()()()()()()()()()()

 秦谷さんは目の前に滑り込んできた鍵を見つめて、目を白黒させて私と鍵を見ている。

 

()()()()()()()()

 

「…よろしいのですか?」

 

 躊躇なく鍵を渡したことに秦谷さんは驚いている様子だが、目がキラキラ輝いている。

 私はため息を吐いた。

 

「求めてきたのは秦谷さんでしょうに」

 

「それはそうなのですが…てっきり、反対されるものかと思っていました。

 プロデューサーは、わたしたちに触れるようなこともほとんどしませんし、公私混同しない方だと思っていましたので」

 

 確かに、そう思うのが普通だろう。

 事実、担当アイドルとプロデューサーが()()()()()()()()ことは、あってはならないことだ。

 しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「担当アイドルのためなら、私の全てを捨て去る覚悟はあります。

 秦谷さんが求めるなら、求められたことを求められたままに捧げるつもりです」

 

「むぅ…」

 

「ただし、一つだけ覚えておいてほしいことがあります」

 

 さぁ、ここからが正念場だ。

 私が何も策がなく『合鍵』を渡すわけはない。

 こうなることは、プロデュースすることになってから直ぐに考えていたことで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

「……なんでしょうか?」

 

()()を使うことで起こるリスクについてです」

 

「リスク…ですか?」

 

 秦谷さんはそう言って鍵を手に取りながら、私の方を見つめている。

 だが、その鍵の重さは、手にしている以上のものがあることを、理解してもらわなければならない。

 

「当たり前ですが、あなたはアイドルです。

 そして、私は担当プロデューサー。

 プライベートで一緒になることは、好ましいことではありません」

 

「それは…承知しています」

 

 そう言いながら、嬉しそうに手で鍵を弄んでいるが、まだ彼女の表情が崩れていないところを見ると、深く理解はしていないだろう。

 

「もし、万が一、それを使ったことが他の方にバレてしまった場合、言いたくはありませんが私は()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そして、あなただけではなく、他の3人の()()()()()()()()()()()()()()()()()ことを、覚えておいてください」

 

「…………え?」

 

 そう言って彼女が手で弄んでいた鍵が、カンッと音を立て机の上に滑り落ちる。

 彼女は茫然と私を見ているが、やはり深く理解していなかったのだろう。

 

「秦谷さんが万が一私の家の合鍵を使ったところがばれてしまい、スキャンダルになったとした場合、他の方にも迷惑をかけるのはわかりますね?」

 

「それは…そうですね」

 

「そして、その責任は私が許可したことですので、私にあります。

 未来あるアイドルの人生を4名もダメにするようなことをしてしまうとなると、責任を取るしかないでしょう。

 辞めただけで責任が取れるわけではないことも理解していますが、世間体を考えると最低限辞めるのは絶対条件になります」

 

 以前に辞めるだけで責任を取れるわけではないと言ったが、担当アイドルとスキャンダルを起こしたプロデューサーは辞める以外の選択を取れなくなる。

 学園としても、それが表に出てしまった場合は退学が最低条件。

 そして、刑事訴訟までいく可能性が非常に高い。

 そうなれば、私の人生はもちろん、私が担当している彼女たち全員の人生が、破滅に向かっていくだろう。

 …最も、私はともかく彼女たちは才能あるアイドルなので再起できるだろうが。

 

 それをようやく理解した彼女は、取りこぼした鍵を、大事に、大切に手の中に握りこんでいた。

 

「……」

 

「わかっていただけましたか?」

 

「………大変不服ですが、プロデューサーの家の鍵は諦めます」

 

 そう言って彼女は、席を立って私に鍵を渡してくれた。

 大事に握りこまれたその鍵は、秦谷さんの体温を吸収して少し熱を持っている。

 

 流石の彼女も、親友、友達の人生を滅茶苦茶にしてしまう可能性がある『遊び』は看過できなかったようだ。

 友達思いの彼女なら、そうすると思っていた。

 そしてこれは、元々考えていた対策…対策というよりは単なる事実だ。

 

 今後も大成していくであろう彼女たちのスキャンダルとなれば、涎を垂らすものは多いだろう。

 線引きはしっかりしなければならない。

 そうじゃなければ、彼女たちのプロデューサーでいられなくなってしまう。

 それだけは避けなければならないのだ。

そうでなければ『代用品』でさえなくなってしまう

「賢明な判断です」

 

 席に戻った彼女は、それはそれとしてと前置きを置いて話し始める。

 

「そしてプロデューサー、二度と担当を辞めるなどと言わないでください」

 

 本当に似た者同士のユニットだ。

 少しの掛け違いがなければ、彼女たちは何事もなく高等部でも無双していた、そんな未来もありえたのかもしれない。

 

「賀陽さんにも似たようなことを言われましたよ。

 私もあまり言いたくはありませんので、()()()()()()()()()()()()()()

 

「なんて傲慢な」

 

 そう言いながら私を見ている彼女は、どことなく嬉しそうだった。

 

「秦谷さんにはこれぐらいがちょうどいいでしょう?」

 

「……ふふふ、プロデューサーもわたしに染まってきていますね」

 

 彼女は心底嬉しそうにそう微笑んでいるが、何を今更なことを言っているのだろうか。

 

「もうどっぷり染まっていますよ。

 それから、賀陽さんにもお伝えしたので秦谷さんにもお伝えしますが、私はこれ以上担当を増やすつもりはありません」

 

 賀陽さんにも言った通り、秦谷さんにも伝えておいた方がいいだろう。

 現に彼女は、一瞬驚いたような顔をした後、目に見えて安堵した表情になっている。

 

「……りんちゃん、そんなお話までしたんですね。

 当然…と言いたいところですが、少し安心しました」

 

「安心、とは?」

 

「担当を増やす可能性は十分あると思っていましたので。

 あなたは、『SyngUp!(わたしたち)』のプロデューサーです。

 ことねさんは、例外で認めてあげただけです」

 

 やはり担当を増やすという行為は、一長一短だ。

 藤田さんを追加で担当することは『SyngUp!(彼女たち)』にとって良い結果になると確信を持っていたものの、余計な不安まで増やしてしまった。

 この機会にしっかり解決しなければならない。

 

「存じております。

 藤田さんを担当にしたことも、『SyngUp!(あなた方)』を思ってのことです。

 実際、いい刺激になっているとは思っていますが、どうでしょうか?」

 

「それは否定しません。

 むしろ、ことねさんのおかげで、まりちゃんもりんちゃんも、以前より実力が向上しているのは確かです」

 

 秦谷さんから見ても、そうであるならば、やはり私の眼に狂いはなかったと思っていいだろう。

 藤田さんを担当することにした理由は()()だけではないが…。

 

「それはよかったです。

 ですが、これ以上担当を増やすことは私のキャパシティーを超えることにもなりますし、担当アイドル全員(あなた方4名)に割けるリソース…時間が大きく減ってしまいます。

 それは、私の望むところではありません」

 

「ふふ、よかったです。

 プロデューサーがそう簡単に担当を増やすとは思っていませんでしたが…前科ができた以上、疑いはありましたので」

 

 そう言う彼女はジト目で私を見ている。

 可愛らしくはあるが、そろそろ次に移ろう。

 

「それでは、他にありますか?

 要求は後日また聞きますが」

 

 そして、気を取り直して面談の続きを促した。

 

「……そうですね。

 ライブについて、よろしいでしょうか?」

 

「ええ、もちろん」

 

「りんちゃんとまりちゃんは、ここ最近で目覚ましく進化しています。

 りんちゃんは、全盛期(1年生の最後)ほどではないとはいえ、わたしたちの太陽はその輝きを取り戻しつつあります。

 まりちゃんも、一人で全力で歌えるようにまでなって、もうわたしの手助けなんて必要ないくらいに…。

 わたしは、二人に勝てるでしょうか?」

 

 秦谷さんはしおらしくそう言った。

 

「珍しく弱気ですね。

 秦谷さんなら、誰にも負けないと言い切ると思っていました」

 

「まぁ、相変わらず酷いですね、プロデューサー。

 …あの二人の強さは、わたしが一番よく知っています。

 藤田さんとのレッスンも相まって、さらにレベルも上がっています」

 

 秦谷さんはそう言うが、私の中の下馬評は以前藤田さんに伝えたものから変わっていない。

 勝つ可能性だけで考えたら、一番可能性が高いのは彼女だ。

 

「それでも、秦谷さんも負けていません。

 あなたの実力は、誰よりも私が知っています」

 

「プロデューサー…」

 

「私は『SyngUp!』の誰が優勝しても喜ぶのは間違いないですが、秦谷さんが他の誰よりも『SyngUp!』を大事にしているのはよく知っています。

 見せてください、秦谷さんの『力』を。

 太陽にも月にも負けない、『全てを呑み込むだけの力』を」

 

 そこまで言うと、秦谷さんはにこやかになった。

 ただでさえ可愛らしい彼女の表情が晴れやかになると、誰もが目を奪われてしまうだろう。

 

「お任せください、プロデューサー。

 ふふ、おかげでやる気が出てきました。

 プロデューサー、楽しみにしておいてください。

 あなたのためにとっておいたお楽しみを、満員の観客の中で見せつけてさしあげます」

 

「楽しみにしています

 あの時、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から、ずっと楽しみに待っていますので」

 

「ええ、それではレッスンをしてきますね。

 まりちゃんをお呼びしましょうか?」

 

「もし、良ければお願いします。

 また、本戦までに何かあれば教えてください」

 

「わかりました。

 それでは、また」

 

 そう言って秦谷さんが部屋を出て行こうとするが、最後に言いたいことが()()ある。

 

「最後に」

 

 私の言葉で秦谷さんは足を止める。

 いや、正確に言うと私が言う前から、少し歩みを遅くしていた。

 恐らく、私がまだ話をしたいことを察していたのだろう。

 

「秦谷さんは賀陽さんを『太陽』、月村さんを『月』とよく仰いますね」

 

「ええ、りんちゃんとまりちゃんを表現するのに、これ以上の例えはないと思います」

 

 秦谷さんはそう同意し、私もそれに合わせて頷く。

 

「そうですね。

 彼女たちは、『太陽』と『月』が良く似合います。

 秦谷さんと月村さん(あなた方)に憧れという温かさを与えた『太陽』、その太陽の(温かさ)を受けて、自らも他者を照らす光となる『月』」

 

「はい。

 りんちゃんは、わたしたちが『憧れ』と出会うきっかけで、『憧れ』がいなくなってしまった後も、『憧れ』になってくれました。

 そして、まりちゃんは『憧れ』を目指して走り続けるんです。

 ……その様子は少し不安になりますが」

 

 秦谷さんと私の解釈は概ね一致していた。

 そして、そうであれば一つ疑問があるはずだった。

 

「それでは、秦谷さんは何になるのでしょう?」

 

 そう言うと秦谷さんは少し頭を悩ませて、やがて頭を振った。

 

「……そう言われると、少し困りますね。

 『わたし』は『わたし』ですので、それ以上でもそれ以下でもありません。

 プロデューサーは何だと思いますか?」

 

「私は、秦谷さんは『風』、『空』…または『宇宙』そのものが合っていると思っています」

 

 秦谷さんから逆にそう聞かれ、私は以前から考えていた通りに話す。

 

「ふむ。

 その心は?」

 

「秦谷さんの歌声には他の人を魅了できるだけの力があります。

 それは、まるで『宇宙』の闇に染め上げるような支配力といっても過言ではありません」

 

 秦谷さんの『ツキノカメ』を初めて真剣に聞いたとき、『秦谷美鈴のソロライブ』に迷い込んでしまった感覚になった。

 『H.J.I.F』の選抜試験(セレクション)でも、彼女のライブは会場全体を呑み込まんとしていた。

 そんな彼女は、『月』や『太陽』といって『天体』よりも『空間そのもの』を司る方が合っていると感じた。

 

「それに、『宇宙』は真っ暗なだけではなく、『太陽』や『月』の近くでは、その光をさらに他の人たちに届ける役割もあります。

 『太陽』を直視してしまえば目が焼かれてしまいますが、『宇宙』や『空』を通して見れば焼かれることもなく、『太陽』の光を受けて温かい『風』となって人や自然に癒しを与えることができます。『月』の光も暗い『空』では際立って見えるでしょう」

 

「まぁ、まぁ!」

 

 見るからに嬉しそうに目を輝かせている彼女に、更に私は続ける。

 

「そして、『太陽』も『月』も『星々』も『一番星』でさえ、いずれは『宇宙』の闇に吞み込まれてしまいます。

 全てを呑み込んで、染め上げて、あなた色に染めるのにこれ以上ないものだと思いませんか?」

 

「ふふ、百点満点を差し上げます。

 プロデューサー、『太陽』も『月』も『星々』も、全て呑み干してしまいましょう。

 そして、いずれは『一番星』も吞み干します」

 

「期待しています。

 お話は以上ですが、また何かあれば、連絡をください」

 

「ええ、それでは、また」

 

 そう言って秦谷さんは今度こそ部屋を出て行った。

 秦谷さんは見るからにやる気になっていたので大丈夫だろうが、油断しないで当日まで状況を確認していこう。

 

 さて、最後は月村さんだ。

 彼女はメンタルによって実力のアップダウンがかなり激しい。

 話し合いをする前に、ある程度仕上げておこう。

 

学マスのストーリーはどの程度進めていますか

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