『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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34話目

 

 秦谷さんから、月村さんが今から行く連絡をチャットで受け取る。

 

 今回の『H.J.I.F』ソロ部門の参加は、元々月村さんが希望したものだ。

 そんな彼女が遂に、格上(だと思っている)ライバルたちと戦える舞台に立つ。

 そこまでの過程で色々試練もあったが、彼女はそれを全て乗り越えてきた。

 

 ……いくつか自業自得のものも頭をよぎったが、今は置いておこう。

 

 舞台を整えたのなら、後は戦うための準備をするだけだ。

 そして、それは彼女自身が一番よくわかっている。

 無理にならない範囲でセーブさせながら、できる範囲の限界に近いレッスンを毎日行っている。

 元々行っていたレッスンも中々に過激だが、最近はそれよりもさらに攻めていた。

 

 そして、ドアが開き月村さんが入ってきた。

 

「プロデューサー、来てあげたよ」

 

「ようこそお越しくださいました。

 秦谷さんからは話を聞いていますか?」

 

 入ってきた月村さんは私と向かい合うように椅子に座った。

 

「本戦前のミーティングと面談でしょ?

 確かに、当日全員ぶつかり合うわけだし、個別で話す機会は少ないかもしれないから、いいと思います」

 

「では、まず月村さん、本戦に向けて気になることはありますか?」

 

 秦谷さんから軽く聞いていたようだったので、さっそく本題に入る。

 本戦に向けての状況確認から入ると、月村さんは少し考えてから回答した。

 

「そうですね…。

 特にないです」

 

 そう言うが、これが本心じゃないことは顔を見ればすぐわかった。

 

「嘘はよくないですよ」

 

「…なんで嘘って決めつけるんですか?」

 

 月村さんがそう言うが、恐らく秦谷さんと賀陽さんが見ても同じように言うだろう。

 なんだったら、藤田さんが見てもわかるかもしれない。

 月村さんは自分をクールキャラだと思っているようだが、少しでも彼女を知れば彼女の本心は非常にわかりやすいものだ。

 

「顔に書いてあります。

 不安で不安で仕方ないと」

 

「はぁ…相変わらずプロデューサーって、本当に性格悪いですよね。

 知ってて、私の口から言わせたいんですか?」

 

「ええ、自覚して口にする、これは重要なことです。

 自分の状況を整理するためにも、相手に自分を知ってもらうためにも。

 以心伝心とは言いますが、大事なことは口に出して伝えるべきです」

 

 そして月村さんは観念したように、話し始めた。

 

「……プロデューサーは私が二人に勝てると思いますか?」

 

 ……やはり、『SyngUp!(彼女たち)』は似た者同士なのかもしれない。

 いや、賀陽さんは勝つしかないと覚悟を決めていたが、それでも不安の色はあった。

 

「以前から申し上げていますが、実力だけで言えば、本調子の月村さんなら二人に迫る実力を発揮できるはずです」

 

 私はそう言うが、彼女はそれでは納得できないとばかりに頭を振った。

 

「迫るだけじゃダメなんです。

 ()()()()んです」

 

「それは、どうして?」

 

「どうして…それは、二人の隣に立つにふさわしいアイドルだって見せつけたいからです。

 二人が本気を出し惜しんでいる間に、私はここまで来たんだぞって、最初から本気を出して挑んで来いって言ってやるんです!」

 

 月村さんは、確か『ストーリー』の『N.I.A』でも同じようなことを言っていたが、直接聞くと…感慨深いものがある。

 それに、その時とは違って今は『SyngUp!』は解散していない。

 

「今の段階でも、月村さんは十分彼女たちに迫る実力を、見せてくれました。

 これまでの選抜試験(セレクション)で、既に月村さんが『SyngUp!』で一番下だと思っているような人はいませんよ」

 

「仮にそうだとしても、()()()じゃ意味ないんです。

 あの二人が、そう思ってくれなくちゃ、いつまでも子ども扱いされるのもムカつきますし、私が『SyngUp!』の『中等部』の頂点に立ちます」

 

 月村さんはそう言い切ると同時に、覚悟を決めたように私を見た。

 私もそれに大きく頷く。

 

「その気持ちがあるなら、後はそれを歌に乗せるだけですよ。

 月村さんは歌に感情を乗せるのが、とても上手なのは以前にも話したと思います。

 当初の予定通りに舞台を整えることはできています。

 覚えていますか?

 なぜあなた方がソロ部門に参加することになったのか」

 

「…もちろん覚えています。

 私が、あの二人をけちょんけちょんにして、誰が『SyngUp!』の一番上かを教えるためです」

 

 本来の目的とは微妙に異なっているが…。

 

「……少し歪曲されてますが、意味は一緒なのでいいでしょう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 あなたのその想いは、歌に乗って聴いている人に、見ているライバルに届くはずです。

 そして、その上で()()()()()()()()()

 

「……勝てるかな?」

 

 月村さんが不安そうに私の顔を覗き込んでくる。

 それに対しての回答はただ一つだ。

 

()()()()()

 勝てるかどうかを他人に委ねるようでは、『勝利』は逃げてしまいますよ」

 

「それは…そうですけど…」

 

 軽く発破をかけるが、まだ月村さんは顔を俯かせていた。

 そこで()()()()()()()

 

「月村さんは、()()()()()()()()()()()()

 

「……それは…そう。

 私は、昔の自分が嫌いです。

 怠け者で、太ってて、甘えん坊で、子供っぽくて…だから、トップアイドルになって自分を好きになりたい。

 まだまだ、今はその途中で、まだ私は自分を好きになれてません。

 好きになれない自分を信じることなんてできません」

 

 そうだ。

 月村さんが自分に自信がないのだ。

 だから、彼女も自己肯定感を上げていってみよう。

 

「子供っぽいところも、月村さんの可愛らしいところだと思いますよ」

 

「むぅ…そういう話じゃありません!」

 

「失礼、月村さんが自分を卑下するので、担当プロデューサーとして反論してしまいたくなってしまいました」

 

「ふーん…なら、プロデューサー、私の良いところを言ってください。

 そうしたら、少しは自分のことを好きになれるかもしれないので」

 

 元より彼女の自己肯定感を上げるつもりだった、

 以前藤田さんにやったように、月村さんにも彼女の自身の良いところを知ってもらえば、自信につながるだろう。

 

「まず、月村さんの素晴らしいところは、その歌声でしょう。

 歌唱力が高いことは言わずもがなですが、聴く者全てを感動させることができるあのライブ。感情を歌に乗せる力といつも言っていますが…月村さんは本当に全力で一生懸命歌っているのが、よくわかります。歌っているときの息遣い、抑揚のつけ方、歌っているときのその姿も、全てがあなたの一生懸命さを表現しています。そして、月村さんの歌を聴いた人は、誰もがあなたの虜になるでしょう。

 次に、そのビジュアル。外見だけ見ればクールという言葉が似合い、スタイルもよく、同じ女性からは憧れの目で見ている方も多いでしょう。そして、その外見とは裏腹に、親しい人にだけ見せる少し甘えん坊なところも、月村さんの魅力を引き出しています。素直になれなくて言葉が悪くなってしまうところも、知らない人が聞けば顰蹙を買うかもしれませんが、本心を知れば可愛らしいものです。

 おいしいものを食べているときの輝いている顔も、とても魅力的ですよね。月村さんは自分を太っているとよく言いますが、アイドルとして自分の体形をキープするための努力を怠らない点も素晴らしいです。

 アイドルに対してのモチベーションも高く、そのための努力は惜しまない。そう言う努力家な点も月村さんの良いところです。 月村さんは誰でもできると思っているかもしれませんが、秦谷さんだってずっと走り続けることはしませんし、他のアイドルだって月村さんほどのメニューをこなしている人ばかりではありません。努力を続けるということは立派な才能なんですよ。

 あ、最近はダンスも素晴らしいですね。以前に比べて藤田さんとのダンスバトルを経て、ダンスの技量はもちろん、体力面も大幅に向上しています。この前の選抜試験(セレクション)を見ていた人は恐らく全員が思ったはずですよ。月村さんが歌だけのアイドルじゃないというこ「もういいです!!」

 

 …これ、デジャビュだ。

 私の話を打ち切ってそう叫んだ月村さんを見ると、いつぞやの藤田さんのように、顔が真っ赤になっている。

 

「もういいです!

 そ、それ以上は流石に恥ずかしいです」

 

「ふむ…続きは、また今度ですか?」

 

「暫く遠慮しておきます。

 …プロデューサーって、本当に私のこと好きですよね」

 

「担当アイドルを嫌いなプロデューサーはいませんよ。

 プロデューサーなら、これぐらいは出てきます」

 

「ふーん…他の3人でも同じように言えるんですか?」

 

「当然です。

 月村さんだって、同じように言おうと思えば、いっぱい言えるんじゃないですか?

 月村さんが、皆さんを大好きなのは見てわかりますよ」

 

「……本当に性格が悪いです。

 はぁ…まあいいです。

 うじうじするのはやめにします。

 ()()()()()()んですから、今まで通り、万全に整えてあの二人を越えて、『未来のトップアイドル』が誰かを証明して見せます!」

 

「その意気です。

 あなたならそれができる」

 

 ようやく月村さんは本調子になれたようで、目つきが変わっている。

 

「まだ、私は私が嫌いのままですけど、私を信じてくれるプロデューサーを信じてみます。

 そして、あの二人に勝って、もっと自分を好きになります!」

 

「そうしてください。

 あなたならできます」

 

「はい!」

 

 月村さんは最初に来たときよりもかなりいい顔になった。

 これで後は大丈夫だろう。

 

「他にはありますか?

 憂いは早いうちに取り除いておきたいので」

 

「……いいえ、後は大丈夫だと思います。

 また何かあったら、連絡します。

 すぐに出てくれますよね?」

 

「もちろん。

 なら、最後に一つ、いいですか?」

 

「なんですか。

 レッスンに戻るので、手短にお願いします」

 

 見ると月村さんは少しうずうずしている。

 身体がレッスンを求めているのかもしれない。

 

「賀陽さんが実力を取り戻しつつあるのは、月村さんもご存じですね?」

 

「当然です。

 前回の選抜試験(セレクション)

 最近一緒に練習してくれなくて、なんでだろうって思ってたんですけど、あの燐羽のライブを見て全部納得しました。

 ……まだ、私が知っているときの燐羽には遠いですけど、それでも燐羽がやる気になって、私と勝負してくれるって言ってくれたんです!」

 

 そう言う彼女はテンションが非常に高く、鼻息荒く私に捲し立てている。

 

「そうです。

 賀陽さんは、月村さんのレッスンを知っている私でも引くほどのレッスンを行い、あなた方と真剣に向き合うつもりです。

 そして、『太陽』が輝きを増せば増すほど、『月』も輝きを増すんですよ」

 

 私が言いたいことを理解した月村さんは、少し呆れたように私をジト目で見ている。

 

「…プロデューサーって、前から思ってましたけど、ロマンチストですよね」

 

「ロマンは大事ですよ。

 アイドル(あなた方)も『夢』を掴み取るために、努力を続けるでしょう?

 ロマンと『夢』は非常に近しいものですから。

 もっとも、私にとっての『夢』は、あなた方ですが」

 

「そう、なら期待してていいよ。

 私が、私たちがプロデューサーの『夢』を叶えてあげます。

 『月』が『太陽』を照らす時だって、あってもいいですよね?」

 

 そう言うと月村さんは事務所から出て行った。

 彼女の口ぶりからするに、これからレッスンに行くのだろう。

 既に賀陽さんも、秦谷さんも今日はレッスンに行っている。

 藤田さんも今日はバイトが休みなので、同じようにレッスンをしているだろう。

 

 本戦までは後1週間を切っており、まだできることはいくつか残っている。

 彼女たちの全力を出せるだけの舞台を整えるのが、私の仕事だ。

 メンタル面のケアはある程度できたと思うが、当日まで油断しないようにしなければならない。

 本戦は彼女たちのプライドのぶつかり合いでもあるが、どのような結果になろうとも、『SyngUp!』にとっていい経験になるのは間違いない。

 

 そして、()H().()J().()I().()F()()()()()()()に関しても、ようやく目途ができた。

 まだ予定段階だが、段取りを手早く取り付けて、彼女たちにさらに経験を積んでもらおう。

 それに『SyngUp!』だけではなく、藤田さんにとってもいい経験になるはずだ。

 

 …気を急ぎすぎてしまった。とにもかくにも本戦が終わらない事には次の準備を行えない。

 週末にはもう、本戦が始まる。

 『太陽』が全てを焼き尽くすのか、『宇宙』が全てを呑み込むのか、『月』が全てを照らすのか、どの結果になってもおかしくはない。

 今はただ、最高のライブをファンに届けられるように全力を尽くしてもらおう。

 

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