『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される 作:プロデューサー科のもの
私がプロデューサー業をする上でのアドバンテージは何か。
正直なことを言うと、そこまで大きなアドバンテージはないだろう。
むしろ、正式に受験して合格した他の生徒たちよりも、遅れてしまっている以上アドバンテージよりも出遅れてしまっている方が比重は大きい。
…これが、普通の芸能科の学校にでも入学していたらそうだったのだろう。
だが、ここは『初星学園』。
そして、私がプロデュースしたいアイドルは、二人はソロ曲を持っていた。
残りの「賀陽燐羽」に合う曲を0から作り上げるのは、今の私にはとてもできない。
だが、そこで私は思い出したのだ。
この世界は『転移前の世界の世界観をそのままに、細かい部分は全てが変更されている』ということを。
企業を取り上げてもそうだし、企業が変わっているということは当然テレビチャンネルもそうだし、アプリ全般もそうだった。
そのため、覚えている中で最も、
やはり、彼女は『SyngUp!』にとっての『太陽』。
彼女の姉に対しての憧れから始まったこのユニットは、「賀陽燐羽」がリーダーを務めていることもあり、他の二人は彼女の影響を受けている。
安易ではあったが、その中でも太陽を蝶に例えているこの歌が、彼女に合っていると思った。
念のため、その曲が実際にないことをネット上で確認し、この世界には存在しないことを確認した。
それどころか、自分が知っている曲はほとんどなく、『アイドルマスター』シリーズで歌われていた曲は存在しているものの、他の曲で私が知っている曲は一つもなかった。
この分であれば、後は私の記憶力と骨組みの作曲、編曲をお願いして違和感がないように仕上げてくれる人を見繕えば、私が知っている楽曲を再現できるかもしれない。
正直、音楽方面の才能はほとんどないし、さっき言った『作曲した』というのも嘘だ。
私はただ思い出して、歌詞を書き綴っただけ。
だから、これから私の記憶通りに編曲できそうな人を探すか、私自身が勉強して曲を完成させる必要がある。
本来作曲や編曲、楽曲に携わった人たちの功績を横取りするような行為。卑劣極まりないこの行為を、義理堅い「賀陽燐羽」に知られてしまったら軽蔑されてもおかしくないだろう。
だが、
「SyngUp!」解散後の来年であれば、ストーリー通り進むのであれば知識がほとんど完全な状態で活用できるだろう。
でも、それは「SyngUp!」のプロデュースをし、『
また、「SyngUp!」を再編成した場合、他の知識がほとんど使えず、情報アドバンテージがなくなる点も加味すると、来年まで何もしないような選択肢はない。
だから、私は打算ありきで彼女たちに楽曲を用意した。
…後はこの歌が、彼女たちにイメージを掴んでもらうための足掛かりになることを祈るだけだ。
もう、後には引けないのだから。
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三曲連続でアカペラで歌うのは想像以上に疲れる。
それが、三曲歌い終わった後の私の感想だった。
できる限りで気持ちを込め、「Luna say maybe」と「ツキノカメ」は彼女たちのMVやライブをイメージして歌ったが、お世辞にも上手とは言い難いだろう。
罪悪感をひた隠しにしながら、再現の意識だけは絶対に忘れないように、3曲を通しで歌いきった。
「ふう…こんな感じです。イメージは掴めたでしょうか?」
「…歌、あんまり上手くないね」
「プロデューサーですから。本来、人前で歌うことなんてまずしないですよ」
「私が教えてあげてもいいよ。曲を用意してくれたお返しに」
「気持ちはうれしいですが、人に披露する機会はないので結構です」
「そう」
そう言って、彼女はまた歌詞に目を落とした。
少し口を開けて、小声で私が歌っていたリズムで歌っているのがわかる。
「ねえ、あなた、私たちのことをどこまで知ってるの?」
小声で口ずさむ「月村手毬」の方を見ていたら、「賀陽燐羽」からそう問いかけられる。
鋭いその意見に対し、表情を意図して張り詰める。
内心の動揺を悟られないようにするためだ。
「この歌詞、私も手毬のも美鈴のも、それぞれ私たちをイメージしてるのだと思うのだけれど、どこでこんなに私たちのことを知ったのかしら?」
「え? 私のイメージとはかけ離れていると思うけど」
「ばか手毬、どこをどう見ても、あなたそのまんまじゃない」
「はあ!?」
「賀陽燐羽」の言葉に「月村手毬」が声を荒げる。見かねた「秦谷美鈴」が間に割って入った。
「まりちゃん、そんな声を出してはいけませんよ。りんちゃんもイジめちゃだめです」
「美鈴! 美鈴はどう思うの!?」
「…まりちゃんのかわいくてかっこいいイメージの通りですよ」
「ふ、ふーん…そういうことならいいけど」
「はあ…脱線しておいて悪いんだけど、さっきの質問に答えてくれるかしら?」
ここで正直に言うのは愚策だろう。
『別の世界からやってきたんです』なんて言ったところで、頭のおかしい異常者だと思われるほうが可能性としては高い。
だが、義理堅い「賀陽燐羽」に対して嘘をついてその場を逃れるのは、もっと信頼関係を損ないそうだと感じた。
「…そうですね…ネットで情報収集したのは確かですが、それ以外は今はお答えできません。
決してストーカーなどの疚しい行為を行ったわけではない、とは言いますが、それを証明する手段もないので」
ある程度は正直に言うことにした。
嘘は言っていないし、話せないと伝えることも重要ではあるはずだ。
「そう…なら、
何か言いたげではあったが、それ以上は言及してこなかった。
いつか、信頼関係がきちんと築けていけば、話せるようになる日が来るかもしれない。
「ありがとうございます」
「それで、りんちゃん、どうしますか?」
「秦谷美鈴」が視線をあげ、「賀陽燐羽」に向き直った。
「まりちゃんは、また自分の曲に夢中になっているみたいですし、わたしも…この曲をライブで歌ってみたくなってしまいました」
「ふーん…美鈴がそう言うのは珍しいわね」
「はい。少し、ほんの少しですが思うところがありましたので」
そう言ってにこやかにこちらを向く「秦谷美鈴」。
何が彼女の琴線に触れたのかは予想がつくが、確証は持てない上に、今はまだ話せるだけの信頼関係は築けていない。
初日の顔合わせのようなものなので、踏み込んでいい領域を見極めないといけないだろう。
「…いいんじゃない? あなた達二人ともその気なら、とりあえず受けてみても」
その言葉に、私は内心でガッツポーズをした。
だが、まだここがゴールではない。
寧ろ、ようやくスタートラインに立てるかどうかという段階なのだ。
逸る気持ちを押さえつけ、問いかける。
「よろしいのですか?
後数回は通うつもりでいましたが、即日で決めてしまっても」
「もう二人が乗り気になっているなら、先に決めても後に決めても変わらないわ。
それなら、先に受けておいた方がいいでしょ?
嫌だったらプロデュース契約を解約すればいいんだし」
そう言って二人のほうを見ながら、諦めたように息を吐く。
そして、こちらを試すかのように睨みつけた。
「でも、プロデューサーとして不誠実な行動をしたり…足を引っ張ったら…殺すから」
人一人ぐらい殺せるんじゃないかといった気迫で、私を見ながらそう言った。
その言葉に、「秦谷美鈴」は少し不機嫌そうに、「月村手毬」は目をキラキラさせて彼女を見ている。
「期待に応えられるように、全力を尽くさせていただきます」
目を逸らさず、しっかりとその気持ちに応えられるように、自分に言い聞かせながらそう言った。
こうして、「賀陽燐羽」からの承諾を得て、一応「SyngUp!」のプロデューサーになることができた。
足を引っ張ったら殺される(解約される)条件付きではあるが、初日に売り込みに行った結果としては最上の結果と言ってもいいだろう。
「そう、精々頑張りなさい。
ほら、手毬、美鈴、帰るわよ。今日のレッスンはもうおしまい」
「燐羽、一回だけ、一回だけこの曲歌ってもいい!?」
「レッスンで疲れが溜まっているんだから、明日にしなさい。
これ以上は明日に響くわよ」
「う~~~~~~~…」
「まりちゃん、今日はおとなしく帰りましょう。
今日のお夕飯はまりちゃんが大好きなとんかつにしますから」
「とんかつ!! 美鈴、燐羽! 早く帰ろう!」
自分の好物が晩御飯になるとわかった瞬間、
そんな彼女を尻目に、
「…美鈴、甘やかしすぎよ」
「大丈夫ですよ。プロデューサーさんがついたので、少し食べ過ぎてもすぐに戻してくれますよ」
「お願いですから加減はしてください。
無理なダイエットは調子を崩しますが、暴飲暴食も不調のもとです」
「ふふ、わかりました。
食べ過ぎない程度に甘やかさせていただきますね」
そう話している間に、3人分の荷物を片付けていた月村さんがそれぞれの鞄を持ってきた。
「美鈴、燐羽、早く帰ろう!」
「はいはい。…あと、私もするからあなた達も連絡先交換しておきなさい。
「はい、よろしくお願いします。
明日、プロデュース契約の件で、いくつか書類を書いてもらう必要があります。
時間と場所は後程連絡しますので、レッスン前か後の予定はあけておいてください」
「了解よ」
そう言いながら、スマホに入っているチャットツールの連絡先をそれぞれ交換した。
この時まで気にしていなかったが、よく見るとチャットツールの連絡先は誰もいなかったため、彼女たちが初めての登録になっていた。
「後はいつも通りで大丈夫です。
また明日連絡しますので、よろしくお願いします」
そう言いながら、レッスン室を後にする。
3人も同じようにレッスン室から出て、賀陽さんが鍵をかけた。
その後は賀陽さんが職員室に鍵を返しに行くのを待ち、寮に向かう彼女たちと別れた。
時刻は18時30分を指そうとしている。
今日1日でできたこととしては、ほとんど目標を達成できたといっていいだろう。
だが、できることならもう少しいろいろ進めておきたい。
そう考えた私は、歩みをプロデューサー科の方に向けた。
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「失礼します」
プロデューサー科の職員室をノックして入る。
普通の大学の教務課であれば既に窓口の受付は締まっていてもおかしくない時間だったが、『初星学園 プロデューサー科』は、まだギリギリ対応時間内だった。
職務を全うしていた職員の数名がこちらを振り向く。
「どうされましたか?」
「プロデュース契約の目途がついたので、必要書類を受け取りに来ました」
「…少しお待ちください」
そう言って入口に来ていた職員の1人が、下がっていった。
他の職員と何か話しているのが見える。
そうしている間に、今朝話をした根緒先生が現れた。
「お待たせしました!
って、もしかして、今朝話したばかりでもう決まったんですか!?」
「はい。先生のアドバイスのおかげで、無事にプロデュース契約の約束を取り付けることができました」
「いえ、私は大したことを言った覚えはありませんよ。
プロデューサーくんの熱意が、彼女たちに届いたんです!」
「そうだといいですね…。因みに、足を引っ張ったら殺されるそうです」
「…それはなんとも言い難いですね…。
そ、そうです、こちらがプロデュース契約の書類ですよ。
提出は早ければ早いほどいいので、忘れないでくださいね」
「明日には提出できるように進める予定です。
彼女たちにも予定を開けてもらうように話しています」
「きちんと準備を進めているみたいですね!
それなら、事務所として使用できる教室の用意も進めますので、提出次第使用していいようにしておきます」
「ありがとうございます。
…後、いくつかご相談したいことがあるのですが、今日はもう遅いかと思うので、明日以降で都合が良い日はありますでしょうか?」
「そうですね…今日みたいに明日の朝一であれば、時間を取れますよ。
明日は私の一限目の授業はありませんので」
「わかりました。
それで問題ありませんので、お手数をおかけしますが、よろしくお願いします」
「そんなに畏まらなくてもいいんですよ。
先生が生徒の相談に乗るのは当然なんですから!」
「…ありがとうございます。
それでは失礼します、また明日」
「はい、また明日、お待ちしてますね!」
そのやり取りを最後に、一礼して職員室を出た。
もらった書類を丁寧に鞄に入れる。
今日はこれ以上学園で、できることはないだろう。
すでに時刻は19時半に差し掛かろうとしており、学園の施設も電気がついている箇所の方が珍しくなる。
帰路につきながら、冷蔵庫の中身がほとんどないことを思い出し、帰りに何か食べて帰ることにした。
学マスのストーリーはどの程度進めていますか
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アプリをそもそも入れていない
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どのキャラも親愛度10未満
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特定のキャラのみ親愛度10まで
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特定のキャラのみ親愛度20まで
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全キャラ親愛度20まで
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特定のキャラのみ親愛度27まで
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解放可能なキャラ全て親愛度MAX