『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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40話目

 無事に調整も終わり、3位決定戦が始まった。

 三位決定戦、決勝戦共にブロック順で始まるため、最初に賀陽さん、次に花岡さんの順だ。

 月村さんは自分の番になるまで集中力を切らしたくないので、控室に残るとのこと。

 

 そのため、藤田さんと二人で同じように観戦することにした。

 もはや恒例行事のように、うちわ、ペンライト、法被を着こんでのフル装備をした私たちは、心なしか関係者席にいる人たちから距離を置かれている気がする。

 何故そうなっているのかわからないが、もしもフル装備(これ)が原因だというなら仕方ないだろう。

 

 何せ、『学園』と交渉して()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 プロデューサーとして、この『H.J.I.F』本戦は『SyngUp!』を売り出すための重要な機会。

 そのため、元々少量ではあったものの出す予定ではあったグッズに目をつけ、彼女たちの担任にも協力を仰ぎ、花岡さんの分込みで増量して発注した。

 

 おかげで、関係者席でフル装備している者は多くないが、一般席ではそれなりに各々フル装備だったりしている。

 『SyngUp!』のグッズは元々あったものもあるため、今回販売していないグッズを装備している者もいた。

 熱心なファンが多いこともあってか、販売の方に確認したら、売れ行きは上々のようだ。

 幾分か自腹を切った甲斐があった。

 失敗すれば、得られる収入で彼女たちと学園の取り分を差し引いて、残った分…要するに私の取り分はすべてなくなってもおかしくなかったが…危なかった。

 

 無理に危ない橋を渡る必要もなかったのだが、今後のことを考えるとグッズを売っていくためのノウハウも必要になる可能性がある。

 これは藤田さんのプロデュースにも応用を利かせられるかもしれないので、貴重な機会を逃すわけにはいかなかった。

 

 話が逸れたが、要するに自分で発注したグッズを使わないわけにはいかない。

 それが受注先に対する誠意でもあり、周囲の人に対する宣伝効果も期待できる。

 

 

 さて、そうしている間にいつの間にかライブの準備ができていた。

 辺りは暗くなり、ステージの上には賀陽さんが立っているのがうっすら見えている。

 そして、曲の始まりに連れ徐々にステージが明るくなっていき、スポットライトに照らされた賀陽さんはマイクに口を近づけた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 3位決定戦のライブが終わった。

 結果は、決勝戦のライブが終わった後にまとめて発表されるため、まだ勝敗は発表されていない。

 賀陽さんのライブは凄まじく、もう一度秦谷さんと勝負しても勝敗がどっちに揺らぐかわからないと思わせるほどのものだった。

 

 先ほど言っていた通り、今まで以上に本気でやっていることが、歌に乗せている感情からも伝わってきた。

 だが、秦谷さんと月村さんが知っている全盛期には、届いていないだろう。

 それでも、彼女が『マイナス』から『ゼロ』に向かって進んでいる*1のは良い傾向だ。

 

 花岡さんのライブも素晴らしかった。

 先程も、十分なまでの完成度を誇っていた『初』だったが、準決勝の時よりも歌声に感情が乗っていて、何か吹っ切れたような、そんなライブだった。

 恐らくだが…先程月村さんと話したことがきっかけになったのではないかと疑ってしまう。

 本来であれば敵に塩を送るような真似をするなんて…と諫めないといけないのだろう。

 

 だが、()()()()()()()

 いいや、それがいいのだ。

 

 『SyngUp!(彼女たち)』の実力を伸ばすためには、強力なライバルが必要不可欠。

 それは、()()()()()()()()()()

 戦いこそが人間の可能性なのだとしたら、競争相手は強く、多い方がいいのだ。

 

 そして、そのライバルたちを全て打倒して、『私の担当アイドルが勝つ』。

 H.J.I.F(これ)は、そのための宣戦布告(プロローグ)だ。

 

 3位決定戦が終わったということは、秦谷さんの出番になる。

 間の10分のインターバルがあることもあり、時間はまだ少し余裕がある。

 事前に関係各所に伝えていたので、まだ騒ぎにはなっていないが、あまりギリギリになってしまっては問題になるだろう。

 何せ、伝えたときの関係者の顔が、こいつ正気かと言わんばかりだった。

 

 そんなわけで、今私は、秦谷さんの控室の前に来ており、彼女を起こすべくドアのカギを開けた。

 厳密には5分前ではないが、本当に5分前に起こしたらバタバタしてしまうので、余裕を持ったギリギリを責めた結果だ。

 中に入ると、机の上にでも突っ伏して寝ているか、椅子にもたれかかって寝ているものだと思っていた予想は裏切られた。

 ブルーシートを床に敷き、その上で毛布に包まり、クッションを枕代わりにして寝ていた。

 それは、よく見ると事務所にもってきていた毛布とクッションだったので、いつの間にか用意していたらしい。

 少し驚いたが、どうせ休むならしっかり休んだ方が良いのは正しいだろう。

 

「秦谷さん、起きてください」

 

 そう言って秦谷さんを毛布の上から揺すった。

 

「ふわぁ……おはようございます、プロデューサー」

 

「おはようございます」

 

 目を覚ました秦谷さんは、まだ目が少しトロンとしており、眠たげな様子だ。

 

「後数分もすれば、決勝戦が始まります。

 準備はよろしいですか?」

 

 私がそう言って秦谷さんに目を合わせると、彼女の眼が少しずつ起きてきた。

 そして、目に真剣さが宿る。

 

「…そうでしたね。

 まりちゃんと…本気でぶつかり合う機会を、プロデューサーが用意してくれたのでした」

 

 まだ少し寝ぼけているのだろうか。

 彼女の言うことには語弊がある。

 

「いいえ、それは違います。

 ()()()()()()()()()ものです。

 私は、場を整える手助けをしたにすぎません」

 

「確かに、そうかもしれません。

 ですが、今だから思うのです。

 …あの時、プロデューサーが、まりちゃんにソロ部門の出場を勧めてくれなかったら…こうして、本気でぶつかり合うことなんてできなかったと」

 

 ……その可能性は十分ある。

 いいや、以前に賀陽さんと秦谷さんには言った通りになったかもしれない。

 直接ぶつかり合わず、お互いの本心を隠したまま、行く行くは解散している未来が、そうなる未来()()知らない私からすれば…その言葉は重たくのしかかる。

 

「…なるほど、確かに、そういう捉え方もあるのかもしれません。

 でしたら…なおのこと本気でやってもらう必要があります。

 ここで、本気でぶつかり合わないと…心残りがあってはいけません。

 改めて聞きますが、準備はよろしいですか?」

 

 先程と同じ言葉を、秦谷さんに投げかける。

 そうして、目を合わせた後の秦谷さんは、雰囲気がまた一段と変わっていた。

 

「ええ、おかげさまで、少し()()()()()ことができました。

 いまなら……一番、力を発揮できそうです」

 

「期待しています。

 あのじゃじゃ馬娘をへこませて、格付けをした上で、手綱をしっかりつけてください」

 

 私がそういうと、秦谷さんは凄い不安そうな顔をして私を見てきた。

 

「……プロデューサーは、まりちゃんが嫌いなのですか?」

 

 本当に彼女たちは仲が良い。

 『SyngUp!』は似た者同士で組んだユニットだという評価は、間違いないだろう。

 

「いいえ、そういうわけではありませんよ。

 先の言葉に嘘はありませんが、どちらが勝っても、私は嬉しくて咽び泣く確信があります」

 

「それは…うれしいですが…では、なぜ?」

 

「月村さんにも、秦谷さんをボコボコにしてくださいと言っています。

 両方に発破をかけているので、誰を贔屓に、ということではありません。

 どちらにも勝ってもらいたいと願うことは…担当プロデューサーとして、当然のことでしょう」

 

「…ふふふ、そうですね。

 そうでした、プロデューサーは、そういう方でしたね。

 承知しました。

 わたしが、まりちゃんを倒して…SyngUp!ナンバーワンは、わたしだと教えてあげます」

 

「その意気です。

 では、最終調整に取り掛かりましょう」

 

 そう言って、眠っていた彼女の、少し崩れた髪や化粧を直す。

 鏡を見て自分で治せる範囲は自分で直してもらい、そうでない部分…後ろ髪の跳ねた部分などを軽く直す。

 そうして、彼女をライブに送り出せるようになったので、後は背中を押すだけだ。

 

「これで大丈夫です。

 不安があれば、後で他の方にも見てもらってください」

 

「ありがとうございました、プロデューサー。

 それでは、楽しみにしてください。

 いままでで、一番のライブをお見せいたします」

 

「期待しています。

 盛大に、ぶつかってください」

 

 そうして秦谷さんをステージ裏にまで誘導し、私は観客席に戻った。

 出来ることはやった、後は彼女たち次第だ。

 これ以上、私たちができることは…応援ぐらいだろう。

 

 

 観客席に戻り、藤田さんと合流しようとしたら、いつの間にか衣装の上に法被を着ていた賀陽さんも合流していた。

 

「あら、もう戻ったのね、プロデューサー」

「プロデューサー!

 おかえりなさーい♡」

 

「ただいま、藤田さん。

 賀陽さん、大丈夫ですか?

 まだライブの疲れも残っているでしょうに」

 

「折角のあの子たちの晴れ舞台だもの。

 疲れはあるけど、観れるなら、一番いいところで見たいじゃない?」

 

 賀陽さんは、そう言いながらも耳は赤くなっている。

 少し照れているのが見てわかり、藤田さんもそれに気づいてにやにやしている。

 

「そうですね。

 それに…その方が、お二人も喜ぶでしょう。

 予備のグッズを控室に置いておいて正解でした。

 きちんと用意してきてくれるとは思いませんでしたが」

 

「ちょっと暑くはあるけれど仕方ないわね。

 折角参加するなら、フル装備で見るのが礼儀よ」

 

「あたしも燐羽が来たときはびっくりしましたよ~。

 おかげで、暇にならなくてよかったんですケド」

 

 準決勝の時からだが、藤田さんを一人で放置してしまう時間があったのは、私の配慮不足だろう。

 本人に直接言ったら認めないだろうが、藤田さんも大概寂しがり屋なところがある。

 今後は、彼女も観客席(こっち)ではなく、控室にいることが多くなるだろうが、複数担当をもっている以上は同じようになることがあるだろうから、対策が必要だ。

 

「藤田さん、一人にさせてしまい、申し訳ありませんでした。

 賀陽さんも、無理はなさらないでくださいね。

 熱中症は怖いので、もし兆候があれば遠慮なく申し付けてください」

 

「別に…そんなんじゃないですよー」

「わかってるわよ」

 

 そう言いながら、二人とも目を逸らした。

 あまり問い詰めても仕方ないが、賀陽さんの様子はよく見ておこう。

 

「賀陽さん」

 

「…何よ」

 

「ここで言うのもあれですが、先程のライブ、素晴らしいものでした。

 今回は残念でしたが…次があれば、あなたがあそこに立つことを、期待しています」

 

 本当はもっとゆっくりした状況で賛辞を送りたかったが、ここで何も言わないのも違うだろう。

 

「……ありがとうって言っておくわ。

 それと、私も負けっぱなしなのは癪だから…美鈴には、そのうち借りを返すわ。

 だから、あなたがその場を整えなさい」

 

「仰せの通りに」

 

 さっきも言っていたが、やはり『寄り道』の方を進めたほうがよさそうだ。

 直接対決…にはならないだろうが、間接的には対決にできるはずだ。

 

 そうして私がプランを練り直していると、賀陽さんが藤田さんの方を向いた。

 

「それと、ことね」

 

「え、あたし?」

 

「ことねも…こいつが、SyngUp!(私たち)とあなた()()を担当している以上、色眼鏡で見られることになるわ。

 今回、SyngUp!(私たち)が結果を残したから、なおさらね」

 

 それは、これからの藤田さんを取り巻く環境の話。

 既に前回の選抜試験(セレクション)が終わった後から、藤田さんに対しての風当たりが少し強くなっていたことは、賀陽さんから聞いたことだ。

 そして、今回の本戦が終わり、順位が発表された後で、それはさらに顕著になるだろう。

 だが…。

 

「それは…わかってる」

 

 一番理解しているのは藤田さん自身だ。

 直接言ってくる人は少ないだろうが、彼女は()()()()()()()()()()()()だ。

 そんな彼女が、他人をあまり気にしない賀陽さんでさえ気づいた、その変化に気づかないはずがない。

 

 賀陽さんもそれはわかっている。

 

「だから、あなたも早く()()()に来なさい。

 できない、とは言わせないわよ」

 

「う~~~。

 プレッシャー……でも、わかってるから。

 あたしも、すぐに()()()に行くから、まっててね」

 

「楽しみにしているわよ」

 

 賀陽さんは、藤田さんのことをかなり気に入っている。

 それは、月村さんと秦谷さんを気に入ったのとは違う理由なのかもしれない。

 何が彼女の琴線に触れたのかは予想がつくが…いや、今は置いておこう。

 

 それよりも、そんな話をしているうちに、もうライブが始まる時間になった。

 会場内のライトが少しずつ落ち始め、会場が真っ暗になる。

 

 いつの間にか、先ほどと同じように、秦谷さんが真っ暗なステージの上に立っている。

 先程と同じように、青いライトが会場を照らし始め、スポットライトが重なってステージ上の彼女を照らしている。

 

 そして、決勝戦のライブが始まった。

 

 

*1
ジョジョの奇妙な冒険7部、ジョニィ。ジョースター風に

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