『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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44話目

 

「……中等部1年の最後、私が『姉』と勝負したのは、手毬と美鈴は知ってるわね」

 

 そう話す賀陽さんの顔は暗い。

 

「当たり前でしょ。

 あの時の燐羽は凄かった!

 私たちが憧れた、あの『一番星(プリマステラ)』に勝ったんだから!」

「りんちゃん…」

 

 嬉しそうに自慢げに話す月村さんと、心配そうに賀陽さんを見ている秦谷さんは対照的だ。

 

「でも、私が勝った次の日に、『姉』はアイドルを引退した」

 

「え、引退したのは知ってたけど…次の日?」

「…」

「あ、もしかして…」

 

「表向きの発表は、次の日ではなかったわね。

 …私は発表されるよりも先に知ったから。

 ま、それはいいでしょ」

 

「燐羽…」

 

 月村さんも今の話で、理解してしまったらしい。

 先程までの自慢げな様子はもうない。

 

「わかる?

 ()()()()()()()()()()()()()()()退()()()

 その時に思ったのよ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…」

 

「どんなにすごい人でも、超えてしまったら引退させてしまうんじゃないかって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って…そう思ったのよ。

 だから、レッスンにも身が入らなくなったし、アイドルを続ける気すら…()()()()わ」

 

「…嫌」

 

「手毬?」

 

「燐羽がアイドルをやめるなんて嫌…!」

 

「まりちゃん…」

 

「落ち着きなさい、手毬」

 

「落ち着いてられるわけないでしょ!

 燐羽がアイドルをやめるなんて、絶対に許さないから…!」

 

 …予想通り、月村さんは怒り心頭と言った様子だ。

 『ストーリー(親愛度16話)』では泣きわめいていたが、今は比較的精神が落ち着いているときに聞いているので、先に怒りの感情が出てくるとは思っていた。

 藤田さんと秦谷さんははらはらしたように二人を見ている。

 

 でも、賀陽さんは冷静だった。

 

「今はやめる気はないわよ」

 

「え?」

 

「えって何よ、やめてほしいわけ?」

 

「ち、違うけど…だって、さっきまで続ける気はないって」

 

()()()()って言ったでしょ。

 今は…やらなくちゃいけないことも増えたし、少なくとも、あなた達に借りを返すまではやめないわよ」

 

「燐羽…!」

 

 月村さんは目を輝かせている。

 

 …賀陽さんの心境の変化は、私だけでは到底起こせなかった。

 彼女たちが、彼女の心を動かしたのだ。

 

「まあ、そういうことでしたら、もう引退はできませんね。

 借りを返してもらうことは、ありませんから」

 

「そうだね。

 私も負けないから、借りを返してもらうことはできないね」

 

「手毬まで…本当に傲慢ね。

 …絶対に返してやるから、楽しみにしてなさい」

 

「ええ、のんびり、お待ちしています」

 

「負けないから」

 

 昨日の本戦、準決勝から賀陽さんと秦谷さんはバチバチだ。

 以前はそれに怯えていた月村さんだったが、大舞台を越えた彼女はそれに臆することはない。

 むしろ、一緒になって混ざるようになった辺り、成長を感じる。

 

「……じゃあ、あたしも借りを作ってやらなくちゃナ~。

 燐羽が引退するところは、あたしも見たくないし」

 

「ふうん、言うようになったじゃない。

 楽しみにしてるわよ」

 

 藤田さんまで乗るようになるとは思わなかった。

 仲良くなったと思って喜びたい気持ちと、問題児の4人目になったら親御様に何とお詫びすればいいのかと頭を悩ませたくなる。

 

「りんちゃん」

 

「何よ」

 

「まだ重要なことを話していませんよ」

 

「…なんのことかしら?」

 

 秦谷さんの言及を躱そうとしているが、秦谷さんがそれで見逃すわけがない。

 

「?

 何かあったっけ?」

 

「なぜプロデューサーにはお伝えして、わたしたちには隠していたのですか?

 ……同じユニットメンバーなのに」

 

「………はぁ、プロデューサーが隠し事をしていたから、交換条件で教えただけよ。

 口を封じていたのは…ただのつまらない意地」

 

「その意地って何?

 それだけで、ずっと黙って話さなかったの?」

 

「……あなた達に、私のことを凄いって慕ってくれるあなた達に、弱いところを見せたくなかった。

 そんなつまらない意地よ」

 

「燐羽…」

 

「まあ、結局負けちゃったし、あまり意味はなかったわね。

 …幻滅したかしら?」

 

 …賀陽さんの言葉は、過去の自分がそうだったからなのだろう。

 だが、月村さんは首を横に振った。

 

「ううん。

 燐羽が凄いのは、私が良く知ってるから。

 ()()()()()()()()()()()()

 楽しみに待ってるから」

 

「…本当に、あなたって子は…誰に似たんだか」

 

「りんちゃんに、ですよ。

 まりちゃんがりんちゃんの真似ばっかりして、困っているんですから」

 

「ここまで食い意地張ってるつもりはないんだけど」

 

「それはまりちゃんらしい、いいところです」

 

「そ、そんなことないから!」

 

 また月村さんがキャンキャン騒いでいるが、もう慣れたのか、あまりみんな相手にしていなかった。

 半泣きになっている月村さんを撫でながら、秦谷さんが私に話を振ってくる。

 

「そういえばプロデューサー」

 

「…なんでしょうか」

 

「今日は『清算』のため、とおっしゃいましたね」

 

「ええ、そうです」

 

 落ち着いたら自分から言うつもりであったが、先に気づかれてしまった。

 

「わたし、プロデューサーにはいくつも貸しがありますよね?」

 

「ええ、もちろん。

 貯まりすぎたので、心臓を抉り出せと言われたら、捧げなくてはいけないとも思っていますよ」

 

「本当にそうしてもらいましょうか?」

 

「勘弁してください」

 

 冗談交じりにそう言ったが、秦谷さんの眼が笑ってない。

 ノータイムで頭を下げる。

 

「……考えたのです。

 プロデューサーの家の鍵を貰おうと思っていましたが、その気はなくなってしまったので」

 

「「プロデューサーの家の鍵!?」」

 

「……本当にお世話好きね」

 

 月村さんと藤田さんは過剰に反応していたが、賀陽さんは意図を察したようだ。

 

「あ、そういう…」

「本当にそれだけ?」

 

「プロデューサーから一度頂きましたが、リスクを考えると受け入れられるものではありませんでしたから」

 

「それはそうね。

 万が一スキャンダルになったら、私たちもタダじゃすまないわ」

 

「あー…確かにナー。

 ネットで一度燃えたら、なかなか消えなさそうだし」

 

「ですので、趣向を変えようと思い、色々考えたのです。

 プロデューサー」

 

「はい」

 

「今日の朝は、何を食べられましたか?」

 

 朝…。

 最近は自炊なんか碌にしていないし、朝も…。

 

「……………言わなければいけませんか?」

 

「逃げられると思っているのなら、どうぞ」

 

 そう言って秦谷さんは私の目の前まできた。

 目と目が交わり、もう少し近づいたら口と口がぶつかるのではないかと思うほどだ。

 

「……………忙しい日は、最近食べていません。

 昨日の夜、用意しそびれてしまったので」

 

「へぇ……」

 

 目が怖い。

 でも、時間がない時は仕方ないだろう。

 

「何が『仕方ない』んですか?

 わたしたちには、健康に気をつけろと、口を酸っぱくして言っているのに?」

 

 思考が読めるのか…?*1

 まずい……!

 

「何がまずいんですか?

 言ってみてください」

 

「え、え、怖!

 美鈴ちゃん?

 プロデューサー、さっきから口動かしてないけど!?」

 

「この距離であれば、目の動きや表情で考えていることぐらいはわかります。

 親しい人ではないとできませんが」

 

「え、怖」

「美鈴、そんなことできたの!?」

「本当にやろうと思ったら何でもできるわね…」

 

「昨日のお昼ご飯は何でしょうか?

 わたしたちは、わたしが作ったお弁当でしたが、プロデューサーはいませんでしたね?」

 

 ……諦めて白状しよう。

 

「素直な方は好きですよ」

 

「わかりました。

 全て正直に話すので、少し離れてください。

 思考を読まれるのも困りますが、秦谷さん程の美少女に、この距離でそこまで見つめられると照れます」

 

「……そのお世辞で許してあげます」

 

「お世辞ではないですよ。

 秦谷さんは、世界でもトップレベルの美少女です。

 何なら、読心できるのであれば読んでいただいて構いません」

 

「…煙に巻こうとしてもだめですよ」

 

「そういうつもりではありませんでしたが、いえ、これ以上は時間稼ぎになってしまいますね。

 昨日のお昼は、携帯食料を1本です。

 水分は適宜とっております」

 

「昨日のお夕飯は?」

 

「………」

 

 昨日の夕食……?

 あれ…。

 

「正直に言ってください」

 

「いえ、そういうわけでは…。

 もしかして…昨日のお昼に携帯食料を食べた以来、何も食べてないかもしれません」

 

「……………」

 

 秦谷さんの顔の影が濃くなる。

 にっこりしているが、欠片も笑っていない。

 激おこ秦谷さんの誕生だ。

 

 後ろで藤田さんと月村さんが抱き合いながらガタガタ震えている。

 頼むから助けてほしい。

 

「そんな怖い顔をしないでください。

 それでも可愛いですが、顔にしわが残ると、将来困るかもしれません」

 

「もしかしてプロデューサー。

 最近、しっかりご飯を食べていないんですか?」

 

 少し怯えながらも、月村さんが心配そうに私の顔を覗き込んでくる。

 彼女にも心配させてしまったのは心外だが、甘んじて受け入れるしかない。

 

「……『H.J.I.F』に向けての調整が立て込んでおりましてね。

 自分の時間を作れなかったのは否めません」

 

「決めました」

 

「聴きたくありませんが、どうぞ」

 

「プロデューサーのご飯は、これからわたしが全て用意します」

 

 …やっぱりそうなってしまった。

 そうならないように、忙しくなる前は毎日しっかり食事も摂っていたし、こうならないように立ちまわっていたはずなのに…!

 

 ……()()()()は、忙しくなると面倒になって食事を抜くことが多かった。

 その悪癖が、()()()を苦しめていた。

 慣れない『仕事』で少し、無理をしていたのかもしれない。

 

「気持ちは嬉しいですが、それで秦谷さんの負担が増えるのはごめんです。

 今後はしっかり自炊しますので、どうか矛を収めてはくれませんか?」

 

「今後、これからもっと忙しくなりますよ。

 自炊することを優先して、睡眠時間が短くなるようなことは、あってはならないことです。

 前にプロデューサーもおっしゃってましたね」

 

 以前に睡眠時間が短いと良くないと言ったが、こんな形で自分の首を絞められるとは思わなかった。

 

「プロデューサー、こうなった美鈴は止められないから、大人しく受け入れたほうが身のためだよ」

 

「同じくよ。

 これからもっと忙しくしてあげるんだから、負担を分散すると思って諦めたほうが身のためよ」

 

「プロデューサー…人に休めって言っておいて、自分が休まないのはどうかと思います!

 あたしも美鈴ちゃんを手伝うんで、大人しく言うこと聞いてくださ~い。

 その方が身のためですよ~」

 

 全員揃って身を案じているということは、本当にまずいらしい。

 

「みなさん、わたしのことをなんだと思ってるんですか!?」

 

「でもやるときはやるでしょ?」

 

「プロデューサーの身に危害を加えるようなことはしません。

 ただ、家の鍵を預かって、家事を全ておこなってさしあげるだけです」

 

「万が一バレたらスキャンダルになるって!」

 

「そんなことは知りません。

 プロデューサーの健康の方が大事です」

 

 それだけは困る。

 本当にスキャンダルになって、他の担当アイドルのアイドル生命を終わらせるわけにはいかない。

 

「……わかりました。

 今回に関しては私が100悪いので、秦谷さんがそれで満足されるのであれば、受け入れます。

 流れはどうされますか?

 昼食はわかりますが、他は?」

 

「お昼に三食用意しておきます。

 残りはお弁当として持って帰ってください。

 次の日に、空の容器とお弁当を交換です」

 

 そこまで考えられてしまっては、受け入れるしかない。

 年貢の納め時だろう。

 

「…わかりました。

 土日はライブやイベントがなければ、基本的に家にいないので、その分は不要です」

 

「朝食も、ですか?」

 

「基本的に朝一で外出して、土曜に泊まって日曜に帰るので」

 

「は?」

「え?」

「は?」

「ふぇ?」

 

「ええ、日曜も夕食は帰りに途中で食べて帰るので問題ありませんよ」

 

「「「「………」」」」

 

 私が心配させないように伝えると、何故か秦谷さん以外も全員が私を取り囲むように立ち上がった。

 無言で移動して、座っている私の周りに立って無言で見下ろしている。

 

「?

 どうかなさいましたか?」

 

「浮気…ですね」

「浮気だね」

「浮気ね」

「浮気は良くないですよ~。

 どうなっても知りません」

 

 …ユニットメンバー、いや、担当アイドルは似る法則でもあるのだろうか。

 以前秦谷さんに詰められた時を思い出したが、人数が4人になると迫力が段違いだ。

 

 これは、初星コミュの『倉本千奈』も怖かったに違いない。

 

 …そういえば彼女たちには説明していなかった。

 別に隠すようなことでもないので、手っ取り早く説明しよう。

 

「……勘違いしているようですが、私が泊まる先は男性の家ですよ。

 それも、仕事関係の」

 

「「「「え」」」」

 

「気難しい音楽家なんです。

 彼の調子の良し悪しで、作曲の進み具合が大幅に変わるのと…対人能力に難ありなので、ご両親からも面倒を見るようにお願いされています。

 泊まると言っても、家が大きいので客室に泊まるんですよ」

 

「証拠は?」

 

「本人には伝えていませんが、ご両親から業務契約書を貰っています。

 これがその控えです。

 あなた方の…作曲と編曲に尽力してくれた方ですよ」

 

 そう、以前に捕まえていた音楽関係の協力者…作曲、編曲家だ。

 私がしたいこと(楽曲の再現)を、高いレベルで実現してくれる彼の気を損ねるわけにはいかない。

 

「…とりあえずは信じましょう」

「そういうことはもっと早く言ってください」

「どうりで土日は予定が合わないって言ってたわけね」

 

「…あれ、この名前…どこかで見たことあるような…」

 

「気のせいでしょう。

 そういうわけですので、土日は今後もあまり予定を合わせられないことが多くなりそうです。

 仕事があれば開けますし、ライブの時も当然開けます。

 それに、緊急事態があれば連絡を貰えれば、何があっても向かいます」

 

「むぅ…」

 

「拗ねられても困りますが…秦谷さんにはまだまだ借りがありますので、必要であれば予定を開けます。

 一番大事なのは、あなた方であることには変わりませんから」

 

「……それで許してあげます」

 

「ありがとうございます」

 

「わたしからは、今はこれぐらいでいいでしょう。

 ほかのお願いは…そのうち聞いてもらいますね」

 

 まだまだ借りはあるので、一度に返すのは難しい思っていたので、落としどころだろう。

 秦谷さんは満足そうにしているが、次に悪戯気に微笑みながら私の隣に来たのは賀陽さんだった。

 

*1
鬼滅の刃、無惨様のパワハラ会議から

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  • アプリをそもそも入れていない
  • どのキャラも親愛度10未満
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