『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される 作:プロデューサー科のもの
47話目
生徒会室に入ると、そこに構えていたのは『
そして、隣にいるのは、奇麗な黒髪をポニーテールにしてまとめ、泣き黒子が特徴的な、『高等部No.2』生徒会副会長の雨夜燕だ。
生徒会室にいるのは二人だけで、十王星南から、どうぞ座ってと言われたので対面に座る。
「ようこそ、生徒会室へ。
『中等部の
「初めまして、『
その呼ばれ方は好きではないのですが…プロデューサー科、1年の篠崎士野…『SyngUp!』と藤田ことねさんのプロデューサーをしています。
以後お見知りおきを。
そして、高等部の2年目で『
初っ端から喧嘩を売られたような気もしたが、そうだとしても目の前の少女は、これまで数えるほどしか成した者がいない偉業を成し遂げたアイドルだ。
その偉業に影を落とすものでもない。
なので、素直に賛辞を贈ると、目の前の少女は年相応の驚いたような表情をした。
だが、すぐに取り繕って元の顔に戻る。
「失礼したわ、プロデューサー。
そして、その賛辞、受け取るわ。
私からも、『SyngUp!』の面々が『H.J.I.F』で残した結果に賛辞を贈らせてもらいます。
それに、『藤田ことね』さん…何故こんなに成績が伸びたのか、教員の間でも話題になっていたのだけれど、あなたのせいだったのね」
「いいえ、あなたのせいですよ」
「私の?」
また彼女の表情が崩れた。
素の表情はこちらなのだとすぐにわかる。
この段階では、まだ藤田さんの才能は見つけていなかったようだ。
…いや、まだ彼女はアイドルを引退することを考えていないからだろうか…?
記憶は怪しいが、今の段階で諦めるような人なら、『
「彼女、あなたの大ファンなんです。
『憧れの星南ちゃんが『
藤田さんには悪いが、遅かれ早かれバレるのだからバラしてしまった方が良いだろう。
藤田さんの声真似を交えると、彼女は柔らかく微笑んだ。
「あら、それは…嬉しいけど少し恥ずかしいわ。
…それと、声真似上手いわね」
「懇意にしている作曲家に教わりました。
曲を歌う時に、イメージした声を出せるようになれと言われましてね。
最近、ようやく少しは似せられるようになりました」
「え…プロデューサーってそんなことまでするの…?」
…この時期から将来的にはプロデューサーになろうとしていたんだっけか?
少し記憶が曖昧で、ただの疑問かわかりかねている。
が、これを当たり前にされても困るので、きちんと教えておこう。
「彼とはだいぶ特殊な曲の作り方をしていますので。
参考にしない方が良いです」
「ふふ、そういうことにしておくわ」
そう言って十王さんは笑っている。
私も併せて笑みを浮かべるが、十王さんの隣の雨夜さんは我慢できないとばかりに割り込んだ。
「おい、星南。
無駄話はその辺にしておけ。
貴様、何をしにここに来た」
「燕…折角来てくれたのだから、少しぐらいいいじゃない」
「私も星南も暇ではないだろう。
こいつも担当アイドルが4人もいるのだから、暇ではないはずだ。
わざわざアポイントを取ってくるぐらいだから、何か用件があるのだろう?」
ふむ…。
どこまで私のことを雨夜さんが知っているか、それが鍵になりそうだ。
「ではさっそく本題に入らせてもらいます。
中等部の上位成績者と、高等部の…可能であれば2年生による上位成績者による交流ライブを依頼したいのです」
「ほう…続けろ」
「中等部の生徒は…上位成績者は全て3年生。
つまり、来年の先輩方の背中を先に見て学ぶ機会をいただきたい」
「それをして、私たちに何の得がある?」
鋭い目で問いかけてくる彼女の目は真剣そのものだ。
本来であれば、学生同士のやり取りに損得勘定を持ってくるのは違うかもしれないが、私が持ちかけたこれには、彼女たちの時間を多く奪う。
アイドルであれば、その時間で稼ぎを出すこともできるのだから、そう言われても文句はない。
要するに、計算の内だ。
「今の生徒会メンバーの内訳と、周期的に来年の生徒会メンバーに新1年生を多く入れる予定でしょう?
その候補を、早いうちから見繕うことができます。
成績が優秀か否かだけが、判断基準ではないと理解はしていますが、アイドル科の生徒が生徒会メンバーになるのであれば、優秀な方が良いでしょう?
集客して得た収益を折半して、生徒会費用として半分は納入することも約束します」
「ふむ…中々鋭いな。
費用の方は学園側とも話す必要があるが…星南はどうだ?
こいつの言うことも一理ある。
それに、後輩たちに指導をする良い機会だとも思うが」
「そうね…。
詳細と許可をどこまで得ているかが気になるわ」
大分乗り気になってくれたが…。
手提げのビジネスバックの中から、書類を取り出して二人に渡す。
「詳細はこちらに。
企画書をまとめてきてあります。
フォーマットが生徒会側であるのであれば、頂ければそちらに合わせましょう。
許可に関しては、私の担当アイドルの担任…中等部の3年、学年主任からは許可をいただいています。
ここでの許可が下り次第、中等部の教頭に話を通してもらう予定です。
高等部の方は…あなた方の許可があれば問題ないと思っていますが、いかがでしょうか?」
「拝見しよう。
……ふむ、悪くはない。
大分練られているが……細部の詰めが甘いな。
確認が必要な個所に付箋をつけておくから、もう一度確認してみるといい」
「感謝いたします。
必要個所は確認して修正いたしましょう」
「ふうん…参加メンバーは5名ずつの対バン形式…。
『SyngUp!』は完全にソロに移行したのかしら?」
「高等部のユニット部門も拝見させていただきましたが…上位は3年生が独占しておりましたので、来年『
とは言っても、来年『H.I.F』に参加する時はユニット部門での参加となりますが」
「へぇ…本気で言っているのかしら?」
その瞬間、十王さんの重圧が跳ね上がった。
『
だが、それにたじろぐようでは、彼女たちの担当を務められない。
「伊達や酔狂でその称号を取れるとは思っていません。
ですので、出来る範囲で準備をしておきたいと思っています。
そのためには、早いうちから『H.I.F』の空気…高等部の空気に慣れておく必要がある。
中等部からの内部進学組なら、そう不思議なことではないと思います」
「…本気なのね」
「ええ、担当アイドルのことに対しては、私はいつも本気で、全力です。
担当アイドルのためなら、首も心臓も差し出す覚悟です」
「え、怖」
「……『中等部の
「褒めても何も出ませんよ」
「褒めてない!」
良いツッコミだ。
藤田さんとも張り合えるかもしれない、など場違いなことを思いながら、高等部にも私の噂が出回っていることを確認できた。
…であれば、
「失礼しました。
ですが…覚えておいてください。
あなた方のような、人に何かを魅せる仕事をするのであれば、大切なものはその『熱量』です」
「『熱量』?」
「はい。
どれだけ真剣に向き合えるか、どれだけ『ファン』に喜んでもらえるように努力できるか、どれだけ良いものを作り上げるか、それに捧げる時間、労力、努力、研鑽は並みのモチベーションでは続きません。
必要なのは、それを後押しし続ける『熱量』だと思っています。
あなた方も、『H.I.F』で上位に入ったのですから、持っているはずですよ。
そこに登りつめるに至るには、生半可な努力だけではなかったはずです」
これは賀陽さんにも言ったことだ。
誰かの人生を左右する可能性がある、アイドルという職業。
生半可な覚悟でやってほしくはないし、だからこそ私も魂をかけている。
と、
私の言葉に彼女たちは頷き、少し笑った。
「そうね。
否定はしないわ」
「フンッ、当然だ」
「あなた方がアイドルに全力なように、私は担当アイドルのプロデュースに全力です。
これに関してだけは、私は必死ですから」
「ふむ…少しは見どころがあるようだな。
だが…対バン形式か。
高等部と中等部の差は歴然としている。
普通の交流会の方が良いのではないか?」
やはり、その話題になったか。
だが、この話題になったということは…彼女たちは『H.J.I.F』をまだ見れていない可能性が高い。
なら…。
「雨夜さん、それには及びませんよ」
「むっ、しかし」
「既に『SyngUp!』は卒業生に勝った経歴があります。
それに、元『
「貴様…虚言はほどほどにした方が良いぞ?」
「いいえ、燕。
少なくとも卒業生に『SyngUp!』が勝ったことは事実よ」
「は?
…いや、もしや、あの噂は本当なのか?」
一瞬雨夜さんは呆けていたが、一時期出回っていた噂を眉唾だと思っていたようだ。
真剣な表情の十王さんはそれにわかりやすく、簡潔に答えた。
「現に彼女たちは『Campus mode!!』を歌ってるでしょう?
あれは、本来であれば高等部の生徒から解禁されるものよ」
「…なるほど、そういうことならわからんでもない。
だが、あの噂が本当なら、賀陽がほとんど中心になっていたと聞く。
それなら他の生徒のためにはならないのではないか?」
「雨夜さん、『H.J.I.F』は観ていただけたでしょうか?」
「いや、『H.I.F』の期間と被っていたからな。
私も星南も、観れていない」
「そうね、『H.I.F』が終わってからも、まだバタバタしてて、見れてなかったわ」
やはり、観てもらえていなかったか。
時期が時期だし、仕方ないと言えば仕方ないだろう。
「そういうことであれば、これを。
『H.J.I.F』本戦すべてと優勝ライブの合計9本が入っています。
これを見ていただいて、実力の差がありすぎると判断されれば、断っていただいて構いません」
そうして、彼女たちにCDを取り出す。
それを見た彼女たちは、露骨に顔を顰めていた。
「へぇ…随分言うわね。
私たちが、中等部の生徒に負ける可能性があると、そう思っているのかしら?」
「随分と見くびられたものだ。
…噂は聞いているぞ、問題児集団『SyngUp!』。
そんなやつらが頂点に立つような、中等部の者たちが、私たちの相手になるものか!」
雨夜さんがそう言うのも無理はないだろう。
それも、最近は輪をかけて酷くなっている。
『H.J.I.F』で上位に入賞して、全員が調子に乗っているからだ。
言動全てが問題児の『月村手毬』、レッスンどころか授業すらサボるサボり魔の『秦谷美鈴』、売られた喧嘩は必ず買ってレッスンとライブでボコボコにする『賀陽燐羽』。
その担当プロデューサーが、『
以前のライブ映像を見ても、月村さんの背伸びをしている感じと、秦谷さんと賀陽さんのサポート面だけ見ると、その実力を把握しきることはできない。
だが、『H.J.I.F』のライブを見たら変わるはずだ。
あのライブでは…彼女たちの今の実力を全て発揮させた集大成。
あれを見ても同じことを思うようであれば、分不相応だと割り切れる。
…そうなることは欠片も思っていないが。
「同じことを言いますが、それを見ていただいても、同じ感想を抱くのであれば、断っていただいて構いません。
ですが、これを見て見どころがあると感じていただけるのであれば、この企画に協力していただきたく思います。
少なくとも…私は担当アイドルが負けるだけの勝負を持ちかけるようなプロデューサーではありませんので」
そう言って挑発するようにCDを雨夜さんの前で揺らす。
暗に、逃げるなら今だぞと言わんばかりに
眉間に皴を寄せて怒りを堪えている彼女は、それでも理性を保っていた。
CDが勢いよく私の手から離れ、彼女が奪い取る形で手にした。
「ほう…そこまで言うのであれば、とりあえずは見てやろう。
納得いくライブであれば、協力してやるが、話はそれからだ。
明日の放課後も空けておく、同じ時間にここに来い」
「ちょっと燕、勝手に決めないでよ」
「別に構わないだろう。
どっちにしろ、『H.J.I.F』は観る予定ではあったからな。
これ以上の話は不毛だ」
…ちょうどいい塩梅だな。
その言葉で、私は席を立ち一礼する。
「お時間を頂き、ありがとうございました。
明日までに企画書の修正可能個所は修正しておきます。
それでは、また明日」
「ああ、出直してこい!」
「ちょっと燕!」
十王さんの言葉を背に、私は生徒会室を後にした。
…問題児集団『SyngUp!』を担当し、『プロデューサー』失格と言われたプロデューサーからこうまで言われて、黙っていられるような性格ではない、という予想は正解だったな。
おかげで比較的、冷静な十王さんが口を挟む前に次のステップに行けた。
私はどうしても『
だから、私の眼からは
しかし、彼女たちがどう思うかは別問題だ。
雨夜さんを適度に挑発して、ライブ映像を見てもらうことには成功した。
プロデューサー科の落ちこぼれとも言える私にああ言われて、乗らない彼女ではないと思った。
これで、彼女たちが話にならないと、この話を断るようであれば私も諦めはつく。
彼女たちが負けるとは微塵も思わないが…
……明日が楽しみだ。
いつも誤字報告、評価や、感想、ここすきなど、誠にありがとうございます。
とても励みになりますので、今後ともお暇なときにお付き合いいただければと思います。
また、自分の中で一つの区切りがついたため、匿名投稿を辞めました。
大した理由ではないのですが、活動報告なども活用できればと思います。
今後もよろしくお願いいたします。