『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される 作:プロデューサー科のもの
高等部の生徒会室から戻った私は、担当アイドルたちがレッスンをしているはずのレッスン室に向かうことにした。
今日は珍しく、秦谷さんがレッスンに出ているらしい。
藤田さんからそのタレコミがあったことと…何か助けてほしいらしく、SOSが来ていた。
詳しい内容を聞いたのだが、手が離せなくなっているのか、返事が一向に来ないので直接レッスン室に向かった。
高等部から中等部に行くだけなので、ものの数分で目的地に着いた。
今頃、裕も中等部のどこかで見学しているのかもしれないから、もしかしたら会うかもな、と思いながら『ダンスレッスン室②』のドアを開ける。
中を開けると、そこには『SyngUp!』の面々が各々レッスンしており、そこから外れて藤田さん。
そして、その対面には花岡さんがいた。
「さあ、白状なさい。
落ちこぼれだったあなたが、どうやって、
どんな手を使ったのか!」
「そんなこと言われたって…普通にレッスンして、休むように言われたから休んだだけなんだけど…」
「嘘をつきなさい!
それぐらいで…第一そんな理由で
「そんなこと言われても……あ、プロデューサ~♡
待ってましたよ~♡」
私に気づいた藤田さんが、花岡さんを置いて私の前に飛び出した。
それに気づいた花岡さんが、藤田さんの変わりようの速さに後ろでひきつった顔をしている。
凄いところは『SyngUp!』の面々は誰一人として気にしないで、集中しきってレッスンをしているということだ。
この分だと、私が入ってきたことすら気づいていないかもしれない。
さて…事情を確認しましょう。
「藤田さん、これはいったい、どういうことですか?」
「どうもこうもないですよ~。
その子…花岡さんが、どうやって1位になったのか教えろって詰め寄ってきて…怖かったです~~」
「ちょ、ちょっとお待ちなさい!
そこまで強く言ったわけじゃ…」
泣きつく藤田さんと、オロオロ狼狽える花岡さん。
普段であれば藤田さんの肩を持つのだが、藤田さんが悪戯っぽく口角を上げていたのを見落とさなかった私は、巻き込まれた花岡さんが可愛そうに思えてしまった。
「……話は大体わかりました。
まず、藤田さん。
気持ちはわかりますが、悪ふざけはダメですよ。
詰め寄られてムカついたのは事実なのでしょうが、泣きまねは感心しません」
「あちゃー…ばれちゃいましたか」
「あ、あなた…!」
泣きまねをしてテヘペロと舌を出している藤田さんは可愛らしい。
花岡さんはからかわれていることに気づいて怒り心頭だ。
「次に花岡さん。
「!
あなたに何が…!」
「見ていればわかります。
この前の『H.J.I.F』で月村さんと話したことで、少し殻を破ったようですが、それだけで彼女たちには勝てなかった。
それから、闇雲に努力しても、中間の定期試験ですら彼女たちには届かなかった。
だから、定期試験とはいえ、『
「え、そうだったの?」
私が今までのやり取りで推測したことをそのまま伝える。
藤田さんは驚いているが、花岡さんは驚いたような顔をしたが、すぐに納得したとばかりに頷いた。
「……はぁ、流石は『中等部の
これぐらいなら、お見通しというわけですのね」
「…なんですか、そのダッサいあだ名」
藤田さんからの視線が痛い。
「私の通称らしいですよ。
どうせつけるならもっとかっこいい名前が良いんですけどね」
「そんなことはどうでもいいです。
それで、藤田さんに聞いても意味がないとは?」
花岡さんはそうやって私を睨みつけてくる。
あまり引っ張ってがっかりさせても可哀そうなので、正直に話してしまおう。
「藤田さんはこれまで、学校が終わったらバイト、バイトの合間とバイト後に自主練。
その生活を、土日もバイトに費やしていたため、ほとんどずっと続けていました。
1日の睡眠時間は、大体5時間です」
「……は?」
「因みに休養日なんてありません。
空いている日は全てバイトを入れていました。
隙間時間は全てレッスン。
花岡さんが同じような生活をしたとしたら、どうですか?」
呆けていた花岡さんに、話を振る。
すぐに正気に戻った彼女は頭を振った。
「考えられません。
アイドルには休養もレッスンの内、毎日5時間睡眠で休養日なしで働きづめなんて、パフォーマンスが落ちるに決まってるじゃありませんの。
今の話は本当ですか、藤田さん?」
「うぐっ…本当でぇす…」
顔を顰めながら、蚊の鳴くようなか細い声で藤田さんが肯定する。
それを聞いて、花岡さんは露骨に肩を落とした。
「はぁ…。
ですが、そういうことなら、あなたの言う通り藤田さんに聞いても意味はないかもしれませんね…。
「ええ、常に疲弊していた天才が、体調を本調子に戻してレッスンを受けただけです。
他に理由があればいいのですが…」
「いやいや、強いて言うなら、あたしが追いかけてきた星南ちゃんが『
「こんな調子です」
「…折角レッスンを後回しにしましたのに、無駄な時間でしたわ」
そう言って項垂れる花岡さんは少し可哀そうだ。
これは…ちょうどいい機会かもしれない。
今のプランとも、相乗効果を見込める可能性がある。
どちらかが破綻しても、今の損失はそこまで大きくない。
なら…少し早いかもしれないが、試してみよう。
「花岡さん」
「…はい?
「気になりませんか?
藤田さんがどうやってここまで実力を伸ばしたのか」
「?
先程の言うとおりであれば、体調面の不調を取り除いたことと、メンタル面のケアでは?」
「藤田さんは、元々才能がありましたが、それでも最低限の実力を身につける必要があります。
そして、先ほどの話から藤田さんはがむしゃらにレッスンをしてしまうことはお判りでしょう」
「それは…そうですね」
「であれば、効率の良いレッスンを行うようになったことも理解できるでしょう。
藤田さんは体調、メンタルのケアを行いその才能を開花させましたが、『SyngUp!』のレッスンについていけるようになりました。
『
何が言いたいかというと…非常にキツイ」
「それは、そうでしょう。
…え?
それについていけたのが…藤田ことね…?」
私が言いたいことを理解して、少し放心状態になっている花岡さんを置いて、藤田さんは私に掴みかかるように詰め寄ってきた。
「ちょっとプロデューサー!?
何言ってるんですか!?」
「事実ですよね?
最近は、朝の4時からのランニングにも参加していると伺っていますよ」
「それはそうですけど!
前の日にバイトがない日は参加していますけど!
そ、それでどうするんですか!?」
「こうするんです。
まず、『
「またプロデューサーが変なこと言い始めた…わかりました~!
今、呼んできますからね~」
「もういますよ」
「うわぁ!!??」
私のお願いを藤田さんが承諾したと思ったら、藤田さんの後ろから秦谷さんが声をかけてくる。
あまりの驚きに藤田さんは飛び上がった。
「び、びっくりした~。
美鈴ちゃん!」
「…秦谷さん、音を消して後ろに立つのは心臓に悪いのでやめてください。
私ならまだしも、藤田さんが転倒して万が一骨折なんてなったら、目も当てられません」
「ふふ、少々いたずらが過ぎてしまいましたね。
次からはプロデューサーだけにしておきます」
「で、何プロデューサー?
見ての通り、私たちレッスン中なんだけど?」
賀陽さんは不満そうにそう言った。
月村さんだけはまだダンスレッスンを続けている。
……定期試験で、彼女が藤田さんに負けた大きな要因を挙げるとしたら、ダンスだ。
それを本人が理解しているからこそ、ダンスレッスンに更に力を入れているのだろう。
これからの提案は、最悪月村さんの同意は後でもいい。
秦谷さんと賀陽さんが同意してくれれば、月村さんは折れるだろう。
「簡単に言います。
『SyngUp!』ブートキャンプ*1を開催してほしいのです」
「……は?」
「はい?」
「『SyngUp!』ブートキャンプです」
「何よそれ?」
「希望者を募り、『SyngUp!』の自主レッスンに参加してもらう、強化特訓です。
端的に言うと、藤田さんが担当になってから、『SyngUp!』のレッスンに参加していますね?
それを、他の生徒にもしてもらいたいのです」
要するに中等部の有力生徒の実力を伸ばすついでに、『SyngUp!』の交友関係改善、実力向上を図るのだ。
だが、予想通り賀陽さんと秦谷さんの感触は悪かった。
「はぁ?
嫌よ、そんなめんどくさそうなの。
ことねは可愛いし…あなたが担当になって、私の好みに合ってるから許可しただけよ。
それを他にもなんて…冗談じゃないわ」
「わたしも同じ意見です。
お世話を焼くのは好きですが…今は満足していますから」
「ふむ…あなた方がそう言うのも無理はありません。
しかし、教える、ということは学びで一番重要なことです。
自分が理解したものを出力して、他の人にもわかるようにする。
これは並大抵のことではできません」
「…そうだとしても、そんなめんどくさいこと、私は嫌」
言っていることは理解できるのだろうが、それを差し引きしても面倒くさいが勝つのだろう。
まあ、それはそうだ。
だが…来たるべきことを考えると、今の内からできる範囲でやっておきたい。
「以前も言いましたが、強力なライバルは必要です。
勝手にぽこじゃか生えてくれればいいのですが、生憎そういう状況でもありません。
であれば、芽がある人を育てたほうが早いでしょう」
「自分のライバルを自分で育てろって言うわけ?」
「その通りです。
そこの花岡さんは、その候補として有力です」
それまで放置していた花岡さんを急に槍玉に挙げたので、一瞬呆けていたが、すぐに再起動した。
「……はぁ!?
え、もしかしてですが、その珍妙な名前のモノに、
「当然でしょう。
藤田さんがあなたに勝った要因として、才能、体調のケア、メンタルケアを除いて他にあるとしたら、レッスンの量と質です。
『SyngUp!』のレッスンを行い、一定程度経てば自分流にアレンジしてもいいでしょう。
それは、あなたが成長するきっかけになります」
そう冷静に分析した結果を伝えたのだが、花岡さんは固まったままだ。
「………」
「いかがなさいましたか?」
「いえ、思ったよりしっかり考えていただいたことに驚いているだけです」
「敵は強ければ強いほどいいですから、あなたが、『SyngUp!』の、藤田さんの強敵になることを願っています。
そして、『初星学園』のネームバリューが上がれば、総合的にファンの獲得量も増えるでしょう」
「……負けませんわ」
「ええ、その意気です」
順番が前後してしまったが、花岡さんの説得には成功した。
後は…。
「ちょっと、受けた覚えはないのだけれど?」
「どうしてもだめでしょうか?」
「あなたの言うことは一理あるかもしれないわ。
でも、そもそもレッスンについてこれるのかしら?
ここまで話しても、手毬は一切レッスンをやめてないぐらい集中している。
あれがデフォよ」
「
これでも、あなた方を除けば、中等部トップの成績ですのよ?
『H.J.I.F』では負けてしまいましたが…あの時も言いました通り、
花岡さんは鋭い目で、賀陽さんを睨んでいる。
暫く視線が交わり、賀陽さんは諦めたようにため息を吐いた。
「…………………はぁ」
「ありがとうございます」
彼女のため息を聞いて、間髪入れずにお礼を言う。
「まだ何も言ってない!」
「月村さんから聞いてますよ。
賀陽さんがそうやってため息をついたときは、大体諦めて言うことを聞いてくれる時だと」
「あの子は~~~~~~~!!」
「…プロデューサー、わたしは承諾しておりませんよ?」
「秦谷さんは……秦谷さん」
「はい」
秦谷さんの返事と共に、秦谷さんに近づきながら歩いて耳打ちする。
「後でお話しましょう。
…隠しているプランを先んじてあなただけに、全てお話しします」
「まぁ、楽しみにしていますね」
どっちにしろ、後で高等部で話したことも、秦谷さんには伝えておくつもりだった。
彼女には迷惑をかけてしまうかもしれないので、秦谷さんには先に話を通しておくつもりだった。
他の人に話すのは、話が公になってからだ。
賀陽さんは別にいいのだが…月村さんは守秘義務を守り切れない可能性が高く、賀陽さんは最悪月村さんに言いかねない。
まだ確定していないのに、話が学園内に広まってしまっては開催そのものが怪しくなってしまう。
藤田さんには…サプライズだ。
さて、今後の動きについて整理しよう。
「では…いきなり中等部の生徒に公募をしても、まとまりがなくなってしまうでしょう。
まず、花岡さん相手に普段のレッスンを行ってもらい、集団でできるように落とし込み、それができてから実際に公募をかけましょう」
「はぁ…どうしてこんなことに」
「大変だね、燐羽」
そう言いながら水分補給している藤田さんを呼び止める。
なぜ自分が逃げられると思っているのだろうか。
「あなたも参加してもらいますよ、藤田さん」
「ほへ?」
「むしろ何で逃げられると思っているのかしら?
一番立場が近いのはあなたなんだから、あなたが先輩として引っ張ってくのよ」
「………あー、あたし、今日バイトあったの忘れてましたー。
今日はこれで「逃がしませんよ、藤田さん」ひぃっ!」
「ふふ、藤田さんのバイトスケジュールはすべて把握しているのを忘れましたか?
藤田さんの食事の管理のために、提出していただきましたよね?
嘘、をついたと言うのであれば……」
そうして、秦谷さんは藤田さんを確保していた。
何が何でも逃がさない、鋼の意思を感じる素早さだ。
「あ、あたしはまだ人に教えられるようなレベルじゃないって!」
「その子を連れてくるだけでいいわ。
後は手毬についていかせるだけでいいでしょ」
「うう~~…。
それぐらいなら」
「
「教えを乞う立場なのだから、下に見られるのは当り前よ。
文句があるなら、実力で示しなさい」
「きーー!!
見てなさい!
すぐに見返してやりますわ!」
「仲がよろしいようで」
「良くない!!」
「良くありませんわ!!」
「ねぇ、さっきからうるさいんだけど!
……なんでミヤビがここにいるの?」
そうして話がまとまったように見えたのだが、最後に現れた月村さんの説得に時間がかかった。
花岡さんだけなら良いと言っていたが、他の人までいたら邪魔だというのは月村さんからすれば、わからないでもない。
将来的に、『初星学園』のブランド力を上げることは必要だ。
それの下地として、『SyngUp!』が中心で動いていたと話題になれば、彼女たちの人気も伸びる。
…だが、今は急ぎすぎてもよくない。
最低限のステップ、『花岡ミヤビ』の強化はどこかで踏む必要があったのだが、運よく前倒しにすることができた。
後は彼女たちに任せよう。
そして、次の日の早朝4時に藤田さんが花岡さんを呼びに行ったので、花岡さんの眼が死んだ。
花岡さんと藤田さんは友情を深めあうことになった。
今回で年内の投稿は最後になります。
気が付いたら、投稿して半年も経とうとしていたことに気づき、驚きました。
『1st.』を見た熱を抑えきれず、衝動的に描いてここまで続けてきました。
皆様から温かい言葉もいただきながら、時々悩みながらも、歩みを続けることができたこと、誠に感謝しております。
それなりの頻度でランキングにも掲載いただいており、皆様には感謝してもしきれません。
まだまだ至らぬことが多くあり、学びながら進んでいる筆者ですが、伸びしろがある、と思って温かく今後も見守っていただければ幸いです。
以上を持って、今年の挨拶とさせていただきます。
今年は長らくお付き合いいただき、誠にありがとうございました。
来年も続けていきますので、気が向いたときにでも覗きに来ていただければ、とても嬉しく思います。