『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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本日こちら2回目の投稿になります。
0時に投稿したものの続きとなります。
まだ読んでいない方は、前話を読んでから読むことをお勧めします。


幕間 音楽家に会おう!

 

 五十嵐さんの口から出た声は、先ほどとは打って変わって重たかった。

 

「まず…私が言うのもなんだが、息子は天才()()()

 私の祖父の代から立ち上げたこの『158(じゅうごや)プロダクション』…『()()嵐 雅()(いがらし まさや)』を入れ替えて作った、安直な名前だが…跡取り息子として、私が受けたように教育しようと思っていたよ。

 それのせいで、代々、名前に『や』をつけるようにと受け継いだものだ…っとこれは関係ない話だったね」

 

 そう言われて、目の前の五十嵐さんが『裕也(ゆう())』、創始者が『雅也(まさ())』、私たちの曲を作ってくれた人が『大和(()まと)』で、全員『や』が付く名前になっていることに気づいた。

 

 ほへーと感心しながら聞いていると、五十嵐さんは昔を懐かしむように目を細めている。

 

「私も父に幼いころから音楽のいろはを叩きこまれてね、息子にも同じようにした。

 先にも言ったが、息子は天才だった。

 教えたことを1聞いて10を知り、100に応用を利かせられるような、教えたことを教えた以上にできる、そんな子供だった」

 

 …あたしとは大違いだなーなんて場違いなことを考えてしまう。

 立派な家で、教育もしっかり受けて、天才だなんて素直に羨ましいと思ってしまった。

 

 …あれ、でもなんでひきこもりになっちゃったんだろう?

 

 そう思って話を聞いてたら、五十嵐さんは凄い苦々しい顔をしていた。

 

「………正直に言うと、私は息子に嫉妬していた。

 息子は私と同じぐらいのスキルを、6歳でほとんど身に着けてしまった。

 もう教えてもらうことはないと言われたときは、怒りと悔しさでどうにかなってしまうかと思ったよ」

 

 あ…そっか。

 天才っていうのは…いいことばかりじゃないんだ。

 

 周りから嫉妬されることは…しょうがないとは思うケド…あれ、でも…6歳って…。

 

「そんな息子が、周囲の大人たちからも、小学校に入ってからも、馴染めないのはある種当然だったのだろう。

 息子に友達がいないことを知ったのは、息子が学校に行かなくなってからだったよ。

 それまで、音楽を教える以外の家のことは、全てメイドたちに任せきりでね。

 妻も同じ業界で働いていて、ほとんど家にいない。

 そんな中で、音楽に四六時中掛かりきりで、碌に周囲と交流をしたこともない息子は、当然学校生活に馴染めなかった」

 

「え?」

 

 思わず声を出しちゃったけど、慌てて口をふさぐ。

 

 あたしも…お父さんが出て行っちゃってからは、バイトをしてちびたちの面倒を見たりしていたけど、それでもお母さんは温かく見守ってくれた。

 お父さんだって、一緒にいたときは優しかったことをよく覚えている。

 

 ……なのに、こんなに裕福な家の子供が、下のちびたちと変わらないような年で、誰にも頼れないで孤独でいることを想像しちゃった。

 

 横を見ると、手毬も燐羽も美鈴ちゃんも顔を青くしてる。

 

「3年生までは行っていたようだが、それから、息子は音楽の世界に…自分の世界に閉じこもってしまった。

 ……しかも、それに私が気づいたのは、それから3()()()()()()()()だ。

 息子に醜くも嫉妬した私は、息子のことを忘れる勢いで仕事にのめりこんだ。

 家のことは全てメイドたちに任せきり、妻も同じように仕事漬けで、私も碌に会話をしていなかった」

 

「は?」

 

 今度は燐羽が声を漏らした。

 だけど、あたしと違って口をふさぐようなことはしないで、五十嵐さんを鋭い眼光で睨みつけてる。

 

 …怖いけど、気持ちはあたしもわかるから、何も言えない。

 

「…言いたいことはあると思うが、話を聞いてからにしてほしい。

 そして息子が中学生になる年になったことをふと気が付いて、メイドに聞いたのだが……愕然としたよ。

 息子は天才で、何も気にかけなくても小学校、中学校、高校、大学とトップの成績で進学していくものだと思っていたからね。

 だが、息子が天才なのは()()に関してだけだった。

 それも、かなり特徴的な一部に特化した…ね」

 

 それはそうだろうって、あたしでも思った。

 音楽のことに重点を置きすぎて、他のことを軽視した結果、一人の子供の人生が歪んでしまったんだろう。

 

 ……すごいムカムカする。

 ちびたちと同じくらいの子供を、そんな風に放置した目の前の大人に。

 

「それに気づいた時には遅かった。

 私が気づいたときには、もう息子は引き籠りになっていてね。

 私が部屋の前で話をしようとしても…会話にならなかったよ。

 自分の持っている人形たちと、ずっと音楽の話をしている息子を扉越しに聞いて、私は自分がどれだけ罪深いことをしてしまったのか、ようやく理解した」

 

 ……あたしは両親に感謝した。

 お父さんはいなくなっちゃったけど、それでも一緒にいたころは楽しかった。

 そんな思い出をくれた、優しさをくれた両親に感謝をせずにはいられなかった。

 

 それと同時に、目の前の大人に対しての嫌悪感が出てしまいそうになって、抑え込んで無理やり表情を整える。

 それでも、胸の中のムカムカを抑えるのは苦しい。

 

「私は父から、愛情をもって育てられたのに、息子にそれをしなかった。

 そんな私が息子にかける言葉なんてないと…」

 

 ああ、もう無理。

 我慢できない。

 

「それはそうかもしれないけど、あんたがそれで諦めたらおしまいだろ!」

 

「こ、ことね!?」

 

「我慢しようと思ってたけど、もう我慢できない…!

 あたしだって、お父さんは出て行っちゃったけど、それでも小さい頃楽しかった記憶はある!

 なのに、父親のあなたが諦めたら、息子さんは救われないじゃないですか!」

 

「……すまない、本当にその通りだ。

 返す言葉もないのだが、もう少しだけ話を続けさせてほしい」

 

 …………やっべーー、我慢しようと思ったのに…。

 どうしてもこらえきれなかった…。

 

「ご、ごめんなさい、話を遮っちゃって」

 

「いや、こちらこそ来ていきなり、こんな話をしてしまって申し訳ない。

 …続けさせてもらおう。

 そんな形で息子は引き籠ってしまったのだが、いつのまにか息子の噂は広まっていてね。

 『158プロダクション』の一人息子が引き籠りになったと。

 その体裁のままでは悪いから、『初星学園』などの懇意にしているところからだけ依頼を受けて、仕事をできるようにしていたよ。

 幸い、音楽のやる気だけはあったから、音楽関係の仕事ならできるかもしれないと思ってね。

 ただ、そんな噂が広まっている以上、依頼が来たことは一度も()()()()んだ」

 

 五十嵐さんは罪を告白するような顔だったのが、当時の様子を思い出しているのか、少し微笑んでいた。

 

「……そんな状態で暫くいたある日に、用意しておいた息子の仕事用の電話に着信が入ってね。

 学園から紹介された番号にかけたと言ったから話を聞いたのだが、なんでも、担当アイドルの曲を3曲、2ヶ月以内に編曲してほしいと」

 

 それって…。

 

「なんて無茶なお願いだと思ったよ。

 直接会ったこともないのに、いきなりそんな電話をしてくるなんて不躾な、ともね。

 だが、息子に初めての仕事の話が来たから、とりあえず会って話をして見ようと思ったよ」

 

 そんなことを依頼するような人、あたしたちには一人しか思い当たらなかった。

 

「そうしてきたのが…君たちのプロデューサーだった。

 電話で言った荒唐無稽な言葉とは裏腹に、彼は礼節を尽くしてくれた。

 学生のプロデューサーと話をしたことは数回あったが、彼はその中でも丁寧さが群を抜いていた。

 話を聞いて、元の曲自体は頭の中にあると言っていたから、出来なくはないかもしれないと思ったが…如何せん、息子が専属のメイド以外と会話をすることは小学校以来なかった」

 

 やっぱり…。

 そんなことをするのは、あたしたちのプロデューサーで間違いない。

 多分この時は、まだあたしを担当にしていない時だから、今年の4月とかの話かな?

 

「私の言葉すら届かなくなっていて、メイド経由で話をしていたぐらいでね。

 だから、そんな状況だと説明して断ろうとしたんだが…彼は引き下がらなかった。

 『このまま一生引き籠らせるつもりですか?』と、言われたときは、『お前に何がわかる』と激昂してしまったものだが…それでも彼は引かなかった」

 

 …ああ、プロデューサーなら言うナー。

 何もしない現状維持とか、多分一番嫌いだろうし。

 でも、よそ様の家庭の問題にそう簡単に踏み込むのは………人のこと言えねーー!

 

「そして、私は彼に息子を任せることにした。

 ダメ元で、上手くいかなくても息子が外の世界に興味を持ってくれればいいと思ってね。

 ……まさか、初日から話をできるぐらいに打ち解けていたのは驚いたよ」

 

 本当にプロデューサーって何者なんだろう?

 家族とも話をしない人と、初日で打ち解けるって、何をしたらそうなるの?

 

「どうやったのか聞いたが、友達になりました、としか言ってくれなくてね。

 本当に、どういう経緯でそうなったのかはわからない。

 ただ…今の今まで、彼は暇を作ってはうちに来てくれて、息子の相手をしてくれている。

 それが、仕事だけをしていないことは明白で、息子は毎日来る日になると心待ちにするようになっているんだ。

 ………これが、私が知る限りの息子の全てだ」

 

「………わたしは父の苦労というものを知りませんが、それでも言えることはあります。

 あなたは、親としては酷い方だと」

 

「美鈴!」

 

 手毬は美鈴を止めようとするけど、悪いケドあたしも同意見だから止めない。

 

「……悪いけど、私も同意見よ。

 自分の息子が、両親から遠ざけられて、小学校でも孤独で過ごしてきた、なのに気づいたのが3年後?

 本気で言ってるの?」

 

「同じくで~す。

 さっきも言いましたけど…でも、今息子さんが幸せなら許してあげてもいいです」

 

 あんまり踏み込みすぎたらいけないことはわかってるけど、息子さんが今どうなっているのかが大事。

 プロデューサーがついているなら、心配ないと思うんだけど…。

 

「君たちの怒りは尤もだ。

 ……この話を、君たちのプロデューサーにもしたが…彼はそういう反応ではなかったから、かえって不安だったよ。

 最近になって、ようやく息子に謝ることができたのだが…その時に息子が怒るよりも泣き出してしまってね。

 今の話をしたのは、こうして誰かに怒ってもらいたかったからだよ。

 怒ることすらできなかった、息子の代わりに…というと、また怒られてしまうかな?」

 

「…本人がそれでいいなら良いわ。

 外野がとやかく言うことじゃないもの」

 

「仲直りできたなら良いです。

 …さっきはすみませんでした」

 

「そうですね。

 息子さんに謝って、本人が受け入れたのであれば、わたしたちからこれ以上言うことはありません。

 ………はぁ、プロデューサーはまた勝手なことをして…一歩間違えていれば、どうなっていたか…」

 

 美鈴ちゃんの言うことに、あたしも頷く。

 一歩間違えて『158プロダクション』に決裂してしまって、『初星学園』に知られたら、大惨事になっていたかもしれない。

 

「それは私も同意見だ。

 こう…恩人に言うことではないとは思うのだが、彼は少々生き急ぎすぎている。

 いつ死んでもいいと思って、全力で走り続けている。

 今、彼がいなくなってしまえば、息子が悲しむのは想像に難くないから、もう少し自分を大切にしてもらいたいものだ」

 

「ええ、本当に。

 人にはのんびりマイペースでというくせに、自分のことをないがしろにしてしまって、困ってしまいます」

 

「はは、君たちみたいなかわいい子に想われているとは、彼も隅に置けないな」

 

「まぁ、お上手ですね」

 

「ははははは」

 

「ふふふふふ」

 

「え、なんかよくわかんないけど、こわ~~」

 

 何でこの人たち急に笑い出したの?

 燐羽を見ても、睨んでるだけだし…手毬は…少し落ち込んでる?

 

「……」

 

「手毬、大丈夫かー?」

 

「……大丈夫。

 ただ、美鈴ってすごいなって思っただけ」

 

 それは本当にそう。

 

「あー…本当に勇気があるって言うか、度胸がすごいって言うか、大人相手にも一歩も引かないで話せるのってすごいよね~」

 

「ことねも正面切ってぶつかって…かっこよかった」

 

「うぐっ!

 あれは…ちょっと忘れてほしいかナーって。

 あたしのイメージには合わないしー」

 

 心が痛い。

 あたしだって、我慢するはずだったのに、気づいたら叫んでた。

 

「?

 なんで?

 ことねが家族を大事にしているのはよく知ってるから、別に何もおかしくないと思うけど」

 

 ……こいつのこういうところがあるから、嫌いになれないんだよナー。

 普段から、これぐらい素直ならかわいいんだけど。

 

「やめろよ~。

 照れちゃうだろー」

 

「私もいつか、同じようにできるかな…?」

 

「できるんじゃねーの?

 美鈴ちゃんとか燐羽が話しているのを見て、同じようにできるかシミュレーションして、場数を踏んだらできるって。

 レッスンもそうだったじゃん?」

 

「うん」

 

「まあ、でもあたしは暫くいいや~。

 バイト先とかならまだしも、こういう固い場所では流石にキツイって」

 

 そう言って笑いあっている二人を指さす。

 手毬もそれを見て、あたしと目を合わせて苦笑いした。

 

「……私も、暫くは他の人に任せていいかな。

 美鈴みたいに話すのは無理」

 

 手毬と二人で、未だに談笑している二人を見るけど、なんで笑ってるのかわからなくて怖い。

 

「はははは。

 さて、ではそろそろ案内しようか」

 

「どちらへでしょうか?」

 

「君たちのプロデューサーが居るところさ」

 

 そう言って五十嵐さんが立ちあがった。

 さっきまで話していた時の悲しい感じはもうなくて、最初に合った時のような柔らかい雰囲気に戻ってて少し安心する。

 

 そうして案内されたのは…地下だった。

 扉の中では、音楽が流れてて、少し漏れて聞こえているけど…聞いたことない曲だ。

 

「プロデューサー君、大和、入るぞ」

 

 五十嵐さんがそう言って地下室のドアを開ける。

 そこにいたのは、髪がぼさぼさでTシャツにズボンと言ったラフな格好の男性…こっちが大和さんだろう。

 

 そして、スーツを壁のハンガーにかけてワイシャツをズボンから出して、普段しているネクタイを外してワイシャツのボタンを2つ開けている、普段とは違ったプロデューサーの姿だった。




いつも誤字報告、評価や、感想、ここすきなど、誠にありがとうございます。
とても励みになりますので、今後ともお暇なときにお付き合いいただければと思います。
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