『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される 作:プロデューサー科のもの
あたしたちが地下室のドアを開けて見たものは、普段の堅苦しいスーツを脱いで、ワイシャツを着崩しているプロデューサーと、話にあった息子さんが…缶コーラとペン?を持っている姿だった。
地下室は、壁一面にぬいぐるみが鎮座していて、いたるところにスピーカーと楽器がある。
ベッドもあって、ここで普段息子さんが寝ているのかな?って予想できる。
多分いつもはここで音楽をしているんだろうけど…今は休憩中なのかな?
…着崩したプロデューサー、普段と違ってて、かっこいい~~!
でも、なんかホストっぽい?
誰もいなかったら飛びついちゃうかもしれない衝動を堪えて、こっそり写真を撮る…無音カメラアプリ、入れておいてよかった~~~。
っと、まだみんないるからバレないうちにしまっておこう。
音楽は後ろのスピーカーから流れているけど…やっぱり、聞いたことない曲だ。
…声が手毬?っぽいような気がするケド…もしかして、プロデューサーが歌ってるのかな?
五十嵐さん…紛らわしいや。
お父様が声をかけているけど、まだ気づいてないみたい。
「大和、缶コーラを一気飲みする方法を知ってるかい?」
「え、そんなのあるの?」
アレが息子さん…純粋無垢な目でプロデューサーを見ている。
年齢は…プロデューサーと同い年ぐらいかな?
声はどこかあどけなくて幼く感じるのは…お父様からの話を聞いたからかもしれない。
「よく見るんだ。
まず、コーラの側面の下側にペンを突き刺す。
いま刺すと噴き出るからね、そこに口を当てて飲みながら、上のプルタブを開ける」
?????
プロデューサーは何やってるんです?
「まあ、見ててくれ」
プロデューサーはそう言うと、缶コーラにペンを突き刺した。
そして、言った通りに穴をあけた部分に口をつけて、そのまま器用に飲み始める。
「うごォ」
そんなことをしたら当然、中のコーラが噴出してプロデューサーが口をつけている部分から吹き出て…ああ、飲んでるけど少しワイシャツが汚れてる。
勢いよく出てくるコーラを、穴をあけたところから飲んでいる…ナニコレ?
「プハアーーー!
イエスッイエスッ!*1」
「ぼ、僕もやってみたい!」
「コツは噴出してくるところから飲み続けないといけないから、息を整えてすることだよ。
私も最初は盛大に吹き出してしまったことがある」
「う、うん!
やってみる!」
「ストップストーップ!
何やらせようとしてるんですか!
プロデューサー!」
「何って缶コーラの一気飲みを…………………………え、何故皆さんがここに…………?」
プロデューサーはあたしたちをたっぷり見ながら、暫く固まってからそう言った。
こんなに困惑しているプロデューサーを見るのは初めてかもしれない。
目を白黒させて、あたしたちを一人一人まじまじ見ているプロデューサーはとても新鮮だ。
「なぜって、あなたをつけてきたのよ。
なかなか面白そうなことしてるじゃない?」
「…………ごめん、大和ちょっと逃げる」
「え、まって、置いていかないで…」
プロデューサーはそう言って身を翻すけど、大和さんに後ろから抱きしめられるように捕まって身動きが取れてない。
……ちょ~っとだけ羨ましい…。
「あらあら、プロデューサー?
どこに逃げるつもりですか?
入口は、わたしたちの後ろだけですよね?」
「プロデューサーってそんな格好するんですね。
意外です」
「!!
少々お待ちを」
「あ~~手毬!
余計なこと言うなよ~~!」
「わ、私のせいじゃないでしょ!」
手毬が余計なことを言ったせいで、プロデューサーは後ろを向いてしまった。
ネクタイはしてないけど、スーツを壁のハンガーから取って、きちんと着なおしてしまった。
もったいない…。
「ねえ、士野。
僕、それ嫌なんだけど…心友なのに、なんか距離を感じて…」
「ゴメン大和。
担当アイドルの前では、しっかりした姿を見せたいから許してほしい」
プロデューサーの言葉で、大和さんはあたしたちの方を見た。
目は合わせてないけど、頑張って顔を見ようとしているのがわかる。
「……誰かと思ったら、君たちが士野の担当アイドルなんだ」
「そうで~す。
あたし、藤田ことねって言います!」
「月村手毬です」
「賀陽燐羽よ」
「秦谷美鈴と申します」
全員自己紹介をしたが、困ったように頭を悩ませてた。
「……う~ん…人の名前って覚えられないんだよね。
どれも同じ顔に見えるし」
は?
「はぁ!?
この世界一可愛いことねちゃんが、同じ顔に見える!?」
「ひっ!」
あ…今日は凄く感情の制御ができない日かもしれない。
またかっとなって言っちゃった…。
「あ…ごめんなさい…」
「藤田さん、彼をあまり怯えさせないでください。
大和、私が紹介します」
「?
どう紹介されても一緒だと思うけど」
「左から、『世界一可愛い私』『Luna say maybe』『ツキノカメ』『太陽』です」
ええ…もしかして、プロデューサー…?
「あー、なるほど。
それなら覚えられる…かな」
「え、プロデューサー、もしかして曲名で覚えさせようとしてます!?」
「その方が彼にはわかりやすいので。
……裕也さん、これはいったいどういうことでしょうか?」
「ははは、すまないね。
彼女たちが突然押し掛けてきて…少し話をしてから、君たちに合わせようと思ってね。
つい連れてきてしまった」
「ついじゃないですよ。
なぜ彼女たちが来たのかは置いておくとして、大和は最近でこそ、こうやって裕也さんと話ができるほどになりましたが、今でも外に出ることは難しいぐらいですよ。
それなのに、いきなり異性を4人も連れてきて、緊張しないわけないじゃないですか。
荒療治にもほどがあります」
そう言われて大和さんの方を見ると、プロデューサーの後ろに隠れて少し震えていた。
…頑張ってあたしたちと話してくれたのかもしれない。
そう考えると、悪いことをしちゃった…。
「す、すまない。
大和も、申し訳なかった」
「……ううん、いいよ。
士野がいるうちは大丈夫だから…」
「行く行くは一人で外に出られるのが理想ですが…まあ、今は良いでしょう。
さて、来てもらって悪いですが、そろそろ遊びの時間も終わりなので、出て行ってもらえますか?」
「まぁ…折角来たのに、酷い言いようですね。
見られて不都合でもあるのでしょうか?」
「新曲の調整です。
ソロ曲なので、いつ披露するかはわかりませんが、手札を用意しておくことは重要です」
「新曲!?
もうできてるんですか!?」
「月村さん、申し訳ありませんが、『SyngUp!』のお三方は、ユニット曲の練習があるのと、まだ完成段階ではないので諦めてください。
藤田さんは…そのうち聞かせますね」
「やったー!」
「ことねだけずるい!」
「藤田さん、参考程度なのですが、楽しい曲と、恋愛ソングと、かっこいい曲と、宗教。
どれがいいですか?」
「そんなに選択肢があるんですか!?
って、宗教って何!?」
「もしかしてそれって、『自爆ソ(モゴモゴモゴ*2」
「大和~?
少し静かにしようね~」
「モゴモゴ(コクコク」
ちょっと!?
いま聞き捨てならない単語があったんですけど!?
「『自爆』!?
今、『自爆』って言いました!?」
「言葉のあやです。
余計なことは言わないでくださいね、はい」
「ぷはぁ…わ、わかったから…余計なことは言わないようにするから…」
き、気になる、後で絶対に聞きだしてやる…!
「よろしい。
外に出たとき…いえ、人と話す時は余計なことは言わない方が良いです。
かなりの確率で、自分の首を絞めることになりますので。
仕事関係だと、なおのこと余計なことを言って相手を怒らせてしまうと仕事で不和を生じます」
「はーい」
「うわぁ…お父さんよりお父さんしてそう」
「ぐはっ!」
「あ、やば」
「もっと言ってやってください、藤田さん。
その育児放棄おじさんには、いい薬になるでしょう」
「グハッ!」
「プ、プロデューサー!?
そんなこと言っていいんですか!?」
「これまでのことを考えたら自業自得でしょう…ん?」
「士野…あまり、お父様をいじめないであげて」
「大和…!」
おお…!
さっきの話を聞いた後で、大和さんがお父様をかばっているところを見ると、それだけで涙が出そう。
「どうせするなら、チクチクいじめるんじゃなくて、もっと苦しませてほしい」
ん?
「大和…!?
プ、プロデューサー君、何を大和に教えたんだね!?」
「どうせならもっと苦しんだ顔を見たい」
「大和~~~~!!」
そう叫んでお父様は大和さんに縋り付いたまま崩れ落ちた。
ええ…?
「うわぁ…プロデューサー、本当に何を教えたのかしら?」
「どうせ復讐して気持ちよくなるなら、相手が苦しんでいる顔を見る方がスカッとしますよって教えたような気はしますね。
仲直りしたから、もうそんなことしないと思っていたんですけど…」
何てこと教えてるんですか、プロデューサーは!?
「仲直りはしたけど、それはそれとして、お父様が苦しんでいる顔は見たい」
「性格歪んでない!?」
「まあ、歪むようなことしかしてこなかったので、自業自得ですね」
「グボォッ!!」
床に崩れ落ちてるお父様がうめき声を上げている。
最初に会った時の雰囲気がもう台無し…。
「あ、プロデューサーがとどめ刺した」
「自業自得です。
さて、先も言いましたが、これからは少し重要な作業なので退室してください。
後で伺いますので」
「プロデューサーは、わたしたちよりも作業を優先すると、そうおっしゃるのですか?」
「あなた方が最優先ですが、今回は先客優先です。
そもそも、押し掛けてきた立場なのですから、大人しく引き下がってください。
それに…そろそろ大和も限界です」
そう言ってプロデューサーが大和さんを気にかける。
よく見ると、大和さんの顔が青くなってて、体が少し震えている…本当にもう限界そうだ。
あたしたちも急に押し掛けて悪いことしちゃったな…。
「あ…申し訳ありません」
「いえ、秦谷さん、詳細を話さなかった私が悪いです。
後で伺うので、今はお引き取りを」
「はい、また後で」
「失礼しました~」
半ば追い出されるような形で、地下室から出た。
いつの間にか復活していたお父様に誘導されて、あたしたちはさっきの部屋まで誘導された。
…もう目の前の人が、有名企業の社長って肩書じゃなくて、ダメな親の印象しかない…。
最初会った時は厳格なお父様って感じだったのに、もうファンキーなおじさんにしか見えなくなってた。
「見苦しいところを見せてしまったね」
「本当にね」
「手毬!」
「だって本当のことじゃん」
「ははは、気にしなくていい。
…それで、どうだったかね?」
「ふふ、思ったよりも息子さんと仲良くされていて安心しました。
それに…良い息子さんですね。
プロデューサーがあれほど楽しそうにしているところは…正直初めて見ました。
………妬ましいほどに」
「ははは、頼むから息子に嫉妬しないでくれよ。
……如何にプロデューサー君と言えど、息子が同性愛に目覚めることだけは認めんぞ」
「大丈夫で~す!
プロデューサーはあたしたちのことが大好きなので~!」
「信頼しあっているようで結構。
さて…プロデューサー君たちが来るまで、ゆっくりできる部屋に案内しよう。
今日はどうするかね?
泊まると言うなら、客室に案内しよう」
お父様はそう言ってあたしたちを見る。
あたしは明日バイトあるんだよナ~。
手毬があたしたちを見てくる。
「…どうする?」
「あたし、明日バイトだから泊まりは勘弁~」
「私は別に泊まりでもいいわ。
明日の昼頃までに戻れば、レッスンにもそこまで影響はないでしょ」
「わたしもです。
……藤田さんも、泊まりませんか?
たまには…みんなでお泊まり会をしてみたいです」
美鈴ちゃんがそう言うのは珍しい。
バイトのことには極力口出ししないでいてくれる、美鈴ちゃんのわがままは珍しいし…正直なところ、お泊まり会に興味がないと言ったら嘘になる。
学園の寮じゃなくて、普段泊まらないような場所っていうのもちょっと魅力的だし…。
でも、五十嵐さんの家に迷惑をかけるのもナー…。
「う~ん……美鈴ちゃんからそう言われると……。
五十嵐さん、本当に泊まってもいいんですか?
急に4人も泊まったら迷惑じゃないですか?」
「まあ、まるっきり負担がないと言ったら嘘になるが、君たちのプロデューサーには先程見てもらったように恩がある。
仕事の契約として来てもらっているものの、それだけでは返せない程のものを貰ってしまっている。
それに…君たちの成功は、息子の成功でもある。
まだ断っているが、君たちのライブ成功を通じて、いくつか依頼もきているぐらいだ。
だから、そんなことは気にしないでいい」
「そういうことなら…。
ちょっとバイト先に電話して、代われる人いないかあたってみるんで、ちょっと待ってもらってもいいですか?」
「ああ、構わないよ。
それなら、先にゆっくりできる部屋に案内しよう」
そう言ってお父様が立ち上がった。
よく考えると、メイドさんがいるのに、自分で案内してくれるってことは、あたしたちに敬意を示してくれているってことなんだろう。
……プロデューサーは本当に何をしたんだろう?
ただ、一つだけわかることは、信頼関係がすごい出来てるっていうのはわかった(あたしたち程じゃないけど)。
ちょっと心配したけど、思ったよりは平和に過ごせてて安心した。
そうして誘導された部屋は、ベッドが二つあって、机といすが用意された客室?なのかな。
……金持ちってすごい…こんな予備のベッドがあるような部屋を用意できるなんて…。
このベッドも、あたしのバイト何時間…いや、何カ月分…?
もしかして、何年分とか…?
いやいや、考えたらおかしくなる。
「着いたよ、この部屋は好きに使ってくれて構わない。
後でメイドにお茶とお茶菓子を持ってこさせよう。
プロデューサー君たちが来たら、先の部屋で昼食にしよう。
構わないかね?」
「何から何まで、ありがとうございます」
「それでは失礼するよ」
そう言ってお父様は部屋から出て行った。
部屋の中があたしたちだけになって、ようやく溜まった気苦労を吐き出すように、ため息を吐いた。
「はぁ~~~~、疲れた~~~~」
「お疲れ様ね、ことね」
「燐羽もお疲れ~。
美鈴ちゃんもお疲れ様!
一番五十嵐さんと話してたし、大変だったよね?」
「…そうですね、少しだけ、疲れました。
申し訳ありませんが、少し横になってもいいでしょうか?」
「うん、五十嵐さんが来たら起こすから、ゆっくり休んでね」
「では、お言葉に甘えて…まりちゃんも来ませんか?」
「……美鈴がどうしてもって言うなら、いいよ。
今日の美鈴は頑張ってたから」
「ふふ、ありがとうございます、まりちゃん。
それでは、ことねさん、りんちゃん、おやすみなさい」
「おやすみ~」
「おやすみ、美鈴。
…ことね、電話しなくていいの?」
「いまするね~。
ちょっと離れて…よし」
そうして、あたしは寝息を立てつつある美鈴ちゃんと手毬から少し離れて、電話をかけ始めた。
幸い、よくシフトに代わりに入ってた子がいたから、今回は代わりに代わってもらった。
あ~~~~、本当にたまにしかない完全休養日なのに…なんであたしは着いてきちゃったかな~~。
…ま、でもたまにはこういうのもいいっか。
いつも誤字報告、評価や、感想、ここすきなど、誠にありがとうございます。
とても励みになりますので、今後ともお暇なときにお付き合いいただければと思います。
明日で幕間が終わりの予定です。
4日は通常通り、本編を投稿します。