『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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49話目

 

 翌日、私は生徒会室に来ていた。

 

「失礼します、十王さん、雨夜さん」

 

「…ごきげんよう、『中等部の黒幕(フィクサー)』さん」

「…よくきたな、『中等部の黒幕(フィクサー)』」

 

 中に入り挨拶をすると、二人揃って眉間に少し皴を寄せながら、喧嘩を売ってくる。

 

「その呼び方はやめてくださいと…」

 

「昨日のあなたの言葉を思い出してちょうだい。

 燕をわざわざ誘導させて、これを観させたのはあなたよ」

 

「ばれてしまいましたか…」

 

「貴様~~!」

 

「燕、乗せられたあなたもあなたよ」

 

「ぐっぐうううう~~~~~!!」

 

 やはり十王さんにはバレていたようだ。

 乗せられたことに気づいた雨夜さんは怒っているものの、十王さんに窘められて怒りを爆発させられずにいる。

 『ザマミロ&スカッとサワヤカ』の笑い*1が出そうになったと言ったら怒られそうだが、よく知りもしないで担当アイドルを貶されたのだから、少しは思ってもいいだろう。

 

 ニヤニヤする顔を抑えて、煽るように聞く。

 結果は明らかだが。

 

「それで、いかがでしたか?

 私の担当アイドルたちは」

 

「…率直に言うわ。

 ()()()()()()()()()()()()

 私が以前彼女たちを見たときのアイドルパワーよりも、ライブでの彼女たちはアイドルパワーが圧倒的に上昇していたわ。

 …あなた、何をしたのかしら?」

 

「特別なことはしていません。

 彼女たちが歩きやすいように、走りやすいように、昇りやすいように、環境を整えただけです。

 彼女たちは、それだけで羽ばたくことができる。

 …私が望んだとおりに」

 

 アイドルパワーの下りで雨夜さんが顔を顰めているが、今はスルーしよう。

 私は大したことをしているつもりはない。

 これは謙遜でもなんでもなく、彼女たちは自力が凄まじいので、大したことをしなくても結果を出してくれるからだ。

 

 そう言っただけなのだが、何故か二人とも引いている。

 

「本当に黒幕そのものね。

 …『H.J.I.F』は全てあなたの掌の上だったのかしら?」

 

「その通り…と言えたらよかったのですが、本当にそうであればここまで悪評が流れていることはなかったでしょう。

 正直なところを言うと、秦谷さんが優勝する可能性が一番高いと思っていましたので。

 …月村さんが勝った場合のプランをあれしか用意できなかったというのが正しいところですが」

 

「ふぅん…それは、『プロデューサー』としてどうなのかしら?」

 

 目を細めている十王さんのその言葉は、耳が痛いものだった。

 だが、目を背けている余裕はないし、嘘をつく理由もない。

 

「評判通りですよ。

 ()()()()()()()()()()()、そう言うべきでしょう。

 ですが…私の選択に後悔はありません。

 初星学園の顔に泥を塗ってしまう形になったことは心苦しいですが、月村さんのファンに、優勝ライブを届けるためには、あれが最善でした」

 

「…そう、なるほどね。

 昨日、燕と一緒にライブ映像を見させてもらったけど…月村手毬さんの歌い方は、矯正させないのかしら?

 あのペースで歌い続けたら、優勝ライブまで持たないのは当たり前よ」

 

 プロデュースプランに口を出すのはプロデュース科では基本タブーなのだが、彼女はアイドルなのでそれを求めるのは酷だろう。

 それに、同じアイドルからすれば、彼女のライブは観ていて胃が痛くなると評判なので、その感想が出てくるのも当然だ。

 事実、私も胃は常に痛めている。

 でも…。

 

「あれが()()()()()()()()ですので。

 彼女は、文字通りの全身全霊を、歌に注ぎ込むことができる才能がある。

 そして、彼女は本番で実力以上に力を発揮してしまう、という欠点があります」

 

「実力以上に力を発揮してしまう欠点?

 それが本当なら、利点だろう」

 

「本人の体力お構いなしに、力を発揮し続けるとしてもですか?」

 

「…ああ、なるほどな。

 そういうことか」

 

「ですが、言い換えるなら、()()()()()()()()()()()ことができる。

 …だからこそ、技術的にも、実力的にも上回っていた秦谷さんに勝利することができた」

 

 月村さんの頑張りを、分析するとこういう形になるだろう。

 当然、それだけで済ませていいものではないのだが。

 

 十王さんも顎に手を当てて、頷いている。

 

「興味深い話ね…。

 確かに、私の眼から見ても秦谷美鈴さんの方が、アイドルパワーは上だった。

 でも、歌っている途中から、月村手毬さんのアイドルパワーは上がり続けて…秦谷美鈴さんを上回った。

 ライブ中にアイドルパワーが上がるアイドルは、見たことがあったけど…ここまで上昇していたのは初めてよ」

 

「また変なことを…」

 

 雨夜さんは、また十王さんが変なことを言っていると言わんばかりに頭を振っている。

 だが、これは重要な話だ。

 

「アイドルパワー…アイドルの実力を示す指標だと思っていいのでしょうか?

 それを、十王さんは見極めることができる…と」

 

「よく聞いてくれたわ!

 その通りよ。

 私はずっと昔から……多くのアイドルを見続けてきた。

 そして身に着けたのよ、アイドルの実力や才能を見抜けるこの目を!」

 

 どや顔でポーズを決める十王さん。

 溢れ出るポンコツ臭が非常に可愛らしい。

 例えるなら、秦谷さんが攻められてたじたじになっている様子に近いギャップがある。

 

 …近くに秦谷さんはいないよな?

 ふと思ってしまったが、もしいたら浮気判定で処刑されかねない。

 間違っても()()()()()()()()()()

 

「はぁ…また始まった…」

 

「燕は相変わらず信じてくれないのね。

 あなたは?」

 

「信じましょう」

 

「本当!?」

「正気か貴様!?」

 

 端的に言ったつもりだったが、反応は劇的だった。

 目をキラキラさせて喜んでいる十王さんと、薬物をやっている奴を見るような目で見る雨夜さん。

 

 …雨夜さんの目が痛い。

 普段からこういう目で見られていたのなら、流石に十王さんが可愛そうかもしれない。

 

「ええ、完全に信用するわけではありませんが、先ほどの話は私の見解とも一致していました。

 ですので、一種の指標として、多少の説得力はあるかと」

 

「~~~~!!

 こんなにすんなり信じてくれたのは、あなたが初めてよ!!」

 

「信っじられん…頭がおかしいんじゃないか、こいつら…」

 

「雨夜さん、覚えておいてください。

 ()()()()()()()()()()()()()

 十王さんが私たちを困らせるため以外に、このような嘘をつくと思いますか?」

 

「それは……そうだが……」

 

「なので、信用しました。

 『一番星(プリマステラ)』にもなった方が、妄言だけを吐くことはないと」

 

 私が十王さんの肩を持つと、彼女は目をキラキラ輝かせている。

 雨夜さんが悔しそうな眼をして、こちらを睨んでいるが…まあ仕方ない。

 

「あなた…見どころがあるわね!」

 

「そいつは偉そうにしているが、貴様が思っているよりもポンコツだぞ」

 

「でしょうね」

 

「でしょうね!?

 ちょっと!?」

 

 いきなり梯子を外したので、十王さんが叫びながら机を叩いて立ち上がった。

 ショックを受けているようだが、対照的に雨夜さんはニヤニヤしている。

 

 だが、そう思われても仕方ない自覚は持ってほしい。

 

「ポンコツじゃなければ、さっきの場面でどや顔決めポーズを取らないでしょう」

 

「ほう…よくわかっているじゃないか」

 

「ちょっと燕!」

 

「むしろ、よくここまで外面を取り繕えているなと感心すらしています」

 

「こ、この~~~!!

 わ、私、あなたのこと嫌いよ!」

 

 十王さんのこの台詞は…それなりに相手に対しての好感度が高くないと出てこないのではなかろうか。

 少なくとも、『ストーリー』で『プロデューサー』以外に言っていた記憶はない…。

 

 少し選択を間違えてしまった気がして、軌道修正を試みることにした。

 そうじゃないと…()()…。

 

「好いてもらおうと思ってきたわけではありませんので、お気になさらず。

 …むしろ、そうなったら私が担当アイドルに処されますので、勘弁してください」

 

「処されるって…また大袈裟ね」

 

「賀陽さんは恐らくシンプルに殴ってくるでしょうね。

 月村さんにはぎゃん泣きされそうです。

 藤田さんはキレて激詰めしてくるでしょうね。

 秦谷さんは……刺されるぐらいなら可愛いものですね。

 まあ、彼女に殺されるなら本望です」

 

 私が起こりそうな未来を推測して口に出しただけなのだが、十王さんと雨夜さんは顔面蒼白になっていた。

 

「ちょっと!?

 初星学園で刃傷沙汰だけは勘弁して頂戴!」

「き、貴様正気か!?

 正気で言ってるのか!?」

 

 何をいまさら…。

 

「担当アイドルに殺されるなら本望だと思っているプロデューサーは多いと思いますよ」

 

「ええ…?

 そういうものなの…?」

「あ、ありえん…!

 こいつがおかしいだけだ!

 それが本当なら…プロデューサー科の連中は、全員常軌を逸している…!」

 

「そうですか?

 まあ、私の命など些事です。

 あなた方が気にするようなことでもありません」

 

「ええ…?」

「貴様、それでいいのか…?」

 

「…話が逸れに逸れてしまいましたが、本題に戻りましょう」

 

 先程まで困惑していた二人だったが、その一言で弛緩していた空気が引き締まった。

 

「企画はいかがでしょうか?

 彼女たちのレベルであれば…あなた方の研鑽にも役に立つかと思います」

 

「ええ、いいわ。

 彼女たちなら…来年の生徒会候補にもなりうる。

 ……素行に難ありなのは、気になるけれど」

 

「本気で言ってるのか星南!?

 仮にこいつらが生徒会に入るとしたら…性根を叩き直してやらねばならん!

 ライブが上手いだけで生徒会役員が務まるわけではない!」

 

 十王さんからは好感触だが、雨夜さんは難色を示している。

 その評価自体に不満はない。

 ライブに関しては極上だとしても、素行が悪いのは否定しようがないからだ。

 

 彼女たちが生徒会役員になったら………世紀末初星学園伝説が始まってしまう。伝説学園ではない*2

 

 しかし、そのまま黙って担当の名誉が侵害されているのも気に食わない。

 

「生徒会役員の選出に関しましては、あなた方の管轄ですので、そこに口を挟むつもりはありません。

 ありませんが…強いて言うならおすすめは秦谷さんです」

 

「その心は?」

 

「サボり癖があるので雨夜さんから見れば気に食わないかもしれませんが、全てにおいて高次元で物事を進めることが可能なスペックがあります。

 それこそ、親しい人の心の内を読むぐらいですからね」

 

「それは本当に人間か?」

 

 雨夜さんのツッコミで、忘れていた怖いことを思い出した。

 

「この前、中等部のトレーナーと廊下で軽く話をして、別れたときでしたかね。

 音もなく背後に現れて、振り返った瞬間にドアップの秦谷さんが、浮気ですか?とハイライトがない目で言われたときは死んだかと思いましたよ」

 

「え、怖」

 

 十王さんが目を白くして顔を青くして引いている。

 おかしい…名誉挽回のはずが…。

 

 ……やばい、余計なことを言いすぎてしまった。

 慌てて話を他の人に移す。

 

「後は賀陽さん辺りがおすすめですよ。

 本人が受けるかは別として、あの月村さんをあやせるぐらいに面倒見がいいです」

 

「へぇ…彼女がね…」

 

 十王さんが感心しているが、良いことばっかり言っていたら景品表示法違反になってしまう。

 

「喧嘩を漏れなく買う癖だけ、困りものですが」

 

「生徒会役員として致命的だろう…!」

 

 雨夜さんの額に青筋が走る。

 

「藤田ことねさんはどうかしら?」

 

「藤田さんはアルバイトをしているので…時間の余裕があるなら、そっちに回したいと思うかと」

 

「ああ、そういえば、貴様は藤田も担当しているんだったな」

 

 そう言って感慨深そうに雨夜さんは頷いた。

 そう言えば…藤田さんは雨夜さんに便宜を図っていただいていた話があったような…。

 

「?

 藤田ことねさんのこと知っていたの、燕?」

 

「以前にアルバイトの件で相談されたことがある。

 赤点と補習続きと聞いて心配していたが…アイドルコース限定とはいえ成績1位になるとはな。

 …貴様の仕業だった、というわけか」

 

 雨夜さんは目をかけていた後輩が成長したことが嬉しいような、悪いプロデューサーに誑かされたことが気に食わないような複雑な表情で睨みつけてきた。

 それに真正面から答える。

 

「あの才能の塊を見過ごすわけにはいきませんでしたので。

 結果は…見ての通りですよ。

 あなた方が見たあのライブをした『SyngUp!(彼女たち)』を抑えての1位。

 昨日の月村さんの顔は見ものでした」

 

 悔しそうに藤田さんに絡みに行って、藤田さんに煽り散らかされている月村さんは見ていて新鮮だった。

 その後、逆に藤田さんの赤点を煽り散らかしていたが。

 

「性格が悪いわね、あなた」

 

「失敬、あまりにも可愛らしかったのでつい…。

 …一つ言っておきますが、月村さんだけは生徒会には向いていないと思います。

 本人そのものはストイックで勉強も成績も優秀ですが…口が悪くて、初対面の人に舐められたくなくて攻撃的になる性格で、如何せん制御が困難です。

 他三名が入っているならまだしも、そうでないなら彼女を制御できる人はいないでしょう」

 

 こればかりは善意100%だ。

 もし、彼女が生徒会役員になったら……考えるだけで胃が痛い。

 

「そんなになの?」

 

「まだ純粋無垢だった頃に、元卒業生の講師の方が歌を教えに来てくれた時、『でも、燐羽の方が歌上手ですよね!』と3回も言って講師をキレさせましたから。

 対バンライブはそれが原因です」

 

 わかりやすく実例を持ちだして伝えると、二人揃って頭を抱えた。

 

「貴様と話していると頭が痛くなってくる…」

「私は彼女たちが来年高等部に来ることが、今から怖くなってきたわ…」

 

「安心してください。

 能力だけは優秀ですので」

 

「ちっとも安心できん!」

「ちっとも安心できないわ!」

 

 息ぴったりの二人を見ていると、正直面白くてもっと話したくなってしまう。

 だが、そういうわけにもいかない。

 

「あなた方も仲がよろしいですね。

 …いけません、あなた方がからかい甲斐があるせいで、話がどんどん脱線してしまう」

 

「人のせいにしないでくれるかしら!?」

 

 十王さんはまた机を叩いて叫んでいるが、雨夜さんはげんなりしていた。

 

「ああ…いい加減疲れてきた。

 とっとと、用件を済ませてしまおう」

 

「こちら、昨日ご指摘いただいた箇所を可能な限りなおした企画書です。

 さて、ここからが会議の本番です。

 細部を詰めて…開催時期も、検討していきましょう」

 

 そうして、私は彼女たちと細部を詰めるための話し合いを行った。

 開催時期は…冬の『H.I.F』、『H.J.I.F』までの期間に行い、告知自体は来週頃。

 今週中に関係各所に許可を取る算段だ。

 

 …対バン形式という形にはしたが、審査員を設けて勝敗を明らかにすることはしない形で進めることにした。

 形式上は対バン形式…高等部、中等部でそれぞれ順番にライブを行いあう形で行うが、交流会という名目の都合上、しっかり勝敗をつけない方が良いという判断だ。

 

 さて…私の担当アイドルのために、精々頑張ってほしい。

 成長するための糧は、いくらあってもいいものだ。

 『試練』は強大であればあるほどいい。*3

 『試練』には、『供え物』があり、『生贄』が必要だ。

 果たして、『中等部』と『高等部』、『生贄』になるのはどちらだろうか?

 

 ……こんなことを考えているから、黒幕(フィクサー)とか言われるのだろうか。

 もう、それならそれに成りきってしまうのも、手かもしれない。

 …………いや、手遅れなのか…?

 

*1
ジョジョの奇妙な冒険3部のヌケサクから

*2
十王星南の中の人が『MOIW』で言った『伝説学園』から

*3
ジョジョの奇妙な冒険7部、ヴァレンタイン大統領より




いつも誤字報告、評価や、感想、ここすきなど、誠にありがとうございます。
とても励みになりますので、今後ともお暇なときにお付き合いいただければと思います。
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