『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される 作:プロデューサー科のもの
……話は今日の昼休みまで遡る。
十王さんたちとの2回目の会談の前、いつも通り担当アイドルと食事をとり、花岡さんをシバキあげるために秦谷さん以外の3人は花岡さんを道中で捕まえながらレッスン室に行ったようだ。
そうなるように秦谷さんが誘導しており、私が昨日チャットでお願いした通りに事が進んだ。
「さて、では手早く始めましょうか」
「のんびりでもいいのですよ?
まだまだ、放課後までは時間がありますから」
「今はできる限り授業に出てほしいのですが…秦谷さんは、『H.J.I.F』の結果こそよかったものの、あの表彰式での発言は顰蹙を買っています。
本格的に、3組行きの可能性が出る前に、芽は摘んでおくべきです」
「むぅ…」
秦谷さんは可愛らしく頬を膨らませているが、実は結構深刻な問題である。
というのも、彼女が最後に表彰式でした発言は、一部で物議を醸しだしており下手をすると炎上のきっかけになりかねないことも考えると、今は品行方正にしておいた方が良い。
「かわいくしてもダメです。
…さて、昨日の話の続きです」
「今後のプランについて、お話しいただけると聞いていますが…花岡さんを鍛えて、藤田さんのようにライバルに育て上げる…浮気ですか?」
「生憎ですが担当にするつもりはありません。
あなた方がある程度鍛えたら、独り立ちしてもらいますよ。
彼女も、倒すべき相手と同じプロデューサーなのは嫌でしょう」
これは本心だ。
私は彼女に実質損害をおっかぶせて、強敵を量産しているライバルの親玉みたいなものだ。
プライドが高い彼女がプロデューサーにする人物像とは遠いと考えている。
「……もし、彼女からお願いされても、そう言えますか?」
「言えます。
こればかりは優先度が違いますので」
「そういうことであれば、信用しましょう。
他ならぬ、あなたが言うのであれば」
秦谷さんはまだ少し腑に落ちないと言った表情をしているが、とりあえずは納得してくれた。
「これの利点はいくつかあります。
中でも本命は、『初星学園』のブランド力の向上。
そして、メインプランである『中等部高等部交流会』の戦力増強です」
「……はい?」
しれッと重要なことを伝えると、秦谷さんに止められた。
「本命は『初星学園』のブランド力の向上ですよ」
「その次、です」
「メインプランである『中等部高等部交流会』の戦力増強です」
「なんでしょうか?
『中等部高等部交流会』とは」
「昨日の放課後に、十王さん…十王星南生徒会長と、雨夜燕副会長と話をさせていただきました。
正式な名称は…発表されるころには決まるでしょう」
昨日のことも隠す理由もないので打ち明ける。
案の定、秦谷さんの表情に影が差すが、こればかりは仕方ない。
「また、他の女性と密会をしたと?」
「またとは何ですか。
好きでしているわけではありませんが…今日も放課後に話を詰めに行く予定です」
「…………」
秦谷さんは納得したいようでしたくない、微妙な表情をしている。
なので、誠意見せれる範囲で見せることにした。
「誓って言いますが、疚しい会話はありません。
ボイスレコーダーをつけて、後で会話を聞いてもらっても構いません」
「…………はぁ、わかりました。
ボイスレコーダー、忘れないでくださいね」
折れてくれた秦谷さんに釘を刺される。
実は、昨日の方も録音しているが…聞かれたら答えよう。
「もちろんです。
話を戻しますが、来年の『
で、あれば手っ取り早く理由をつけてライブをするのが一番早いでしょう」
「ふむ…確かに、一度『
わたしは…もう、誰にも負けませんよ」
「申し訳ありません。
秦谷さんには、雨夜副会長をお願いします」
秦谷さんはやる気満々だが…プランの都合上、今回は遠慮してもらうしかない。
それまではわくわくしたように綻んでいた彼女だったが、私の言葉でむすっとした表情になった。
「わたしでは、『
「いいえ。
秦谷さんでも十分勝ち目はあると思いますが…名目上、『H.J.I.F』の優勝者と『H.I.F』の優勝者でぶつけたほうが、客の入りが良いです。
他所向けに大々的に宣伝して、ファンを増やす目論見と、今までも少しずつ行っている営業先を増やす目的もあります。
それに…月村さんの成長具合を図るにはちょうどいい機会でしょう。
野良レッスンで勝負する分には構いませんが、今回は諦めてください」
「むぅ…」
納得できないと言わんばかりに頬を膨らます。
だが…『初星学園』のブランド力、集客力を上げるためには、各優勝者がぶつかったほうがウケが良いのは明白だ。
それと…
「秦谷さんが誰にも負けないのは、私も信じています。
ですが、月村さんの成長速度も素晴らしい。
彼女の成長は…『SyngUp!』の大きな力になる。
…将来的に、あなた方全員のためになります」
「…そうですね」
「それと、秦谷さんは雨夜副会長と相性が良いようなので…一度、あの鼻をへし折ってください」
「それは…『夢』の話、ですか?」
「ええ…『今日』、少々夢見が悪くて…いえ、楽しい?面白い?腹立たしい?…ともかく、不思議な話でした…」
本当に…いや、今になってなぜ…?
助かる…と言えばそうかもしれないが、いや、同一視してはいけないことはわかっていても、少し、ほんの少しだが
わかっている、『秦谷美鈴』と秦谷さんが違うことも、『雨夜燕』と雨夜さんが違うことも。
だが…
その後すぐにわからされていたし、完全に八つ当たりなのはわかっている。
わかっているのだが……昨日も、喧嘩を売ったのは自分なのに担当アイドルが侮られた件もあって、ほんの少しだけ苛立っているのかもしれない。
「あまり話が見えませんが……」
「サボるのが好きな秦谷さんと、サボることを決して許さない雨夜さんは、相性が悪いようで意外と良い、ということです。
彼女は……これまで、
それと同時に、高等部では他に相手ができる者がいなくなってきています。
こういう状況は、成長前の壁にぶつかっている可能性が高い。
ですので、徹底的にへこませて、
そうすれば…来年、もっと強くなっているはずです」
「そういうことでしたら、わかりました。
折角のプロデューサー直々のオーダーですから…本気を出しましょう」
「頼りにしていますよ。
そう思い込んでいる彼女たちに、現実を教えてあげましょう。
積み重ねた年月が結果を左右するのではなく、
「……プロデューサー、少々言葉が過激…いえ、珍しく感情的になりすぎているように見えます。
何か、あったのですか?」
気が付いたら隣にいた秦谷さんに顔を覗き込まれていた。
そして、秦谷さんに言われて、私はようやく言動が過激になっていることに気づいた。
話しているうちに、昨日のことを思い出していたのが悪かったのかもしれない。
…『夢』の件も相まって、感情の高ぶりが抑えきれていなかったようだ。
………自分のメンタルケアが必要かもしれない。
ここまで感情的になりすぎては、プロデュースにも悪影響が出てしまう。
ましてや…自分が蒔いた種な上に、『夢』で見ただけの他人を現実に重ねてはいけない。
「……失礼しました。
担当アイドルを侮られて、思ったよりも気が立っていたようです」
大きく2回、深呼吸をする。
息を吸って吐いて、頭に血液を回すイメージ。
………少し落ち着いた。
「ふぅ…。
お見苦しいところをお見せしました。
危うく、この精神状態で生徒会室に行きかねないところでした」
「……プロデューサーは、わたしたちのことが大好きなのですね。
想像よりも大切にしていただいているようで、とてもうれしいです」
秦谷さんはとても嬉しそうににこにこしている。
その表情がとても可愛らしくて…思わず零した。
「当たり前です。
担当アイドルを誰よりも大切にするのが、『プロデューサー』で……………いいえ、誤魔化すことは止めましょう。
「…………ふぇ!?」
暫くフリーズしてから顔を真っ赤にして動揺している彼女は、口元に手を当てて驚いている。
ここまで言うつもりはなかったのだが………いいや、もう打ち明けてしまおう。
「言い訳をするのは、秦谷さんに不誠実だと思ったので正直に申し上げましょう。
大好きですよ、あなた方が」
「え…あ…え…」
不意打ちを食らって、顔をリンゴのように真っ赤にした彼女は、言葉にならないうめき声をあげるだけだ。
受けに回ると弱いことは知っていたが…いや、釘刺しも兼ねてもう正直に全部言おう。
「私がプライベートであなた方を避けているのも、必要以上に関われば、
「と……取り返しのつかない事態……!?」
「ですので、時たま膝枕をしましょうか?などの提案を頂きますが、あれも断腸の思いで断っているのです。
そうでなければ、私は
「あ…う………」
「秦谷さんには…いえ、他のお三方にもですが、スキンシップを遠慮している理由はそういうことです。
…ですが、あなた方が大切で、大好きで、誰よりも深く、
これだけは、お伝えしたかった」
「あうあうあうあう…………………///////」
キャパシティーがオーバーしたのか、秦谷さんは目をぐるぐる回して頭から湯気が出始めた。
顔を真っ赤にして意味のない声をつぶやき始めた彼女は、とても冷静な状態ではない。
ここまで秦谷さんが取り乱すのを見るのは初めてだ。
……大切なことは言葉にしないと伝わらないから、誠心誠意伝えたのだが…伝え方を間違えてしまったかもしれない。
だが、ここまで色々やってもらっている彼女に、正面から向き合いたかった。
本人は好きでやっているとは言っているものの、ほぼ毎日5人分の食事を用意するのは大変だということは想像に難くない。
負担を増やしてしまった自覚があるから、彼女には誠実に言うべきだと思った。
それに、下手に誤解を招くぐらいなら、胸の内を聞いてもらう方が良いと思ったのだが………少し性急すぎたことは否めない。
おかげで、まともに会話ができない、ゆでだこ状態になってしまった。
こんな秦谷さんを見るのは初めてだし…『秦谷美鈴』でも、こんなことになったことはないはずだ。
多少恥ずかしがることはあったはずだが……いや、秦谷さんの精神が成熟したことによる結果だと思おう。
………にしても、恥ずかしがって顔が赤くなっている秦谷さんは可愛い。
復帰するまで眺めて癒されることにしよう。
秦谷さんが復帰するまで待つこと10分。
お昼休みが終わるまで後15分ぐらいのところで、彼女はようやく復帰した。
まだ顔は赤く、完全には戻っていないところが可愛い。
自分の口角が上がっていることに気づいているが、今は抑えることができない。
とても愛らしい彼女は、お昼寝用のクッションに顔をうずめながら机に突っ伏していた。
目を合わせないまま、口だけクッションから少しずらして話し始める。
「……プロデューサーはいじわるです。
担当アイドルが困っているところを見て楽しんでいるなんて」
「あまりにも可愛らしかったので、つい堪能してしまいました」
「も、もう! プロデューサー!
これ以上は怒りますよ!」
クッションから顔を上げてわたし怒ってますとポーズをしている彼女は、まだまだ顔が真っ赤だ。
ここまで弱っている秦谷さんは貴重なので、もっと堪能したいのだが…悲しいかな、昼休みの時間は有限だ。
「失礼しました。
時間がなくなったので、手早くお伝えします。
『初星学園』のブランド力向上に関しては、『ファン』を増やすにあたって、『初星学園』という名前を売ろうと言う話ですね。
なので、話題性がある『H.I.F』優勝者の『
そして、『初星学園』自体を好きになってもらう、と言ったものです」
「それが『
私が話している間に少しずつ冷静になった彼女は、顔はまだ赤いながらも、きちんと話は伝わっているようだった。
「そういうことです。
そして、そのためには『H.J.I.F』の上位入賞者、中等部の成績優秀者である花岡さんの実力向上は必須です。
『
なので、
「…『プロデューサー』失格と『初星学園』から判断されても…プロデューサーはそこまで『初星学園』に尽くすのですね」
「どちらかというと、
そう判断されたのは、私が相応しくない行いをして、『初星学園』の名を汚してしまったことにあります。
『過程』に意味は合ったとしても、やらかした『結果』が帳消しになるわけではありません。
学内で
私はその責任を取らなければなりません。
あなた方にその尻拭いをさせてしまうことになってしまいますが…」
「お任せください、プロデューサー。
高等部の皆様に、わたしの…
ふふ、ようやくプロデューサーがわたしたちを頼ってくれましたね」
「いつも頼りにしていますよ」
「そう言うのであれば、もっと相談して、頼ってください。
隠し事をされると…不安になります」
「あまり隠し事をしないようにはしていますが、プラン上、情報開示が遅れてしまうことはあります。
今後もあると思います」
「……はぁ、プロデューサーはそういう方でしたね。
でしたら、わたしがもっともっとお世話を焼いてさしあげます。
…わたしに話さなくては生きていけないほどに、わたしなしでは生きていけなくなるほどに、わたしで塗りつぶしてさしあげますね」
秦谷さんは呆れたようにため息を吐いた後でそう言うが、もうとっくに手遅れなのは私が一番よくわかっている。
現実ではもちろん、『夢』の中でも彼女たちのことばっかり考えているぐらいだ。
「今も十分お世話を焼いてもらっていますし、私はもうあなた方なしでは生きていけませんよ。
さて、そろそろ時間です。
午後も頑張ってください」
「………今日は天気がとても良いですね」
「秦谷さん、放課後はお休みいただいて構いませんので、今の時期だけ我慢してください」
「………プロデューサーがそう言うのなら……気が乗りませんが…」
まだサボろうとしている彼女にすがるように懇願すると、ようやく諦めてくれたようだ。
…本当を言うなら、彼女の好きにしてほしいのだが………多少は律してくれないと、学園内での評判がどんどん落ちてしまうかもしれない。
特に今は炎上の火種を抱えている状態なので、今だけは品行方正にしてほしい。
具体的には、素行だけ私が担当する前の秦谷さんに暫く戻ってほしい。
「頑張ってください」
「誰のせいだと………いえ、文句を言うとどうなるかはりんちゃんがその身をもって、以前証明していましたね。
これ以上は耐えられません。
プロデューサー、また、放課後にお会いしましょう」
「ええ、また。
……先の言葉に、嘘はありませんよ」
「ひうっ!
……後で覚えておいてくださいね」
最後にからかったら、捨て台詞を吐いて彼女は事務所から出て行った。
顔がまた赤くなっていて非常に可愛らしかったが、少々調子に乗りすぎてしまったかもしれない。
放課後が楽しみなような、怖いような不思議な感覚だ。
だが、おかげで大分落ち着くことができた。
後は…私の役目を果たそう。
いつも誤字報告、評価や、感想、ここすきなど、誠にありがとうございます。
とても励みになりますので、今後ともお暇なときにお付き合いいただければと思います。
『Superlative』が遂に実装されましたね。
情報公開の生放送で、『Superlative』の衣装は全体的に白ですが、背中だけ黒く『宇宙』をイメージしているとのことでした。
解釈一致があると、ファンとしては嬉しい限りです。