『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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51話目

 

 前回までのあらすじを軽くなぞるとするなら、私が秦谷さんを調子に乗ってからかい過ぎたと言うべきなのだろう。

 その後に、放課後、十王会長と雨夜副会長と打ち合わせをすることになり、後日、正式なイベントとして生徒会主催で行い、外部からもお客さんを呼び込みを行う方向で学園に企画書を提出する算段になった。

 

 ここまでは目論見通り、問題なく進行している。

 

 

 

 ……ではなぜ、私が事務所の床で正座をしているのか。

 

 なぜ、秦谷さんは椅子に座って私を見下ろしているのか。

 

 もし、今、先程まで打ち合わせをしていた『一番星(プリマステラ)』と『高等部No.2』が見たら、目を丸くするであろう。

 二人を相手取って大立ち回りをしたとは思えない『プロデューサー』が、情けなく小さく縮こまっている悲しい光景が映るはずだ。

 

 

「プロデューサー…なぜ、正座をさせられているか、おわかりですか?」

 

「いえ、全く。

 皆目見当もつきません」

 

「……本当に?」

 

「………大変申し訳ございませんでした」

 

 

 話は30分ほど遡る。

 

 私が打ち合わせを済ませて事務所に戻ると、既に事務所に来た秦谷さんは、珍しく起きていた。

 そして、私が事務所に入ると顔が赤く怒り心頭と言った珍しい様子だった。

 月村さんたちはレッスンに精を出していると連絡が来ているため、事務所の中には、私と秦谷さんしかいない。

 

「……プロデューサーがお昼休みに変なことを言ったせいで、授業に全く集中できませんでした。

 おかげで、りんちゃんたちだけではなく、他のクラスメイトの方々や担任の先生からも心配されてしまいました…。

 まりちゃんにまで心配されてしまうなんて…!」

 

「よかったです。

 授業にきちんと出ていただけたようで」

 

「プロデューサー?」

 

「申し訳ありません」

 

 昼休みにからかい過ぎたのがよっぽど堪えたらしい。

 正直なことを言うと自分でもやりすぎてしまった自覚はある。

 

 きちんと、神を愛するように愛していると言ったので、意味は伝わっているとは思うが、中等部の生徒に言う話ではなかった。

 最後のダメ押しは完全にやりすぎてしまった自覚もあり、あっさり圧に負けた。

 

「はぁ…まあいいです。 良い思いもさせてもらいましたから…。

 プロデューサー、お昼休みにお話しされていたように、録音を聞かせてもらえますか?」

 

「ええ、もちろん。

 では再生しましょう」

 

 そうして、懐に入れていたボイスレコーダーから、音声を再生させた。

 秦谷さんも隣で座っており、事務所内で録音が再生される音だけが響く。

 

 会議の会話は対して重要なことを言っていなかったと思うので、まあ、あれぐらいなら大丈夫だろうと高を括っていた。

 ……ようするに、打ち合わせが順調に進んだので、最初の方に要らないことを言ったことをすっかり忘れていたのだ。

 

 秦谷さんの様子が変わったのは、十王会長から気に入られてそうな雰囲気を感じ取ってからだ。

 私が秦谷さんに見られてないならセーフだと思っていたことも、録音越しでの会話の雰囲気を察したらしい。

 それから、『処される』のくだりで顔に影が落ち、生徒会役員候補のくだりで目のハイライトが消えた。

 疑われるようなことをしていたのに、要らないことを言いすぎたのが原因だ。

 

 そして、床に正座するように言われて、今に至る。

 

「わたしは悲しいです。

 ここまでプロデューサーに尽くしているのに、プロデューサーがこんなふうに思っていただなんて」

 

「事実でしょうに」

 

「プロデューサー?」

 

「大変申し訳ございません」

 

「お昼休みの件だって、まだ許していないのに、罪を重ねすぎではないでしょうか?」

 

「大変申し訳ございません」

 

「はぁ…プロデューサーには、罰としてわたしを寝かしつけてもらいましょう」

 

「…え?」

 

「プロデューサーが、わたしたちに接触したくない理由はわかっています。

 ですので、わたしが事務所の布団で寝るまで、傍にいてくれればそれで許します」

 

 …目を横に向けると、秦谷さんのお昼寝スペースがいつの間にか進化していた。

 昼休みまでは毛布とクッションしかなかったはずなのに、今見たら布団が上下セットで敷いてある。

 ご丁寧に枕まできちんと用意されており、いつでもスヤスヤ眠りにつくことができるだろう。

 どこから持ってきたのかとか、どうやって用意したのかとか色々疑問に思うし、本当なら文句を言わなければいけないのだろうが、今の私はそれを言える立場になかった。

 

 だが…先程の件もあってか、よく見ると秦谷さんの耳が真っ赤だ。

 恥ずかしいならやめておけばいいのに…。

 

「それぐらいであれば、お安い御用です」

 

 本当は断るべきなのだが、直接接触しないならと思い了承した。

 …それが間違いだと気づかなかった私は、油断していたのだ。

 

 私は布団の横に座布団を敷いて、その上に胡坐をかいて座った。

 秦谷さんは制服のまま布団に潜り込む。

 皴になると思うのだが…彼女は洗濯もアイロンがけも自分でやっているので、私が口を挟む問題じゃないだろう。

 

「プロデューサー、おやすみなさい」

 

「ええ、秦谷さん。

 良い夢を」

 

 そう言って秦谷さんが眠りにつくまで待つ。

 パソコンはタイプ音が響くと寝つきが悪くなるかもしれないので、スマホでできる限りの確認事項の確認と、スケジュール帳の入力を行う。

 

 時折、秦谷さんが私を見てくるので、その時はスマホから視線を外して、秦谷さんを見つめる。

 それを暫く繰り返していたが、少し不満そうな秦谷さんが手を伸ばしてきた。

 

「……手を握ってください。

 スマホを見ながら、というのはいささか不誠実だと思います」

 

「ですがそれは…」

 

「これまでのツケ、いったいいくつ溜まっているのでしょうね?」

 

「………仰せのままに」

 

 秦谷さんに逃げ道を完全に塞がれてしまったことを自覚し、想定が甘かったことに気づく。

 言いながら顔をさらに赤くしている秦谷さんは、精一杯の勇気を振り絞ったようにも見え、それがさらに私の退路を断っていた。

 

 諦めて、覚悟を決め、壊れ物を触るように優しく秦谷さんの手を握る。

 片手は空いているので、やろうと思えばまだ仕事ができるのだが、それをしたら本当に何を要求されるかわからない。

 柔らかな手の感触を極力感じないように、思考のリソースを意図的に他に割くことにした。

 そうしないと、私がどうにかなってしまいそうだ。

 …これ、他の人に見られでもしたら良くて停学、普通に退学になるかもしれない。

 扉は鍵がかかっているので、担当アイドル以外で入ってくる者はほとんどいないだろうが、それでも不安があるのは否めない。

 

「ふふ、これでいい夢が見られそうです」

 

 そう言った秦谷さんは満足そうな顔をして目を瞑っている。

 お気に召したようなら何よりだが…頼むから早く満足して眠りに落ちてほしい。

 私も顔に熱が集まっているのがわかるが、彼女も頬を赤らめているのでお互いにダメージを与えあっている。

 それに加え、バレたら退学(クビ)がかかっているかもしれないことを考慮すると、私の負けを認めざるを得ない。

 二重の意味で、私の心臓がどうにかなってしまいそうだ。

 

 そうして秦谷さんの手を握りしめたまま、暫くたったころ、ようやく寝息を立て始めて眠りに落ちたことが確認できた。

 ……本当に可愛らしく眠っている。

 怒られなければ、写真の一枚でも取りたいが、流石に今の私がそれをやるのは後が怖い。

 流出を考えると猶更。

 まだちょっと抵抗があったし、名残惜しいが握っていた手を放して机に向かい、パソコンを開き仕事をしながら思考を回す。

 

 

 さて、今日はこの後、花岡さんを交えてのレッスンが初回なので、レッスン後は事務所に寄ってもらうようにしている。

 朝と昼のレッスンは問題なく進んでいるようだが、本人の口からも聞いた方が良いだろう。

 

 …それにしても、最近…いや、元からか。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 他の担当アイドルとも毎日、最低でもチャットで話をしている。

 だが、最近は減ったとはいえ授業をサボったり、レッスンをサボったりしている秦谷さんとの時間が多くなるのはしょうがないのかもしれない。

 

 『4人同時に担当する』ということが、どれだけ難しいかを最近実感することが多い。

 

 関わる都合で多少差が出てしまうとはいえ、交流の差は極力なくした方が良いし、特定の個人を贔屓しすぎては不和に繋がる。

 だが、プランを把握している人が最低一人欲しいと言う理由で、本人のサボり癖もあって時間を合わせられるから、秦谷さんを贔屓するような形になってしまっている。

 その自覚があるからこそ、他の3人の細かい状況を把握しておきたい。

 

 それに…SNSを封印し、賀陽さんとレッスンに取り組んでいるからこそ比較的平和だが、これにSNSを解禁した月村さんが参加するとなると胃が痛くなる。

 SNSは本人が使わなくても、周りから拡散することも十分ある、危険なものだ。

 

 だが、今は彼女たちは花岡さんを交えたレッスンで忙しい。

 無理に交流を深めるような場を作っても、彼女たちのレッスンを邪魔してしまうだけだろう。

 

 ……であれば、()()()()()()()()()

 

 そう考えながら仕事をしているうちに、いつの間にか良い時間になっていたのか、事務所の鍵が開く音がした。

 ドアが開いて、月村さんを先頭にして、賀陽さんと藤田さんと花岡さんも事務所に入ってくる。

 

「プロデューサー!

 今日のレッスン終わりました。

 ……はぁ、美鈴、いないと思ったらやっぱりここにいたんだ。

 授業中、様子が変だったから心配してたのに…!」

 

「相変わらずね。

 授業中は顔を真っ赤にして、独り言を言ったりしてて可愛かったのに…。

 …ちょっと、いつの間に布団を用意したのよ。

 これ、プロデューサーが用意したのかしら?」

 

「いいえ、私も事務所に戻ったら布団が敷いてあって驚いた側です」

 

「でしょうね。

 プロデューサーがサボりを勧めるようだったら先生に告げ口するところよ」

 

「ん~~~!!

 今日も疲れた~~~!」

 

「これがプロデューサー科の事務所…!

 初めて来ました」

 

「ああ、そういえば前回はレッスン室でしたね。

 改めて、ようこそ花岡さん。

 ここが私たちの事務所です。

 初日のレッスンでお疲れでしょう、お茶を淹れますね」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「あ、プロデューサー♡

 あたしが淹れますよ~」

 

「皆さん、レッスンで疲れてるでしょう。

 椅子に座って休んでいてください」

 

「もぅ~~!

 プロデューサーってば、あたしたちのことしゅきすぎ~~!」

 

「うわぁ…下品。

 昨日の様子からわかってはいましたが、あなたって猫かぶり過ぎじゃない?」

 

()()()に言われたくないです~~!

 あんただって、昨日は凄い猫被ってたじゃん!」

 

「ほとんど初対面の人相手に礼儀正しくするのは当然でしょう!」

 

 猫の喧嘩よろしく、シャーシャー言いながら威嚇している様は、同族嫌悪を発揮しているとしか思えない。

 面倒だと思いつつ、知らないふりしてお茶を用意していると、そこにガソリンを撒く者が現れた。

 

「どっちもどっちの、似た者同士でしょ。

 本当に…これだから『H.J.I.F』で上位3位(トップスリー)にも入れない劣等生は…」

 

 息を吐くようにライン越えの発言をする月村さんに、私の血の気が引くのがわかる。

 

 案の定、藤田さん、キレた‼

 

「はぁ~~~??

 それを言ったら戦争だろうがよ~~!!!

 第一、定期試験で、あたしに負けたやつが何言ってんの~?」

 

「さっき息切れしてわたし(ミヤビ)の後ろを走っていた方が、よく吠えますね。

 レッスン自体はハードだったけど、基礎の体力づくりがなってないんじゃないの?」

 

 息を吐くように喧嘩をしている。

 仲良し…と思うことにしたいが…。

 

 煽り返されて黙っていられるほど月村さんが大人じゃないことはよくわかってる。

 

「へー…じゃあ、勝負しようよ。

 歌で徹底的にボコボコにしてあげるから。

 自信をベッキベキにへし折って、二度と逆らえないようにしてあげる」

 

「いいケド~、歌だけじゃなくてダンスでも勝負ナ~?

 そっちじゃあ、またボコボコにしちゃうかもナ~~?」

 

「うぐぐっ!

 いいわ!

 この前の借りを返してあげます!!」

 

 室内でボルテージが上がり続け、あわや一触即発という場面になってようやく、賀陽さんが間に入ってくれた。

 

「はいはい、そこまでよ。

 ことねもミヤビも、喧嘩しない」

 

「うっ…は~い…」

「うぐ…ごめんなさい…」

 

「ぷぷぷ、燐羽!

 もっと言ってやって!」

 

 賀陽さんに窘められて素直に謝る二人に対して、反省の色が見えない月村さんに、賀陽さんが呆れたように言い放つ。

 

「あなたもよ、手毬」

 

「なんでぇ!?」

 

「二人を煽ったのはあなたでしょう。

 プロデューサーだって、言葉には気をつけろって言ってるじゃない」

 

「ううう~~~!!

 だって~~~!!!」

 

「だってじゃないわよ。

 ちょっとプロデューサーからも言ってやって」

 

 敢えてどうなるか見ていたのだが、遂に賀陽さんから泣きが入ってしまった。

 もうちょっと頑張ってほしい

 

「キラーパスをしないでください」

 

「何で私が毎回躾しないといけないのよ。

 これ、本来はあなたの仕事でしょう?」

 

 確かに止めようとは思ったが、残念ながらそれは私の仕事ではない。

 なにせ

 

「育児はプロデューサーの仕事ではありません」

 

 子供(月村さん)の面倒は、お父さん(賀陽さん)お母さん(秦谷さん)が見てほしい。

 お母さん(秦谷さん)は幸せそうに眠っているので、今は役に立たないが。

 

「私の仕事でもないわよ!」

「育児って…酷!」

「プ~ロデュ~サ~?

 手毬はともかく、あたしも一緒にしないでほしいんですケド!?」

 

「今回に限っては一緒でしたよ」

 

「う、うぐぐ~~~」

「ちょっと!?

 どういう意味!?」

 

 藤田さんは悔しそうにしているが、月村さんも心外だとばかりに声を上げている。

 どっちもどっちだ。

 花岡さんが呆れたようにため息をついた。

 

「はぁ…こんな方たちに負けただなんて…恥さらしもいいところじゃない」

 

「お?

 第二ラウンドでもやる気か~~?」

 

「いい加減にしなさい。

 …まあ、でも思ったよりミヤビは着いてこれてるし、この分で行けば、そこまで時間もかけないで基準レベルにはなりそうね。

 気乗りはしないけど、受け入れを拡大させてもいいんじゃないかしら?」

 

「それはやめた方が良いです」

 

 『SyngUp!』ブートキャンプの拡大を賀陽さんが前向きに考え始めていたところで、水を差したのは花岡さんだった。

 こういう情報を求めていたので、ここから色々確認しなければいけない。

 

 花岡さんと担当アイドルたちの仲は順調に深まっているようだが…彼女が受け入れ拡大を懸念しているのは、それではないことは想像がつく。

 

「花岡さん、理由をお聞きしてもいいですか?」

 

「ハッキリ言いますが、あなた方の練習は量も質もおかしいです。

 わたし(ミヤビ)だから着いてこれましたが、他の生徒を入れたところで、付いてこれないで途中でリタイヤする可能性が高いかと。

 もし本格的に受け入れるのであれば、メニューの調整も必要でしょう。

 ……朝の4時から7時までの走り込みは、流石のわたし(ミヤビ)もキツかったです」

 

 花岡さんからの話は、真っ当な意見で想像通りではあった。

 …であれば、一度試したいことがある。

 

「ふむ…想像通りではありますね。

 賀陽さん」

 

「何かしら?」

 

「明日の朝練、私も参加させてもらいます」

 

 プラン名『なに、レッスンが忙しくて担当とのコミュニケーションを取れない? 逆に考えるんだ。「一緒にレッスンに参加しちゃえばいいさ」と考えるんだ』に移行しよう。

 

「は?」

 

「え、プロデューサーも走り込みするってことですか!?」

 

「それにも少し付き合いますが、基本的にはドリンクの用意やタオルの準備などのマネジメントを行う予定です。

 皆さんのレッスン量は大体把握しておりますが、詳細なデータを取り直したいこと。

 そして、『SyngUp!ブートキャンプ』の窓口を拡大させるための方法の模索を行います」

 

「…まあ、あなたがやりたいって言うなら止めないわ。

 一緒に走り込みするとしても、待ってあげないから自分の体力と相談して走りなさい」

 

「ありがとうございます。

 それでは明日から、よろしくお願いします」

 

 そうして、私は彼女たちからヒアリングをした上で、朝の走り込みに参加することにした。

 さっき言ったことも嘘ではないが、基本的にレッスンに精を出している月村さん、賀陽さん、藤田さんとのコミュニケーションを深めたい意味もある。

 それに…花岡さんのレッスン状況も今のうちに確認しておいた方が良いだろう。

 もしかしたら、今もスヤスヤな秦谷さんも他の全員がレッスンをしていたら、釣られて参加してくれるかもしれない。

 

 何も問題なければ、交流会では今この部屋にいる5人が参加することになるはずだ。

 予定では、参加希望者をふるいにかけるオーディションを行う予定で、彼女の実力なら参加には問題ないと思うが…可能な限り、確定させておきたいし、勝てることなら勝率を伸ばしておきたい。

 勝敗を明確につける予定ではないが、どうしても中等部と高等部で比較される。

 だから…ライバル育成も兼ねて、彼女の実力は伸ばさなければならない。

 

 そして…軽い気持ちで参加した私は地獄を味わうことになった。

 よく考えたら、社会人…いや、初星学園(ここ)に来てから、ボーカルレッスンをすることはあっても真面目に体力づくりをすることはなかった。

 3周した段階で体力の大半を使い果たした私は、諦めて彼女たちの補助に回ることにしたのだった。

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